第020話 警備隊
ヴェルズに手を引かれながら、
アイリは西地区の警備隊総本部のある建物に訪れた。
建物の中は、何かの受付を行えるカウンターが設置され、
受付を待つ人々が座る木や皮で出来た椅子が置かれ、
そこで待つ人々もいる。
受付には先ほどカフェで注文受付をしていた人と、
同じ種族の兎獣族の女性が行っている。
こういう接客を多くやる場合は、
どうやらこの村では兎獣族が適任のようだ。
アイリ達が入ると、
受付の兎獣族の女性が驚いたように耳をピンと張り、
慌ててアイリ達の前に来た。
「ヴェ、ヴェヴェヴェルズ様~!?ど、どうしたんですか~!?今日ってこちらに伺われる日でしたか~!?ど、どどどどうしよう。また忘れたのかぁ!!ってミコラーシュ総隊長に怒られるぅぅ」
慌てたり落ち込んだりと、
色々表情豊かながら耳も連動して動くのを見て、
アイリは受付の女性を面白い人だと思った。
そんな受付の人に、
ヴェルズは微笑みながら喋りかけた。
「大丈夫よ、ペル。今日は来る予定は無かったのだけれど、そのミコラーシュに少し用事があったの。それと、この子を警備隊の皆に改めて紹介しようと思ってね」
「あ、そうだったんですか~!よかったぁ~。あ、えっと、この子って……あ!この子が例の子なんですか~!」
ヴェルズの隣に立つアイリを見て、
ペルと呼ばれた兎獣族の女性は、
アイリの方に近寄り背に合わせて屈み、笑顔で迎えた。
「噂通り、可愛いんだねぇ~。私はペルって言うの~。アイリちゃんっていうの~?」
「は、はい。アイリといいます。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて、
アイリはペルに挨拶をする。
するとペルは驚いたように目を見開いて、
礼儀正しいアイリを見ていた。
そしてアイリを見ながらヴェルズに話し掛けた。
「ヴェ、ヴェルズ様~!?この子、なんでこんなに言葉が丁寧なんですか~!?うちの子なんて、まだ言葉も上手く喋れませんよ~!?」
「ええ、アイリは頭が良いの。けれど、ペルの子供もまだ1歳なのだから、喋れないのも当然よ」
「えぇ~そうなんですか~。でも、うちの子くらい大きいのにもう喋れるなんて、凄いね~!」
そう言うと、ペルはアイリの頭に手を置いて、
撫でるように動かしながら、
頬っぺたをプニプニしている。
アイリはこの時、
『1歳の兎獣族は今の私の身長並に大きい』、
という情報を初めて聞く。
後で聞いた話だが、
兎獣族の成長は150cm前後で終わってしまう小柄な種族だが、
子供の内に一気に成長はするらしい。
成人と変わらない大きさになるのは、9~12歳のようだ。
その後は目新しく成長するような部分は無いらしい。
でも、ある部分の発育が凄く良い。
カフェの店員やアイリの目の前にいるペルに限らず、
兎獣族の女性は、主に胸部の発育が良い。
確か、前世だとこういう背が小さくて胸が大きい女の子の事を、
何か特殊な読み方で呼んでいたのを覚えている。
主にお兄ちゃんが。
これも名称が上手く思い出せない。
なんだったっけ?
