オリジナル魔法作れるかな
翌日、魔法陣はまだ光っていた。
まあ別に害はないだろうから放置だ。
朝食の後、ユイと二人で庭でストレッチをしていた。
今日はアスラはお仕事でいない。アスラもララも不在の時も、剣術の稽古はする。
ユイと決めたマイルールだからだ。
でも、今日の稽古はアスラがいなくて丁度良かったかもしれない。同じ素振りでも、アスラと対峙しているのを想像しながらできるからだ。
今までと同じ振りではアスラには掠りもしない。だからもっと速く。もっと鋭く。
型の練習もアスラと対峙したときを想像して少しでも速く。もっと速く。もっと鋭く。
そんな風に意識しながらしているといつの間にかお昼になっていた。
昼食後、今朝の訓練ではアスラを想定してやっていたのでユイと作戦会議だ。
「正直、魔法を使ったとしてもアスラに勝てるイメージが出てこないよね」
「仮にスタート位置で十分距離があったとしても【火球】とか普通によけて接近戦になりそうだし、ね」
「あのスピードに対抗できそうなのは【電撃】くらいだよなぁ」
「電気なら紙一重でよけられても電気の通りやすい剣に流れていきそうだけど」
「普段の模擬線だと金物とか身に着けてないよね。武器も木刀だし」
「じゃあ土魔法で砂鉄的なのを避けようがないくらい広範囲にばら撒くとか」
「それすると電撃エネルギーが分散されそうだよね」
「やっぱりベースとなる剣術レベルをもう少し上げてから考えようか」
「だね。じゃあそろそろ行こっか」
昔の偉い人は言った。
レベルを上げて物理で殴れ! と。
そういうことだろう。(ちょっと違う)
昼食を終えたら村はずれの一本杉までジョギングだ。
一本杉広場に辿り着くとライカが一本杉の根元ライカが座っている。
「「やあ、ライカ」」
「ケン、ユイ……」
こちらを向いたライカの顔には擦り傷があった。
よく見ると腕や足にも。
「どうしたの? それ」
「……ちょっと転んじゃって」
声のトーンが低い。っていうか、まずは治さなきゃ。
俺とユイがライカの左右からそれぞれ【小回復】を使う。
すぐに全身を治療できたが、しかしどうしたものか。明らかにちょっと転んだ程度のケガじゃないしなぁ。でもそれを隠してるってことは突っ込まれたくないんだろうな。
「もう痛くない?」
「うん、ありがと」
「元気ないね・・・どうしたの?」
まずは探りを入れてみるか。
「うん、大丈夫だよ」
うーん、思い当たるのは確かハーフエルフってことでいじめられてるとかなんとか。昨日聞いて今日さっそくそういうことってあるか?
力になりたいのに真正面から聞いても話してくれないなら、勝手に想像でアプローチしてみるか。
「今日はどうする?」
「うん、今日は二人がやってるのを見てるよ。どんなことをするの?」
「実はね、剣術で父さまに勝てなくってね。というか勝負にもならないんだよね」
「ケンとユイのお父様ってあのアスラ隊長でしょ?」
あら、父さまったら隊長だったの? 村の警備隊とは聞いていたがやり手だったのか。
確かにべらぼうに強いもんな。
「まあ勝てないにしてもひと泡吹かせてやりたいんだよね。だって一発も入れれないんだぜ?」
「何か考えがあるの?」
「ふふふ。基本的には魔法なしでなんとかしたいと思っていたんだけどね。大人と子供だし多少は
使ってもいいかなって。でも単純に初級魔法使っても避けられると思うんだよ」
「だから魔法っていうか、魔力を使って身体機能を強化とかできないかなって。」
俺の説明を引き継いでユイが話す。
「腕力を強化して普段より強い力で剣を振ったり、脚力を強化してすごい速さで動けるようになったり」
例えばいじめっ子にやり返したり、すごい勢いで逃げることもできると。
そこまではっきりは言わないけど。
「そ、そんなことができるの??」
さっきまで元気なかったのに、すごい食いついた感じの目をしてる。やはり予想通りだったかな?
