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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章一節:生誕祭一日目
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第009話 魔力と魔技


ヴェルズ村で生誕祭が行われる前日。


アイリを引き取ってから三日間、

ヴェルズはアイリが何を知りたいのかを聞きながら、

彼女が知りたいと思える知識を許す限り教えた。


その結果として、

やはりアイリは年齢以上の知識欲と、

類い稀なる才能を持っている事を、

ヴェルズはこの数日で確信した。


アイリはヴェルズの補助を受けて更に言葉を覚え、

たった三日で完全に魔族言語と魔族文字を覚えた。


それは彼女の知識面での成長具合から見れば、

然程驚くような物ではないのだと思う。


しかし、それ以上の知識を覚えようとする時に、

ヴェルズとアイリに差異があったとすれば、

この世界についての常識だった。


人間は知っていても、魔族は知らない。


それは、彼女の生い立ちを知らないヴェルズには、

想像し難い境遇かもしれない。


魔力マナ魔技マギ

魔族の根本である知識が明らかに欠落していたのだ。


人間大陸に居たらしいことや、

元々ある程度の知識を持っている事から想像すると、

アイリは彼女の親である魔族ではなく、

人間だけに知識を教えられていた可能性が非常に高い。


彼女の両親は少なくとも片親が魔族、

しかもエルフ族である事は身体的特徴を見ても間違いない。


両親はどうしているのかと聞いたが、

彼女には分からないそうだ。

記憶が無いのかと聞いてみると、

ここに来る前の記憶はちゃんと覚えているらしい。


ニホンという人間がいる国で暮らしていた。

そこで言葉を覚え、知識を教えられていた。


けれど家族の事を喋ろうとすると、

目を伏せて考え込み、何も喋らなくなってしまう。

何かあるのは確かなのだろうが、

まだ彼女アイリがここに来て日も経っていないのも確かだ。


いずれ彼女が心を開いてくれてから喋ってくれるだろうと、

ヴェルズは見守る事にした。





*





「……アイリ、あなたは算術もできるの?」


「はい。数字は私の知っている言語と魔族語の数字は同じだから、簡単な計算はできます」


「そうなの。……アイリ、これを少しやってみてくれない?」



渡された数枚の紙束を見て、

軽く教えられながら私は数字の計上を合わせていく。


書かれている数字は日本で学んでいた数字と同じ。

漢数字ではなく『1234567890』という、

前世でも一般的な数字表記だった。


なんで魔族文字での数字が無いのか聞いたけれど、

元々魔大陸に住む魔族には数字という概念が無かったらしい。


けれど2500年以上前に、

人間大陸から人間が魔大陸を侵すようになってから、

魔族達の間で人間の知恵を取り入れた、

数字の概念が生まれたそうだ。


そして約2000年前、

魔王ジュリアという人が魔大陸に数字を普及させた際には、

数字の文字が定着した人間文字の数字を、

そのまま使っているのだそうだ。


私はヴェルズさんに習って、

この魔大陸に関する知識を深めてきている。


この魔大陸でも通貨と呼ばれるお金があって、

銅・銀・金と言った鉱石で作られた貨幣で物を売買している。


人間大陸と魔大陸ではそもそもの物価や通貨価値は違うけれど、

このヴェルズ村でも村で仕事をしてくれる村人達に金銭を配分し、

更に村に入ってくる物品を数字で管理して、

情報を整えて村人達の生活を確保する。


ただ、基本的に自給自足が旨の魔族達には、

金銭は外部から来る商人達に渡すだけのモノらしい。


けれど外部からの品には住民達にも行き渡らせたい品もあり、

塩・砂糖などを含んだ香辛料はヴェルズ村で生産できない為、

それ等を公平に村人達に配分できる形を整える。

