第3話 -狼の襲撃-
夜営中軽く襲撃されるのはお約束ですよね。
<第3話 -狼の襲撃->
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
村正がさっさと眠りについてしまった後、焚き火に枯れ木をくべながら周囲を警戒する深夜。
「しかし、月が二つも存在するとはまさに異世界ですね」
空に浮かぶのは青白く輝く月と不気味な赤い月。
地球で見た月よりもよほど大きく見える。
「衛星との距離が近いということでしょうか」
空気が澄んでいるのか、星もよく見える。
そのまましばらくは何もない時間が過ぎていったが、丑三つ時。
「・・・魔物か?」
むくりと身体を起こす村正。
「そこまでは。複数・・・四足獣のようです」
「オオカミあたりが定番じゃがのう?」
「可能性としてはあり得ます」
まだ姿は見えないのだが、深夜の索敵範囲に敵とおぼしき生物が入ったようだ。
「どれ、この身体ならば存分に技を振るえよう」
村正は傍らに置いてあった刀を手元に引き寄せる。
その間にも獣たちはじわじわと距離を詰めてきている。
「深夜、しばらく手出し無用ぞ?」
「承知しました。危険と判断した場合は助勢致しまする」
「それは構わん。むしろ頼む」
闇の中に光る目が見える。
フォルムはオオカミに酷似しているが、サイズが違う。
それに、地球の野生動物ならばここまで火の側には簡単には寄ってくるまい。
「ふん、襲いやすい獲物と思われておるわけか」
「所詮は獣です」
「舐められたもんじゃな」
鯉口を切ると、すらりと刀を抜き放つ村正。
焚き火の明かりを受けてきらりと刀身が光を放つ。
「どれ、久方振りに血を吸わせてみるとするかのう」
獰猛な笑み浮かべ、抜き身の刀をぶら下げたまま無造作に獣たちに近づいていく村正。
獣たちもその様子に一瞬戸惑った様子を見せるが、所詮は人間一人と侮ったのかぎらりと口元から牙を覗かせると一斉に村正に襲いかかった。
闇に白刃が煌めく。
「ギャウン!!」
複数の獣の断末魔が闇に谺する。
どさりと重いものが地面に落ちる音と立ちこめる血の臭い。
「何じゃ、脆いのう」
ひゅっと刀を一振りする。
その刀身には、たった今四頭の獣を切ったばかりだというのに、僅かの血すらもついていなかった。
「さすがは【無明】よ。ほれぼれする切れ味じゃわ」
しげしげと刀身を見つめる村正。
その瞬間、刀がぶるりと身を震わせたかに見えた。
果たしてそれは目の錯覚か。
「さすがは村正様。畜生などものの数ではありません」
「身体が軽いのよ。これほどとはのう。心が躍るわい。そして流石は【無明】よ。妖刀に相応しい切れ味よなあ」
鞘へと刀を戻す。
この刀、【無明】は日本のとある集落の古い神社の地下から発掘されたものである。
無名の刀ゆえに【無明】と名付けたのは村正本人であるが。
古い伝承に曰く、「妖刀である」と。
刀自体が血を吸うために決して刀身が血で汚れることはなく、血を吸えば吸うほど切れ味を増し、より多くの血を求めるために持ち手を凶行へと誘う妖刀だと。
「封じられるのも頷けるというものよ」
「それを使いこなす村正様は、やはり素晴らしい御方でございまする」
「持ち上げるでないわ」
獣共の死体に近づく村正。
臓物の中から何かをつかみ出すと、深夜へと放る。
「これは」
「昼間の面妖な馬からも見つけたのう。此奴ら魔物とやらからは必ず取れるのか?」
それは黒い宝石のようなもの。
ただし昼間の黒馬のものとは違い、せいぜい直径が3cm程度のものだった。
残りの三頭からも同じような黒い石が見つかった。
「解析できるか、深夜よ?」
「今しております。少なくとも、地球には存在しなかった物質ですね。強いて言えば、石炭のようなものでしょうか」
「石炭?」
「比喩でございます。何らかのエネルギーの塊と推測いたしました」
「なるほど。それで石炭か。言い得て妙よな」
まさか燃やして使うわけではなかろうが、何らかのエネルギーに変換できるということなのだろうと解釈した村正。
「なれば、集めていて損はないか」
「おそらくは」
「まあ良いわ。儂はもう一眠りする。見張りは頼むぞ」
「お任せ下さい」
そうして夜は更けていった。
幸いにというべきか残念ながらというべきか、その晩はそれ以上の襲撃はなかった。
「やれやれ、血の臭いを嗅ぎつけて寄ってくると思ったんじゃがなあ」
朝日の下を歩きながら残念そうな顔でそうこぼす村正。
「そこそこ知能があるのでしょう。魔物というくらいですからね」
「ふん。生意気な獣共じゃな」
鼻を鳴らして毒づく村正とそれを見て苦笑する深夜。
その表情からは、とてもではないが作られたモノには見えない。
「さて、今日も距離を稼ぐとするかのう」
「承知致しました」
「持久力テストと洒落込むか」
全速力で道を駆けていく二人。
もしもその様子を見ている者がいたならば、この二人をこそ「魔物だ」と言ったであろう。
それほど人間離れしている速度だった。
「信じられない速度です。少なくとも人類の枠ははみ出していますね」
「そいつぁ良かった。念願が叶ったってわけだなあ」
歯をむき出しにして獰猛に笑う村正。
心の底から嬉しいと思っているのだろう、笑いが止まらない。
「儂の望みが叶うなら、人なんぞいつでも辞めてやるわい」
村正はどこまでも壊れている男であった。
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