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転生しちゃいました

 遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえる。


 だんだん近づいてくるような……



 ああ、そうか。


 俺が泣いているのか。



「あらあら、どうしたの〜?お腹がすいたのかなぁ?」


 心配して見に来たのはララ=アーノルド。自分の母親となった女性だ。




 そういえば転生したんだっけ……。


 いろいろ考えなきゃいけないのに……眠い。




 意識が遠のく……zzzz








 なんだか眩しい。


 ああ、寝てたのか。


 こんなに気持ちいい目覚めは何年振りだろうか。


 あれ?体が動かない?


 そうだった、転生して今は赤ん坊なんだっけ。


 しかしまぁ、赤ん坊ってすることないなぁ。



 寝よ。






 というわけで、転生した俺は赤ん坊になっていた。名前は、ケン=アーノルドだ。


 赤ん坊というのはお腹がすけば自動的に泣く。満たされれば泣き止む。うんちもおしっこも自動で出る。そして股間が気持ち悪くなると泣く。満たされれば泣き止むが、泣き疲れて寝ることもある。

そんな俺の赤ん坊生活がはじまった。



 とはいえ、特にすることもないし意識が覚醒している時間は短い。たまに父親のアスラ=アーノルドがやってきてこれでもかと言わんばかりの抱擁と髭ジョリジョリ攻撃を受けた。かわいいものをみるとやりたくなる気持ちも分かるよ。でもね、痛いの。



 目が見えるようになると、自分の隣にもう一人の赤ちゃんがいることに気が付いた。その赤ちゃんを見ていると、向こうもこちらを見ていた。

 なんとなくだが、もう一人の自分なんだという実感があった。後に、ユイ=アーノルドという自分の双子の姉だと知った。


 赤ん坊生活も慣れてくると、少しずつではあるが覚醒している時間が長くなってくる。その時に気づいたのは以前の世界では感じることがなかった感覚。



 魔力の存在。



 自分の中で血液のように流れる魔力を感じ取ることができた。それは意識すると自在に動かせた。

体も動かすことができない赤ん坊生活の中で、魔力を動かすことだけは自由にできたので、心臓からスタートしてお腹、右足、左足またお腹に戻ってきて右手、左手、そして頭部、そして左右の手に。

自由に動かせる魔力を均等に左右の手に持っていき、そこから体外へ同時に射出してみる。


 すると、左右の手から射出された魔力同士がぶつかって、粉々にくだけちる。見えるわけではないけども、感覚でしっかりそれが分かった。


 ふと隣をみるともう一人の自分ことユイも同じことをしていた。


 魔力の射出を何度かすると必ず疲れて寝てしまった。MPが切れるという状態らしい。それでも毎日繰り返していたら射出できる回数も増えた。また、右手から射出した塊を左手で受け止めて体内の流れに戻すこともできた。



 ハイハイができるようになると、ユイに向けて射出、ユイが受け止めるという遊びもできるようになった。これが結構はまってしまい、攻守を交代しながらぶつけ合っていた。さすがにユイはもう一人の自分だけあって息はぴったりだ。

 魔力は目で見えないのでただ向かい合ってアバババ言っているだけにしか見えない。


 とりあえず魔力を使い切れば翌日には回復、成長していることが分かったので日課にした。




 よちよちながらも歩くことが出来る様になると家の中を動き回るようになったのは、俺の好奇心による結果だ。


 この家、アーノルド家は4LDK庭付き一戸建てだ。子供部屋として2階の一室が割り当てられている。

体のサイズ的に階段を下りるのが難しいの上に、扉を開けることもできないので、ララが用意してくれた絵本を見たりした。


 文字は……読めない。さすがに日本語で書かれている訳はないか。ただ、流石に赤ん坊の成長は早い。絵本に書かれている文字はどんどん習得した。


 ララとアスラの寝室も同じ2階にあったのだが、たまに扉が開いたままになっていることがありその時にはよく忍び込んだ。俺が行くと必ずユイも一緒だった。


 目的は寝室にある本棚。


 さすがに絵本だけですべての文字を習得はできないため本棚の本を適当に読み漁っていった。大体の文字は習得したが、実際に書けと言われるとできない。書き順とかそいうのはサッパリだ。


