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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章三節:生誕祭三日目

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第022話 妖精王の娘


ミコラーシュが幼女になっていた。


服の様相はそのままだったが、

服自体も縮んでいるようで、

背中には美しく透明な蝶の羽が生えている。


それを見た周囲は何が起こったのか分からず、

フォウルは鬼の笑みでは無く素のまま笑った。



「ガッハッハッ!!まさか妖精の血筋だったとはな!」


「けっ、うるせぇ!アタシはこの姿が大ッ嫌いなんだよ!!」



怒鳴るミコラーシュだったが、

幼女で可愛らしい声と姿になっているのであまり迫力が無い。


それでも、ミコラーシュから感じられる魔力は、

成人姿と変わらぬどころか、

むしろ高まっているようにさえ感じられた。



「その力……お前さん妖精王の娘か!通りで魔力マナからダークエルフとはちょいと違うモンが感じられるはずだ!お互いに温存してたってわけか!こりゃ一本取られたな!」


「うっせぇってんだよ!アタシは妖精王あんなやつとは関係ねぇ!!次にその話したらマジでぶっ殺すぞ!!」


「ガッハッハッ!!それもまた一興だな!妖精王とはまみえることも叶わなかったのむしろ望むところだ!!」



そう言うと、二人は戦闘態勢に入ろうとした。

ミコラーシュからは魔力を感じながらも、

何か別の威圧感を、

アイリは覚えたての魔力感知で見ながら感じていた。


フォウルもそれを感じたようで、

再び鬼の笑みを浮かべようとした。


しかし、それは二人の間に突如として姿を現した、

ヴェルズによって阻まれた。



「二人とも、やり過ぎですよ」


「!?」


「ほぉ……」



ギョッとするミコラーシュと、

関心するように笑みを浮かべるフォウル。


そして、いつの間にか横から居なくなっていたヴェルズに、

アイリとジークは驚いて二度見し、

「何故あそこに!?」と思っているようだった。



「『自己転移テレポート』か。流石は大魔導師ハイウィザードなんぞと呼ばれてるだけはある。全ての魔術を網羅し、『魔法』の域を超えると聞くが、事実だったか」



突如目の前に現れたヴェルズを見ても、

フォウルは冷静に分析をしてヴェルズの行った魔術を読み解く。


自己転移テレポート』は特殊な魔術形態と属性を持つ為に、

扱える者が魔族の中でも指折りの数しか存在しない。

例えハイエルフでも扱える事はほぼ不可能だというのが、

魔族達にとっては常識だった。


それを覆した人物が、

大魔導師ハイウィザード』と呼ばれた魔王の大幹部。

そして魔王ジュリアの妻であるヴェルズだった。



「オーガの王フォウル。久し振りですね」


「おう。もう何年になるか、前に会ったのが2000年近く前か?」


「そうなるわ。まさか生きて貴方と再び会うとは、夢にも思わなかったわ」


「俺もそうだ。あの時はまだまだ嬢ちゃんだと思ったが、お前さんも随分と強くなったみたいだな。そうだ、あと俺はもう――……」



懐かしむように話す二人の姿を、

アイリとジークは呆然と見ていた。

けれど、ミコラーシュは話に割って入る。



「お、おい!これはアタシとそのオーガの戦いだぞ!いくらアンタでも、止める義理は――……ヒッ!?」


「ミコラーシュ、『参った』と彼に言いましょうか?」



とても良い笑顔のヴェルズが、

ミコラーシュに顔と体を向けてそう言うと、

ミコラーシュは好戦的な顔から恐怖の顔へと変えた。


まるで、親に叱られる子供のような姿に、

アイリはどこかで見たことがある印象を持った。



「あ、アタシは負けてな――……ヒッ!う、うぅ……!」


「ミコラーシュ、『参った』は?」



ヴェルズが一歩踏み出してそう言うと、

ミコラーシュは恐怖に怯えたまま一歩下がった。


すると、フォウルも何がなんだか分からないという顔をして、

その反面、アイリとジークもよく分からないが、

ミコラーシュが何に怯えているかを、

子供ながらに直感するように少し怯えた。



「私の言う事を聞けない子なら、しょうがないわよね。オシ―――」


「ま、参った!アタシの負けでいいから!!お、オーガの、聞こえるよな!参った、参ったから!!」


「お、おう」



ヴェルズが何かを言おうとすると、

ミコラーシュは必死の剣幕で目に涙を浮かべながら、

怯えるように『参った』と叫んだ。


それにフォウルは返答すると、

ミコラーシュはヴェルズの方を見る。


遠めから見るジークとアイリは、

ヴェルズの威圧感が少しだけ軽くなったのを感じると、

それに呼応するようにミコラーシュの様子も、

やや安堵するように溜息を吐いた。



「ミコラーシュ、私との約束は覚えてるかしら?」


「え、あ……いや、あの……」



そのヴェルズの言葉に、

何かを思い出したミコラーシュは、

必死に何かを口籠くちごもりながら何か言おうとしているが、

先にヴェルズが口を開いた。


それと同時に、

右手を上げて一つ一つ指を広げていく。



「①妖精その姿は人前で見せない。②妖精その姿で魔力を開放しない。③その約定内で私達に迷惑を掛けない。……覚えてるわよね?」


「い、いや、あの……、ヒッ!」



そう言ってからヴェルズが再びミコラーシュに向けて歩を進めると、

ミコラーシュは完全に戦意を喪失して目に浮かぶ涙も隠そうとはせず、

腰を抜かして武器も手からポロッと落とした。


その時点でアイリは気付いたが、

周囲の訓練場に居る警備隊や見物人達は、全て眠るように倒れていた。

全員が寝息をたててスヤスヤと眠っている光景を見て、

アイリは何が起こっているのか分からない。


ジークもそれに気付いたようで、

口から零れるように呟いた。



「ま、まさか『睡眠レム』の魔術……しかもこんな広範囲で!?い、いや、ここだけじゃない。この町全体の人々が全員……!?そ、そんな常識外れな範囲で……」


「……?私達は寝てないよ?」


「あ、あぁ。『睡眠レム』の魔術は、術者の魔力より低い魔力を持つ者にしか掛からない。お婆様の魔力以上の者などそうそう居ないはずだ。君はともかく、僕はこの首飾りの魔玉で精神干渉魔術メンタルマギカや体に悪影響を及ぼすモノはほとんど防げるから……」