それが、ヴェルズさん……村長様の主な仕事らしい。


私は二日間で村長様の家で色々教えて貰い、

もうすぐお祭りがあると忙しそうにしている村長様に、

何か手伝える事がないかを聞いてみた結果、

こういう話になったのだ。



「これで大丈夫ですか?」


「……全部合ってるわ。ここまで数字の計算ができる大人もそんなに居ないのよ。凄いわ、アイリ」


「そんなことないです。あの、他に何か手伝えることは?」


「もうすぐ夕暮れも過ぎるわ。明日はお祭りがあるのだから、無理をせず休みなさい」


「でも……」



村長のヴェルズ様の家に来てから、

私は色んな事を教えてもらった。


この家には、お父さんやお兄ちゃんの部屋みたいに、

本棚いっぱいに本が並べられている部屋があって、

そこをヴェルズ様には自由に見て良いという許可を貰えた。


村長様が忙しそうな時には部屋で本を読んだり、

文字を書く練習をして言葉の発声練習をしながら過ごしていた。


時間がある時には、

村長様が一緒に本に書かれている事を教えてくれたり、

この世界の事や魔族の事について色々聞いた。





その中で気になった事は、

人間と魔族の大きな違い。

魔族には、人間には無い特殊な力というモノがあるらしい。


それが『魔力マナ』と呼ばれる身体的特徴と、

それを生かした『魔技マギ』という身体技術。


魔力マナ』とは、

魔大陸で生まれた魔族や魔物の体の中に流れる特殊な力。

魔族と呼ばれる人達や、

魔物と言う生物達には必ず宿っている力らしい。


それを行使して使う特殊な身体技術が存在する。

それが『魔技マギ』と呼ばれる特殊な技術。

技術と言っても、それは身体技術の応用で行えるものらしい。


そして魔技は『身体』に作用する技術であり、

体の外部に放出・形成する術を、

『魔術』と魔族達は呼ぶらしい。


例えば、ジスタさん・メイファさんが使っているのは、

内科と外科両方を兼ねて行われる医療系の魔術。


自分の魔力を使い相手の魔力を利用して、

相手の身体に出来た傷を塞いだり、

悪い部分を取り除いたりするそうだ。


実際にジスタさんのそれを見ているので、

初めて見た時は驚いたのだ。

ジスタさんが相手の患部に指を重ねたと思ったら、

そこが緑色に柔らかく光り、

怪我をした人の傷口が数瞬で塞がった。


傷の細胞を治す魔力はあくまで相手の魔力を使い、

医療魔術を掛けるジスタさんは、

魔術を掛けた相手の細胞を活性化させ、

自分の魔力で回復を促すだけなのだそうだ。


魔術は呪文を唱えたりする必要は無いけれど、

人間には魔術とは異なる方法で扱える、

精霊技スキル』というモノが存在するらしい。


ただ精霊技は逆に魔族が扱えず、

人間だけに扱える術なのだそうだ。

その原理も魔大陸の魔族達には理解できないらしい。

逆に魔技や魔術の形態も、

人間側には理解が及ばない原理で行うそうだ。


自分自身に医療魔術を使えないのかと聞いてみたら、

ちゃんと使えるらしい。


ただその場合、

傷を治す魔力と細胞を活性化させ促す魔力を同時に使用して、

魔力の減りが凄く大きいものになってしまう。

つまり、相手や自分の魔力がどちらか片方でも少ないまま、

医療魔術を使っても、効果が発揮されないのだ。



この時に知る由も無かったが、

私がこの街で瀕死だった時には魔力はほぼ無かった。


数字で表すなら、

通常の魔族の魔力の量が100%の状態が普通だとすると、

私のあの時の魔力は1%にも満たない状態だったらしい。

そこで医療魔術を施すなら、

怪我の状態にも因るが少なくとも私が助かるには、

私の魔力マナが30~50%は必要だったらしいのだ。


明らかに、あの時には足りていない。


体力も魔力もほぼ無しの状態で、

更に栄養不足だったり蹴られたりで怪我も酷く、

まさに瀕死だったということだ。


他にも身体を強化する魔術もあるらしいけど、

村長様はあまりそういう事が得意じゃないから、