 まぁ、パソコンやスマホに頼りまくっていた前世においても、読めるけど書けない文字っていっぱいあったなぁ。薔薇とかだけじゃなく、新潟とかですら(笑)


 今笑った人は全員47都道府県を何も見ずに漢字で書いてください。そして一つでも書けなかったら笑ったことを反省して感想欄に……、何でもない(反省)




 さらにしばらくすると、言葉もある程度発声することができるようになった。


 アスラと言おうとして、アシュラと発声してしまうのはご愛敬だ。俺の親父は三面六臂の戦いの神様だっただろうか。いや、さえない元冒険家のおっちゃんだ。


 言葉が話せるようになったということはもう一人の自分である感覚のユイと話してみた。

聞きたいことはもちろん

「ねぇ、覚えてる?」


「覚えてるよ」


「なんで二人になったんだろ?」


「なんでだろうね」


日本語でのやりとり。


 流石自分だ。わからないことも一緒とは。ただ、やはり自分が二人に分かれて転生してしまったことは間違いないようだ。




 ところで、この世界ではお風呂という概念がない。まぁ、貴族とかになれば違うのかもしれないが、少なくともアーノルド家にはお風呂はない。そのため、ユイの裸を見る機会なんてなかった。

 お風呂の代わりにお湯で濡らした布で体を拭く。その日も、ララがユイと俺を素っ裸にして体を拭いてくれていた。今まで気にもしなかったのだが、、、ユイの股間に無いのだ。ポークビッツが。




 んなあほな。




 前世から転生して俺にはあるポークビッツ。

 でもユイにはない。

 その夜、二人だけになったとき改めてユイに聞いた。日本語で。


「ユイ、女に転生したの?」


「え?何言ってるの?そんな訳ないじゃ・・・・あれ?」

 自分の股間をごそごそしてるユイ。


「・・・・ない。  なんで?」


 聞いて初めてユイもそのことに気が付いたらしい。


「いや、なんで?はこっちが言いたいわ。てか気づかなかったのか?」


「まったく。だって赤ん坊なんて、シモの処理は全自動でおむつとララがしてくれるからね」


「ララが聞いたら激怒しそうだな(笑)」


「転生したら女でした・・・って、今更女っぽくとかできねーよ?どうしよう。。。」


「まぁ今だって子供っぽくとか出来てるか怪しいところだし何とかなるんじゃね?」


「俺のことだから将来めっちゃイイ女になっちまうじゃねぇか。。。」

前世から引き継いだ、なんとなくなんとかなるだろう精神丸出しだけど、どうしようもないし。


 前世は同一人物、この世界で産まれたのも一緒。産まれてからの生活も一緒。でも俺とユイはまったく同じ存在ではなかったらしい。


 主に性別が。


 よく考えたらユイって女的な名前ぽいもんなぁ。






 3歳になるころには、アスラと言おうとしてアシュラと言ってしまうこともなくなってきた。そしてずっと気になっていたことを試す時がきたのだ。


 料理をするときなどララが土間にある台所で魔法を使うのをみていた。たしか詠唱しながら手の先から火を出していた。


ユイと二人で庭の隅にやってきてレンガに向けて


「火精よ、我が力となれ!【火球!(ファイアーボール)】」


 唱えた瞬間、体内を流れる魔力が移動を開始、手の先に集まってそして火の玉が出来上がった。拳より一回り大きい程度のサイズ。いつもの魔力を発射する感覚で力を込めるとレンガに向けて飛び出していった。

 ユイと二人分の火の玉がレンガに命中、2分ほど燃えそして消えていった。


 いつもの魔力を射出と違うのは、手の先から魔力が出る瞬間に魔力が火へと変換されたことだ。今度は魔力を照射するときに火に変換するイメージでやってみよう。となりのユイを見ると同じ事を考えたらしい。


 頷きあって試す。


 体内に魔力を巡らせ少しずつ魔力量を増やし手に集めて、火をイメージしつつ変換。


 お、できた。


 ユイもできてる。


 射出する前にもう少し魔力量を増やしてみると手の先にできる火の玉が大きくなった。


 この状態で射出!