アイリの疑問を説明してくれるジークは、

そう答えてくれた。


状態異常や精神異常を相手に与えるような魔術は、

掛けた相手の魔力が遥かに上であれば、

無条件で掛かってしまうらしい。


その例外となる物は、

ジークが持つ首飾りのように、

精神干渉・状態干渉を妨害する『魔玉』と呼ばれる石なのだという。


ヴェルズは自分でアイリに告げていたが、

アイリの魔力量が桁外れに多く、

ヴェルズより圧倒的に多いからこそ、

ヴェルズの『睡眠レム』は効果が無かったようだ。


それはフォウルも同様で、

どうやらフォウルの内在する魔力は、

ヴェルズ並かそれ以上ということらしい。



「ひ、ひぃ!」



説明を終えたジークと聞き終えたアイリは、

ミコラーシュの情けない悲鳴を聞いて再び視線を戻すと、

ミコラーシュがへたり込んだ目の前まで、

ヴェルズが笑顔のまま歩み寄っていた。



「ミコラーシュ。私との約束を破ってしまう悪い子は……お仕置きが必要よね?」


「い、嫌だ!お仕置きは嫌だ!!絶対嫌だ!!」



そう涙ながらに叫ぶミコラーシュは、

抜けた腰を再び立たせて、

自慢の神速でヴェルズの前から逃げようとする。


しかし、逃げた途端に『ガツッ』と音を立てて、

ミコラーシュは何かに激突したように尻餅をついた。


周囲には何も無いはずなのに、

そこだけ透明な箱に覆われたような空間が、

ヴェルズを中心に広がっており、

断絶した空間にミコラーシュは閉じ込められていた。


どうやら声も届かないようで、

外のアイリとジーク、フォウルからは、

ミコラーシュが何を言っているかも分からない。


すると、箱は白く光り始めて、空間ごと消失し始める。

そしてヴェルズは、その空間の事象を無視するように、

起きていた三人に告げた。


「ちょっとミコラーシュをお仕置きしてくるから、待っていなさい」


とても良い笑顔でそう言うヴェルズの姿と、

必死に見えない箱の中から叩いて逃げたがっているミコラーシュを見ながら、

ジークとアイリは子供心ながらに恐怖を覚えたのだった。





*





閉じ込められたミコラーシュは、

必死に見えない壁を叩いたり魔術を使って抜け出そうとしていた。

しかし、その空間では自分の力や魔術が上手く発動しない。

魔力が強制的に封じられているのだ。


子供の頃に何度も入らされた空間であり、

そこはトラウマの宝庫でもあった。

辺りの景色が変わり、白の無一色へと変貌する。

この原理はヴェルズしか知らず、

またヴェルズ以外には解けないし脱出できない魔術。


ヴェルズ曰く『完全空間サークルエフィスト』という魔術であり、

ヴェルズのオリジナル魔術が『魔法』へ昇華した術の1つ。


使用者の魔力を用いて別空間を作り出し、

そこへ自分の周囲の有機物・無機物を対象として幽閉する空間魔術。


元々空間魔術と呼ばれるものは『自己転移テレポート』と同じく、

特定の種族と属性を持つ魔族にしか扱えないのだが、

ヴェルズはそれさえ昇華させてオリジナルの魔術を編み出した。


魔王ジュリアでさえ、

そのヴェルズの魔術の構想力と構築能力には舌を巻いたほどだ。


故に魔王さえ超える魔術使いとしての称号を与えた。

大魔導師ハイウィザード』と。



「ミ・コ・ちゃ~ん?」


「ひ、ひィッ!!」



必死に壁を叩く幼女姿のミコラーシュに、

ヴェルズはとても笑顔のまま近寄っていく。


今のミコラーシュは魔力のほとんどを封じられ、

しかも精神体である妖精の姿であるにも関わらず、

精神が固定化され肉体を持ったように感じている。


妖精の姿の時のミコラーシュは、

実体ではなく精神体と呼ばれる姿であり、

基本的に物理攻撃がほとんど効かない体の状態。


言うなれば、魂そのものの形に等しい状態なのだ。


普段は闇属性の幻影魔術を使い、

成人姿のミコラーシュとして、

魔力で仮初の肉体を作って周囲に見せているが、

それが解除されると精神体に戻るのだ。


先ほどのフォウルの物理攻撃が効かなかったのも、

幻術を解除して仮初の肉体そのものの魔力を失わない為に、

敢えて精神体の妖精の姿となって攻撃を受けたのだ。


しかし、この空間では精神が固定されてその姿が、

イコールで肉体の姿と同じものとして扱われてしまう。

故に、腕力も脚力も見た目通りの幼女になってしまうのだ。



「もう、ミコちゃんったら。そんなに嫌がる事ないじゃない?ただ私は、ミコちゃんの可愛い姿が見たいだけなのよ?」


「や、嫌だ!絶対嫌だ!!も、戻せ!アタシを元の場所に戻せぇ!!」



必死に後ずさりながら逃げるミコラーシュだったが、

少し行くとそこは行き止まりになり、後ろに下がれない。


それを追い詰めるように、ヴェルズはミコラーシュの前を塞いで、

あるはずの無い空間からクローゼットの様な収納スペースを作り出すと、

様々な服を取り出し始めた。


これは『魔力倉庫ウェア』と呼ばれる魔術で、

自分の魔力量に比例した物を別空間に保管できるという優れた魔術。


魔力倉庫これは、

ヴェルズが発案し編み出した物では無い。


発案者は魔王ジュリアだったが、

それを実用化にまで漕ぎ付けた構想力は、

ヴェルズのものだった。



「ダメよ、女の子がそんな荒っぽい言葉を使っては。昔あなたに教えたように、丁寧な言葉遣いで私の事は『ヴェルズ様』って呼んでもいいのよ?」


「だ、だから大昔の話はヤメロォ!あ、あの頃のアタシは騙されたんだ!!あ、アンタがこんな奴だったら絶対信用なんてしなかったし、そもそもアタシがこうなったのもアンタの――……」


