第018話 説得
フォウルが去った後、アイリとジャッカスは、
セヴィア・リエラの家に付いて行った。
今日も泊まらないかとセヴィアはアイリを誘ったが、
流石に二日連続でお世話にはなれないと、
アイリは遠慮をした。
遠慮する事など無いと言われたけれど、
そういう事を気にしてしまうのが今のアイリなのだ。
セヴィアの家に置いてあったアイリの買い物した荷物を、
代わりにジャッカスが抱えて一緒に帰ってくれた。
一緒に出かけていった話をしながら、
アイリはジャッカスに今日の出来事を話していく。
楽しそうに話すアイリを見て、
ジャッカスは今日の出来事がアイリにとって、
良かった事なのだと思えた。
ヴェルズの家の前に着いたアイリは、
ジャッカスを見送って家の中へ入り、
買った荷物を自分の部屋の中に置いた。
置いた荷物から今日買った麻布で出来たズボンと、
シャツを取り出して着てみる。
少しゴワゴワした感触だけれど、
ふわふわの服より全身が包まれていて着易い。
買った時に言われたけれど、
何度か洗ったりすれば少しは硬さも抜けて、
柔らかくなっていくそうなので、
家の中では今度からこれを着てみようと思う。
サンダルも脱ぎ、皮のブーツを着用する。
子供用だから小さめだけれど、
革紐を緩めていけばエルフ族でも、
身体年齢が7歳くらいまでは着用できるらしい。
私の見た目だと、今は良くて4歳から5歳。
エルフ族は3年で1歳ずつ年をとっていくらしいので、
少なくとも6年間は着れる。
少し動いてみて、
まだ服と同じでゴワゴワしているけれど、
そのうち着慣れていけば違和感は無くなるはず。
新しい服を着終えて夕食時になった時、
アイリはジャッカスから受け取っていた串焼きの入った袋を開いて、
中からまだ暖かい串焼き半分取った。
中には新作の魚を油で揚げた串焼きや、
野菜を揚げたものもある。
それ以外にも魚の塩焼きや、
鳥の皮の肉を焼いたものもあった。
台所に置いてあるレタスに似た野菜の葉を千切り取って、
井戸から汲んで来た水を使って洗い、
更に野菜と串焼きの肉を同じ皿に盛って食べる。
野菜を取り出す時に、
フォウルが見せてくれたメッシ草もあった。
養殖不可の天然で珍しい物らしいので、
流石にヴェルズが居ない場合で、
勝手に食べていいものか分からなかったので、
それは皿には盛らずに。
木の皿に盛られた野菜と肉を前に、
手と手を合わせて「いただきます」をする。
木のフォークを使って食べて、
少し時間を掛けながら食べ終わり、
食器は井戸水を使って洗い、
麻布で拭いて食器棚に戻した。
それから家の各所にある灯りとなるランプに、
手の届く範囲で火を付けていく。
指で回転させる仕掛けのランプは、
アルコールが染み込んだ蔦縄に着火すると、
ヴェルズの家に明かりが灯った。
そうしてからアイリは、
ヴェルズに許可されている本の部屋で少し本を読む。
薬草に関する本があり、
アイリはメッシ草の記述が書いてある本を見つけた。
メッシ草はどんな気候でも関係無く、
柔らかい土の上に群生する薬草で、
土の条件さえ合えばどんな環境でも生えてる所は、
魔大陸全体で確認されているらしい。
ただ、一定まで育つと成長せず、
時が経つと枯れてしまう為、
採取自体は見つけたらすぐ行ったほうが良いそうだ。
養殖しようにも、種や実が生るわけではなく、
根を残しても根ごと枯れてしまう為、
養殖自体は魔族達には出来ないらしい。
どうやって育つのか不明な薬草。
それがメッシ草という植物に関する、
魔族達の認識だった。
雑草と見分けがつかないけれど、
魔物や魔族は見るだけで、
それがメッシ草だと分かるそうだ。
薬草としての効果はフォウルの言う通り、
摂取した生物の魔力を一定まで消費する代わりに、
身体の体調が整うこと。魔物と呼ばれる動物達も、
それを食べて魔力の暴走を意図的に抑え、
自然の中で暮らしているらしい。
万病に効く香料草とも言われていて、