 レンガに命中した二つの火の玉はその場で炎となって燃えた。


 燃えてる。

 

 燃えてる……


 まだ燃えてる……

 


 えっと、10分ほどしたけどまだ燃えてる。


 どうしよう……



 これって、魔力を体外へ出すときに水をイメージしたら水の玉がだせるのでは??

 ユイと頷きあうと、魔力を手の先から出すタイミングで水の玉をイメージ。


 それっ~と。


 お、できた。


 魔力って万能じゃね??


 ってそれはおいといて、消火しきれなかったらいけないからちょっと多めに魔力を込めてと。


 射出!


 レンガに命中・・・消火完了!


 ってよく見ると、燃えて煤がついて黒くなったレンガに水の玉が命中したところがひび割れていた。


 うーーん、、、込める魔力量が多すぎたかな?


 これはどの程度魔力を込めると威力がどうなるのか検証が必要だ。


 ガタン!


「ちょ……あなたたち……今、魔法……」


 背後の音に驚いて後ろをみるとそこにはララが持っていたであろう桶を落としてこちらを見ていた。


 あちゃー、見つかったか。

 見られないように庭の片隅まで来たのに。といってもあれだけずっと火が出てたら気付きもするか。


「あなたたち、今魔法使ったの???」


「うん、母さまが使ってるのを見てたから」


 精一杯の言い訳だ。


「見てたって……料理してるとき?」


「そうだよ、だから真似してみたの」


さりげに子供っぽさもアピール。我ながら完璧な子供なので許してオーラ!


「アスラー! ちょっと来てー!」


ララは仲間を呼んだ!

アスラがあらわれた!


「さ、あなたたち。もう一度やってみせて!」


 なぜか得意気なララ。

 一方何が何やら分からないまま呼び出されたアスラは何も言わず様子を見ている。


 隣のユイと視線を合わせ、頷きあう。


「火精よ、我が力となれ!【火球(ファイアーボール)】」


 レンガに向けて火の玉が飛んでいき、命中した。もちろん今回は魔力を無駄に詰め込んだりしない。むしろ少なめに意識した。


「うちの子は天才だ!!!」


 振り返るとアスラとララが手を取り合って喜んでいた。詠唱しなくても出来たんだけど、なんとなく気が引けて詠唱した。しかし、ここまで喜んでくれるとなると嬉しいじゃない。


「水の魔法も使えるよ?」


 今度はレンガに向けて魔力を集中、水をイメージして射出!水の玉がレンガに命中した。


「え……」


 さっきまではしゃぐように喜んでいたアスラとララが言葉を失った。


 あれ?


 火だけじゃなくて水魔法まで使えるうちの子は天才だ!とかって喜ばないの?



「詠唱もしないで魔法……なんで……」


 もしかして無詠唱の魔法ってこの世界では常識外だったのか?いやいや、詠唱して自動で流れる魔力をマニュアルで動かすだけよ?できるでしょ?あれ?できないの??


 後ほど知ったが、この世界で魔法を無詠唱で使えるのは精霊とかエルフとか魔族とか、魔力の高い存在のうち一部に限られるそうだ。そんな事とは知らず両親の意外な反応に戸惑ってしまった。やらかしちゃった空気をこの世界でも感じるハメになるとは。。


「二人とも、おうちに入りなさい」

 そしてはじまった家族会議。



 家族会議って前世ではあまりいい思い出ないんだよなぁ。


「魔法をどうやって覚えたんだ?」

 ひどく真面目な顔でアスラが優しく聞いてきた。


「母さまが料理するときに使っているのを見て真似てみました」

 ユイと二人の意見を代表して答える。


「ララは詠唱して魔法を使っていたはずだよ?」


「最初はそのまま真似したんだけど、やり方が分かったからあとは簡単だったよ?」


「そ、そうか。やはりうちの子は天才……じゃなくて。3歳にして魔法を覚えるのは少し早いんだよなぁ。まぁ、仕方がない」

 アスラは一度区切るとララと目を合わせて頷く。


「いいか、魔法を人に向けて使ってはダメだよ。他にも気を付けないといけないことがたくさんあるんだ。それは今後ララと一緒に二人に教えていくからね」


 というわけで、翌日から午前中はアスラかララによる魔法指導の時間となった。


アスラは元冒険者だけあって、

火の初級魔法・・・【火球(ファイアーボール)】と【火壁(ファイアーウォール)