ペルに頭を凄く撫でられながら、
頬っぺたもムニムニと触られて、
くすぐったいと感じながらも、
アイリは我慢しながら耐えていた。
「ペル。そろそろ満足したなら、ミコラーシュのところへ案内してもらえないかしら?」
「あ、はい~!総隊長なら、今は多分訓練場の方ですね~。あ、でも今はみんな休憩中で~……受付がワタシしかいなくて~……」
辺りをキョロキョロしながら、
「どうしようどうしよう」とペルは慌てている。
どうやら、昼食時で各自休憩に入っているらしく、
今はペルだけが休憩時間の受付を担当しているようだ。
「分かったわ。訓練場ね?そういう事なら私達だけで行けるから、ペルはそのまま受付をしていて大丈夫よ」
「えっ。で、でも~」
「受付の仕事も大切よ。ペルがいないと、皆の仕事が回らないのだから。頑張ってね」
「は、はい~!」
励まされて喜ぶペルに見送られながら、
ヴェルズとアイリは警備隊の建物から出て、
グルっと周ると、とても広い場所に出た。
アイリはそれを見て、
前世の学校の運動場を思い出した。
とても広く、下は少し砂が挽かれた柔らかめの土で、
遊具とは違う何か訓練道具のような物が所々に設置され、
何人かの魔族達が走ったり訓練道具を使った訓練をしている。
その訓練場の中央辺りに何人かが固まり、
整列したように並んで長い棒を持って何かの訓練をしている。
その集団を統率している一人の人影がいた。
ヴェルズはその人を見ると、
そちらに歩くように動くのを見てアイリも付いて行く。
あの人が警備隊の総隊長なのだろうか?と、
アイリは少し疑問に思った。
並べられている魔族達の方が遥かに体格が大きいし、
屈強そうな体付きで強そうに見える。
徐々に近づくと、
その人影がはっきり見え始めた。
それと同時に、
アイリは人影の正体がどんな人物なのかを見て驚いた。
「ミコラーシュ、相変わらず厳しい扱きをしているようね」
隊列して並ぶ魔族達の前にいる、
その人物にヴェルズは話し掛けた。
振り向いたその人は、
ヴェルズよりやや背の高い、
黒めの褐色肌のエルフ族特有の長耳の女性だった。
しかも、凄く不機嫌そうな顔だった。
「……やっぱりアンタかよ。イヤーな魔力が近づいてくると思ったら。村長様がこんな所に、わざわざなんの用ですかね?」
短い黒髪に、蒼の瞳を持つ鋭い目つきをした、
ミコラーシュと呼ばれる女性は、
嫌そうな目で少々皮肉染みた口調でヴェルズに言葉を返す。
それをヴェルズは笑顔で微笑みながら接していた。
「あら、そんなに邪険にしなくてもいいでしょう?あなたが小さな頃には、私があなたのオネショしたシーツを洗ってあげ――……」
「ちょっと黙れ!!」
何かを言い掛けたヴェルズを止めるように近付き、
必死の形相でミコラーシュは手でヴェルズの口を塞ごうとする。
しかし、スッと動いてその手を回避したヴェルズは、
笑顔で微笑んだままだった。
「このぉ……。アンタはそうやっていっつも、アタシをからかいやがって!!というか、人前で大昔の話をするなっていつも言ってるだろうが!!」
「あら、全然大昔ではないじゃない。今でも思い出すわ。まだ小さくて甘えん坊で可愛い頃のミコちゃんが、暗くて怖いからと私を起こして厠に……」
「今日こそ本当に殺してやろうかぁぁ!このババア!!」
アイリが魔力感知せずとも分かるほどの魔力を放ち、
ミコラーシュはその殺気と魔力をヴェルズに向けている。
それでも笑顔のヴェルズに、
アイリはオロオロと慌てながら二人の様子を見ていた。
「そ、総隊長!落ち着いてください!!」
「子供が見てますから!情けないっすよ!!」
二人の三メートル近くある体格の良い一つ目と三つ目の魔族が、
腰に下げていた二本の鞘から取り出した、
抜き身の短剣を握るミコラーシュを止めるように、
腕を必死に掴んで止めていた。
170cmほどの体格で腕も細いミコラーシュだが、
それでもジリジリと動くミコラーシュの馬鹿力に、
二人の魔族は必死に落ち着かせようとしていた。
アイリは普段と全く違うヴェルズの態度と、
止められても動くミコラーシュを見てやはりオロオロと慌てていた。
「離せお前らぁ!このババアは2000年以上生きてるんだから、さっさと引導渡して墓の下に入れてやるのが世の為アタシの為なんだよぉ!!」
「総隊長!それ総隊長の為にしかなってないですから!!あと墓にはちゃんと入れるんっすね!!」
「優しいっすね!!」
「う、うるせぇ!!お前ら!アタシを止めるか褒めるかどっちかにしやがれ!!」
