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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章三節:生誕祭三日目

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第019話 交わる道


アイリが魔力マナを感じるようになった翌日、

ヴェルズ村は三日目の生誕祭を迎えた。





早朝はいつも通り、

ヴェルズをアイリが起こして、

二人で乾パンと野菜スープと牛乳を朝食にして食べた。


その後、お湯を作り布を湿らせ、

体を拭いてから二人とも着替える。


そしてヴェルズにアイリは、

また可愛らしいフワフワの白い子供服を着せられた。


昨日のセヴィアとの洋服屋での着せ替えで、

ある程度は慣れてしまっていたが。

決して慣れただけであって、

こういう服自体を着るのが好きになったわけではない。


その服を着る前、

食事を片付け終わり食休みをしている最中に、

ヴェルズは昨日教えた魔技の扱い方に関して、

アイリに注意をした。



「アイリ、昨日あなたは魔力を感じた時、動揺して魔力が乱れたわね。魔力は感情によって制御が利かなくなる場合があるの」


「感情で……?」


「怒り・憎しみ・悲しみ。そういう感情は、最も魔力を高め易い。そしてそれは、同時に魔力の暴走を引き起こすの。逆に、常に心の平穏を保ち続ければ、魔力の暴走は起こらないわ」


「魔力の暴走は、魔力を使わないと起こるんじゃないんですか?」



昨日のフォウルの話では、

魔力を溜め込みすぎると起こる事だと聞いていたアイリは、

その相違点をヴェルズに聞いた。



「それも一つね。けれど、感情で生み出す魔力はとても膨大なの。それこそ、肉体が耐え切れないほどに。それが肉体の中にある魔力を司る器官を壊して、魔力の暴走を引き起こすわ。私があなたの器官を麻痺させていた理由の1つが、あなたが幼い故に感情を爆発させて、魔力の暴走を引き起こすんじゃないかと思ったからよ」


「……じゃあ、魔物が魔力の暴走を起こす時も、そういう事が原因になってるんですか?」


「そうね。縄張りに踏み込んだり魔物の群れに手を出すと、数匹は必ずそういう事が起きる魔物が出てしまう。この村付近の山に住む魔物には、危険種と呼ばれる魔物は比較的に少ないけれど、普通の魔物でも暴走すれば狩る以外に止める手立てが無いの。魔族も同じで、魔力の暴走を引き起こしてしまうと、止める手立てが無いわ」



止める手立てが無い。


それはつまり、

魔力の暴走を引き起こした時点で、

殺すしかないということ。


回復魔術や医療魔術も、

相手の魔力が落ち着いた時だからこそ術者は相手の魔力を利用し、

相手の体を癒す事ができる。

その相手が魔力で暴走しているとなれば、

壊れた器官の修復はできない。


故に、手段は一つだけだった。


しかし、殺す以外にも一つだけ手立ては在る。

それが『マナの実』の存在。


入手条件や摂取条件を整え、

高密度の魔力で構成されたマナの実を体内に入れれば、

魔力の暴走は逆に膨大な魔力に掻き消され、

肉体の治癒も同時に行われる。


しかし、マナの実は伝説とも言われる実であり、

その元となるマナの樹自体も、

どこに生えているかすら知られていない存在。


実用的な手段とは言えず、

また事が起こってから対処するまでに、

確実に被害が出てしまう為、

結局は殺す手段しか道がない。


ヴェルズは敢えて口に出して、

その事をアイリには話さない。


例え頭が良くても、

アイリはまだ子供だからだ。

そしてアイリが自分の身体に関して、

その事に気付いているのかも、

ヴェルズには分からない。



「アイリ、幼いあなたには酷かもしれないけれど、感情を高め過ぎるとそういう事が起こるわ。怒るなとか、悲しむなとは言わない。憎むなとも決して言わない。けれど、その感情に飲まれて何もかもどうでもいいと思わないで。お願い」