水の初級魔法・・・【水球(ウォーターボール)】と【水壁(ウォーターウォール)

風の初級魔法・・・【風球(ウインドボール)】と【風壁(ウインドウォール)

土の初級魔法・・・【土球(アースボール)】と【土壁(アースウォール)

を教えてくれた。


 お手本としてアスラが使い、それを見る。一度見ると魔力の使い方をイメージしやすいのですぐに覚えることができた。火と水を使えた以上、風と土はイメージ対象が変わるだけで他は一緒だ。


ララは

光の初級魔法・・・【小回復(ヒール)】と【解毒(アンチポイズン)

闇の初級魔法・・・【認識疎外(ミラージュ)

を教えてくれた。


火球(ファイアーボール)】とかと違いイメージが掴めなかったが、ケガの治療をする【小回復(ヒール)】はよく考えれば新陳代謝を高め肉体を正常な状態まで持っていくエネルギーに変換するイメージでやってみるとできた。なお、この世界の回復魔法はケガは治せても体力までは回復しないらしい。


解毒(アンチポイズン)】のイメージも最初は苦労した。だって、この世界の毒にどんなものがあるかも分からず、分かったとしても血清的なものもイメージできなかったからだ。

そもそも毒とは人体に有害な物質であったり細菌であったり。

 なので、毒のような外部有害物体を駆除する白血球的なのを魔法でイメージして流すとうまくいった。


 なんだか曖昧なイメージでもなんとかなる魔法って素晴らしい!


 その他にも魔法体系としては、

火、水、風、土、光、闇の6種類があるとか、それ以外にも召喚魔法など特殊魔法もあるが、これは種族固有で得意としてるとか、死者を蘇生する魔法なんて無いとか。


 6種類の魔法はそれぞれを司る精霊様の力を借りて顕現しているとか。火は水に弱く、水は風に弱く、風は土に弱く、土は火に弱いとか、光は闇に弱く、闇は光に弱いとか。


 午前中はアスラかララによって魔法について教わりつつ、午後からはユイと一緒に家の外へ出かける事が多くなった。最初はララに連れられて村の中をお散歩する程度だったが、だんだんユイと二人だけでウロウロすることも増えた。


 たまに村人と会うこともあったが、大きな声で挨拶しとけば問題なかった。俺達は双子ってことで村の大人達で知らない人はいなかったし大体が子供相手に優しくしてくれた。


 ユイと二人の時は、村のはずれにある小さな丘の一本杉のあたりで午前中に教わった魔法について復習したりユイと意見交換をしたりした。この丘は平地になっていて、目印の一本杉のほかに大きな岩がある。一目もほぼ無いし、都合よく使える場所だ。




 1、2年もそんな生活が続いた頃、魔法をいくら使っても一向に疲れなくなっていたし、初級はもちろん、中級魔法も使いこなせるようになっていた。中級といっても、球系魔法が矢系魔法になったり、込める魔力量が多くなるだけ・・・だし。


 そんなある日。


「ケンちゃん、ユイちゃん、朝よ。起きなさい〜」

 目覚めると、ララが起こしに来てくれていた。


「「おはようございます、お母さま」」


「おはよう、ケンちゃん、ユイちゃん。朝ごはんができてるわよ。顔を洗ってきなさい。」


「「はーい」」

 自分の発言とハモるユイの声にはもう慣れた。俺たちはさっそく1階に降りて洗面所で顔を洗う。


「お、二人とも起きてきたか。おはよう」

 ちょうど朝の見回りが終わったアスラが入ってきた。


「「おはようございます、父さま」」


「今日はララが新しい魔法を教えるって言ってたぞ、がんばれよ!」


「「はーい」」


 3人揃って食卓に着くと朝食が出来ていた。今日の朝食は、パン的なものとスープ、それに庭に出来ていたオレンジ的な果物だ。この世界の食事はそれなりに食べれる。とはいえ前世日本の食卓と比べるとどうしても質素に感じてしまう。

