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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章一節:生誕祭一日目

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第014話 来訪者


『ズンッ』


南地区の広場に軽い地響きが鳴る。

その地響きはジャッカスには聞き慣れたものだった。



「ん?あれ、ドワルゴン様が来たのか?」



そう言うと、ジャッカスは急いで屋台の前に走り、

ドワルゴンを迎えようと屋台に戻っていく。



「しかし、おかしいな。今日はドワルゴン様は来ない日のはずなんだが、なんか用事がてらに食いに来たのかね?」



そんなことを漏らしながら屋台に戻ると、

そこにはジャッカスが想像した人物とは、

別の人物が立っていた。


いや、想像していた人物に風貌は似ているのだが、

明らかに種族が違う。

それにドワルゴンより一回りほど大きいかもしれない。

その体格は四メートル近くある。

皮膚の色もドワルゴンとは違い、

ドワルゴンは色黒の褐色肌で、

目の前の人物は赤い皮膚だ。


明らかにドワルゴンと同じオーク族じゃない。

というか、この街に居ない種族だ。


相手はジャッカスに気付いたのか、

振り返ってジャッカスに近づいていく。

どうやら、

ジャッカスを探してさっきまで周囲を見渡していたようだ。



「お前さんが、串焼き屋のジャッカスってゴブリンか?やっぱゴブリンだけあってちっちぇなぁ!」


「お、おう。お前さんはデッケェなぁ。もしかして、オーガかい?」


「おう、俺はオーガのフォウルっつぅもんだ。今日はお前さんってより、お前んとこの上客に用があって来たのさ」



フォウルと名乗るオーガ族は、

ジャッカスの屋台のやや後ろに移動し、

芝生の上で重たそうな荷を降ろし、

また地響きを鳴らす。


大きな魔物の皮で出来た荷運び用の毛皮のかばんには、

ガチャリという鉄の音も聞こえた。


それと同時に、

その巨体も地べたにドスンッと音を立てて、

ドカッと大きく胡坐をかいて座ったのだった。



「ここの店は、ドワルゴンってのが贔屓にしてる店なんだろ。悪いが、そいつが来るまで待たせてもらうぜぇ」


「あ、こら!近くで子供が寝てんだから静かに頼むぜ!」


「ん?おぉ、なんだそうだったのか。わりぃわりぃ!ちっこ過ぎて気付かなかったぜ!ガッハッハッ!!」



笑うフォウルの声もまた大きく、

それも注意しようとするジャッカスだったが、

しかしそれも遅かったようで、

その大きな音と声で、

二人の子供が起きてしまったようだ。



「ん~……?ねむっ……」


「……眠っちゃ、ってた……。あれ、誰……?」



起きたリエラとアイリのうち、

フォウルに先に気付いたのはアイリだった。


芝生の上に胡坐をかいて座る大きな背中を見ながら、

眠気がまだ取れない瞳で、

アイリはじっとフォウルの方を見ていた。



「……うわっ、大きい」


「ん?あぁ、わりぃな!起こしちまったか!……ん?そこの嬢ちゃん、その目と髪。……もしかして、突然変異体アルビノか?珍しいな、初めて見たぜ」


「……あるびのって、なに?」


「あ、こら!アイリに変なこと教えるんじゃねぇよ!フォウルっつったかい?困るぜ、アンタがそこに座られてると客が怖がって来ねぇじゃないかよ」


「ガッハッハッ!!じゃあ俺が客になるからよ!ほら、これで作れるだけ串焼き作ってくれよ!そうだ、後は美味い酒作ってくれるとこ知らねぇか?ここ数ヶ月、ずっと歩きっぱなしでなぁ。今日やっと着いたばっかりなのさ。美味いメシに、美味い酒飲んで今は休みてぇのさ!」