そんなやり取りが続く中で、
周囲で訓練していた人達や後ろに並んでいた人達は、
苦笑しながらその様子を見ていた。
アイリと止めている人達だけ慌てているようで、
それに気付いたアイリは、
「これって慌てるような事じゃないのかな?」と思ってしまう。
後に告げられた事だが、
ヴェルズとミコラーシュが会うと毎回こういう流れになるようで、
ミコラーシュの補佐を勤める一つ目巨人のキュプロスと、
三つ目巨人のガルデがいつもミコラーシュを宥めて止めるらしい。
ヴェルズは日頃から溜まった鬱憤の吐き出し口として、
ミコラーシュをからかって楽しんでいるようだ。
*
「……はぁ。で、そのチビが噂の子供か?」
なんとか落ち着いたアイリ達とミコラーシュ達が、
訓練場から少し外れた、
外が見える休憩室で対談する形になった。
昼食がまだだったミコラーシュと、
キュプロス・ガルデの三人は、肉・野菜・パン・スープと、
様々な色が見える昼食皿に囲まれている。
アイリとヴェルズも、肉と野菜を挟んだ柔らかいパンと、
スープを出され昼食を一緒にしていた。
「赤い瞳、銀色の髪。……ほんと、ジュリア様をチビっこくした感じで似てるよな」
「え、あ、あの……」
パンを食べるアイリを訝しげに見るミコラーシュは、
ガジガジと音を立てて肉を齧って食べている。
「……アンタ、ジュリア様が変身してるとかじゃないよね?」
「え、え?」
唐突にミコラーシュがアイリを睨みながら、
そんなことを口に出した。
それを聞いたアイリは、
どういう事なのかとワケが分からない状態になっている。
「ジュリア様ってのは、姿を変えるのも出来た方だったからねぇ。小さな子供に化けたり、ともなれば老婆にも化けたり。一番驚いたのは、男に化けた時だよ」
「え、子供?老婆?男?」
「……その様子じゃ、本当に知らないって面だね。まぁ、あの人のデタラメ具合は、身近な奴ほど感じるもんなのさ。疑いたくもなるわけだよ」
ミコラーシュは自分の疑問に自己完結したようで、
興味を無くしたように食事の方に集中しなおした。
それよりアイリが気になったのは、
ミコラーシュの話し振りだった。
『始祖の魔王ジュリア』という名前は、
何度も耳にしているし、
ヴェルズの家に置いてある本にもいくつか記述がある。
けれど、話では500年前に行方不明になってから、
姿を誰にも見せていないらしい。
しかし、ミコラーシュは魔王ジュリアを、
昔から見てきたような喋り方をしている。
なら、この目の前にいるミコラーシュは、
ヴェルズと同じく魔王ジュリアと知り合いなのだろうか?と、
アイリは考えた。
それに対してミコラーシュに聞いてみようと、
アイリは同時に考えた。
「あ、あの。ミコラーシュさんは、魔王ジュリア様という人とお知り合いだったんですか?」
「んあ?あぁ、そこの年寄りよりも付き合いは少ないけどね。ほんの400年くらい、ジュリア様の近くにいただけだ」
「よ、400年?」
「あぁ?なんだ、そこの年寄りから何も聞いてないのかい。アタシも一応、ジュリア様の下に居た幹部の一人だよ」
『始祖の魔王ジュリア』と呼ばれる人には、
周りに当時の『絶対強者』と呼ばれる魔族達がついていた。
その者達は、全てに秀でる魔王ジュリアに対しても、
一芸でなら凌駕できる強さを持つ者達。
その魔族達に与えられた称号は、全てで四つ。
『最強の戦士』『大魔導師』『悪魔公爵』『俊足姫』
その内の『俊足姫』に、
ダークエルフ族のミコラーシュは称号を与えられていたらしい。
「その呼び方自体、それほど知名度も無いけどね。師匠やそこの年寄りに比べたら、アタシが幹部になったのも相当後だし。あの悪魔野郎も今はどこで何してるやら。魔王様が襲われて行方不明だってなった時は、アタシも家出――……旅に出てたし」
ボリボリと骨付き肉を齧りながら、
外の景色よりも遠くを見ながら語るように、
ミコラーシュは話してくれた。
途中で家出と聞こえたところで、
ヴェルズが口を抑えながら吹き出して笑っていたりもしていたが、
真面目そうな話だったのでアイリはそこは気にしないようにした。
「で、確かにアタシは『どんなチビだ?』と前にそこの年寄りに聞いたが、わざわざ連れてくる必要ないだろ、なぁ?」
「え?」
話しながら昼食を摂り終わり、
やや大きめの木のコップに汲まれた水を、
ゴクゴクと飲み干したミコラーシュは、
アイリの隣に座るヴェルズを睨みながら言う。
その言葉に、来る前のヴェルズの話と少し相違をアイリは感じた。