 いつか極上の食事を求めて世界を旅しようかな。将来は美食ハンターだ!などと大それた考えには至らないけど、まぁ改善の余地はあると考えている。


「「「いただきます」」」


「はい、めしあがれ」

 一家四人揃っての朝食がこのアーノルド家の日常だ。


「あなた、今日はどうでした?」


「今日も平和なものだよ。今朝は少し遠くまで回ってきたが、遠くにスライムやゴブリンがいるだけ」


「どのあたりにいましたの?」


「村の西から出て3キロくらい行ったところに泉があるだろ? そこから北のほうにいたのが見えた。まぁスライムやゴブリンの足じゃ村までは来ないさ」

 聞いたかユイ、これは俺たちにこっそりそこまで行って倒してくるっていうイベントのフラグだぞ。アスラとララの会話を聞きながらアイコンタクトでユイと意思疎通を行っていたら


「二人とも、村を出たりしてはいけませんからね」

 なぜか釘を刺された。いや、行きませんよ?行くなよ、絶対行くなよってフラグ追加されても。


「「はーい」」


「そういえば母さま、今日は新しい魔法を教えてくれるって聞きました」


「あら」

 ララがアスラを睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「せっかく驚かせようと思ったのに、アスラったらもう」

 ちょっとしたサプライズを先にネタバレされてしまったのだ。


「ありゃ、内緒だったのか。すまんすまん。ハハハハ」

 笑ってごまかすアスラの十八番。そんな話をしている間に朝食を平らげてしまった。


「「ごちそうさまでしたー!」」

 ユイと二人でさっそく庭に出る。ララが朝食の片付けをしている間にウォーミングアップだ。とはいっても、柔軟体操を中心としたストレッチだ。


 前世では非常に体が硬かった。幼少期はかなり柔らかかったのに。というわけで、今世では体の柔らかいうちから毎日ストレッチを行ってケガをしにくい身体を作る。ユイと決めたマイルールだ。それが終わるとユイと2メートル位間をあけて向かい合う。ユイに向けて右手から魔力を発射、同時にユイの右手から発射された魔力を左手で受け取る。魔力を使ってすぐ受け取った魔力で回復するので、消費MP0で魔力移動の感覚だけ鋭くできる俺たちの魔力準備体操だ。


 それも一段落したころ、ララがやってきた。


「二人とも準備できてるようね」


「「はい、よろしくおねがいします!」」


「今日は光の初級魔法の一つ、【照光(シャイン)】を使います。これは夜とか洞窟の中とか光の届かない場所で視界を確保するための魔法です」


 要は懐中電灯ね。



「光の精よ、我が光となれ!【照光(シャイン)】」

 ララの手に裸電球を持っているような光が輝いた。


「「では、やってみます」」

 魔力を体外へ出すときに光輝く粒子に変換するイメージかな?それを手の先で集めて丸い形にすればいける……お、できた。

 これ、光に方向性を持たせられないかなぁ。裸電球から車のLEDヘッドライトみたいに直線状に……


 お、できた。魔力を多めに込めると光が強くなる。


 さっきの倍くらいの魔力を込めると……おお、ヘッドライトどころかサーチライトクラス!


 ララはもう唖然としてこちらを見ているがそんなことは気にしない。今度は光の形を1メートル位の棒状にして、形状を安定化……お、できた。


 フフフ、ライトセーバーの出来上がりだ!


 ユイも同じものを作っていたのでさっそく試しにチャンバラしてみるか!


 ライトセーバーとライトセーバーが重なり合う瞬間、


 スカッ


 そうか、光っているだけで質量も何もないんだもの。ソードにはならないか。いやいや、じゃあ質量を持たせればいいじゃない。中心を土魔法で棒を作ってその周囲に光の粒子を纏わせて形状を安定化……できた。


今度こそ!


「いくよ、ユイ!」


「いいよ、ケン!」



 上から振りかぶって斜め切り!

 と同じモーションのユイのライトセーバーとぶつかり合う。


 チャンバラじゃ〜〜!!


 と盛り上がってしまったころにはララは少し離れて見守ってくれていた。チャンバラも一段落したころ、もう一つ思いついた。


 まずは両手に魔力を集めて光の粒子を丸くまとめるイメージする。バスケットボール位のサイズにまで集まった光を無数の粒子にして周辺にばら撒く感じだ。下から数メートル上に放り投げて頂点で拡散!


