お母様を亡くして
お母様が次第に衰弱し、ついに息をひきとったのは、リル様の記念すべき12歳の誕生日の半月ほど前だった。
この頃になるといよいよ木の枝みたいに細くなってしまった腕は、もう血が通っているのが不思議なくらいに白くなってしまっていて、見ているのが可哀相なくらいにお母様は憔悴していた。
一日の大半を咳き込んで、それでも安心させようと儚く笑うお母様。
もう長くはないと誰の目から見ても分かる病状になってからは、ただとにかく傍にいたくてお母様の部屋にお伺いしていた私だけれど、その度にお母様に追い出されてしまって。
「ユリアンナ、冒険にいってらっしゃい。貴女が頑張っている姿を見るのが私の楽しみなのですよ」
そう言われてしまうと、お母様の傍にただいるわけにも行かない。私は後ろ髪を引かれる思いで冒険に出かけていた。
うつる病ではないとお医者様は仰っていたけれど、お母様はお父様も私も部屋に入る時間を限っていたように思う。苦しむ姿を見せるのが嫌だったのか、違う理由があったのか、いまとなっては分からないけれど。
お母様とのお別れの日、確かに冷たくなってしまったお母様にしがみついて泣いて泣いて、それでも引き離されて茫然と座り込んでいた私の頭に、そっと、柔らかな手が降りてきた。
「だ、大丈夫か……?」
「リ、リル様……」
見上げたリル様は、逆光の中、本当に天使のようだった。
どうしたらいいのか分からないって、困った顔で一生懸命頭を撫でてくれるその優しさが嬉しくて、私の涙は自然に止まる。
リル様には感謝しかないの、だってあんなに白かったお母様の頬に最後まで赤味をくれたのは、リル様のお薬だけだった。 リル様のお薬だけが、私にお母様の笑顔をくれた。リル様の姿を見るだけで、私には勇気が湧いてくる。
「ありがとう……ありがとう、リル様……」
お母様が亡くなってから初めて、私の口元に笑みがのったのが自分でも分かった。
すごくすごく泣いてたからきっとブサイクな顔だと思うけど、リル様の顔を見ているだけで心の底から熱い感謝の気持ちが溢れてきて、その溢れる気持ちをどうしても伝えたかったから。
「……っ、なんで、お礼、なんか……!」
「え?」
「……っ」
何故かリル様の顔が歪む。痛そうな顔をしたリル様は、そのままくるりと体を反転させてその場から走り去ってしまった。
どうして。
私、何か気に触る事を言ってしまったんだろうか。
「ユリアンナ、出棺の時間だ。お母様に最後の挨拶をするんだよ」
呆然としていた私に、お父様が悲しげに促す。釈然としないまま、それでもその時の私にとってはお母様をきちんとお見送りする事の方がやっぱりとても重要で、私はそのままお父様の手をとって歩き出した。
優しかったお母様の死に、お父様だって嘆き悲しんでいる。私だって胸に穴が開いたみたいに苦しいんだもの。お父様の嘆きはいかばかりか。
お母様を弔い、消沈しているお父様を支えたい。
私はその決意を胸に、お父様の大きな手をキュッと握りしめた。