Order 1 甘い言葉を囁け
作者の腕が拙い故にちょいちょい改稿しますが許してくださいm(._.)m
「王様だ~れだ?」
そう言うとクラスの中のいわゆるクール系男子、若杉俊也くんが手を挙げる。
「お前何回目だよ~」
そう言って周りの友達が茶化す。これで4回目。まだ私は一度も王様になったことがないのに。
「で、命令は?」
クラスメイトの誰かが言った。しばらく考えて、
「……じゃあ4番に13番が甘い言葉を囁く、で」
とボソッと呟くと、教室が笑いに包まれる。
「みんなの前で?そりゃ恥ずかしいわ~」
「ってか甘い言葉ってなんだよ」
「もちろん物理的に甘いのはナシな」
「耳元でショートケーキとか囁かれてもこまるわ」
「で、4番と13番誰ー?」
改めて自分の持っている紙に書かれてある番号を見る。4と書かれた数字は何度見ても変わらない。まさか自分が当たることになるとは。
黙ってたらスルーしてくれないかな。
「あれ、いないの~?おかしいな、抜けてる数字はないはずなんだけど」
「みんなで番号言っていく?」
「はい!13番、俺です」
進行役の女子たちの声に逃れられないと思ったのか、ある男の子が手を挙げる。
「啓介が甘い言葉とか」
「似合わねえー!」
「んだよ~もう」
仕方ないじゃん、とふてくされたような声で答える啓介と呼ばれた男の子は海沼啓介くん。身長が小さいながらもそのふにゃっとした笑顔のかわいさなどから一部では非公式ファンクラブが作られるほどの人気を誇る。
かくいう私ーー松田梨乃もファンなのだが。
「4番は~?」
マズイ。大変マズイ。
非公式ファンクラブの中には様々な人がいて、私はまだ浅い方だと思うけど、信仰度の高い人の中には過激派もいる。ここで手を挙げると信仰度の高いファンの人にとても恨まれそうだ。しかし、手を挙げないのも海沼くんに失礼だし、私がその、甘い言葉を囁かれるのが嫌だと思われたくない。ファンからもそして海沼くんからも嫌われたくない。
「梨乃さんは違う?」
私に疑いの目が向けられた。観念するしかないのか、
「はい……4番です……」
私はようやく手を挙げた。おおっ、と歓声があがり、期待の眼差しがこちらに向けられる。
「いや、無理無理!海沼くんに私じゃつりあわないって!」
全力でかぶりをふる。なんとか命令を変えてもらうか、別の番号の人にしてもらいたいなーオーラを出す。
「で、具体的に甘い言葉ってなんなの?」
「ググる?」
「ググろう」
「おーい、聞こえてますかー?」
時すでに遅し。進行役の二人の間では、もう私と海沼くんの「甘い囁き」で話が進んでいるようだ。
「いや、私が海沼くんと、とかファンの人に申し訳ないんだけど」
どうにかならない?と暗にカメラ役の細渕知抄ちゃんにいう。
「いや、梨乃さんなら大丈夫だって」
知抄ちゃんは私が海沼くんのファンであることを知る数少ないノーマルな人の一人。私は彼女をその優しさと包みこむような愛から私は時々彼女を「聖母」と呼んでいる。入学して3ヶ月くらいたった頃に厳選された写真を見せてあげたっけ。すごい意外そうな顔で見られたな~、じゃなくて!
「いや、大丈夫じゃないって!こんなのバレたら、アキちゃんに殺されるって!」
アキちゃんーー平原明奈ちゃんというのは私をファンに引きずりこんだ張本人であり、海沼くんファンの中で最も高い信仰度を誇る女の子。
「大丈夫、今部活中でいないし」
アキちゃんは吹奏楽部に所属していて、修了式が終わった後のこの時間も部活で教室にいない。
「いや、でも写真とか出回るし、」
「大丈夫、スマホで動画だけ撮るけどクラスライソにはあげないから」
ライソというのは無料対話アプリの名称。私たちはクラスでグループを作って写真をこの王様ゲームの写真を何枚も送っていた。
「それに、そんな笑顔でいやとか言われても説得力ないし。」
と、知抄ちゃんがニヤニヤしながら言う。どうやら顔に出てしまっていたらしい。
だって海沼くんから甘い言葉とかファンの私からしたらご褒美オブご褒美ですよ!
でもファンの人が怖すぎる!
私は
「やりたくても心から喜んでできないの~!やっぱり無理!」
と知抄ちゃんに向かって叫んだ。
知抄ちゃんが私の肩をぽん、と叩いてしみじみと
「梨乃さん、素直に欲望に従いな。ファンの人なら大丈夫、王様ゲームだから。もし恨むとしても王様を恨むさ」
恨むどころか梨乃さんの立場を自分に置き換えて、悶えそうだけどね、と付け加える。
「はい、そろそろやるよー!もう五分もたってるじゃん」
「梨乃さん早くー!こっちはスタンバイ完了だよー」
「はい、梨乃さん、行ってきな、」
海沼くんはもう舞台ーーという名の教壇にスタンバイさせられている。
「いや、でも」
「でもじゃない!ほら!」
ぐいぐいと教壇まで背中を押される。その細い体格の割に力強すぎやしませんか?知抄ちゃん?私全体重背中側にかけてるつもりなのに、
「知抄ちゃんは聖母じゃないの⁉」
「今この瞬間のためなら私は悪魔にもなれる!」
ちょっと知抄ちゃん⁉
あっという間に教壇まで押し出された。
うわ、恥ずかしい、こんな人の前で。
緊張してうまく海沼くんの顔が見れない。
「ほら、早く言えよ~」
「ちょっと待って、まだ心の準備が、」
「カメラ準備OKでーす」
やっぱり海沼くんも恥ずかしいらしい。耳まで真っ赤だ。つられて私の顔も熱くなる。
「うわ、もぉー!」
今になって恥ずかしさが増したらしい。海沼くんが吠える。
私も恥ずかしくなって知抄ちゃんに目で助けを求めるけど、完全にスマホで動画を撮るのに夢中、というかガン無視だ。
「一分経過ー」
動画を撮っている知抄ちゃんからそんな声があがった。
なんだかんだで一分もたっていたらしい。
「ちょっと待って、」
まあそんなに早く言えるような海沼くんじゃないんだけど。私の知ってる海沼くんはなんというか弟みたいな感じで、どっちかというとかわいい系。甘い言葉をサラッと言えるかっこいい系ではない。
相変わらずうわーとか、あーとか言葉をうまく紡げていない。
ちょっとでも恥ずかしさを緩和できればいいんだけど……
そう考えるもなかなかいい案が浮かばない。カメラ役の知抄ちゃんにシッシッとしてみるも全く動じない。……あなたは本当に知抄ちゃんですか?