 出来た!


 拡散された光の粒子がキラキラと輝きながら降ってくる。


「すごい! きれーーーい!!」

 ララが立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。地面に落ちた光の粒子はしばらくして消えた。


「ねぇユイ、これもっといろんな色つけれないかな?」


「じゃあやってみようか」

 今度は両手に集めた光を無数の粒子にするときに真っ赤だったりピンクだったり色のついた光にした。ユイを見ると、ユイは青系の色で作っていた。


「いっせーのっ!」

 二人同時に投げた光の塊が3メートルほど上空で拡散して降り注いだそれは色とりどりの粉雪が降っているような幻想的な空間を作り出した。すべての光が地面に到達しすべてが消えたころ、意識を取り戻したようにララが俺たち二人を抱きしめた。


「あなたたちって本当にすごいのね。自慢の子供たちだわ」

 改めて褒められ嬉しくなった。


「おーい」

 とそんなタイミングでアスラがお昼を食べに帰ってきたようだ。


「あら、ごめんなさい。何も準備できてないわ。急いで作るから待っててね」

 俺たちが光の魔法を想定以上に使いこなしてしまったため、ずっと夢中で見ていたララは昼食の準備なんてしていない。慌てて家の中に入っていくララを見送った。


「ユイ、光の魔法ってさ実用性を考えたらもっと長時間光っていてほしいよね。」


「だったら無数の粒子にしないである程度の大きさのまま壁とかに張り付けてみようか」


「壁じゃなくても、地面とかでもいいよね」

 二人でソフトボール位のサイズにした光の塊を地面にポトリと落としてみた。地面に落ちたあとも光続け、10分ほどで消えた。

 今度はバスケットボール位のサイズにした光の塊を地面に落とす。地面に落ちた後もなかなか消えない。なんだろう、この魔法って込める魔力を増やすと加速度的に効果が長くなるのかな。コスパのいい魔法かも。


「二人ともー! お昼できたわよー。早く入ってきなさいー」

 家の中からララがお呼びだ。


「「はーい」」

 光続ける塊はそのままに、二人そろって家の中に入った。


 昼食のメニューはほぼ朝食と同じだった。慌ててパン的なものを焼いて、スープを作ったのだろう。フルーツはなかったがサラダ的なものはあった。


 やはり質素だなぁ・・・。


 食事中、ララは興奮気味に午前中の光魔法の話をアスラにしていた。昼食後はユイと一緒に家を飛び出した。


「「いってきまーす」」


「日が暮れる前には戻ってくるのよ」


「「はーい」」


 しっかりと子供っぽく返事をして出る。


 家を出るとまぁ、田舎。

 二人でてくてくと歩いていると農作業をしている近所のおじちゃんがいた。


「「こんにちわー」」


「おう、こんにちわ。どこにいくんだい?」


「「おさんぽ!」」


「そーか、気を付けてな」


「「はーい」」



 完璧な子供っぽさ。

 蝶ネクタイが似合う少年探偵が「あれれれ〜」とか言うのと同じくらい完璧だ。


 たどり着いたのは村はずれにある丘にある一本杉。


 昼間、光の魔法【照光(シャイン)】が自由自在に形を変えれたことや火水風土の今までの魔法、それに土と光の魔法を融合したライトセーバー。つまり、魔法って万能性高すぎだ。


 ということは、まだまだいろんな使い方ができるはずだ。


 例えば、風魔法を使って真空状態を作りその周囲を高速の風を2種類作り順回しと逆回しにする。高速の風がぶつかったところで静電気が発生し真空状態の中心を通ってまっすぐに射出。。。電撃魔法だ!

だが威力はあまりなかった。


 静電気で発電しても短時間ではあまり威力が出ないか。ならばいっそ魔力を直接電気に変えて……お、できた。手の先でバチバチいってる電気属性の球体。


 んでこれを射出!


