第5話 -討伐前夜-
第一部はこの話を含めて残り三話です。
村正君は元々世界中の不思議遺跡を渡り歩いていたり秘宝を狙う悪の組織(?)とバトったりしているので戦闘力は高いです。
それに加えて世界転移による肉体再構成でより強くなったと思って下さいませ。
<第5話 -討伐前夜->
村長の家をあとにした二人は、村人の案内で北の外れの建物へと案内された。
案内してくれたおばちゃんによると、ここは定期的に薬草を仕入れに来る隊商なんかを泊めておくための建物だということだ。
「二人だとちっと広すぎるかもしれないけどねえ」
「いやいや、構わぬさ。一介の旅人には過分なもてなしじゃよ」
「はは、若いのに年寄りくさい喋り方だねえ」
「性分でな。ところで、このあと少々時間をいただけるか?」
「構わないけど、何か用事かい?」
「いやな、遙か遠方より旅を続けてきたのだが、途中巨大な黒馬に襲われて驚いてしまったよ。この辺りの魔物のことや決まり事、風習に疎くていかん。良ければ色々とご教授願いたい」
珍しく真面目な顔で頭を下げる村正。
隣で正座して、同じく頭を下げる深夜。
「こんな田舎者のいうことでいいのかい?」
「儂らはそれよりもものを知らぬ。お頼み申す」
「そういうことなら・・・」
どこの世界でもおばちゃんのおしゃべり好きは共通なようだった。
この近辺に生息する魔物のこと。
一番近い街は「アールファの街」といって、この辺りでは一番大きな街だと言うこと。
通貨や度量衡の話。
その他諸々、この世界の常識とも言えることを言葉巧みに聞き出していく村正。
「なるほど。遙か西で商人をねえ」
「まあ、扱うものは骨董品や武器などじゃがなあ」
「それで西だけじゃなく世界中の遺跡を巡りたいと。あんたも好き者だねえ」
「ははは、面目次第もござらんよ」
呆れた様にお茶をすするおばちゃんに呵々と笑う村正。
「で、このお嬢ちゃんはあんたの奴隷なんだね?」
「儂はそんな風には思っておらんのだがな」
「いえ、村正様には大恩あるこの身。命を賭けて恩をお返ししたく」
「いやいや、立派なもんだ。そこらの奴隷の様に恨み辛みに囚われた顔はしちゃいないんだ。お嬢ちゃんは幸せな奴隷だよ」
一人で納得した様に頷いているおばちゃん。
わかっている、皆まで言うなと言わんばかりだ。
「まあ、不便があったら言っとくれよ。あたしゃ直ぐそこの家のもんだから」
「忝い」
おばちゃんは喋るだけ喋ると帰って行った。
「ふむ、良く喋る」
「その分、私たちは助かりましたが」
「そうじゃのう。この世界の基礎知識は大体手に入れたか?」
「そうですね。あとは東のアールファの街とやらに行ってみてからということになりましょうか」
「どれ、ぶらりとその辺りを巡ってみるとしようかの」
「お供いたします」
村正と深夜は建物から抜け出ると、柵を跳び越え山側の林へと分け入っていった。
一方その頃。
「どうだったね?」
「いやね、あんまりの世間知らずなんで驚きましたよ、あたしゃ」
村長の家では、先ほど二人を案内してくれたおばちゃんと壮年の男が集まってなにやら相談をしていた。
「何でも遙か西で商人をしていたそうだよ。扱うのは魔石や遺跡、迷宮の発掘品」
「ほう。商人には見えんがな?」
「そこはほら、【魔物狩り】のついでってことじゃないかねえ。腕は立ちそうだよ」
「【魔物狩り】で【探索者】か。あんな幼い奴隷の少女を連れてとは、いい身分だな」
壮年の男が忌々しそうに顔をしかめる。
「返しきれないくらいの恩があるって女の子が言ってたねえ。男の方は奴隷の扱いはしてないみたいだけど」
「どうだかな。しかし【探索者】か。山の遺跡には近づけない方がいいだろうな」
「そうじゃろうなあ。山の神がお怒りになるじゃろうて」
「赤熊を倒してもらってお引き取りいただくとするか」
「今のところはその方向でいいじゃろう。何もなければのう・・・」