魔族達には薬味にもなっている。
ただ、大昔にそういう噂を聞きつけ侵略して来た人間達が、
一気にメッシ草を刈り尽くし、
それが魔大陸の魔物を暴走させる結果にも繋がり、
魔族達の怒りに火を着けた要因とも言われているようだ。
しかも人間達の研究が進むにつれて、
人間には毒素が強いだけの草だったと判明した。
それだけで人間達は手を引けば良かったものの、
当時の魔族達が流したデマ情報だったと怒った人間達は、
その草を見つけ次第、森ごと焼いていったようなのだ。
土地が汚染され魔力が枯渇する土が増え、
メッシ草の群生地帯が少なくなり、
魔大陸では魔物は暴れだし、
魔力と体調の調整が難しい状態で魔族達は更に怒り、
人間という種と魔族に、決定的な軋轢を生む結果となった。
魔王ジュリアが君臨した時代に、
焼き払われた森や人間達に汚された大地は浄化されていき、
なんとかメッシ草の群生地帯も増えていき、
今でこそ魔族達の食卓に再び並ぶようになったそうだ。
それが、メッシ草に纏わる人間と魔族達の歴史だった。
私はそれを読んで、
少なからず人間と魔族の認識と生物的な違いが、
戦いを広げていった原因になってしまった事を知った。
そして今でもそれを覚えている魔族達が存在し、
それが人間を嫌っている魔族達の要因になっていることを知る。
今の私は、人間なのだろうか?
それとも、魔族なのだろうか?
記憶は人間の時の事を覚えている。
けれど、皆が言う限りは私は間違いなく魔族らしい。
魔力を感じない私には、
昔と今の私の違いがまだ理解できなかった。
でも、もし魔力を感じられるようになったら?
そして、魔力を感じて魔技を学んでいけるとしたら。
私はちゃんと、皆と同じ『魔族』として、
一緒に暮らしていけるのだろうか?
一抹の不安と希望が、
アイリの中に蠢いていた。
*
アイリがそう考えていると、
家のドアが開く音がした。
その音に反応して、
私は本を元の場所に戻して部屋を出て、
戻って来たヴェルズを迎えた。
「おかえりなさい、村長様」
「ただいま。アイリ、本を読んでいたの?」
「はい。少し、薬草の事を知りたくなって」
「メッシ草のこと?」
ヴェルズは着込んだブランケットを外して、
玄関に置いてある服掛けにしまう。
その言葉にアイリはドキッとし、
自分の行動がお見通しになっている事を不思議に思った。
「ヴラズ達が今日の出来事を教えてくれたわ。正確には昨日の事も含めてだけど。私が少し忙しくしている間に、随分と村は賑やかな事になっていたのね」
そう言うと、
手招きしてヴェルズは自分の部屋へとアイリを招いた。
そこは書斎のようになっていて、
アイリがまだ見ていない本や、
木組みされ綿が敷き詰められた革のソファーもあった。
様々な香草をすり潰し、
火の魔術で暖められた水でヴェルズは、
アイリと自分の分の紅茶を作って、陶器のカップで差し出した。
ソファーに座らせられてから、
ほど良い甘さと香りがして、
少しだけ紅茶を飲むと身体が温まる感じがする。
「アイリ、単刀直入に言うわね。あなたは頭が良いけれど、遠回しな言い方よりも、こういう話し方が良いでしょうから」
アイリが座ったソファーの横に、
ヴェルズは一緒に腰掛けた。
紅茶とはまた別の良い匂いがヴェルズから香っている。
香水か何かだろうか?と、アイリは少しだけ考えていた時に、
ヴェルズは話を切り出した。
「フォウルというオーガが言う話は、事実よ。私はあなたの魔力を司る器官の1つを、敢えて機能しないようにしているわ」
「……!!」
「そこが機能しないと、自分の魔力も他の魔力も感知できない。感知できないからこそ、魔技も全く扱えない。あなたがまだ起きない時に、そういう処置をしていたの」
ヴェルズから告げられた言葉は、
アイリは動揺を隠せなかった。
今まで親身になって接してくれた人が、
自分にそういう事をしていたという事実は、
前世の記憶を持っているとはいえ、