 近くにあった岩を的に飛ばしてみたら、丸い電気の塊が飛んで行って命中した。的にした岩は命中した部分が少しへこみ、ひび割れが起きていた。この世界風に命名するなら【電球(サンダーボール)】になるのかな。


「威力は十分だけどなんというかね。……っぽさがないなぁ」

「だよね、やっぱり黄色い電気鼠が使うみたいなのがいいよね」


 今度は岩と自分の中間位まで細い真空状態の棒を作り、そこに向けて電気エネルギーを射出!ほぼ高速で電気が駆け抜け岩に命中した。


「これだ!」

ある程度電気流れの道筋を作ってそっち方向に射出。これでまぁ大体あたるでしょ。よし、これは【電撃サンダー】と名付けよう。

風魔法で真空状態も作れるようになったしこれをぶつけるだけでも攻撃手段になりそうだ。


「基本6属性じゃなくて魔力そのものでも密度を上げれば物理攻撃手段にならないかな?」


「いつもよりギューーーっと魔力を固めてみよう」


そして的になるのはいつもの岩。

手の先に魔力の塊を作りどんどん密度を上げていく。なんだか空間が歪んでいるように見えなくもない・・・。魔力は視認できないから気のせいかもだけど。塊をどんどん小さくしていき、ビー玉サイズまで圧縮。


射出!


直後岩に命中、岩のへこみが大きくなった。


「やったぁ!いけるね!」


「無属性攻撃魔法だね!」

これは【魔法弾マジックバレット】とでも名付けよう。


「よし、じゃあ今日はそろそろ帰ろうか」


「そうだね、日がいつの間にか暮れ始めてるもんね」


「なんだか試したい魔法が尽きないよ」


「ファンタジー世界楽しいね」

こうして前世には無かった魔法というものを楽しみながら研究するのが日課となっていった。



ようやく家にたどり着いたのはちょうど夕方日暮れ前だった。


「「ただいまー」」


「はい、おかえり。お湯沸かしておいたから体を拭いてきなさい。そしたら食事よ」


「「はーい」」

家に入る前、庭を見てみると弱くではあったがまだ昼間の【照光】が効果継続中だった。まぁ、あの様子だったらもうすぐ消えちゃうだろう。しかし昼過ぎから夕方まで4〜5時間継続できたのか。

洗面所にいくとタライにお湯があったのでお互いにすっぽんぽんになって体を拭きあった。

汗を流して綺麗にしたあとは部屋着に着替える。

まず下着……褌(ファンタジー世界で下着は褌がスタンダードってなんか違和感あるが)をしめて

袖付きワンピース型の服を被り、腰紐を結ぶ。

膝まであるブーツを履いて完了だ。


ファンタジー世界の村人基本服装その1みたいな恰好のできあがり。

最初はスカート状態の下半身がスースーして気になっていた……が、恐ろしいことに慣れるのだ。

ボクサーブリーフに慣れていたところにトランクスを履いたような違和感。それが慣れるようなもんだった。


それはさておき、夕食だ。今日はアスラが夜の見回り当番らしく3人での夕食。


「さ、今夜の夕食は兎肉のステーキよ。付け合わせのサラダも残さず食べるのよ」

兎肉のステーキ、サラダ、黒パン。

うん、この世界では豪華なほうだと思う。ただ、ステーキソースという概念はなく塩のみというシンプルさ。胡椒のようなスパイスはないものか。すくなくとも今までこの家の食事では見たことがない。獣臭さみたいなのはしっかりあるんだよね。やっぱり食事事情は改善の余地ありありです。

といろいろ心の中で考えてたら完食しました。


「「ごちそうさまでした」」

もちろん食事中のララとの会話も忘れていない。今日は治療院に同い年くらいの子供が来たとか、となりの農作業しているおじさんがレタス的な野菜をくれたとか、その時にちゃんと挨拶してたのを聞いて偉いと褒めてくれたりとか。もうすぐ5歳なんだからしっかりしなきゃねとか。