そう言うとフォウルは、

ジャッカスに投げるように大きな麻袋を投げ渡す。


ジャッカスが両手で抱えて受け取りが、

重量で若干沈み込んでしまうほどの重さに、

驚きながらも耐えて持ち直した。


いったい何が入ってるんだと思って中身を見ると、

そこには大量の金貨が入っていた。

数えただけでも、恐らく二百枚は確実にある。


この世界の貨幣の大きさは、

大きいものでも五百円玉ほどの大きさ。

銅貨は日本円換算で言えば銅貨1枚で10円。

銀貨1枚で1000円。

金貨1枚で10万円相当の値段にあたる。


それが二百枚もあるのだとしたら、

およそ2000万円近い価値が、

その麻袋に全て集約されていたのだ。


これには流石にジャッカスも驚いた。



「ちょ、おま……俺の串焼きは安くても1本1銅貨だぜ?こんな渡されても、その分なんて食わせられねぇよ!」


「ガッハッハッ!じゃあ適当に金を抜いて串焼きくれ!暇なら酒もついでに頼むわ!ワインでもいいぜ!俺はちょいと一眠りすっから、用意できたら起こしてくれっとな……っと」



上半身を倒して芝の上に寝転がったフォウルは、

また地響きを鳴らした。

そして寝転がって数秒で、

大きなイビキをかいて寝てしまった。


いきなりの態度にジャッカスは呆れると同時に困惑したが、

長旅で疲れたというフォウルの言葉も満更嘘には思えず、

とりあえず串焼きを焼いて山盛りにして用意を始める。


それと同時に隣のピーグに果実酒を用意して貰って、

同じ広場で発泡酒を出していた店に寄って、

樽ごと買い取って用意した。





三十分後にはジャッカスは串焼き50本と酒樽を一樽。

果実酒の一樽を用意して、フォウルを起こした。



「ほら、起きろって。食い物と酒、用意したぜ?」


「……ん、おぉ。こいつは美味そうだ!!――…クゥッ!美味い!なんだこの串焼き!メチャクチャ美味いじゃねぇか!こりゃなんだ?サクサクしてるのに中の肉が柔らかくてウメェ!酒もタマらんなぁ!南にはこんなうめぇモン作れる奴なんて全くいねぇぞ!すげぇなあんた等!!」



起きたばかりなのに、

ガツガツと串焼きを食って、

ガブガブと酒を水のように飲んでいくフォウルに、

周囲に見物人まで出来てしまっていた。


オーガ種というだけでも珍しいのに、

その豪快な食いっぷりと、

それを作った人達を教えろというと、

その人物達が呼ばれて来ると物凄く褒めちぎるのだ。



「この村は色々凄いとは風の噂で聞いてたが、想像以上だったなぁ!お前さん達、こんなウメェもん作れるっつぅなら誇っていいぜ?この俺が言うんだ、外の奴等にゃ誰も文句なんざ言わんさぁ!ガッハッハッ!!」