「は、はい……」



ヴェルズの言葉と内容に、アイリは素直に頷く。


今、自分の中に感じる魔力だけではなく、

感情までも制御していないと、

魔力が暴走してしまうという事実に、

アイリは魔力を感じられるようになった事を、

少しだけ後悔した。


けれど、それだけのリスクを背負って、

自分に初めて力を持つ事ができるのは、

至極当然だとも思っていた。

そして自分の選んだ選択が、

いつか自分の為になるとも考えていた。


フォウルは言っていた。


誰かの為に良い事をするのが良い子じゃない。

自分が目指すものの為に良い事をするのが、良い子なんだと。


もしそれを目指す中で、

自分が魔力を暴走させたら……。

それは自分の為にならない事をしたということ。

つまり、私が悪いんだと割り切れる。


こういう考えの切り替えの仕方は、

前世で誰かがよくしていた気がする。


誰だっただろうか。

お兄ちゃんか、お姉ちゃんのどちらかだと思う。

そういう意味で、

私は兄や姉とは正しく家族だったんだろう。





*





そういう話をアイリとヴェルズは出掛ける前に行い、

服を着替えて二人は祭りの場へと赴いた。


帽子も被って愛らしい姿のアイリと、

村長であり元魔王の大幹部であり、

正妻のヴェルズが手を繋いで歩く姿は、

まるで親子の関係にも見える。


実際この時に、

外部から来た魔族達の中でヴェルズを知る者は、

ある可能性を考えてしまう者もいた。


『あの子はもしや、ヴェルズ様の子供なのでは?』と。


そしてその噂は、

思わぬ形で今後のアイリに関わってくることになる。



「アイリ、大丈夫?」


「大丈夫、です……」



西地区で営まれている食堂に入った二人は、

休憩を取っていた。

ヴェルズには紅茶が出され、

アイリには果実ジュースが机の上に置かれていた。


西地区の食堂は、南地区や東地区とは違い、

外来客用に作られた店が多い。


ヴェルズ村の出入り口が在り、

警備隊の本部とも言える詰め所が設置されている関係から、

外来客の安全性を考慮してこういう店が多く作られている。


他にも、荷を運ぶ為に育てている魔物の厩舎や、

魔物を解体し肉や素材にする素材屋も建てられいる為、

外来から持ち込んだ品は主に西地区で管理されている。


警備隊の宿舎や、宿屋なども西地区に置かれており、

外来客は西地区に主に滞在しているので、

祭りで一番外来の客人や旅人達、

商人達が賑わいを見せているのは、

西地区と中央広場と言っても過言ではない状態だ。


アイリ達が入った店は、

一見では洒落たカフェテラスを装う店で、

軽い食事や飲み物で談話が出来る憩いの場として設けられている。

中に居る人々は、やはり主に外来客達。


商人達が商売の話をしたり、

各地の情報などの情報交換場ともされており、

旅をして来た情報屋や傭兵とも言える魔族達も集まっていた。


傭兵は各近隣の村で魔物退治に雇われた者達や、

ヴェルズ村の警備隊に入る為に訪れた者達もいる。

ただし、そういう者達は警備隊の詰め所へ赴き、

警備総隊長の試練をクリアしなければならない。



「まったく。歩きながら魔力制御をしていたなんて。まだあなたには早いわ。まずは立ちながら一時間。安定して魔力を制御するのを課題にします。良いわね?」


「は、はい」



歩きながら魔力制御を実践していたアイリは、

途中で集中力と体力が尽きて疲れた為、

近くにあったこの店で休憩する事になった。


わずか1時間もしない間に、

額の汗を隠すことも出来ないほどの疲労感に襲われたのだ。

昨日・今日で魔力を感じ始めたアイリでは、

その疲労も当然と言えるだろう。





しかしヴェルズは、その課題さえアイリは、

たった一日で合格してしまう可能性も考えていた。


ヴェルズは昨日の時点で『魔力制御』はできても、

『魔力感知』まで成功させるとは思わなかったからだ。