そう言ってずずっとお茶をすする村長。
なにやらこの村にも秘密がありそうである。
さて、村の周りの林の中では。
「ふん。雑魚ばかりじゃな」
今しがた真っ二つにした蛇の魔物をちらりと見やる村正。
その横では深夜が同じように刀をぶら下げている。
「この蛇や夕べの狼などが下級に分類される魔物なのでしょうね」
「となると、あの黒馬や件の赤熊などはそれよりは上、つまり中級ということかのう?」
「データが少ないので何とも言えませんが、上級ということはないかと」
薄暗い林の中を歩いて行く二人。
下級の魔物が散発的に襲いかかってくるのだが、一瞬で切り伏せられてしまう。
時折、深夜の空いたほうの手からビームの様なものが発射され、魔物を穴だらけにしてしまう。光学兵器も内蔵されているようだった。
「パルスレーザーも良好に稼働中です。モードも全て問題なし」
「相変わらず高性能じゃのう。エネルギー切れも無いし」
古代の超兵器【戦闘人形】である深夜は謎のエネルギーで動いているのだ。
よって、エネルギー切れなどとは無縁である。
深夜曰く、「どのような元素からでもエネルギーを抽出できます」とのことだ。
「この世界には、地球には存在しなかった元素があります。私を作り出した【大いなるもの】や【古き神】が操る謎のパワーに相当するようなものです」
「それがいわゆる【魔法】の源なのかのう?」
「おそらくは。仮に【魔素】とでも言えば良いのでしょうか。とても効率よくエネルギーに変換できるので、私としては大助かりでございます」
樹上から襲いかかってきた獣をビームで撃ち抜きながら言う深夜。
深夜の常時索敵範囲は、深夜本人を中心にして半径20m程度。奇襲など成功するものではない。
もちろん、索敵だけに集中すればその距離や範囲は飛躍的に増大するのだが。
「魔法か。可能ならば使えるようになってみたいのう」
「その辺りもアールファの街とやらで調査してみたいものですね」
歩きながら魔物や動物、植物など生命体のデータを採集し分析する深夜。
サンプルを指先から飛び出す極細のマニピュレーターによって取り込んでいく様は非常にシュールだ。
「基本的には地球と同じように生物は作られているようです。違いはやはり【魔素】ですね。どの生き物にも微量ですが【魔素】が含まれています。魔物は体内に蓄積されている【魔素】の量が多いようですね」
「となると、【魔素】によって生物が変質する可能性も考慮に入れる必要があるかの?」
「可能性としては」
「備えあれば憂い無しじゃしなあ」
あまり奥地に行く様なことはせず、村の周辺でデータ収集に勤しむ二人。
各種植物の分析により、どの植物にどんな薬効があるのかも大体把握した。もちろん薬も過ぎれば毒である、毒も少量なら薬にもなるわけであるが。
「この近辺で採取できるものに関しては大体把握できました。必要であれば合成することも可能でしょう」
「そうか。では村に戻るとするかのう」
二人が村へ戻ると、案内してくれたおばちゃんが待っていた。
どうやら夕食をごちそうしてくれるらしい。
「一体どこに行ってたんだい?」
「せっかくじゃから村の周りを見ておったのよ。下級なんじゃろうが魔物もそれなりに狩っておいたぞい」
じゃらりと懐から大量の小さな魔石の入った巾着を取り出す村正。
おばちゃんは驚きで目を見張る。
「この短時間でかい!?」
「そうじゃよ。雑魚ばかりでつまらんかったわい。のう、深夜?」
「そうでございますね」
実際はいくら下級とはいえ視界の悪い林の中、しかも蛇型は毒を持っているし、樹上から突然襲いかかってくる昆虫型など狩りをするには悪い条件ばかり。
この短時間で袋一杯になるほどの数を狩るのは容易なことではないはずなのだが。
「はあ~。あんた、本当に腕の良い【魔物狩り】なんだねえ」
「はい。ご主人様はお強いですから」
感心するおばちゃんに微笑む深夜。