「なんだいアンタ、随分嬉しいこと言ってくれるねぇ。南から来たって事は、旅でもしてるかい?」


「旅には違わんなぁ。まぁ、かれこれ100年近く旅してたんだが、いい加減に落ち着こうかと思って、この村の事を思い出して来てみたのさ!」


「100年もか!すげぇな、俺もちょいと旅した事あるが、村の外は過酷で俺には辛かったなぁ」


「そりゃ辛かろうさ!こんな美味いメシや酒も食えないんじゃ、俺様だったら耐え切れずに三日で戻っちまうぜ!ガッハッハッ!!」



村人達やジャッカスも含めて、

フォウルの豪快さに始めは気圧されていたが、

彼自身には悪気も無く、

ただ在りのままの姿で接しているのだと理解すると、

すぐに打ち解けてしまっていた。


フォウルの周囲には人が集まり、

一緒に食べて酒を飲んでと、賑やかな騒ぎになっていた。


怖がって客足が途切れるどころか、

南の出店の全ての食い物屋を周って注文して食べる度に、

誇張気味なリアクションで美味いと叫んでは、

客寄せになっているフォウルは、

ものの一時間ですっかり場に溶け込んでいた。


リエラもアイリも、

起きてからフォウルの反応が面白く、

図体や見た目からは感じられない子供っぽさがきっかけとなり、

大人達がお酒を飲んで騒ぐ傍らで、

一緒に夕飯となる食べ物をフォウルが金を出して注文し、食べていた。



「あの、良いんですか?食べちゃって……」


「ん?構わんさ。子供は食ってデカくなるもんだ!じゃんじゃん食いな!どうせ渡した金も泡銭で、懐も痛まんからな。ほれ、遠慮すんな!」


「アイリ!これ美味しいよ!一緒に食べよう!」


「う、うん。フォウルさん、ありがとう」


「ガッハッハッ!!子供がそんな事で礼言うには及ばんさ!おっ、小僧が食ってるのも美味そうだ。俺もそれ食うぜ!」



ドカッと芝生の上に胡坐をかいて座るフォウルは、

遠慮しがちなアイリの隣に座って、

樽をグラスにして酒を飲みながら、

「ガッハッハッ!!」と笑って言い放った。


食事が減っていくとどんどん出店で酒と食べ物を注文していき、

ガツガツと無尽蔵にフォウルはそれ等全てを食べていく。



「そういや嬢ちゃん、さっきはスマンな。つい珍しくて言っちまったが、ありゃ嬢ちゃんには禁句だったか?」


「え?えっと、アルビノですか?私も、アルビノっていうのが分からなくて」


「ん、そもそも知らんのか?というか、周りが教えてないって感じか」


「あの、アルビノって、なんですか?」



アイリはフォウルに、突然変異体アルビノについて聞いた。


ジャッカスは今、新しい串焼きの注文の為に、

店で串焼きを焼いている最中だ。

ジャッカスが聞かせようとしなかった事を、

アイリは少しだけ気にしていた。



「俺も詳しく知らんがな。普通の種とは異なる容姿で、嬢ちゃんみたいに瞳が赤色で髪が白銀の奴の事を、昔はそう呼んでたそうだ。しかも、総じて突然変異体アルビノは強い個体にもなると聞いた。あの魔王ジュリアも突然変異体アルビノだって話もあるくらいだ。嬢ちゃんも、将来は強くなっちまうかもな!ガッハッハッ!!」



樽ごと酒を飲み干してドスッと芝の上に空の樽を置いて、

高らかにフォウルは笑った。


ただ、その一言は今のアイリにチクリと刺さる言葉だった。



「……多分、強くなれないです」


「ん?嬢ちゃんはエルフ族だろ?エルフって言やぁ、魔力が高くて魔術が強いってのが定番だろ。南に住んでるエルフ族も魔術に関しちゃ一品揃いが多かったからな。嬢ちゃんもエルフなら、そのうち立派な魔術師になるんじゃねぇか?」


「……私、自分の魔力を感じないんです。感じようとしても全然分からなくて、簡単な医療魔術もできなくて」


「魔力を感じない、だとぉ?そんなの聞いたこともねぇな。"感じにくい"じゃなくて、"感じない"なのか?」



アイリが静かに頷くと、

フォウルは少し顎を指で抱えて考え、

ズシッと立ち上がると、

自分の荷物が置いてある方へ行き、

荷物ごと持ってアイリの所へ戻って来た。


中からゴソゴソと何かを探していると、

そこには小さな鞘に収められた短剣を取り出した。


その様子に気付いた一部の村人達がフォウルの様子を見て、

なんだなんだ?と様子を伺っている。



「嬢ちゃん、この短剣はな。黒魔耀鉄鋼こくまようてっこうっつぅ特殊な鉄鋼で鍛えられたモンだ。これに魔力を注ぐと、どんな硬いモンでもスパスパ切れるってんで俺が愛用してるんだがな。まぁ、モノは試しだ。見とけよ」



