カスミのたそがれ
まわりの山々の木々は色づきはじめている。
こうやってボートを漕いで駐車場のある湖畔まで行くのは久々だ。
黒の手作りのドレスにウェブヘアーに帽子、年を考えろと息子に言われながらも変えないカスミだ。
トウマのフラフラ癖も治ったと思ったんだけどなあ。
ちょうどのぼった朝日を見上げる。
カスミと同期で同じ事務所だった志保はまぢめなこだった。
スラリと伸びた手足のナイスバディー、チビのカスミはうらやましかった。
華やかに雑誌の表紙を飾る彼女が悲しい過去を背負い続け病とたたかっているのを知ったのはだいぶあとのことだ。
モデルとしてのプレッシャーからだろうか極度な拒食症になり倒れてシホは事務所を辞めた。
トウマは以前からシホを支えていた。
プレイボーイのトウマがシホと出会ってから女性関係の噂はなくなった。
トウマも馬鹿な男、あの世界の女性は財産目当てのやつなんていっぱいいるのに。
財産なんて残しても意味ねえ、住むとこなければ牛小屋で暮らすからいいんだ。
そういって別れる女性に財産まるまるあげてしまうトウマを支えたのはトウマに救われたカスミの夫でもある平治郎だ。
まいったあまた騙されたぜへいちゃんごめん。
毎回、ボサボサ頭で髭も伸び放題でくるトウマを苦笑しながらも支えてきた平治郎だ。
今回ばかりはトウマもどうするきかしら?
シホが子供を置いて消えてしまったことはカスミもショックだった。
子供の相手がすきだったシホ、子供が欲しいと言っていたシホが赤ちゃんを置き去りにするなんて。
私に預けていいのかしら?
堅気と縁切れない蔵元家で育つよりはと言うのがアゲハの意見だが。
まあだいじょうぶかうちには子育てのプロがいるしね。
いつも『ほっこり牧場』の姉御のサチに子犬やら子猫やらあげくにはヒヨコやらを押し付けられ苦戦している次男坊を思い出し笑みがこぼれた。
ボートを漕ぎだし、アゲハが待つ駐車場に向かった。