普通の相手ならともかく、ヴェルズは魔力感知を妨害させ、

相手の魔力の影響を防ぐ為の『魔力障壁』という魔技を、

常日頃から無意識に行っている。


前回、アイリに魔力感知させた時には、

敢えて解かなかったにも関わらず、

アイリはヴェルズの魔力を感知してみせた。


それどころか障壁を反作用させて、

逆にアイリの魔力を乱そうともしたが、

アイリはちゃんと魔力制御をしつつ魔力感知をやってのけたのだ。


それは魔技に関して、

アイリは天技の才を持つ者と、

そう位置付けても過言とはいえない域の話。


五歳にもなっていない子供が、

巨大な魔力を持つとはいえ、

たった数分で『魔力制御』と『魔力感知』をやってのける。

アイリは今の状態を情けないように思っているのだろうが、

正直に大人としては脅威の出来事として感じざるをえない。


この子は『天才』なのだと、ヴェルズは確信していた。



「……あ、あの。ヴェルズ様。みんな、こっちを見てるような気が」



休憩するアイリ達に対して、

店内の人々や外から見ている人々は視線を集めていた。



「あら。きっとアイリが可愛いから、みんな注目しているのかしら」


「え?う、うぅ」



机の上に置いていた帽子を、

アイリは被り直して顔を隠した。


からかうように微笑むヴェルズだが、

天才的な才能を持つと言っても、

子供らしい反応を見せるアイリに、

ヴェルズは少しだけ安心する。


勉学の知識だけで言えば、

アイリは既に魔族の中でも合格を与えられる。


言語の読み書きに、数字の計算。

それができるだけでも立派であるにも拘わらず、

アイリは更にヴェルズが用いる本を全て読んで、

知識を全て吸収する気でいるのだ。


ある意味それは、

天才と言うべきなのか。

それとも狂気と言うべきなのか、

ヴェルズにさえも分からないのだ。


しかし、可愛い服を着せると恥かしがり、

人の視線が集まると同じように恥かしがる。

アイリは間違いなく、

まだまだ子供なのだと安心させられた。


もしそれさえ無かったとしたら、

ヴェルズはアイリを子供扱いにはしなかったかもしれない。


そんな二人を遠巻きに見ている人々は、

こんな話をしていた。



「おい、あれってヴェルズェリア様じゃ……」


「まさか。エルフ族は全員同じ顔に見えるだろ?」


「いや、でも……」


「隣の子供は誰だ?」


「銀の髪……赤い瞳……まさか」


「王アルトマンの他にも、子を産んでいたのか?」


「しかし幼すぎる。魔王ジュリアは勇者と戦って行方不明って話だろ。……もしかして魔王は生きていて第二子を?」


「じゃあ、この村には魔王様がいるのか……?」



そんな話を周囲に偶然居合わせた人々は目撃して、

色々勘繰ってしまう。


突然変異体アルビノに関して、

魔族はあまりにも無知な部分が大きい。


生物的な変化は基本的に、

外見と魔力でしか捉えない種族もいるので、

特徴的な見た目であれば、

それが血筋に関係あるものだと考えている者も多いのだ。





そういう話になっているアイリ達を、

店の外から二人組が覗いていた。


一人は若干小柄な背丈で外套を着けた、

身なりの良い金髪碧眼の耳が尖ったエルフ族の少年。

もう一人は、少年よりも高身長で肌の黒い、

壮年の男性だった。


その壮年の男性が、

身なりの良いエルフの少年に話し掛けた。



「ジーク様、もうこれ以上は」


「ダメだ。兄上にこれ以上の強行を許しちゃいけない。それには、お婆様の協力がどうしても必要なんだ」


「しかし、昨日さくじつにその話は断られたばかりでは……?」


「……もう一度、お婆様を説得してみせる。すまないが、もうしばらく僕の我侭わがままに付き合ってくれ」


「……承知しました。ジーク様」



少年の言葉を聞き、

従者の男性は頭を下げて頷く。


そして、二人組はアイリ達が居る店の前へと、

歩みを進めていた。