夕食後、アスラとララの本棚から(無断で)借りてきた本を読んでいた。部屋の天井には昼間試した【照光(シャイン)】をはりつけている。

ふとララとの会話を思い出していた。


「そうか、もうすぐ5歳なのか」

呟いてみるとユイも同じ考えだったようだ。


「ちょうど区切りだしそろそろ真面目に体力づくりもしなきゃね」


「剣と魔法の世界に転生したんだもの、剣術の才能とかもあったりするかも」


「仮に才能0でも危険から逃げ回れるだけの体力はいるもんね」


「明日から午前中の時間は魔法じゃなくて剣術を教わろうか」


「そうだね、最近アスラもララも教える魔法がなくなってきたような感じするもんね」


「午後からは今まで通り魔法の研究をしよう」

そんなマイルールをユイと一緒に決めた後、両手から魔力を出しぶつけ合って相殺させ、魔力が尽きてから寝た。


翌日朝食の時にアスラとララに剣術を教えてほしいと伝えたところ、午前中は剣術指導の時間となった。

ただ、剣術というよりはそもそもの体力作りの意味合いが大きいので土魔法で作った棒で素振りメインとなった。

アスラは剣術については神明流剣術という流派のの上級ランクだった。ちなみに、神明流剣術とは魔法攻撃を交えながら戦う剣術だそうだ。アスラは魔法も基本4属性を中級まで使えるし、実は冒険者としては結構上位の部類らしい。

ララは剣術ではなく棒術を使う。中級ランクなんだそうだ。そして主に光の魔法を中級まで使えるため冒険者時代はプリーストとしてアスラと同じパーティだったらしい。ちなみに闇魔法は初級しか使えない。

剣術にしても棒術にしても基本はやはり素振りらしい。

ランニングと筋トレ、素振りが基本メニューとなった。


剣術を習い始めて数週間。

さっぱり上達した実感はないが、同じ素振りをこなしても終わった後に体力的な余裕が出てきたので少しずつながら体力は向上しているっぽい。


そんなある日の夕食。

「さあ、今日のメニューは子ヤギ肉と野菜をじっくり煮込んだスープよ!」

食卓を見ると、いつもよりちょっと種類の多いサラダ、いつもより白っぽいパンが並んでいた。


「母さま、今日は豪華ですね」


「そうよ、今日はケンとユイの5歳の誕生日ですもの、お祝いよ」

ほほう、ついに5歳になったのか。いやぁ〜思えば転生してから5年、、、長かったような短かったような。。。


「ケン、ユイ、お誕生日おめでとう。二人とも元気に育ってくれて嬉しいぞ」

アスラはちょっと涙ぐんでる気がする。


「わあ!ありがとうございます」

自分の口から出た言葉ながらなんだかわざとらしい。いやいや、ホントに感謝の気持ちはあるのよ!


「さ、温かいうちにいただきましょう!」


「「はーい、いっただきまーす!」」

子ヤギ肉のスープは、ビーフシチュー的な感じでとても美味しかった。前世でも全然通用しますよ、奥さん!白いパンはいつもより柔らかいし、ユイと二人でお代わりしてしまった。


「それだけ喜んで食べてくれたら作った甲斐があるわ」

見るとアスラもお代わりしていた。


「「ごちそうさま!」」

たらふく食べたあとアスラが剣を2本持ってきた。


「二人へお祝いのプレゼントだ。最近始めたばかりとはいえ、なかなか筋がいいからな。

まだ5歳だと真剣は早いかもしれんが、お前たちなら分別を弁えることも出来ると信じているからな」


「「ありがとうございます」」

二人でプレゼントを受け取った。


「私からのプレゼントはこれよ」

続いてララが持ってきたのは本だった。


「魔術についての本よ」


「「ありがとうとざいます」」


「初級6属性が使えるようになったということは、あとはどうやって応用していくかというのが魔法を使いこなすポイントよ。でもこの本にはそれ以外にも魔法陣関係も載ってるからきっとあなたたちの役に立つわ」


「「大切にします」」

この世界では本というものはあまり出回っていない。印刷技術が発展していないのだろう。


その日は遅くまでもらった本を読みふけっていた。

隣からギシギシアンアン聞こえてきたが、まぁアスラもララもアラサーだし。まだまだ夜は現役のお二人なら当然の行為だ。今までもたまに聞こえてくることがあったが今日は一段と激しいらしい。もしかしたら弟か妹ができる日も近いかもしれない。


ROM専が書き手に回ってみたくなりました。

見切り発車ですが、斜め読み程度でもいいので宜しければお付き合いください。

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□頭脳派脳筋の異世界転生もよろしくお願いします。
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