「もう、ジュリア様の言葉遣いをすっかり真似するようになってしまって。あの頃のミコちゃんには戻ってくれないのかしら?」


「絶対に嫌だ!!」



拒絶の意思を露にするミコラーシュの言葉に、

ヴェルズは残念そうな表情をした。

しかし、とても笑顔の表情のままで服を選ぶ中で、

チラリとミコラーシュに視線を向けた。



「――…そう。これをミコちゃんのお父様が見たら、どう思うかしら?」


「な、何を……?あ、え?はああああ!?」



周囲の壁が白い無色から一変し、そこにある映像が流れ始める。


それはミコラーシュとヴェルズが出逢った頃から、

今現在までの様子を映し出したものだった。

完全空間サークルエフィストはヴェルズの魔力で生成された空間だからこそ、

このような現象も為し得る芸当なのだ。



「これは私の記憶から抽出したミコちゃんとの思い出よ。これを妖精王に見せれば、凄く喜んで下さるのかしら。……もしかしたら、もうすでに私達の所まで赴いて―――……」


「う、うぅ、ううぅ……!!」



「妖精王が赴く」という言葉で、

ミコラーシュは目から涙をポロポロと流し始めた。


その姿をヴェルズは、

アイリ達には絶対見せないであろう、

恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべながらミコラーシュを見ていた。



「さあ、言うことがあるわよね?」


「う、うぅぅぅ……。お、親父にだけは、アタシの事言わないでくれ……」


「ミコラーシュ、ちゃんと私が教えた言葉遣いで言いましょうか?」


「う、うぅ……。お、お父様にだけは、私の事は言わないでください……、ヴェルズ様ぁ……!」



涙ながらにお願いするミコラーシュの表情と姿に、

恍惚とした表情で、

その言葉を聞き終えたヴェルズは満足そうに頷いた。



「それで、今日の事は?」


「ア、アタ……わ、私が悪かったです…。ごめんなさい……」


「そうよ。あなたが妖精の姿をジュリア様の庇護の無いこの村で現せば、妖精王は確実にあなたを見つけるわ。咄嗟に私が、村全体を『虚数空間エリアイマジナリ』で覆わなければ、あなたの気配は妖精王に感知されていたはずだわ。喧嘩そのものは止めなかったけれど、擬態の姿で勝てないなら、すぐに『参った』と言うべきだったのは、ちゃんと分かってるわね?」


「はい……ごめんなさい……」



反省して目に涙を溜めながら流している姿のミコラーシュを、

説教するように一言一言確認しながら、

ヴェルズは問い詰めていく。


妖精の姿である時と、

ダークエルフの時の姿のミコラーシュは、

存在そのものが全く異質な存在である。


魔術で擬態した姿のダークエルフの時には、

魔力で肉体を生成して纏い、

魔力感知をしても、

普通の魔族となんら変わりはない様に見える。


しかし、妖精の姿では話が別なのである。


故に、ヴェルズは妖精の姿に変わるミコラーシュを見て、

すぐにヴェルズ村全体を虚数空間エリアイマジナリで覆い、

村に居た全ての魔族達を眠らせたのだ。


ミコラーシュへの説教が一通り終わると、

普段の優しい目のヴェルズに戻っていた。



「……ミコラーシュ。何百年経っても、あなたは私やジュリア様にとって大事な家族の1人なのよ。あなたがあの日、私達の所に来てからずっと。だから、もう無茶はしないで。良いわね?」