*





店のドアを開く鈴が、静かにチリンチリンと鳴り響く。

店内に新たな客が訪れた音が聞こえ、

店員をしていた兎獣族の娘が対応に出た。


兎獣族うじゅうぞくとは、

兎のような長い耳を持ち、

ゴブリンほど小柄では無いが、

成人した男でも150cmにも身長は届かない。


特徴的に、肉体派の獣族の中では、

比較的魔力の内包量が優れているものの、

肉体面は他の獣族達にも劣り、

個体の力はゴブリンと同程度。


しかし、女性の兎獣族は見た目が愛らしい。

男性の兎獣族も同じように見た目が愛らしい為、

大昔はその手の奴隷として人間達に弄ばれた経緯を持つ。


現在はそんな事を許す事は無いが、

寿命はゴブリンやドワーフより短く、

100年未満で寿命が来てしまう為、

今のヴェルズ村でそういう屈辱的な過去を持つ、

長寿の兎獣族はもういない。


ただ、現在でも見た目が愛らしい種族なのは変わらないので、

接客関係の仕事はまさに打って付けの職業の1つとも言える。



「いらっしゃいませ~。二名様でよろしいですか~?」



兎獣族の店員の言葉に、

黒い肌の壮年の男性が黙って頷いた。



「それじゃあ、お好きな席に~」



そう言われた二人は真っ直ぐに、

ある席へと向かっていく。

その席は、アイリ達と向かい合うように並べられた、

小さな丸いテーブルの小柄な種族向けの二人用の席。


ヴェルズの事を見て敬遠している周囲は離れているが、

それを無視するように、

その二人はアイリ達の席へ向かい合うように座った。


アイリは、向かいに座った二人に気付いた。

しかしヴェルズは振り向かない。

まるでそれに反応しないようにするかのように。


荷を置いた壮年の従者と少年の二人だったが、

少年だけ立ち上がり、アイリ達の席へと近づく。


そして、少年はアイリ達の目の前へ立った。



「お婆様ばあさま昨日さくじつぶりで御座います。貴重なお時間の最中に急にお伺いして、申し訳ありません」



少年がそう言いながら、

ヴェルズの方を見ながら手を胸に置き、頭を下げた。


アイリは『お婆様ばあさま』という言葉に反応して、

「え?」という顔で少年とヴェルズの両方の顔を見合わせた。

しかし、ヴェルズの方は少年の顔を見ずに、

優雅に紅茶を飲んでいた。



「……お婆様」


「聞こえているわ。あの話なら昨日言ったはずよ。それ以上は私は貴方と話すつもりは無いわ」



ジークと従者に呼ばれていた少年が再度口を開いた瞬間に、

ヴェルズは言葉を切るように告げる。


その言葉に苦々しい表情を見せるジークは、

それでもと更に口を開いた。



「父上は、兄上に対して何もしようとしません。あのままでは兄上は、いつか父上と相対しかねない。父上を動かし、兄さんの強行を止められるのは、お婆様しかいません!どうか、ご助力をお願いします」



深々と頭を下げるジークに対して、

ヴェルズはジークに見向きもしない。


机に置かれている紅茶と、

皿に盛られたクッキーを摘みながら優雅な休息を過ごしている。

紅茶を机に置いたヴェルズは、ジークを見ずに言葉を出した。



「アルトマンは私の手から既に離れました。そして私は、王都とは関係無い身の上。私の言葉で道を変える程度であれば、あの子は王などに決してならなかったわ。あなたの兄の事も、私には関係無い話よ」


「……ッ、なんでですか!父上は、僕達兄弟は、お婆様にとっては家族ではないのですか!?」



ヴェルズの言葉に、

温厚そうに見えるジークも流石に声を荒げた。

その声は、悲痛さを感じさせるものだったのは確かだった。


しかし、ヴェルズの次に出た言葉は、

非常に冷たい言葉ものだった。



「確かに、貴方は私と同じ血筋だと魔力マナで分かるわ。幼い頃のアルトマンとも似ている。けれど、孫と言っても貴方と私は昨日会ったばかり。貴方達と、この地に住まう者達。選ぶなら私は、私に付き従ってきた者達を選びます」