子供ながらに受ける動揺もまた、計り知れない。
「……ど、どうしてですか?」
アイリは辛うじて、その言葉を口に出す事しかできなかった。
ソファーの前に置かれた机に、
飲みかけた紅茶を置いた。
その手は、少しだけ震えている。
「……あなたの魔力は、私の魔力さえ遥かに超えている。子供の内から鍛錬し続けると、内在する魔力の容量は大幅に増えていくの。あなたが今から鍛錬すれば、恐らくは誰も到達しえない、『魔』の境地を極めてしまう。そう確信したからよ」
「魔の、境地?」
「簡単に言えば、そうね。『魔王』かしら。アイリ、あなたは魔王になれてしまう。だから、私はあなたに魔技を扱って欲しくなかったの」
『魔王になれてしまう』
突拍子も無い言葉を聞いて、
アイリは困惑を強めてしまった。
そして、なぜそれがヴェルズの行為の理由になるのかも、
今のアイリには分からなかった。
その困惑を理解しているのか、
ヴェルズはアイリに優しく微笑むと、
一度目を瞑り静かに口を開いた。
「少し、昔話をしてあげるわ。私がまだ、子供の頃の話」
「……?」
「私が、あなたと同じ赤色の瞳と、銀色の髪を持った、美しい女の子と出逢った時の話を」
*
むかしむかし、
あるところに大きな森に住むエルフ族達が居ました。
その森は大陸でも広大な領域を持ち、
また住む動物達も豊かで、
住むエルフ達も森の恩恵により静かに暮らしていました。
けれど、その森は人間達に汚されました。
人間達は森を焼き、動物達を殺し、
そこに住むエルフ達を残忍にも殺し、
全てを奪い、燃やしました。
エルフ達は戦いました。
森を焼かせない為に。
自分達の家族と、
自分達の住む大地を守るために。
けれど、人間達の持つ武器は強力で人間達の数も多く、
優れた魔力と魔術を持つエルフ達でしたが、
多勢に無勢で、力尽きました。
結局、森は全て焼かれ、
そこに住むエルフ達はほとんどが殺されました。
それでもエルフの族長は最後まで戦い続けました。
けれど、族長の身体は無残に切り刻まれ、
遺体は森と一緒に焼かれました。
そして、そのエルフの族長には、
まだ幼い娘がいました。
追い詰められた場所で、族長の娘と、
生き残った少数の女子供のエルフ族を、
人間達は無論、襲いました。
けれど、その時に一人のエルフが姿を現しました。
身形はエルフに類似しているにも関わらず、
エルフ族とは異なる赤い瞳と銀色の髪を持っていました。
年頃は族長の娘よりやや年上で、
まだ少女とも言える年齢の容姿。
珍しいエルフ族だと狙った人間達は、
その少女にも襲いかかりました。
けれど、その人間達は一瞬で殺されました。
瞬きする暇さえも無く、
高い魔力を放出しただけで、
一瞬で人間達が持つ武器を破壊し、
その人間達の身体を切り裂いたのです。
彼女は助けた族長の娘と、
生き残った者達の前に来て、こう言いました。
『ついてくるか?』と。
族長の娘と、生き残ったエルフ族達は、
彼女に一緒について行きました。
彼女が赴く場所は常に戦いが在り、
逃げ惑う魔大陸に住む人々を、彼女は助けました。
族長の娘は彼女に尋ねました。
「何故、私達を助けるのですか?」と。
彼女はこう言いました。
『アタシは争う奴が大嫌いなんだ。だから潰してるだけさ』と。
そして族長の娘は成人し、
その氏族名を継ぎました。
彼女も助けた者達が多くなり、
ついてくるのも厳しい事を悟って、
ある場所に村を作りました。
その村は大きくなり、町になり、都市になり、
そして王都と言われるようになりました。
しかし、彼女の旅は終わりませんでした。
未だに終わらない争いを潰す為に、
彼女は戦い続けました。
争う事よりも、
寝る事と食べる事の方が大好きな彼女が、
なぜ戦い続けなければならないのか、
周囲の人々は分かりません。
そうして彼女は戦い続けて、
人間の勇者と呼ばれる者と遭遇し、戦いました。
二人の戦いには決着がありませんでした。
けれど、戦う中で彼女と勇者は、
