可愛いがとまらない
ジタバタ、ジタバタ、短い手足が空を切る。
可愛い、とてつもなく可愛い。
「お嬢、なんか可哀想だからその辺で勘弁してやれ」
「あっ……」
腕の中からツルッとした手触りがもぎ取られてしまった。ああ、冷やっこくって気持ちよかったのに。
「お嬢、大物だな。たぶんこのドラゴン、この森の主だぞ」
そんな大層な御仁にはとても見えない、ただただひたすら可愛いもの。
くるっとした愛らしい黒目がちの目、ドラゴンの証のツノだって翼だってちっこくってとっても可愛い。鱗はピカピカのエメラルドグリーンでツルツルの冷やっこさがたまらない。
うん、可愛い要素しかない。
「セクハラ女ー!エロい目でジロジロ見るなよ!お婿にいけなくなるだろー!」
「あはは、言うことまで可愛い!」
「お嬢、ちょっと黙ってろ」
ついにユシアに怒られてしまった。仕方なく口を閉じたら、ついでに少し頭も冷えてきた。
「すまない、貴殿が大切に育てた花を。この摘んでしまったものだけ譲ってもらう訳にはいかないだろうか」
至極真面目にユシアがドラゴンちゃんに交渉する。
でも、そうよね。
ドラゴンちゃんのあまりの可愛さについ気持ちと体が動いてしまったけれど、確かにまずは謝らないと。
「ごめんなさい」
「な、なんだ?急にしおらしくしても遅いんだからなー!」
「貴方のあまりの愛らしさに我を忘れてしまったけれど、貴方が大切に育てたお花を勝手に摘んでしまった事は本当に申し訳ないと思って」
「むー、本当はエアカッターでギッタギタにされても仕方ない所業だぞー?」
そう言われ てドキリとする。そう、この子は話せる程知能の高いドラゴンで、冷静に考えればいくらでも攻撃手段を持っている筈だった。今こうして話に応じて貰えているのは実はとても稀有な事なんだろう。
「その花、どうしても要るのかー?」
「ええ、それを探してここまで来たの」
「むー……」
小さな翼をはためかせ空中でホバリングする姿も愛らしい。抱きしめたい気持ちをぐっと抑えて、私はその小さなドラゴンの決断を見守った。
「もう摘んじまったもんはしょうがねえ、それはアンタにやる」
「あ、ありがとう!」
「その代わり、ちょっとアンタの住む街まで連れていってくれ。ちょっとだけ退屈してたところだからなー」
「えっいいの!?嬉しい」
「嬉しいのかー?」
「だってまだ一緒にいられるんでしょう?嬉しい、それくらいお安い御用よ!」
思わずウキウキとそう返したら、ちっちゃなドラゴンさんはちょっと照れたようにモジモジした。その仕草も当然超絶可愛いんだけれど。
「お嬢……そりゃあいいが、そもそも帰り道も分からねえんじゃねえのか?」
「あ」
呆れたようなユシアの指摘に、私もさすがに我に返る。
そうだった。道、分からないんだ。