「う、うぅ……はい……」



背中の羽を萎ませて、

涙を溜めながら頷くミコラーシュを確認すると、

ヴェルズは一息吐いてから、

「分かればいいのよ」と優しく抱き締めた。





*





この世界のどこかにある森。

そこには『原種オリジナル』と呼ばれる、

希少な存在の一つが密かに暮らしていました。


その存在の名は、

妖精フェアリー』と呼ばれていました。


普段は隔絶した世界の中で暮らし、

一説ではマナの樹が在ると言われる大地に、

妖精族達は住むと考えている者達もおり、

存在そのものが伝説とさえ言われる種族です。


そんな彼等を束ねる妖精王は、

約1000年前にダークエルフの女性との間で、

一人の子供を儲けました。


その子供は、褐色の肌と黒い髪。

瞳は蒼と透明で美しい羽を持つ姿である事から、

妖精族達からは異端扱いされるものでした。


けれど、それでも異端の娘を愛する妖精王は、

他の娘達と同様に平等に扱いました。


エルフ族は元を辿れば、

原種である妖精と連なる者達であれど、

既に異種でありエルフ族と相反するダークエルフ族の間で生まれた娘を、

良く思わない妖精達も少なくありません。


故に妖精王は強大な力を持ちながらも、

その信仰と信頼を失わせていく姿を、

見るに耐えかねた娘は、

自分を捨てるように父親である妖精王に頼みました。


しかし妖精王はそれを良しとせず、

逆に娘を閉じ込めてでも、

出ていかせないようにしました。


そうなる前に娘は逃げ出しました。

このまま妖精達の信仰を失い、

憔悴しょうすいして妖精王が死ねば、

世界を支える一端である勢力が崩れることを、

娘は知っていました。


そして何より、父親が死ぬ姿を、

娘は見たくなどなかったのです。


ゆえに妖精王から逃げた娘は、

ひたすらに飛び続けました。

妖精王が届かぬ大陸へと。


けれど、妖精王の力が及ばぬという事は、

同時に娘の妖精の力も弱める結果に繋がるのは、

自明の理でした。


衰弱しながらも魔大陸を彷徨っていたところを、

妖精王の娘は拾われた。





拾った者は、妖精王の娘と同じく異端の容姿を持つ、

赤い瞳と銀の髪を持つハイエルフ族。

その名前は、ジュリアと名乗りました。


魔大陸の一端を統治する『魔王』であるにも関わらず、

ジュリアは放浪癖により偶然旅をしていた地域で、

妖精の娘を見つけたのです。


自分の城へ妖精の娘を持ち帰った魔王ジュリアは、

何故こんな土地に妖精がいるのかを聞きました。


事情を全て話すと、

魔王ジュリアは少し考えてヴェルズと相談し、

悪魔公爵デーモンロード』と呼ばれるバフォメットに、

色々な事を聞き、妖精の娘に提案をしました。



『だったら、アタシと契約してここにでも住めよ。そうすりゃお前も力が戻るし、死ぬことはないだろ』



その日から妖精の娘には、

『ミコラーシュ』という名前が付けられ、

魔王ジュリアと契約を結んで、

その地で一緒に住む事となりました。


妖精王の娘に名前を付けたのは、

ジュリアの妻となるヴェルズェリアと呼ばれる女性。


名前の意味は、彼女の氏族では、

心優しき者(ミコラーシュ)』という意味を持つ名前でした。





それからミコラーシュは、

ジュリアの庇護を受けながら、

許される範囲での自由が約束されました。


必死に妖精王から逃げたミコラーシュには、

今まで余裕が無かった為に、

外の世界を通過する時に、

何も感傷も持たずにいました。


けれど、ジュリアが治める城や城下町、