互いに争いを無くす為に戦い続ける者だと理解し合い、
彼女と勇者は盟約を結びました。
それから彼女は、
侵略の原因となった人間の国と武器を、
たった一晩で滅ぼしました。
彼女の宣言通り、
争う原因を潰したのです。
それから勇者に付き従う者達と、
魔大陸の王都を司る者達の間で誓約を結び、
人間は魔大陸に今後干渉しない事を約束させました。
もしそれを反故すれば、
その国や人々は彼女と勇者が滅ぼすという、
盟約を結んで。
それから彼女は、
こう呼ばれるようになりました。
『始祖の魔王』ジュリア、と。
*
「――…ジュリア様は、本心ではずっと戦いたくないと言っていた。そして、自分の力がより強大な力を呼ぶものとなる事も、知っていた。だから争いが終わった後は、あの人はずっと怠けていたわね。眠い時に寝て、食べたい時に食べて。でも、それはあの人なりの『争わない』ことへの精一杯の楽しみ方だったのだと、今では思うわ」
ヴェルズが話す事を、
アイリはずっと聞いていた。
懐かしむように、
そして思い出すように微笑むヴェルズの表情は、
聞いていたアイリでさえ、
幸せだったと感じる語り方だった。
「私があなたを見た時、初めて会ったジュリア様にそっくりで本当に驚いた。けれど、同時に恐れた。あなたの強大な魔力が、新たに強大な力を呼ぶものになるのではないかと。例えば、ジュリア様と戦った勇者のような存在を再び招くのでは、と。だから、私はあなたが魔力を感知できないように器官の機能を麻痺させた。そしてあなたには、ジュリア様のようには戦ってほしくなかった。それが、私の本心の理由よ」
「………」
「ジュリア様の戦い方は、全てを圧倒し立ち向かう力さえ殺ぐやり方だった。あるいは、人間以上に残忍な殺し方さえ厭わないほどに。そして、それを最も嫌悪していたのは、本人であるジュリア様だった。……あなたには、そうなってほしくはないの」
陶器カップの注いだ紅茶が空になり、
ヴェルズは目の前の机にカップを置いた。
そして、優しくアイリの手を握りながら、
そう囁いて訴えた。
戦ってほしくない。
それが、ヴェルズがアイリに望んでいる事だった。
「……村長様の言うこと、なんとなく分かります。でも……」
「この村には色んな職があるわ。畑を耕したり、服を作ったり、靴を作ったり。食事を作ったり、彫金をして綺麗な装飾品を作ったり。誰かに嫁いで家族を持つという選択肢も。アイリ、あなたはまだ小さい女の子なの。私達の時とは違う。戦うしか道が無い私達の時とは……」
「……でもやっぱり、嫌です。みんなができるのに、私だけできないの、嫌です……」
ヴェルズが説得する言葉に、アイリはそう返した。
それは、アイリが今まで溜め込んでいた、本当の気持ちだった。
「私、みんなに助けてもらってばっかりで、まだ何も返せない。大人になって、大きくなったら返せるかもしれない。でも、私が大人になる前に、私を助けてくれた人達……ジャッカスさんや、ジスタさんにメイファさん。友達になったリエラや、リエラのお母さんのセヴィアさん。そしてここの皆に、村長様が、私が大きくなる前に何かあったら、私、何も返せない……」
「……アイリ」
「もう嫌なんです。大事な人に何もできないままで終わるのは、嫌なんです」
その言葉は、
前世の記憶から導き出した、
アイリが持つ最大の願いだった。
何もできないまま、
大事な人が苦しむ姿だけを見ている前世の自分。
大事な人達に何もできなかった前の自分のまま、
ここでも同じような事が起きて、
ただ傍観するしかない瞬間が来た時のことを、
アイリは恐れて怯えていた。
「……アイリ、あなたは私にそっくりね」
「…え…?」
「私もそうだった。父上が殺された時も。親しい人達が死んでいく時も。そして、焼かれていく故郷を見ていた時も。私は、自分の無力を痛感させられた」
「………」