見せられないらしい。


代わりに簡単な医療魔術を教えてもらった。





結果だけ言うと、

私は医療魔術を使えなかった。


魔族は生まれながらにして、

それぞれの種族に合った魔技というものを使えるらしい。


ジャッカスさんみたいなゴブリン族という魔族は、

やや人間より小柄な体躯ながらも、

過酷な環境で生き残る為の『勘』が鋭いそうだ。


それが鍛えられていくと、

事前に危機から離脱する事もできるという。

いわゆる『危険予知』が他より数段早くできるらしい。


ジャッカスさんが私を魔物と間違えた時、

違う部分で勘が働いたからこそ、

私を魔物ではないと分かってくれたのだと、

後日の私は理解する事ができた。


そういう身体系の魔技は生まれながらのもので、

後天的に覚えるのは相当の鍛錬を続けないと難しいらしい。


でも医療魔術や攻撃魔術は別で、

他種族でも原理を理解できればちゃんと覚えられるそうだ。


ジスタさんやメイファさんが、

医療魔術を覚えられたのは長い習練の賜物だから、

私が昨日今日でできるはずもない。





*





と、いう理由で私が医療魔術を使えないという理由だったら、

どれほど悩まなくて良かっただろう。


今の私はエルフ族という種族らしい。

エルフ族は特性としては、

まさにこの医療魔術が得意だったのだ。


コツさえ掴めば子供でも、

切り傷程度なら簡単に少量の魔力で、

あっさり治してしまえるのだという。


それなのに私は、それを使えない。

使えないというより私の場合は、

まず『魔力マナ』というものを理解し感じる事ができない。


村長様にそれを聞いても、

「体の中に流れている力を感じない?」と言われて、

一生懸命感じようとしても何も感じない。


村長様を真似て手を前に出して、

手のひらを開いたり閉じたりしても、

何も感じないし何も出ない。


魔力を感じない魔族という例が無いか、

村長様が調べてくれたけれど、

そんな症例は少なくとも調べた限りでは無いらしい。


気にしなくてもいいと村長様は言ってくれているけど、

私は気にして今でもベットの中で眠くなるまで魔力を感じるように、

小さく唸りながら試行錯誤していた。


しかし、この二日間頑張ってもやはり魔力なんて感じない。


ヴェルズ様がやると、

手のひらに緑色の綺麗な光の渦のようなものが、

出来上がるのが見えはするのだ。


けれど、私の手のひらには何も出来ない。

勉強をできて褒められても、

これができない方が悔しい。


そもそも勉強なんて、

幼稚園や小学校に通っていた時には、

全部テストなどでは100点を取っていた。


家族や先生にそれを見せても、

褒めてくれた記憶はあまりない。

けれど他の事で可愛がってくれていた記憶はあるので、

多分これくらいはできるのは、

私がいた世界では普通だった。


この世界ではきっと、

魔族が魔力を感じて魔術を使えるのは普通の事なんだ。

それができない方がずっと悔しかった。



「アイリ、まだ魔術が使えない事を気にしているの?」


「……はい」


「気にするな、とは言わないわ。でもあなたはその年で、他の者達ができない速さで物事を覚えているのよ。魔術まで急いで覚える必要はまだ無いわ。月日が経って大きくなれば、自然と魔力を感じ始めて、魔技や魔術も覚えていくかもしれないのだから」


「でも……」


「……アイリ、あなたは何故そこまで知識を欲しがり、そして力を得たいのかは聞くつもりは無いの」


「えっ……」



村長様の言葉で、

私は図星を突かれた事に一瞬動揺してしまう。


記憶に残る前世の記憶が、

今の私に焦りを生んでいるのは間違いない。

そしてそれが悔しさに繋がっている事も否定できない。



「でも、これだけは覚えておいて。知識や力は持ち過ぎると、争いを生みやすい。特に幼いあなたが持つには、知識も力も危険過ぎる。いずれ成長して、この街で……この街の外であなた自身が生きるつもりがあるのなら、それを忘れないで。いいわね?」