「……ッ!!……分かりました。お時間を取らせて申し訳ありませんでした。……それでは、失礼します」



ジークは苦々しい表情をして頭を下げた。


彼にとっては、ヴェルズの言葉がどれだけ重く、

どれだけ自分達にとっては冷たい言葉なのかを、

ジークは理解せざるをえなかった。


自分の席に戻る前に、

ヴェルズの隣に座る小さな女の子をジークは見た。

ヴェルズとジークの二人の会話を聞いて、

オドオドとしている少女の容姿にジークは驚く。


銀色の髪、赤い瞳。

そしてエルフ特有の長耳。

そして魔力感知で分かる、

少女に内包する凄まじい魔力量。



「……この子は、まさか……お婆様の娘、ですか?」



動揺したように漏らす言葉に、

ジークは自分でも驚きながらヴェルズに目を向けた。



「いいえ、村の子よ。今は私の教え子で、今日は一緒に祭りを周っているだけ」


「そう、ですか」



アイリの魔力に当てられ、

若干の動揺を含みながらジークはアイリ達から離れ、

従者のいる席へと戻った。


従者が注文していた紅茶を飲み干すと、

代金を置いて二人は店を出て行った。



「あの、村長様……」


「ごめんなさい、少々騒がしくしてしまったわね。そろそろ出て祭りに戻りましょうか。アイリ、次は何処を周りたい?」



ヴェルズとエルフの少年の話についていけず、

アイリはただ出て行く少年達と、

優雅に紅茶を楽しむヴェルズの二人を見ながら、

内心ではハラハラしていた。


二人の会話は、

どうやら昨日話した事の延長らしい。

そういえば一日目と二日目は、

話し合いをしていたらしいので、

あの二人もそれに参加していた人達なのだろうか。


けれど、『お婆様』や『孫』という話。

改めて思い出して聞くと、

とんでもない会話だった。


今、目の前にいるヴェルズは見た目は20代前半。

そんな綺麗で若そうな人が、

少なくとも息子と、その息子に孫までいる。


アイリにしてみれば、

驚くべき話と言うべきだろう。



「えっと、知っておいたほうが良い場所とかは?」



行きたい場所と言われても、

アイリはヴェルズ村に何があるのかを理解しきれていない。

なので、ヴェルズに聞いてその場所を案内してもらったほうが、

アイリには分かり易かった。



「そうね。そういえば、警備隊の総隊長はアイリも会った方が良いでしょうね。ドワルゴン様を除けば、この村随一の魔技の使い手でもあるから。それに、あなたの魔力の大きさも、警備隊には把握してもらったほうがいいでしょう」


「は、はい!」



ヴェルズの案にアイリは素直に賛同する。

村随一の魔技の使い手という言葉に、

アイリは興味深々だ。


そして、もう1つ気になる言葉が出た。

先ほどのヴェルズや、

フォウル達の口々から出る、

ある名前にも興味を持った。


『ドワルゴン』


皆の話では、上手くイメージが掴めない。

とにかく凄い人とは分かるけれど、

一体どんな人なのだろうか。


そんなことを考えつつも、

アイリはヴェルズと共に店の会計を済ませ、

警備隊の詰め所へと向かうのだった。





*





ヴェルズから話を断られ、

失意の内に店から出たジークは、

西地区の町の外へと続く道を歩いていく。


気分は重く、最悪とも言えるだろう。

実祖母と呼べる人物と昨日初めて対面し、

昨日と今日含めてもことごとくあしらわれてしまったのだ。


初めて見る祖母は噂通りとても凛々しく、

英気と力強さを感じる、美しい人物だった。

声は透き通るように美しく、

また力強い魔力を感じる。

父上や兄上に良く似た魔力を。


祖母と対面していく者達も、

この魔大陸に置いては温和な種族だが、

戦えば苦戦を免れない一級の魔族達。

どれも王都に属さない部族の長達であり、

けれどヴェルズ村に帰属する者達。

そんな者達と堂々と対面し会話を交えていく祖母の姿に、

ジークは父と同じ尊敬の念を抱いた。


けれど、ジークは自己紹介をした後、

その尊敬は畏怖へと変貌した。



「私は、王都を司るライアット氏族、父アルトマンの第二子。名はジークヴェルト=フォン=ライアットと申します。ヴェルズェリア大公母殿下には、今回は目通りを叶えて頂き、お礼申し上げます」


