リル様10才。今年のプレゼントは……。
「なんだい?これは」
「お誕生日プレゼントよ!今年はちゃーんと錬金術の素材を選んだから大丈夫!」
リル様10才の誕生日。
私はこの一年の集大成とも言える、草花のブーケを手渡した。どれも錬金術の素材としては優秀な、質の良い薬草だ。前回素材にもならない草花を小山になるくらい贈ってやんわり叱られた私は、ちゃーんと学習した。質のいいものを厳選して、可愛らしく花束にまでしてあるんだから、これでときめかない筈がない。
今度こそ絶対に喜んでもらえる自信がある!
ワクワクしながら渡したブーケを見て、リル様の瞳は大きく見開かれた。
ところが。
物は良い筈なのに、ブーケの草花を一本一本検分したリル様は、なんだかとっても怪訝な顔。
「ユリアンナ、これ……どうやって手に入れたんだい?」
「えっとね、ディアス草原とかで採取したの」
「え、君が!?」
「私はちょっとだけ。クロードとか、ユシアとかが採ってきてくれたのを、素材の本を見ながら選んだの」
そう、まだ10才にも満たない私はお願いしてもなかなか外へは連れて行ってもらえない。上質な素材が採れるような場所は、私にはまだ早いんだって。
でもね、だから私、一生懸命お勉強したの。薬草の本を読んで、似ている草だって見分けられるようになったんだよ。それにね、マッティン草は根っこが赤い方が質が良くって、ガーリの葉っぱはギザギザが痛いのの方が新鮮なの。
「確かにすごくいい素材だけど……でも……やっぱり僕のために屋敷の人に迷惑をかけるのは良くないよ。皆だって忙しいんだ、そういうのは、困る」
「えっ……」
ショックだった。
そう、だよね。私、リル様に喜んでもらおうって、そればっかり考えてて。クロード達が迷惑してるかもなんて、考えてもいなかった。まったく予想外の展開に、何にも言えなくなってしまった。
気まずいままいくつか言葉をかわし、いつも通りお母様のためにリル様が錬金してきた栄養剤を受け取って……。なんら盛り上がるところもなく、リル様は普通に帰っていった。
素材のブーケは持って帰ってくれたけど、すごく微妙な顔で笑顔すらない、思いっきり不発に終わったプレゼント。一年かけて用意しただけに悲しくて悲しくてしょうがない。ずっと手伝ってくれてたクロード達にも申し訳なくて、私はその日一晩中泣いた。
でも。
どんなに泣いたって朝は来るんだ。
泣いて泣いて泣き疲れて眠った私は、翌朝起きてすぐサンサンと輝く朝日を見て、新たに決心した。
来年こそ、絶対にリル様が喜ぶものを用意してみせる!
そうよ、皆に迷惑かけなきゃいいんだもんね。薬草にこだわってたからよくないんだ。だって私じゃお外には気軽に出られないんだもの。かといってリル様が錬金術に何にも関係ないものを貰って喜ぶところなんて想像できない。
私は、謝るついでに庭師のクロードに相談してみる事にした。