鞘から引き抜いた短剣は、

美しく黒色に輝いた素朴な短剣だった。


フォウルが柄に少しだけ力を注ぐと、

鉄の輝きとは別に、

全く短剣の内部から薄く輝き白く光るように、

短剣の刃が輝きだした。


周囲に居た人々は、

その珍しい現象を興味深そうに観察し、

リエラも食べる事を中断して、

セヴィアと共にその短剣の様子を見ていた。



「なんか適当な硬いもんねぇか?普通の鉄製の武器じゃ斬れないようなもんでいいんだがな」



フォウルは周囲の人々に聞くと、

人々は何かないかと探して、

一人が鉄の鍋を持ってきた。


どうやら祭り中に鍋底に穴が空いてしまったようで、

使い物にならなくなってしまったという。


それでいいと受け取ったフォウルは、

鉄鍋を地べたに置いて、

ゆっくり手を動かして黒魔耀鉄鋼の短剣を、

鉄鍋にゆっくり刺し込んだ。


すると、固定されていないはずの鉄鍋を動かず、

素通りでもするかのように、

短剣が鉄鍋に穴を穿ったのだ。


そのまま上下に腕を動かすだけで、

鉄鍋はあっさりと分断され、

その切れ込みは鮮やかで綺麗な斬り痕だけを残していた。


全員が「おぉ~……」と関心し、

ニカッとフォウルは笑ってアイリに向き直った。



「こんな感じで、少ない魔力でもアッサリ鉄さえ斬れちまうものだ。嬢ちゃんも一回やってみるか?魔力を感じないと言っても、実際には感じないだけで魔力を込めるのは出来てるのかもしれねぇぞ?」


「え、で、でも……」


「エルフ族にも、剣で戦う奴ってのは結構いるんだぜ。魔術だけじゃこの世じゃ渡り合えないって理由でな。お嬢ちゃんも、コイツでなら強くなれるかもしれないぜ?」



フォウルがそう勧める中で、

アイリとリエラの間に座る母親のセヴィアを、

一瞬だけフォウルは見つめたが、すぐに視線を外した。


セヴィアのほうは睨むように、

そして警戒するようにフォウルに視線を向け、

冷や汗と思えるものを額から微かに流している。


鞘に収められた短剣の柄を向けて、

フォウルはアイリに短剣を握らせようとした。


それを握っていいのかどうか、

アイリ自身には判断できず、

周りを見ながらジャッカスを探した。


ジャッカスもその様子を見ていたようで、

木の皿に盛られた串焼きを置くと、

アイリの前に来てフォウルに少しきつい目線で見ていた。



「オーガの旦那。アンタは子供に剣を取らせる気なのかい?」


「なるほど、あんたのほうが親代わりか。勝手にスマンかったな。だが、お嬢ちゃんは何でもいいから一度、どんな形でも"自分だけでできる"って事を見つけさせといた方が良いと思ってな」


「アイリは十分、普通の子供にゃできない事をやってるさ。この子の事を知らねぇアンタが、そういう事をするのは流石にお節介が過ぎるぜ?」


「あ、あの。ごめんなさい。私、そんなつもりじゃなくて……だから、二人とも、喧嘩しないで……」



フォウルとジャッカスの只ならぬ雰囲気を感じ、

アイリは二人の話に割り込むように、

目に涙を浮かべそうになりながら、止めようとした。


さっきまでの陽気な雰囲気が一転した原因が、

自分なのだとアイリはちゃんと自覚している。


周囲の人々も、少しだけ引いて状況を見ながら、

警備隊を呼ぶ為に何人か走った。



「嬢ちゃん、お前さんは良い子だな。嬢ちゃんを守ろうとするコイツを見てるとよく分かる。でもな、"良い子"ってのは、"誰かの為に良い子になる"って事じゃねぇんだ。自分の為に、自分が目指すもんの為に良い事をする子供ってやつが、本当の"良い子"ってことだ」


「……!!」


「俺はな、嬢ちゃんみたいに"誰かの為に良い子"になった奴をよく知ってる。確かにゴブリンの旦那の言う事は最もだが、旦那よ。この嬢ちゃんを、アンタは自分の『人形』にしたいのかい?それとも、ちゃんと自分の事を考えられる『子供』にしたいのか。考えておいたほうがいいぜ?」


「……ッ!!」


「ちなみに『人形』になった奴は、自分のやりたい事も見つけられずに、最後にゃ寂しく死んじまった。他の奴に利用されるだけ利用されて、自分の夢も持てずに。俺は、そんな寂しい死に方をお嬢ちゃんにしてほしくないだけさ」