「ジュリア様に私は教えを乞うた。魔力の扱い方、魔術の編み出し方。私ができる事は、全て教わった。そして、実際に守る事ができた者達がいる。救えた者達がいる。……けれど、それ以上に殺める力を持った事を苦しみ、殺めた者達も大勢いる。……あなたは、あなたが力を持った時、それを覚悟できる?」
ヴェルズの言葉の重みを、
アイリは全て理解できたわけではなかった。
けれど、何を言いたいかだけは、
アイリは理解できた。
自分の力はそれほど脅威であり、
危険だということ。
そして、その力で誰かを守れても、
それは何かを捨てる覚悟を、
しなければならないということ。
だからこそ、アイリの答えは必然だった。
「……何もできない私より、何かができる私のほうが、ずっといいです」
「……そう、分かったわ」
そう言うと、ヴェルズはアイリの手をそっと離し、
腰を上げてソファーから離れた。
冷えてしまったアイリの紅茶を下げて台所に向かい、
少しして台所から戻って来た時、
ヴェルズはアイリに席を立つように促した。
「今から、麻痺させている魔力器官を治します。そうすれば、あなたは自分の魔力を感じる事ができるようになるわ」
「!!……村長様」
「けれど、いくつか約束して。攻撃魔術は、10歳になってから学ぶ事。絶対に見様見真似で攻撃魔術は使わないで。医療魔術に関しては、私が時間がある時に教えるわ。それと、決して自分の力を驕らないこと。あなたの力は、他の者達にとっては危険なモノだということを、ちゃんと理解して。いいわね?」
「はい!」
「それと、身体系の魔技だけれど。私は簡単なモノしか本当に使えないの。だから、フォウルというオーガに習うのは良い提案かもしれないわ。でも、警備隊の人と一緒によ。いいわね?」
「はい!」
喜んで返事をするアイリに、
ヴェルズは今まで見た事が無いアイリの反応に苦笑しつつ、
アイリの頭に両手をかざすと、
体が熱くなる感覚がアイリに訪れた。
そして徐々に自分の中に流れる何かを、
アイリは自覚し始める。
それと同様に、
今まで視認できていた色とは別に、
ヴェルズの身体や周囲の家具や装飾から、
力の流れのようなものをアイリは感じ始めた。
心臓の鼓動が早くなり、
息が徐々に乱れて冷や汗をかき始めた。
「アイリ、自分の魔力を感じる?」
「こ、これが…魔力ですか?」
「そう。今のあなたは、魔力を感じて驚いてるわね。魔力が乱れているわ。呼吸を整えて、楽な姿勢になりなさい。魔力は私達の身体に流れる血液と同じ。身体を巡り、循環し、最後は心の臓へと至り、また巡る。それをイメージしながら、魔力を整えるの」
ヴェルズの言葉にアイリは頷き、
目を閉じて静かに呼吸をする。
身体の中を巡る脈動と、
魔力の流れが一緒だとイメージする。
すると、まるで血液の流れに連動するように、
魔力は身体中を巡り、
自分の周囲に纏うようなモノへと変化した。
「そうよ。アイリ、今のあなたの魔力は、どうなっているか分かる?」
「……全身に纏っているような感覚で……。凄く暖かい、そんな感覚です」
「それが魔技の基礎の1つ、『魔力制御』よ。普段からそれをしていれば、自然と魔力の制御が出来るの。魔術を習う前に、普段でもそれが普通にできるようにしなさい。慣れると、無自覚で出来るようになるから」
「は、はい……」
「それじゃあ、次は自分の眼を意識して少し集中させてみて。できたら、目を開けて私を見なさい」
ヴェルズの言う通り、
アイリは目を閉じたまま目に意識を集中させる。
瞼で閉じられた視界は暗いが、
自分の目の前にヴェルズが居る事を、
何故か肌で感じる事ができた。
そして、ゆっくり目を開けてヴェルズに目を向けた。
ヴェルズに視線を向けると、
肌にチクチクとした感覚が訪れた。
それは次第に収まり、ヴェルズの身体の周囲を覆う魔力と、
内在する魔力の流れのようなモノが見えた。
「アイリ、私の魔力が見える?」
「は、はい。凄くゆっくり、体を流れてて……。でも、何か見てると圧されるような、そんな感覚が……」