そして魔大陸と呼ばれる外の世界は、

ミコラーシュにとっては新鮮な物ばかりでした。


食べ物と呼ばれる物を初めて食べ、

草木や地面の物にも触れてることができた時には、

ミコラーシュは驚きました。


妖精であり精神体であったはずのミコラーシュは、

本来であれば物理的に物に触れたり、

食べたりはできないはずでした。


しかし、魔王ジュリアと契約した事で、

妖精が持つはずの無い魔力を、

魔王と契約した影響で与えられ、

さらには自身の内在魔力を増加させ、

自分自身で魔力マナを生み出し、

魔技マギを扱えるようになりました。


元々ミコラーシュには、

ダークエルフも混じる妖精であった為に、

半精神体にまで自ら昇華したミコラーシュは、

小さき姿から幼女の姿にまで成る事ができました。


それ故か、摂取したものを排泄するという体内器官も、

半精神体の中で生まれた為、

ミコラーシュは様々な生物的な事で苦労することに。


同時に、その弊害として魔力の暴走を引き起こす事を考えた、

魔王ジュリアやヴェルズ達は、

ミコラーシュにも魔技を学ばせる結論へと至りました。


魔術はヴェルズが教え、

身体術はドワルゴンが教えられたミコラーシュは、

『闇』『火』『水』『風』『土』に適応した、

魔技を扱えるようになりました。


その結果として、

魔力で作り出した仮初の肉体となる、

ダークエルフの成人した姿でも、

ミコラーシュで活動できるようになりました。


ミコラーシュは、魔王ジュリアに感謝しました。

故に、自分も魔王様に仕えると誓いました。


本格的に成人したダークエルフの状態で、

ドワルゴンから身体術や戦闘方法を学び、

ミコラーシュの強さは、

正に魔王ジュリアに仕えるに、

恥かしくないものにまでなりました。


徐々に丁寧な口調を変えて、

魔王ジュリアの口調や服を真似始め、

成人の姿でしか日常を過ごさなくなると、

幼女姿を好むヴェルズと言い合いになったり。


そして、ジュリアとヴェルズの間に息子アルトマンが生まれ、

姉弟子としてアルトマンを鍛えたりもしました。


時が経ち、魔王ジュリアに『俊足姫しゅんそくき』という称号を与えられ、

ミコラーシュはジュリアに認められた事を喜びました。


それがミコラーシュと呼ばれる妖精であり、

ダークエルフでもある娘の、約1000年もの記憶でした。






*





過去の空間に流れる映像が、

ヴェルズから見たミコラーシュの姿を映し出す中で、

徐々に泣き止みつつあったミコラーシュを、

優しくヴェルズは抱き締めていた。



「ところで、ミコラーシュ?」


「え、は、はい…?」



抱き締められていたミコラーシュは、

ヴェルズがとても良い笑顔を向けていた。

その表情は、幼い頃のトラウマを蘇らせる表情だった。



「もう謝ってくれたことでもあるし、許してあげようと私も思うのよ?でもね、……ちょっとで良いから、これを着てみないかしら?」


「ひっ」



ヴェルズが着るように要求する服を見て、

ミコラーシュは怯えた声で悲鳴を上げた。


ミコラーシュが今着ているような服は、

男性も着ていても不自然では無い軽装の服である。


しかしヴェルズの持つ服は、

綺麗な黒と蒼で染められたゴシックドレスだった。

しかも、幼女用のサイズの物である。


よく見ると、アイリの着ていた服とは色が違うだけで、

デザインが全く一緒だという事にミコラーシュも気付いた。