「……まさかだけど、アタシをからかう為にわざわざそんな理由を作って来ただけじゃないよな?」
「それは誤解よ。私は別に、『ミコラーシュと五日間も会ってないわね。そろそろ可愛いミコラーシュの怒った顔が見たいわ』とか、そんなことは絶対に思ってないわよ」
「思ってたってことっでいいな、よし表出ろ!!」
また殺気を込めた魔力をヴェルズに向けるミコラーシュを、
補佐のキュプロスとガルデが止める。
さっきと同じような流れになりそうだったが、
ここで流れを止めたのは、意外にもヴェルズだった。
「冗談はさておき。ミコラーシュ、あなたに少しお願いがあって来たのよ」
「あ?なんだよ、急に真面目ぶってさ」
「今回は真面目に。あなたも分かるように、この子は恐らく私が出会った頃のジュリア様に匹敵する魔力を持っている。今は心身共に落ち着いているけれど、成長すればどうなるか分からない。魔術は私が正しく教える自信はあるけれど、身体系の魔技に関しては私よりあなたが遥かに優れているわ。だから、それに関してはあなたが教えてあげてほしいの」
ヴェルズが話す内容に、
ミコラーシュは腰を引いて椅子に深く座り、
足を組んで考えた。
20秒ほど経ってから、
目を開いてミコラーシュは口を開けた。
「……アタシの時は反対したくせに、この子にはそうやるんだな」
少し不貞腐れたように呟くミコラーシュの言葉に、
ヴェルズは苦笑しながら微笑んだ。
「私は今でも、アイリにそうするのを賛同しているわけじゃない。むしろ反対よ。だけど、あなたも私も、同じように何かを求めて力を学んだ時期があった。私達がそうしたのに、この子にだけダメと言って反対しているのは、少々居心地悪く感じてきただけよ」
「居心地の悪さ、か。……だったらアタシも言わせてもらうけど、アタシが教えるより他に適役がいるだろ?そっちに頼む方が、ずっとスジは通るんじゃないかい?」
ヴェルズとミコラーシュの言葉のやり取りに、
アイリには少し難しく理解できないところはあった。
しかしミコラーシュよりも適役がいるという、
その部分で反応を示した。
反応して、やや条件反射気味に質問を投げかける。
「あの、それって誰の事ですか?」
「ん?アタシの師匠だよ。ついでに言えば、ジュリア様の幹部で言えばアタシは四人の中でも最弱。あくまで肉体と魔力の特性的にジュリア様より反射神経と素早さは上だけど、アタシはそれにおいてさえ師匠には及ばないんだ」
「師匠……?」
「なんだ?この年寄り、何も教えてないんだな。ジュリア様の幹部でも身体技術全般において…簡単に言えば、ジュリア様でさえ体と体での直接的な戦いじゃ勝てなかったのが、アタシの師匠であり『最強の戦士』ドワルゴンだよ」
『ドワルゴン』またその名前が出た事に、アイリは驚いた。
今まで具体的にどういう人物か聞いた事がなかったが、
魔王と呼ばれる人の幹部で、しかも肉体面での強さだけなら、
魔王すら凌駕する存在。
それが『ドワルゴン』という人だと、
初めて聞いたのだ。
「この子の魔力、アタシより遥かに多いんだし、魔術はそこの年寄りが教えて、他の魔技全般は師匠に習った方が伸びるんじゃ――……」
「駄目よ」
ミコラーシュの言葉を遮るように、
ヴェルズは一言だけ呟いた。
その一言でアイリもミコラーシュも、
同時にヴェルズの方を振り向いた。
ヴェルズの表情は、
真剣な眼差しでミコラーシュを見つめていた。
「な、なんでさ。アタシの時は良いって言ってくれたじゃないか」
「あなたとアイリでは状況が違うわ。それに私が駄目というよりも、ドワルゴンが断ると分かっているからこその、駄目なのよ」
ヴェルズの言葉を聞いて、
ミコラーシュはグッと言葉を詰まらせた。
ミコラーシュはヴェルズとドワルゴンの付き合いが、
どれほど前からあるか知ってはいない。
魔王ジュリアに最も関係深いのはヴェルズであり、
ドワルゴンが魔王ジュリアの下へ降った時にも、
ヴェルズは立ち会っていた。
それほど古い付き合いのヴェルズが、
「ドワルゴンは必ず断る」と断言されれば、
言い返しようがない。
しかし、1人だけ諦めきれない者もいた。
「あの。村長様、ミコラーシュさん」
ミコラーシュの向かい側に座っていて、
ヴェルズの隣に座っている、アイリだ。
ヴェルズやドワルゴンの事、
そしてミコラーシュの考え方を知らないアイリには、
ヴェルズが頭ごなし「ドワルゴンは必ず断る」と、
決めて掛かったように思えたのだ。
フォウルとの約束もある。
それ故に、その先の事を提案するのも、当然と言うべきだった。