「圧される感覚は、どのくらいの強さ?圧されたら、倒れてしまいそうになるほど?それとも、ただ押されるだけ?」
「えっと……、ただ押されるだけです」
「そう……、やっぱり凄いわね。私の魔力を感じてもその程度で済むということは、やっぱりあなたの魔力は、私を凌駕しているということね。さぁ、『魔力制御』をして、自然体に戻って」
ヴェルズの言葉に頷き、
アイリは魔力制御で元の落ち着いた状態に戻る。
目に感じていた圧迫感は薄くなり、
全身に疲労に似た感覚が訪れ始めた。
「今のが魔技の基礎の1つ、『魔力感知』よ。まだ慣れないから疲れるだろうけど、慣れると一瞬で相手が内包する魔力を見る事ができる。ただ、相手が攻撃意思を持って向かい合っている場合は、その魔力の強さに当てられてこちらの魔力を乱されてしまう場合があるの。『圧される』という感覚があったのは、私があなたの魔力感知に抵抗したから。圧倒的差があり、少しでも攻撃意思を自分が持っていれば、魔力を見せるだけで相手は怯え動けなくなってしまうの。アイリの魔力は大きすぎるから、少なくとも村人の前では攻撃意思を持たずにしてね。あなたの魔力を見たら、村人では耐え切れないでしょうから」
「は、はい」
魔力制御で落ち着いたアイリは、
ヴェルズの言葉を胸に刻んだ。
自分の魔力を見ただけで、
村人にまで傷つけてしまうこともあると、
初めて知ったアイリは、
これからはちゃんと気をつけようと思った。
「今日はここまで。今日から毎日、魔力制御をやること。無意識にやれるようになったら、魔術も完璧に扱えるようになるわ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。でも、勉強も忘れないようにね。アイリ、あなたは頭も良いし魔技を扱う素養も高い。けれど、そればかりに目を向けずに、他にも出来る事をちゃんと見つけて。料理でも良いし、織物でもいい。戦う以外の事も、できるようになりなさい。私との約束よ?」
「は、はい」
アイリの返事に、ヴェルズは頷いて微笑む。
「それじゃあ、今日はもう休みなさい。明日はお祭り、私と周りましょうか」
「え、でも……いいんですか?」
「祭りが始まると、懇意にしている氏族達や部族達と挨拶をしなければいけなかったの。でも、それも今日で終わったから」
アイリの部屋へ連れて行くヴェルズと祭りの事を話しながら、
アイリはフォウルの事を思い出した。
そうだ、フォウルともゆっくり話す時間が欲しい。
けれど、どうしたらいいのか自分では分からない。
確かめなければいけない。フォウルの事を。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
「オーガの、フォウルさんの所に習いに行くのは、いつ行けば良いですか?」
「……そうね。明後日かしら。それに私も、そのフォウルと名乗ったオーガとは少し話があるの。明日は一緒にお祭りを周って夕飯を食べたら、あなたは本を読みながら家で待ってて。その間に、私があのオーガと話をつけるから」
「は、はい」
部屋に入り、皮靴を脱いで寝る時の服に着替えて、
アイリはベッドで寝かされた。
でも自分の中に流れる魔力を感じながら、
さっき学んだ魔力制御をやって練習する。
眠そうになると魔力制御が解けてしまい、
また制御し直すと、眠くて解けてしまう。
これを寝ながらでも無意識にやるのが、
今後の課題らしい。
難しいけれど、
でも出来る事が増えたのは、
アイリに嬉しい限りだった。
そして何より、
みんなと同じ『魔族』である普通の事ができるのが、
アイリには一番嬉しかった。
何度も練習して、
いつの間にかアイリは寝息を立てて寝静まっていた。
やっぱり覚えたばかりでは、
魔力制御は寝ながらできなかった。
けれどこの今世に来て初めて、
アイリは熟睡できたのだった。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