フォウルの声はそこまで大きいモノではなかった。

けれど、その言葉は静まり返った周囲によく響いた。


さっきまで陽気に騒いでいた村の人々だけが、

気を沈めているわけではなく、

フォウルもまた、最後に言った言葉は、

空を眺めながら遠くを見て言っていた。


まるで、何かを思い出すように。

そしてそれが、

ずっと圧し掛かる事だと思っているように。



「《――……》」


「!?」


「――……ガッハッハッ!!悪いな、楽しい酒盛りを台無しにしちまって!どうやら、目当ての奴も今日は来ないみたいだし、俺は宿とって寝てくるか!ゴブリンの旦那、こりゃ迷惑かけた代金だ。受け取っといてくれ!」


「ちょ、待……お、おい!」


「明日もまた来るぜ。ドワルゴンってのに、どうしても会わなきゃいけないからな。そうだ!明日はもっと多めに酒も食べ物も用意しといてくれ!今日は美味いもん食えて満足だったぜ!ガッハッハッ!!」



麻袋をジャッカスに投げ渡したフォウルは、

自分の荷物を片手で持ち上げ、

ドシッと足音を立てながら夕暮れの街並を歩いていく。


その場に居た全員がフォウルの後姿を見送った後、

ジャッカスは渡された麻袋を見て、

やはり中には金貨が100枚以上入っていた。


髪が無い頭をポリポリと掻きながら、

「金の問題じゃねぇって……」と、

ボソリと困ったように呟いていた。





フォウルが去った後、

日が沈みつつある広場には明かりが灯され、

夜の祭りへと雰囲気を変えつつあった。


ジャッカスは夜の祭りも屋台を出すそうなので、

一度店を畳んでからアイリを家まで送ろうとしたが、

父親が戻ったリエラと母親のセヴィアの提案で、

家に戻るついでに送って行くと提案してくれた。


ヴェルズも深夜まで祭りに参加するわけではないので、

アイリは家に戻っても、

ヴェルズの家で一人きりというわけではない。


だがフォウルの事があってから、

アイリの様子がややおかしいと気付いたジャッカスは、

アイリの事を心配していた。


祭りの最中で警備もあるとはいえ、

子供一人を家に残すのは心配だとジャッカスが言うと、

それを提案するようにセヴィアから告げられた。



「だったら、今日は私達の家に泊まる?アイリちゃん」


「え……?」


「せっかくリエラと友達になってくれたんだもの。それに、リエラもアイリちゃんと一緒だと楽しいわよね?」


「う、うん!」


「アイリちゃんも、リエラの尻尾いっぱいモフモフしていいから、今日は私達の家でお泊りしましょう。良いわよね?あなた」


「わ、私は構わんよ」



振り返る家内つまの目が、

「頷かないと今夜は酷いわよ」

と言っている事に気付いたバラスタは、

ドモりながらも頷いた。


後は、アイリがそれを良しとするか否か次第だ。

セヴィアはアイリに目を向けて、

「どうかしら?」と聞いてみる。



「……わかり、ました。お願いします」


「良かったわ。あぁ、着替えの心配は大丈夫よ。私が子供の頃に着ていた服もあるから。あなた、ヴェルズェリア様には、アイリちゃんが今夜、私達の家で泊まりますと伝言しておいてね」