「あの、明日はフォウルという方に魔技を教えてもらおうと思っています。フォウルさんは、お祭りでドワルゴンさんに会えるまで居ると言ってるので、それまではフォウルさんに。それで、フォウルさんが帰ったら、ドワルゴンさんに私から直接お願いします。もし断られたら、ミコラーシュさんに習うのをお願いしてもいいですか…?」
「……そうね。そういえば、そういう話だったわね。ごめんなさい、アイリ。あなたの事なのだから、あなた自身で決めたほうが良いわね」
アイリの言葉を聞いて、ヴェルズは納得したように頷いた。
『自分の事は自分で決める』。
昨日アイリと話した時には考えていた事を、
翌日には忘れかけていることに、
ヴェルズは自分自身に苦笑しつつ、
本当に年寄りになってしまったと思った。
そしてそれ以上に、アイリが自分自身の考えを、
こういう場で述べられるほど強くなっている事にも、少々驚いた。
そして、子供ながらにヴェルズを説得するアイリを見て、
ミコラーシュは驚きつつ「なるほどね」と、
何かに納得したようにヴェルズの方を見ていた。
*
「まぁ、この子がそういうならそれでアタシも良いと思う。それより、フォウルって誰?」
フォウルの名前に聞き覚えが無いミコラーシュは、
首を傾げて思い当たる名前がないか考えていたが、
やはり覚えが無いようだった。
そのミコラーシュに助言したのは、
補佐のキュプロスとガルデだった。
「総隊長、多分ですが、例のオーガのことっすよ」
「オーガぁ?」
「オーガが一体来てるんですよ、町に。しかも話じゃ、ヴラズ達では太刀打ちできないくらい強いって」
「たかがオーガ一匹だろ?何やってんだい、ヴラズ達は。あいつらでもオーガ一匹なら十分対処できるだろうに」
流石は元魔王幹部の一人とも言うべきなのか、
オーガと聞いても眉一つ動かさずにそう言い放つ姿は、
正に貫禄と言うべきなのだろう。
祭りの一日目と二日目、
それ以前からミコラーシュはヴェルズ村に続く街道で、
警備隊の指揮を執っていた為、
町の警備隊の指揮は氏族長と長老達が行い、
ミコラーシュは今日帰ってきたばかりだった。
フォウルの事もヴラズに一任されていた為に、
まだ今日は報告が来ていなかったのだ。
しかし、次に口を開いたヴェルズの言葉で、
ミコラーシュは認識を改める事になった。
「ミコラーシュ。あなた、魔大陸の南の話は聞いたことがある?」
「な、なんだよ。南っていうと、オーガとかダークエルフ達が一番多いとこだろ。あっちは砂漠地帯もあるし、火山地帯もある。良い鉄鋼素材が取れるって評判だね。後は、『闘技都市』があるってくらいか」
「……その闘技都市の話は、何処まで知っているのかしら?」
「?確か、ジュリア様と相反したオーガの王が作ったっていう都市だろ?アタシは会った事もないし、南の出身じゃないから顔も知らないけど。確か、闘技都市を創ってから800年近く、そのオーガの王が無敗で……」
「その無敗のオーガの王。名前は知っている?」
「?いや、けど氏族名は覚えてるよ。確か『ダガン』……あれ、確か名前……――あぁッ!?」
ミコラーシュは気付いたように叫ぶと、ヴェルズを見た。
そしてヴェルズも、ミコラーシュの気付きに素直に頷いた。
その動きに合わせて、ヴェルズはアイリに向きなおした。
「アイリ、あなたにも話しておくわね。フォウルというオーガの本当の正体を」
「え?」
「あのオーガは――……」
『―――……だからぁ!この坊主が女にフられて泣いてただけだっつぅの!!』
休息場の部屋の中まで聞こえるほどの大声で、
警備隊総本部に通じる通路から、声が響き渡る。
その声に気付いたアイリ達全員、
特にミコラーシュとキュプロス・ガルデは、
目を細めて警戒態勢に素早く入った。
だが、その声の正体に真っ先に気付いたのは、
この中で一番小さな女の子だった。
「フォウルさんの声だ」
「は?」
「え?」
アイリの一言で、『魔力探知』と『魔力感知』で、
相手の正体を探ろうとしたミコラーシュ達だったが、
先にキュプロスとガルデに走らせ、
ヴェルズとアイリを連れて後から声が聞こえる場所へと向かった。
声が聞こえた場所は、
先ほど訪れた警備隊総本部の受付だった。
そしてその場には、巨体の脇で抱えられている、
金髪碧眼のエルフの少年ジークヴェルトと、
警備隊の面々に囲まれている、大鬼のフォウルだった。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




