ついに冒険へ
お母様の口添えもあって、ついにフィールドに出る事が出来た私は、とにかくがむしゃらに頑張った。
「お嬢様、本当にいいんで?」
お母様がつけて下さった冒険のお供は庭師のクロードと、お父様からその手腕をかわれて傭兵から我家の私兵になってくれたユシア。
私は二人に、本気で鍛えて欲しいと頼んでいた。
「お願い。私、一人で冒険に出られるくらい、ちゃんと強く賢くなりたいの」
「まあ、薬草の見分け方や生えてる場所なんざらいくらでも教えますがね。でも何もお嬢様が戦闘訓練まで受ける必要はねぇでしょうに。せいぜいがとこ護身術くれぇでいいんじゃねぇですかね」
クロードが渋い顔をする。クロードには薬草とかに関する知識を、ユシアからは戦闘に関する事を学びたいってお願いをしたんだけど、どうやらクロードは私が戦闘に参加するのが嫌みたいだ。
ユシアだって魔法と戦闘の基礎は教えてくれるし、弱い魔物だと傍でサポートしながら私にも戦わせてくれるけど、決して本意ではないとその目が語っていた。
でも、私の決意は固い。
基礎が分かれば努力するのは私の勝手だもんね。
まずは体力の無さを補うために朝、昼、夜の三回邸中を三往復走るのを日課にして、高低差があるところを走り回る事に慣れるようにしたし、杖を武器としても扱えるよう棒術の訓練も欠かさない。
お父様との約束で、淑女教育をしっかりと学んだ上での空き時間だけが私の自由に使える時間だったから、私は毎日が大忙しで座学にマナーにダンスに演奏、その日のカリキュラムをこなしては残りの時間で必死に魔力を操った。
ユシアがいうには、魔法を沢山覚えるよりは、まずは出力をしっかり調整出来ることが重要なんだって。
自分の思い通りの強さで。
形で。
密度で。
時間で。
いくら魔力があっても色んな魔法を知っていても、自在に操れなきゃ意味がない。そして盛大にぶっ放すよりも、微量を一定に保つ方がずっとずっと難易度が高い。
逆に言えば、それくらい精密に扱えるようになれば、魔法の精度は格段にあがるわけで。
私は霧を発生させ、一定の濃度に保つ訓練ばかりを朝起きてから夜寝るまで、あいた細切れの時間すべて用いて随分と長いこと練習していた。
力も体力も普通の冒険者に遠く及ばない私にとって、魔法でいかに早く正確に敵を倒せるようになるかは、死活問題なんだもの。
最初は貴族のご令嬢の我が儘なお遊びと、冒険の人達からからかわれたり白い目で見られる事も多かったけれど、足しげく半年も通ってクエストをこなしていけば見る目も変わる。
冒険者のいかついオジサン達が頭を撫でて可愛がってくれるようになる頃には季節はもう一巡りも近くなるほどたくさんの時がたっていた。