「わっかんないけど、魔力って万能だからなんとかなるんじゃない?」
「魔力って普段から体に流れてるのはライカもわかるだろ?」
「うん、今までは当たり前すぎて気づかなかったけど昨日のあれからは感じ取れるようになった」
「じゃあその魔力で腕を振る瞬間、腕にある魔力を使って筋肉を増大させたりとか」
「脚力も足で蹴り出す瞬間、足の裏から魔力を押し出して足を速くうごかしてみたりとか」
「もしくは戦闘民族みたいに体中から力を噴き出して髪を逆立てて金色にしてみたりとか!」
「髪の色を変えたら強くなるの?」
「あ、ごめん。最後のはなんでもない」
しまった、前世のマンガがモトネタなんて言えない。
でもま、RPGだと攻撃力を上げる魔法とか防御力を上げる魔法とか素早さを上げる魔法とかあるしね。
「じゃあまずは、子供ならではの小さい体を生かして素早さを上げるのを目標にしてみようよ」
「そうだね」
じゃあ足を巡っている魔力をどんどん速くして、その密度も少しずつ増やしていってと。
その状態から魔力が筋肉と同化させるようなイメージをしつつ……こんなもんかな。
ユイも同じようにやってるぽい。
ちょっと走ってみよう。ユイと並んで準備して、頷きあった。
ダッ! ズシャーーーー!!!!
「え?」
顔から思いっきり突っ込んでこけた。
「いてててててて……」
「たぶん成功なんだけど、急に脚力が増しても感覚が追い付かなかった」
「ぷぷぷぷ! あははははは! 何泥まみれの顔で真面目なこといってんのー! あははは! しかも二人そろって、ぷぷぷ、変な顔ーーーー!!」」
「「……」」
くそう、まさかこんなに効果があるとは思わなかった。
とりあえず水魔法で水を出して顔を洗う。続いて擦り傷とかも出来てしまったので【小回復】で治す。
「そんなに笑うことないじゃないか。感覚がつかめないからライカもやってみろって!」
「でもさケン、足だけ強化してもなんだかバランス悪くない?」
うむ、確かにそう思っていた。
「どうせだから体全部を対象に魔力で強化してみようか」
「だね」
「でも、足だけ強化してライカがこけるのを見なくていい?」
「そんな意地悪しなくていいです!」
ありゃ、断られた。
「じゃあ、全体強化やってみようか」
さっきと違い体中を巡る魔力を少しずつ流れを速く、密度を徐々に上げる。そして筋肉だけじゃなく自分の体と同化するイメージで練り上げる。そして同化したら固定化する。
「できた、かな?」
よっし、動いてみよう。
ダッ!
すごい勢いで景色が流れる。
「おーーーーできたーーーー!」
でもすごい力に振り回される。
一度止まると、今度はけり出す足、着地する足にきちんと意識して踏ん張る。体重移動を確認しながら動いてみる。
タッッタッタッタッタッタ
「おお、安定したーー!」
一本杉を中心にぐるぐる走り回って見たけど、なかなかの出来だ。
アーマード筋肉スーツを初めて着たスパイのお兄さんが言ってた言葉を思い出した。
たしか、力がべらぼうに上がっても体重は同じなんだからしっかり足を踏ん張って反動を台地で受け止める!!!
マンガの知識も役立つじゃないか!
続いてシャドーボクシングの真似事。
シュ!シュシュシュ!
素晴らしい、拳の速度も上がってる! これならアスラと同等、いやそれよりも上の速度で動き回れる! しかも全然疲れない!
「わーーーすごいーーー」
「すごいじゃなくて、ライカもやってみ?」
先ほどのイメージを漠然とライカにも伝える。
しばらくするとライカは魔力に集中しはじめたのか、目を閉じてプルプルしはじめた。ナニコレ可愛い過ぎなんですけど。
邪魔しちゃ悪いのでそっとしておこう。
「ユイ、打ち合ってみようぜ」
「オッケー!」
俺たちはライトセーバーを作り出し強化状態で剣術模擬試合を始めた。
ガンッ!