おばちゃんにしてみれば、こんな足手まといになりそうな少女を連れて狩りをする村正の気が知れないのだろうが。
「ところで、魔物の死体はどうしたんだい?」
「うむ、持ち切れんのでな、捨て置いてきた。まずいかのう?」
「うーん、死体漁りが片付けてくれると思うけど・・・。素材になりそうなものもたくさんあっただろうに」
未練がましい目で林を見るおばちゃん。
魔物の死体が金に見えているのだろう。
「まあ、仕方ないさね。とにかく、村長のところに戻ろうか」
「承知した」
実は魔物の素材も深夜の収納空間にほとんど納められているのだが、わざわざそれを教えてやる義理もないと黙っていた村正であった。
村長宅で晩ご飯をごちそうになり、翌日森を案内してくれるという男に引き合わされた村正。
「ビーンだ。よろしくな」
「村正じゃ。こっちは深夜」
お互いに名前のみの自己紹介だ。
別にこれから先長い付き合いになるわけでもないと言うことなのだろう。
「赤熊とやらの特徴を聞いておきたいんじゃがな」
晩餐もほぼ終了というところで村正が口を開く。
ビーンによると、体長は3m強。
鋭い爪と剛力が主な攻撃手段だが、自らに危機が迫るとなんと口から炎を吐くということだった。
「火を吐く熊とな。面妖な」
「魔物とはよくいったものですね、村正様」
「奥の手ってことらしいな。最後まで油断しなければいいってことなんだろうが・・・」
鋭い爪の一撃は鹿や猪すら一撃で絶命させるという。
巨体に似合わぬスピードを持ち、獲物と見定めたら逃がさない執念深さも持ち合わせているという。
「そんな熊がおったら村人は山に入れんのではないか?」
「そう思うだろう。だがな」
ビーンが取り出したのは小ぶりの鈴だった。
「コイツは熊避けの鈴だ。奴らが嫌う音を出すんでな、わざわざ寄っては来ないんだよ。だが、不運にもばったり出くわすこともある。その時は、もう諦めるしかねえ」
「そうなのか?」
「ああそうだ。逃げ切れるわけはねえし、万が一逃げて村まで連れて来ちまったら村が全滅だ。だからそうなっちまったら殺るか殺られるかだな」
まあ、万に一つも勝ち目はねえがなといって肩をすくめるビーン。
なかなか恐ろしい魔物のようだ。
「ふうむ、それは楽しみじゃのう。腕が鳴るわい」
それを聞いた村正は早く戦いたくて仕方ない様だ。
「ところで、この山には魔物が良く出るという話を聞いたんじゃが、赤熊より恐ろしい魔物はおるのかのう?」
「山奥には出るという話も聞くんだが、昔A級の【魔物狩り】が山狩りに入って帰ってこなかったって事件があってな・・・」
そこで言葉を切るビーン。
だが、村正はますます山深くに分け入ってみたい衝動に駆られるばかり。
「それは興味があるのう」
「おいおい、A級だぞ。どうしてもっていうなら【魔物狩り】協会で昇格して正式に依頼と許可をもらってからにしてくれよな」
とんでもないと言わんばかりのビーン。
村正は理解していないが、A級といえば国内ばかりではなく国外まで名前の知れ渡っているような手練ればかりである。
オリンピックでいうところのメダリストか。
「ふむ。確かにハンター証を紛失してしまったような儂の出る幕ではないか」
村正もここで強引に話を進めたところで良い結果にならないことはよく分かっているのでそれ以上食い下がる様な真似はしない。
ひとまずは明日、赤熊を倒してアールファの街に移動できればそれで良いのである。
お喋りなおばちゃんから情報は得たのであるし、山には何かが眠っているということも分かったのだから。
「おう。わざわざ危険に首突っ込むこともねえだろう。いや、赤熊討伐だ。もう首突っ込んじまってるかなあ」
がははと笑うビーン。
そうじゃのうとそれに追随して笑う村正であった。
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