「……そう。それで、今日はどのような御用なのかしら」



初めて会う孫への第一声。

そして祖母から貰う第一声が、

その冷たい言葉だった。


ジークが考えていた話の筋書きとは予想が違い困惑した。

もっと暖かく迎えてくれるものだと思ったのだ。


ジークは困惑はしたが、

ここは他の部族長達や氏族達が居る場所。


血の繋がった孫が来たとしても、

気を緩めるのは確かに正しくない。

皆と同じく平等に話すのが、

まずは適切だともジークは納得する。



「500年目の生誕祭、御祝辞を申し上げます。今――……」


「前置きはいいの。用件だけを述べて頂戴。私も忙しいし、後の方達も控えているわ。単刀直入に、用件を」


「回は――……、え……?」



……言葉が詰まった。


それは他の氏族達や部族達とは、

全く違う対応の仕方だった。


他の者達が居るから同じく平等に話をという、

そんな生温い態度ではない。



「話がないなら、もう下がってもらいたいのだけど」


「お、お待ち下さい!」



数秒、放心したように言葉が詰まったジークは、

ヴェルズの言葉に咄嗟に反応して言葉を返した。


とにかく今は、

話だけでもしなければいけない。

そう思ったのだ。



「こ、今回来た理由は、王アルトマンが司る王都の状況の事です。私の兄であり、第一子のラインヴェルト=フォン=ライアットは、現在は王都で他部族達を引き入れ、第一王子派閥の軍備の強大化を図っています。今はまだ事に掛かったばかりですが、いずれ十数年後には軍備を完成させ、兄は父を打倒する為に決起してしまいます。父上はその状況を理解しているにも関わらず、何もしようとしません。どうか、ヴェルズェリア大公母様に父アルトマンを説得して頂き、父に兄の強行を止めて頂きたいのです。何卒、どうか……」



ジークが今回、

生誕祭のヴェルズェリア謁見日に訪れたのは、

それが理由だった。


『力』を主張する兄と、

その強行を止めない父を争わせない為に、

弟であり息子であるジークは懸命に動いていた。


兄の言葉を聞き、

力を見て加担しようとする部族の魔族達を諌め、

なんとか兄の軍備の完成を妨げようと弟は動いていた。


ただ、年が離れた兄と偉大な父。

家族が争うことをどうしても避けたかった。



「……話はそれだけかしら。答えを簡潔に言うわ。お断りさせて頂きます」


「――!!な、なぜ……ッ!!」


「今ここで言う理由も無いわ。次の方が控えています、どうぞお下がりください」



ヴェルズはそれだけ言うと、ジークを下げさせた。


そんな祖母の態度に、

そしてその言葉に唖然としつつ、

追い立てられるように面談で補佐をしていた警備隊に下げられて、

そのまま従者が待つ場所まで戻り、宿に戻った。





ジークはどうしても納得できなかった。

祖母の対応にも、その答えにも。

孫が会いに来たのに、

まるで意にも介さないような態度を。


自分の息子と、

孫となる人物が争おうとしているのに、

それを止める事さえしない事を。


その事実を受け止めきれず、

翌日、祖母の魔力を広範囲の距離から、

魔力感知と魔力探知を用いて、探し出した。


そして、その場所を見つけて、

また祖母に会った。

けれど、それもあっさりとあしらわれた。


その理由は、至ってシンプルだった。


要約するヴェルズの言葉をまとめれば、

初めて会う孫や、とうに親離れした息子よりも、

今はこの町に住む人々が大事だ、という事だった。


それは、町を統治する者としては正しいのかもしれない。


けれど、家族としては?

同じ血の繋がった家族であるはずなのに。


そこの部分で、

ジークは納得ができなかった。





「ジーク様、お帰りになるのですか?」


「……あぁ、そうだな。王都に帰ったら、もう一度、父上を説得して兄上の強行を止めてもらうように言うしかない。兄上を止めるには、もうそれしかない…」



従者と話すジークの今の気分は、朝起きた時より最悪の気分だろう。


この町に来た時は期待と希望を持って訪れたはずだった。

王である父上の話と、

噂や話でしか聞いた事がない偉大なる祖母。


そんな人物と会えさえすれば、

父上と兄の争いを止めてくれる。

そんな事を期待していた。


けれど、現実はご覧の通りだ。


父上も兄上も、

自分の言葉では説得できなかった。

最後の頼りだった祖母もダメだった。


まだ成人していない自分では、

力すら兄達には及ばない。



「……僕はただ、兄上にも父上にも、どちらにも死んでほしくないだけなのに」



目から薄らと涙が溢れてくる。


首を空へ伸ばすように向け、

頭を上げて歯を食い縛って涙を堪えた。


自分の思いが叶わない事が、

こんなにも苦しいものだと初めて知ったのだ。

ただただ、悔しかった。


涙を流すジークに従者は何も言えず、

諌めることも出来ず、

ジーク達が西地区の出入り口付近に差し掛かった、

その時だった。



「なんだ、坊主?何こんなとこで泣いてるだ?」


「……ッ!?」


「な、なんだ貴様!?なっ……で、でかい……」



ジークと従者の前に現れたのは、

四メートルほどの大きさの巨体で、

赤い皮膚が特徴的な大男だった。

額に二本の角を持ち、

鋭い目つきと巨大な荷物を抱える姿。


それをオーガだと従者は察して、

警戒の体勢に入る。


しかし警戒態勢も、

オーガが発した一瞬の殺気で従者が萎縮し、

魔力の高まりが引っ込んでしまうほどだった。



「おいおい、オーガだからってそこまで警戒するこたねぇだろ?まぁ、この町だと慣れちまったからいいが。それより、んなデケェ魔力持ってるくせに泣きベソかいてる坊主はどうした?」


