元気を出して、お父様
「お父様、これ飲んで」
お母様を見送ってから数日、お父様は領地の経営だけでも毎日とても忙しかったのに、お客様の対応や私には分からない雑事が沢山あって幽霊みたいに窶れている。
お父様まで倒れてしまいそうで怖くて、私は栄養剤を手渡した。リル様は病気じゃない人が飲んでも大丈夫、疲れが取れるって言ってたもの、今のお父様にはぴったりじゃないかしら。もうお酒やお茶で一息つくレベルじゃないと思う。
「ありがとう」
そんなに疲れた顔をしてたかな、と苦笑しながら栄養剤を受け取ったお父様は、それを一気に飲み干した。
「へえ、初めて飲むが味も悪くない。飲みやすく工夫してあるんだな」
思わず、といった感じでそう口にしたお父様。私はリル様の仕事を褒められた気がして、とても嬉しくなってしまった。やっぱりリル様はすごい人だ。
「ああ、本当だ。体がポカポカする気がするな。……それに、倦怠感が和らいできた気がする。たいしたもんだ」
リル様!完全に褒められてますよ!
お父様がぐったりした顔してなくて、リル様まで褒められて。お母様が亡くなって以来、初めて心の底から嬉しい!って思えた。
「笑ったな」
「え?」
「母様が亡くなってからずっと、いつも悲しい顔をしてた。ユリアンナはやっぱり笑ってた方が可愛いよ」
だって、悲しすぎて。
お父様が心配すぎて。
笑う気持ちになんてなれなかったんだもの。
「この頃は外へも出ていないと聞いたよ。リルフィードの誕生日も近いだろう、宝探しはもういいのかい?」
優しく頭を撫でてくれるお父様の大きくて温かい手に、なぜか涙が溢れてくる。
「だって……だって、私、お父様が心配で……」
ポロポロと溢れる涙を拭ってくれたお父様は、微笑んでギュッと抱きしめてくれた。
「悪かったね、私が心配をかけていたのか」
だって、お母様ももういない。お父様まで倒れたりしたら、私……。
ぐすぐすと啜り上げている私の背中をポンポンと叩いて、お父様が苦笑する。こんなにゆっくりとお父様とお話するのも久しぶりなんだもの。
「それで栄養剤もくれたわけか。……大丈夫、元気になったよ、ユリアンナのおかげでね」
「!」
わあ、にっこり笑ってくれた!
お父様の幸せそうな笑顔だって、本当に久しぶりだよ。
えへへ、嬉しいなあ。やっぱりリル様の栄養剤は魔法のお薬なんだと思う!
「さあ、ユリアンナ。私はもう大丈夫だ、君も君の目標のために頑張りなさい。お母様も、それを望んでいただろう?」