天使様降臨
リルフィード様と初めて出会ったのは、私が8才の時だった。
最初はね、マジメそうな子だなぁ、って思ったの。
せっかくうちに来たっていうのになんだか難しい本ばっかり読んじゃって、あんまりお話もしてくれないから正直つまらなかったんだ。
「ねぇ、なんの本を読んでるの?」
「錬金術」
「れんきん……じゅつ? なぁに、それ」
「何かと何かを混ぜ合わせて、もっと価値の高い何かを作りだす学問……だって、父さまが言ってた」
なんだかよく分からないけど、すごい感じ?
私がよく分かってないっていうのがバレちゃったのか、困ったなぁって顔をしたリルフィード様は、ポッケの中をごそごそ探ってちっちゃなお花を取り出したの。
「この花と、別の薬草を混ぜたら痛みを和らげる薬ができそうなんだ。もしかしたら、エリア様にも役に立つかも知れないから」
「お母さまの⁉ 痛みが少なくなるの⁉」
「うまくいけば! うまくいけばだぞ!」
その瞬間からもう、私にはリルフィード様が天使にしか見えなくなった。
だってお母さま、毎日お咳が酷いの。
細くってまっ白なお手々が時々真っ赤な血で染まっちゃうくらい、辛そうなの。
お医者様でも、もう効くお薬がないって言ったのに、リルフィード様はあきらめないで何かしようとしてくれてる。それだけでもう、リルフィード様がさっきの50倍くらいかっこよく思えた。
「そ、そんな期待に満ちた目するなよ、まだ、出来るかどうか分からないんだからな」
「うん! ありがとう! ねえ私、何かできることない?」
お母さまの痛みが少なくなるなら、なんだってしたい。あたしにはリルフィード様が持っている本は難しくってまだ読めそうもないけど、何か出来ることってないかしら。
「えっと、じゃあ、しばらく静かにしててくれるか? 実はこの本、難しいんだ。いっしょうけんめい読まないと、僕でも理解できない」
「 うん!」
私は口をしっかり両手で押さえて、おしゃべりしないよってアピールする。そしたら、リルフィード様は「そこまでしなくていいよ」って笑ってくれたの。
すっごくマジメな顔で、お父さまにくらべたらとってもちいちゃなお手々がペラリとページをめくるたび、難しい文字とわけのわからない図解がでてくる。こんなに難しい本を、お母さまのためにいっしょうけんめい読んでくれてるんだと思うと胸がふわんとあったかくなって、1ページ1ページ時間をかけて読んでいるリルフィード様の横顔を私はずっと眺めていた。
思えばあの、初めての出会いから私はリルフィード様に恋していたんだろう。