「ほら、早く」
「あーもう!い、い、い、い、言うよ!」
おー!と歓声があがった。やっとか、とみんなが口々に言う。頑張れー!と誰かが言った。
ああ、私が好きな海沼くんは子供っぽく、弟っぽくって、みんなに応援されている、みんなに愛されている、みんなの海沼くんなんだ。やっぱり無理にでも役を降りるべきだったな。ちょっと後悔の念がよぎる。
「じゃあ、言います、」
そう言えば結局何の言葉になったんだっけ?
海沼くんがすっと耳に近寄ってくる。そして
「ーーーーーー、ーーーーーーーーーーーーー」
と、私だけに聞こえる声で囁いた。
一瞬何が起きたか、さっぱりわからなかった。いや、わかってはいるのだ、海沼くんが囁いたことくらい。しかし私の思考は
「あー!もう!恥ずかしい!」
という真っ赤な海沼くんの大音声を近くで聞くまでフリーズしていた。すぐに私は笑みを取り繕ったけど、うまく笑えているか、変にニヤニヤしていないか、少し不安だった。
あの言葉は用意されたセリフと言えど、海沼くんが私だけに向けた言葉で、しかも私にだけ聞こえるような大きさで、声変わりしたのに他の男子に比べたら高い声で甘い言葉とか絶対似合わないと思ってたのに、耳元で囁かれるといつもより低く感じて、
他のファンの人には申し訳ないけど、独り占めしたくなる声だった。
しかもあのセリフ!好き合ってる前提のシチュエーションじゃないですかあ⁉誰が選んだの⁉グッジョブだよ‼
とか心の中で思ううちにやっぱり顔に出ていたらしい。知抄ちゃんにほっぺたをつんつんされた。
「また動画送ってあげるね、梨乃さん!」
にひーと笑って言ってくれる彼女に恨みながらも少し感謝した。
その日の夜
ピロン、とライソの通知音がなった。
ライソを開いてみると知抄ちゃんからメッセージが。
『約束通り動画送るねー!残念ながら肝心の囁きボイスが入ってないから想像で楽しんでね!』
動画は二分くらいあって肝心の囁きシーンはわずか数十秒ほど。我ながらこんなにモタモタしていたのか、と呆れてくる。
顔を真っ赤にしながらあたふたしたり私に囁いている動画の中の海沼くんを見て思わず顔が綻んだ。
やっぱり好きだなぁ、この感じ。
男らしくない、頼りない、と一部のファンじゃない人は言うけど、私はそうは思わない。きっと男らしさや頼れるところの上にふにゃっとした柔らかい笑顔とか、おっとりした雰囲気が覆いかぶさってその人たちには見えないだけなんだ。もしかしたら本人にも。今日私は改めてそう思った。今はまだこの距離感を崩す気はないし、海沼くんを独り占めしようなんてそんな大それたことをしようとも思わないけど、もっと私の知らない海沼くんを知れたらいいな、なんて。
『ありがとー!知抄ちゃんマジ神‼』
と送るとすぐさま
『……ついでに海沼くん関連の他の命令の時の写真とか、隠し撮り写真とか、いります?』
と返ってきた。私はその申し出に驚きながらも(知抄ちゃん、隠し撮りするようなキャラだったっけ?)即座に
『いります!』
と打ち込んだ。
そして数分後に何十枚かの海沼くん関連の画像が送られてきた。私はその中からいい写真のみを自分のスマホに落としていく。するとまた通知音が今度は二回鳴った。
『そういえば海沼くんの囁き声の内容ってなんだったの?』
『私の位置からは聞こえなかったし、動画にも入ってなくて、』
海沼くんの囁き声は割と小さかったから、知抄ちゃんには聞こえてなかったんだ。
私は照れながら囁く海沼くんを思いだして微笑みながら答えを打ち込んだ。
『「いつ頃かな、君を意識し始めたのは」、です!』
この話は作者が実際にやった王様ゲームからきています(ほとんど命令だけですが)。ちなみに作者はスマホのカメラで撮影する部隊でした(知抄ちゃんの役とは言ってない)。この命令のこの萌え(?)をどこにぶつければいいのか⁉ということになりここに至りました。すみません、ただの自己満足です……
私が感じた萌え(以後萌えと呼ぶことにしますこの胸の高鳴りを。なんかいい呼称があったらください)を作者の拙い腕ではそのまま読者の方々にお伝えすることはできませんが、読者の皆さんからのアドバイスなどを元にもっと高品質で現実に近い萌えを皆さまにお届けできたらいいな、と思っております。
次回作以降はまだ未定です。とりあえず書けたらanother story書こうと思ってます。(男子目線など)
次回もよろしくお願いします