「うむ」


「バラスタさん、セヴィアさん。今夜は宜しくお願いします」



丁寧に頭を下げてお辞儀をし、

一家に改めてアイリは挨拶をした。


ジャッカスはそれを見送り、

夜用に漬けて置いた肉を出して屋台の準備を始めた。





*





「人形にしたいのか、子供にしたいのか、か……」


フォウルがジャッカスに向けて言った言葉を、

ジャッカスは無い頭なりに考えていた。

自分がアイリをどうしたいのか。

その問いに対して、

ジャッカスは明確な答えを持ち合わせてはいない。


始めは、自分の娘として育てたいという思いが強かった。


けれどアイリは、とても頭の良い子だ。

自分がこの村でどういう立場なのか、

それを理解して立ち回っている節があるのを、

ヴェルズやジスタが指摘して教えてくれている。


しかし、アイリはまだ子供だ。

子供に危ない目に遭うような危険な事をさせるべきじゃない。


まして武器を持たせるなんて、

ジャッカスは考えもしなかった。

それも女の子に。


ジャッカスも一度、

戦いで生死の境を彷徨った事がある経験者だ。

だからこそあんな危険な事を、

アイリはやっちゃいけないと思っていた。


アイリはエルフ族だから、

むしろ医療系の魔術や、

戦えるようになるにしても、

弓術や攻撃系の魔術を極めていけばとも思っていた。


だが今日、アイリを祭りで案内する中で、

ジャッカスはアイリから聞いていたのだ。

自分の魔力を感じない、魔術ができないという不安を。


その時は、「大人になっていけばいずれできるさ」と、

深く考えずアイリも不安がらせないように、

刺激しない返事をしておいた。


ヴェルズにもそう言われたと、

アイリは答えて笑って頷いた。


けれど、アイリはやっぱり不安だったのかもしれない。

皆が使えて、自分だけ使えない。

そんな事があることが、

アイリには不安で不安でしょうがなかったんじゃないか?

俺はそれを浅く考え過ぎてたんじゃないか。

そうジャッカスは後悔するように考えていた。


しかし、フォウルはそれを聞いただけで、

アイリが抱える不安の大きさに気付き、

それを解決する為に剣を持たせようとしたんだとしたら。


『魔術だけじゃない、剣の道もある』と、

アイリに可能性を見せようとしていたのだとしたら。


あの時、

アイリを本当に『子供』として見て正しく対応したのは、

俺とあのオーガ、どっちだったんだろうか。


ジャッカスはそれを考えながら、

やや胸がムカムカする気持ちになり、

酒でも飲みたい気持ちになった。


くそぉ、ヴラズとピーグ、バズラが来たら、

今夜は寝るまで飲みに付き合わせてやる。


そんな八つ当たり気味の気持ちを、

ジャッカスは抱えて一日目の祭りを終えようとしていたのだった。





*





「アイリ、眠れないの?」


「……うん、少しだけ」



外は夜の祭りで賑わう声が少しだけ聞こえるが、

リエラの家は各々が寝静まり、

とても静かな時が流れている。


その中でも子供達はまだ目を開けていた。

子供部屋に敷かれた綿の布団は、

フカフカして気持ち良い感触を与えてくれていた。


それにアイリの目の前には、

リエラが背中を向けて一緒に居るので、

尻尾をモフモフさせてくれている。


湯船から上がって乾かして髪や毛からは、

牛乳と油で作られた石鹸の良い香りをさせていた。


ヴェルズ村にもちゃんとお風呂があり、

汲んだ水を一度沸騰させて陶器のお風呂に入れ、

セヴィアさんが水の魔術と火の魔術で上手く調整し、

暖かいお風呂を入れた。


終わった後の御湯はどうするのかを聞いたら、

陶器風呂の下に湯抜きの栓を外で抜くか、

庭にある花壇や畑に水をやる時に使うらしい。


村長様の家にいる時は、

いつの間にか村長様がお風呂を既に入れていたりして、

湯入れの作業を見ていなかったのと、

言葉や本の事で頭がいっぱいになって、

そちらで聞くタイミングが無かったのだ。


こういう話も、

自分が村やこの世界の仕組みを知っていく上では、

凄く大切だと思う。

けれど、それ以上に今の私には、

気になる事が出来てしまったのだ。


私は、その気になる言葉を口に出した。



「《――……》、か……」


「?アイリ、何言ってるの?」


「……ううん。なんでもないよ。そろそろちゃんと寝るね。おやすみなさい、リエラ君」


「うん。おやすみ、アイリ」



二人は目を閉じて、

リエラは寝息を立てて静かに眠った。


けれど、アイリの寝息は立っていない。





「《あー……、またやっちまったか……》」


なんで、フォウルさんが日本語を喋ってたの?


それがアイリには気になって、

仕方がなかったのだった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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