「……はい」



優しい口調だけれど、

これは注意されているんだとアイリは理解した。


前世の私は幼い歳で周りが不幸になり、

そして何もできずに周りに流されるままに人生を終えた。

だから小さな頃から私は何かできれば、

何かが起こっても出来る事があるんじゃないかと思った。


特に魔術というモノを知ってから、

その思いは更に強くなった。


もし私が魔術を使えれば。

傷を癒したり、攻撃できたり。

それで誰かを守れるようになれば。

そうすれば前世のような結末は絶対に訪れないと、

淡い期待と希望を抱いていたのだ。


でも、村長様は私がそうするのを、

あまり望んでいないというのは、

今の私には理解できた。


教えて欲しい事は聞けば教えてくれるけれど、

本当は重要な部分を教えてくれていないのも、

なんとなく理解できていた。

それはきっと、私が知り過ぎる事を防いでいるんだ。


それを理解はできても、納得はできない。

納得できないだけでちゃんと理解はしている。


村長様にとっては、私は見ず知らずの子供で、

力や知識を学ばせた結果に信頼も信用もできない。

そして私が子供だから面倒見てくれている事も分かっているつもりだ。


でも私は前世の私の記憶を持っている。

そして、力も知識も持たなかった結果を、私は知っている。


だから理解はできても納得しない。

これは誰の口癖だっただろう。

いつも聞いていた記憶がある。


そうだ、お兄ちゃんだ。

お兄ちゃんは私よりずっと歳が離れていて、

難しい事をよく言っていたのを覚えている。


部屋には漫画の本と一緒に、

凄い数の文字ばかりの本や歴史の本もいっぱい置いてあった。

私が勝手に部屋に入って本を読んでいると、

本を散乱させて散らかしていた私を怒ったけれど、

ちゃんと綺麗にしたまま読んでいたら、

何も言わずに机のパソコンやテレビを見て何か書いたりしていた。


お姉ちゃんがお兄ちゃんの事を『オタク』と呼んでいたけれど、

そういう人の事をオタクと呼ぶのかな。

でもこの世界だとオタクという言葉自体、

通じそうにないから使わないだろうけど。





*





結局、私はその日に寝床に就いた。

寝る前に魔力を感じる訓練のようなモノをしたけれど、

やっぱり何も感じなかった。



「私には、魔術を扱う才能が無いのかな……」



まだ慣れない魔族語ではなく、

日本語で私は呟いて自分の手のひらを見つめる。


魔族語はゆっくり喋ってもらえれば、

長い言葉でもちゃんと聞き取れるようになった。

でも、まだ長く喋り続けたりするのは苦手だった。

短い受け応えでなんとか意思疎通できているというのが現実だ。


まだ私が診療所で起きてから一週間。


一週間で知らない言語の一つを完全に文字では書けるようになり、

言葉を理解して喋り聞けるようになった。

村長様の言う通り、

それだけでも十分凄いんだと思う。


でもやっぱり、

私はもっと頑張らないといけない。


私を助けてくれたジャッカスさん達や、

そして姿・形は違うけれど、

この街に住む優しそうな人達に恩返しがしたいから。


そして、今度は守られるだけじゃなくて、

守れるようになりたい。

目の前で起こる理不尽に勝てるだけの強い力が欲しい。

私は見ていた手のひらをギュッと強く握り締めて、

目を閉じて今度こそ眠りに就く。





明日からはお祭りで、

村長様は凄く忙しいらしい。

お祭りは一週間続いて、

それが終わると後片付けでも忙しくなるそうだ。


私はお祭りで何もできないけど、

後片付けだけでも手伝えるように、

心構えと準備をしておこうと思う。


そういえば明日は、

ジャッカスさんがお祭りに遊びに連れて行ってくれる。


ジスタさんもメイファさんも、

お祭りの最中に何かあれば、

すぐ駆けつけられるように診療所に待機しているから、

ジャッカスさんという人選になったそうだ。


忙しいんじゃないかと思って遠慮したけど、

「屋台は昼から開くから午前中は遊べるぜ」と言って、

村長様にも行ってくるように言われて行く事になっている。


実は村長様の家に来てからずっと閉じ篭って、

本と紙を睨めっこしていた私を見て、

ジャッカスさん達が「もっと子供らしく遊ばせましょう」と、

提案したのだと、後で村長様に聞いた。


本当は同年代の魔族の子達と、

遊ばせたほうが良いとも言われたけれど、

急に知らない魔族の子供達と遊ぶよう言われても、

やはり躊躇してしまう。


その部分は村長様も感じていたようで、

お祭りが終わってから、

そういう事は考えようということで保留となっている。





――そして次の日、ヴェルズ村の生誕祭が訪れた。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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