と、一発目の打ち合いでライトセーバーが真っ二つに折れた。
「攻撃力もべらぼうに上がってるっぽいね。」
「どのくらいあがったのか試してみよう」
半分に折れたライトセーバーをいつも魔法の標的になってくれている岩に向けて思いっきり投げた。
ガンッ!という音を立てて岩に突き刺さるライトセーバー。
予想では、へこんでヒビが入るくらいだと思ったんだけど、突き刺さりおった!
これにはさすがにびっくりだ。
この世界で魔力による身体能力強化はヤバいレベルだ。というか、ちょっと調整したい。
一度固定化した練り上げた魔力を今度は解放する。そして今度は込める魔力量をずっと減らして同化させ、固定化する。
ピョーンピョーンという配管工のおじさんがジャンプしたときの音が脳内で再生されながら垂直ジャンプを繰り返して動きを確認する。
さっきまでとは比べ物にならないけど、普段の3倍はジャンプできる。
「込める魔力量によって強化度合も変えれるね」
「よし、今度は素手でやり合ってみよう」
「オッケー」
とはいえ、前世から含めても素手での殴り合いなんてほとんど経験ない。
丸見えの大きく振りかぶった右ストレートがくる、速い!
けどこっちもガードに動くスピードが速いので左ガード。
続いてこちらから右ストレート!
バレバレだったらしくあっさりガードされる。
いくら身体機能が強化されても技能レベルとか皆無な俺たちは雑魚でしかないことを思い知った。
戦い方はアスラに教わっていくこととして、ライカの様子をみる。
どうやら魔力を体に同化させることに成功したっぽく、丁度これから動き回ってみようとしているところだった。
ダッ!
ズコーーーー!
「ぎゃあああ」
「ちょ!ライカ!! 大丈夫??」
なんだろう、デジャブかな? ついさっき俺たちがやった光景そのままだった。
「走り出す感覚が変!!!」
「うん、だから大地を踏みしめるのを丁寧に、、、やってみ?」
【小回復】をかけてあげながら続きを促す。
「わかった・・・・」
今度はゆっくり歩きだした。そして競歩。
ジョギング
ランニング
と徐々に速度を上げていく。
しばらく走っているのをみて、そろそろ慣れて来たと思ったので、
「じゃあそろそろ全力で走ってみたらー?」
「え? もう全開だよーー!」
ふむ、普段の2~3倍程度の速さかな?
俺たちが最初にやった魔力量で10倍、2回目に調整したので5倍程度の速さになったので込める魔力量が違ったらしい。
3分ほど走っていただろうか、速度を落としながら戻ってきた
「はぁはぁ……もうだめだ」
「どうしたの?」
「もう体中から魔力が出てこなくなった」
ありゃ、魔力切れか。
確かエルフって人族よりも魔力高いんじゃなかったっけ。まぁ、産まれてからずっと魔力鍛錬してた俺たちとは違うのかな。
「そっか、じゃあライカの魔力だと3分位が限界なんだね」
「そうみたい」
「でもさ、この【身体能力強化】って使い始めるときにちょっと時間がかかるよね」
「魔力を肉体に同化させる時ね。どうせならもうちょっとスムーズにしたいよね」
「明日からはそのあたりを練習してみよう」
「じゃあキリもいいしそろそろ帰ろうか」
「さんせー!」
ということで俺たちは帰宅の途についた。
帰り道、3人で話したことは【身体能力強化】についてはまだ誰にも使わないってこと。
まだ完成とは言えない段階なので、満場一致だった。
つまり、俺たちはアスラとの模擬戦でまだ使わないということ。もっと技術的なものを教わりたいという気持ちが強かったからだ。そして技術を学び、【身体能力強化】も完成したらその時アスラに挑もう。
敢えてライカにも同意してもらったのは、いじめっ子に調整出来てない【身体能力強化】使ってやりすぎちゃったらいけないからだ。
意外と気が利くでしょ、俺たち。
いつも通り途中でライカと別れ帰宅した。
夕食を終えて部屋に入ると、昨日【照光】の魔法陣はいまだに光輝いていた。