「ち、違う。泣いてるわけじゃ……」


「いやいや、泣いてるって。ん?祭りの日に男が泣くってことは、女にでもフラれたか?ガッハッハッ!!」


「――……ッ」



当たらずも遠からずなオーガの言葉に、

ジークはまた昨晩と先ほどの出来事を思い出す。


自分に冷たい祖母の姿と、

これから起こるだろう兄と父の争いを思い、

ジークは再び涙を流し始めた。

しかも大粒の涙を。


それに慌てふためいたのは、

オーガのほうだった。



「ゲッ、当たってたのかよ。ああ、スマンスマン!ほら、世の中には女なんて腐るほどいるんだしよ。お前さんエルフだし、その年ならまだ30かそこらだろ?出会いなんてこれから先、何百年もあるんだから、そんな泣くなって」


「……っ、ち、が……っ!僕は、フられ、たわけ、っ、ぐ、ぅ……ぅう……」



両手で必死に顔に零れる涙を指で除けながら、

声にもならない声で何か言おうとするジークに、

オーガは少々見当違いながらも励ますように慰める。


しかし、遠巻きで見ていた者達が、

その様子を見てヒソヒソと話し始めた。



「あのオーガ、子供を泣かせてるぞ」


「小さな男の子を泣かせてるなんて……」


「オーガが男の子に乱暴して泣かせたって?」


「やっぱりオーガって最低だな」



周囲がヒソヒソと話す声がオーガにも聞こえたようで、

オーガは周囲の人々を見て威嚇するように大声を上げた。



「お、おい。ちょっと待て。俺は別に泣かせてねぇよ!この坊主が女にフラれて泣いてるだけだろうが!!」


「ぼ、ぼぐば、ぶられでない!!!」



泣きながらダミ声で否定するジークだが、

そういうやり取りをしている間に、

ジーク達とオーガの周辺に警備隊が幾人も集まってきた。


西地区は警備隊の総本部もあるので、

騒ぎを聞きつけて駆け付けるのも、早かったようである。



「そ、そこのオーガ!!大人しくしてその子供を解放しろ!!」


「なんでそうなるんだよ!?」



駈け付けた警備隊の犬獣族けんじゅうぞくの言葉に、

オーガはツッコミを入れた。

何故か子供を泣かせたという話から、

人質事件にまで発展したようだ。


周囲の人々の話では。



「ああ、もうめんどくせぇ!おい、そこの犬っころ!丁度警備隊のとこ行く気だったんだ。一緒に来い!あとお前だ坊主!お前のせいなんだから、警備隊の詰め所で俺の無実を証明しろ!!行くぞ!!」


「ぢょっ、うわっ!?」



首根っこを掴むように、

服の襟首を掴んでオーガはジークを引き上げ、

腰だめに抱えてまるで薪でも運ぶようにジークを運んでいく。


オーガの殺気に当てられた従者は、

やっと動揺から復帰して意識を戻し、

連れて行かれる王子の後を追いかけた。


警備隊も、犬獣族の警備隊員が槍を持ったままオーガに槍を掴まれ、

まるで嫌がる犬の散歩の姿に類似する姿で、

引き摺られながら警備隊の詰め所へ連れて行かれた。



「そういえば坊主、お前さんの名前は!?」


「ぼ、僕は、ジークヴェルト……」


「そうか、俺はフォウルっつぅんだ。ジーク坊、俺の無実を証明しろよな。でないと、俺がドワルゴンに会えなくなっちまうんだからよ!ガッハッハッ!!」



抱えられたジークと、それを運ぶフォウルは、

警備隊の総本部がある詰め所へと足を運ぶ。


それと同時に、ヴェルズとアイリも店から出て、

警備隊の総本部である詰め所へと向かう。





アイリとジークヴェルト。

そして二人に関わるように接点を持ったフォウルの出現は、

物語を交差させていく事となった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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