「ミコちゃんたら、最近仕事が忙しいと言って着てくれないでしょう?私も最近忙しかったことだし、今日はアイリも可愛い服を着てきたから。ほら、一緒にアイリと並んで歩いてくれると、私とっても嬉しいわ」


「や、やっぱりソレ目的で今日来たんじゃねーか!!このババア!!」



明らかに来る必要も無いのに、

警備隊総本部へ顔を出したり、

こんな物を用意している辺り、

完全に今日はそれが狙いだったことを、

ミコラーシュは改めて怒ろうとした。



「ダメじゃない、せっかく可愛いミコちゃんの口調に戻ったのだから、今日はそのまま丁寧な言葉で、ね?さぁ、これに着替えましょうね」


「い、嫌だ!絶対嫌だ!!いーやーだー!!!」



必死に抵抗するミコラーシュだったが、

幼女の姿では腕力も脚力も無く、

魔力を封じられて為す術も無く、

笑顔で服を着せていくヴェルズに逆らえずに、

その空間で数時間、着替えるのだった――…。





*





その後、完全空間を解除して、

戻って来たヴェルズとミコラーシュを出迎えたのは、

アイリとジーク、そしてフォウルだった。


現実世界では30秒も経っておらず、

既に全員が『睡眠レム』の魔術から開放されて、

眠っていた村人や客人達が起き上がり始めていた。


戻って来たヴェルズ達を見てアイリとジーク、

そしてフォウルは驚いた。

ミコラーシュが幼女姿のまま、

華やかな黒と蒼のゴシックドレスを着ていたのだから。


背中に妖精族特有の羽は無いものの、

見た目は完全に幼いダークエルフ族の幼女であり、

短い黒髪も綺麗に整えられていた。


その反面、燃え尽きたようにうな垂れるミコラーシュの姿に、

アイリは自分が着替えた時のヴェルズとのやりとりを思い出し、

何かを納得してしまった。


アイリは知っていた。

何故かヴェルズと一緒に着替えると異常なほど疲れるのだと。



「ほら、ミコちゃん?ちゃんと皆さんに挨拶しましょうねぇ」


「……ア、アタ」


「ミコちゃん?」



笑顔で微笑むヴェルズだが、

その笑顔が物凄い威圧感だと、

子供であるジークとアイリは感じていた。


フォウルも「うわぁ」という表情で、

ミコラーシュを可哀相な視線で見つめていた。



「わ、私のこの姿が、本当の私です……ミコラーシュです……。よ、よろしくお願いします……」



そう言いつつ優雅に鮮麗に、

ミコラーシュはアイリ達に丁寧な挨拶を交わした。


そして抑え気味だけれど、

満足そうに恍惚した表情を浮かべるヴェルズを見て、

アイリがヴェルズは絶対怒らせないほうが良いんだと、

新しく学んだのだった。





余談だが、何故ミコラーシュに、

俊足姫しゅんそくきという称号が付けられたかの経緯は、

魔王ジュリアの個人的なものだった。



『ミコがお前等みたいな称号欲しいって言ってたんだけどさ。ヴェルズからいつも素早すばしっこく逃げてるし、妖精王の娘なんだから『俊足姫しゅんそくき』でいいよな?』



その命名の理由を知る者は、

魔王ジュリアとヴェルズ、

ドワルゴンとバフォメットだけであった。


称号を付けた時のミコラーシュの喜び様から、

申し訳なさそうにドワルゴンとヴェルズは、

しばらくの間、ミコラーシュを直視できなかったのは、

言うまでもない。


尚、その周囲の様子に対して、

悪魔公爵バフォメットだけは楽しそうに見ていた事は、

絶対に忘れてはならないと思う。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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