風が渡る場所
爽やかな風が吹き渡る、ジャングルみたいな森の只中にあるとはとても思えない、その心地よい空間。
陽が当たるその場所の中でも、特にスポットライトが当たってるみたいに光るその場所に、ポワポワと風に揺れる花が群生していた。
「かわいい……」
空色の、ふんわりと丸い花が風に揺れる様はまるで童話のように優しく可愛らしい。
「風華草だな、さっさと摘んで帰ろうぜ、お嬢」
夢もか情緒とかが一切感じられないユシアの言葉に少々がっくりしたけれど、確かにそれもその通り。なんせ帰り道がわからないんだもんね。
「何本だ?」
「5本で充分……あ、リル様の分まで含めて7本で」
手早く可愛らしい風華草を摘んで、形が崩れないようボックスに収納。これでちゃんとギルドまで
辿りつけたら今回の依頼は達成だ。
吹き渡る風が気持ちいい、いつまでもここに居たいくらいだけど、そういうわけにも行かないし。もう一度この気持ちいい空間を見渡してから、私はくるりと踵を返した。
「こら待て、ドロボー!」
突然、かん高い子供みたいな声が辺りに響いた。
「誰?」
「そりゃあこっちのセリフだぜ!人が大事に育てたもんを勝手に持ち逃げしようなんざフテエ野郎だ、そういうヤツの事、人間はドロボーって言うんじゃねえのか」
「育てた……?」
「その花だよ!毎日毎日風あてて、やっと綺麗に咲いたんだぞ!」
あ、まさかこの風華草?
私とユシアは思わず顔を見合わせた。
もしかして、噂の通りドラゴンがいたのだろうか?でも見回してみても、ドラゴンどころか人っ子ひとり見当たらない。
イタズラ好きの精霊にでもからかわれているのかも知れない。
そう思いながらも、口は自然に謝罪の言葉を口にしていた。なにせたった今花を摘んだには事実だから。
「あ、あの、ごめんなさい。世話をしている人がいたとは思ってなくて」
「えー?聞いた事ない?風華草はドラゴンの息吹で育つんだぞ!」
言いながら突然目の前に現れたのは、子犬くらいのサイズのとっても愛らしいドラゴンだった。
「ドラゴン?お前が?」
「可愛い……!」
思わず両手で抱き上げて、ギュッと胸に抱き込む。あんまり可愛くて頰ずりしたところで、ハッと我に返った。
そう言えばこの子、ドラゴンって言った……?
「な、な、な、何すんだよテメー!」
腕の中で短い手足をジタバタさせて、もがいている姿も尋常じゃなく可愛い。
「ああんもう!やっぱり可愛い!」
気がついたらさらに頰ずりした上に撫で回していた。
「お、お前!そこのイケメン!ボーっとしてねえでコイツを止めろよ!俺はもう立派な成竜なんだ、明らかなるセクハラ行為だぞー!」




