第5話 -呼ばれて飛び出て-
<第5話 -呼ばれて飛び出て->
「まあ、綺麗な海水を煮詰めて漉すだけなんじゃがな?」
翌日、塩作りを実演しながら説明する村正。
この世界の海は基本的に美しい自然のままの海である。
ゴミを取り除けばそのまま使えるわけだ。
「この白いのは硫酸カルシウムじゃ。石膏の主成分じゃな。コレは取り除くんじゃぞ」
そしてさらに煮詰めてさらしで漉す村正。
「この白いほうを乾燥させれば塩のできあがりじゃ。こっちの液体はにがりじゃから別に保存しておけよ。豆腐を作るからな。覚えたか?」
「案外簡単なのですね」
村正に寄り添うようにして桶をのぞき込むスキュラ。
村正の腕に柔らかく大きな膨らみが当たる。
要するに、「当ててんのよ」状態だ。
村正としては非常に幸せなのだが、深夜の視線が痛い。
「……簡単じゃろう。じゃから、大量に作って欲しいんじゃよ」
「大量にと言いますと?」
「そうじゃなあ。とりあえず1トンは欲しいかのう」
海水1リットル当たり20グラム前後の塩が取れる訳だから、1トンを作るためには膨大な量の海水が必要になる。
「総出で頑張りますわ」
にっこりと微笑むスキュラ。
本当に美しい。
腰から上だけ見れば村正的にはかなりいい線いっているので、つい顔もにやけてしまうのだった。
「ついでに魚の開き方と干し方も教えていくから、バンバン作ってくれい。美味いし、いい売り物になるからのう」
塩作りが軌道に乗ったら魚醤作りも伝授せねばと思う村正であった。
米が手に入りそうなので、普通に醤油を醸造する予定の村正ではあるが、魚醤は魚醤でいいものだからだ。
「じゃあ、もうしばらく迷宮にはいて下さるのですね?」
「お、おう。そうじゃな。あと2,3日はいることになるかのう?」
「嬉しい!」
むぎゅうっと村正の腕を掻き抱くスキュラ。
露骨なスキンシップだ。
スキュラとしては、若くていい男が自分を見ても嫌な顔一つせず、普通に接してくれているだけでも嬉しいのに、その男が強くて博識でとくれば好意を抱かない方が無理であった。
腰から上は文句なしの美女。
十分すぎる破壊力を備えたたわわな胸。
蛸の触手のような下半身ではあるが、それを使ったアレやコレやの技にもそれなりに自信はあるのだ。
ましてや魔王である。
化けるだけで良ければ見かけ上は人にだって変身できる。
要するに、スキュラ的には「獲物」なのであった。
別に取って食おうなどと思っている訳ではない。
ちょっと二人でいい気持ちになれればそれでいいだけなのだ。
「ふふ。色々教えて下さいね?」
「お、おう!?」
婀娜っぽく微笑むスキュラにたじたじの村正であった。
結局どうなったのかはご想像にお任せしよう……。
「呼ばれて飛び出たのじゃーっ!!」
とびきり元気のいい声と共に転移魔方陣から飛び出してきたのは、言わずと知れた【獣魔の魔王】カヨウである。
続けてグラスとバステト。
「本当に良かったのでしょうかねえ?」
グラスが村正を見る。
別な魔王の手勢が三柱戦よりも前に迷宮に入ることを心配しているのだろう。
「いいじゃろ。どうせいずれは仲間になるんじゃ。深夜が結界を張っておるからな。三柱の神に気付かれることも無い」
ここはまだ【海魔の迷宮】である。
塩作りと干物作りが出来るようになったので、「二人の魔王の顔合わせをしておこう」と村正が言い出したのだ。
「久しぶりなのじゃ! 元気であったか、村正よ!」
ぴょんと跳ねると村正の背中に飛びつくカヨウ。
尻尾がブンブンと振られていて実に機嫌が良さそうだ。
そのまま村正の顔をべろべろと舐めそうな勢いである。
「カヨちゃんは相変わらず元気そうじゃな」
「もちろんなのじゃ! 魔力隠蔽も上手になったであろ?」
「そうじゃなあ。さすがはカヨちゃんじゃな」
「もっと褒めるが良いのじゃ!」
満面の笑みを浮かべるカヨウ。
それを無表情で見つめる深夜と不満そうな顔で見るスキュラ。
「ん、なんじゃ、この乳のでかい女は?」
カヨウが無邪気にスキュラを指さす。
ぴきーんと表情が凍り付くスキュラ。
「……初めまして、獣魔の魔王。私はこの【海魔の迷宮】の魔王、スキュラよ」
こめかみをぴくぴくさせながら挨拶する。
ちょっとお怒りのようだ。
「おお、お主がこの迷宮の魔王か! 我は獣魔の魔王カヨウじゃ。此度は我の協力者であるムラマサに力を貸してくれるそうじゃな!」
「……そういうことになりましたわ。私も村正様にしっかりと力添えする所存」
何にも分かりませーんという顔で無邪気に笑うカヨウに毒気を抜かれかけているようだが、スキュラも女の意地か、しっかりと胸を主張しながら二人に近づく。
「ムラマサの友なれば我の友じゃ! よろしく頼むのじゃ!」
ひまわりのような笑みを浮かべると、村正の肩を踏み台にしてスキュラへとダイビングする。
「きゃあああああっ!?」
スキュラの正面から飛びつく形になったカヨウは、その豊満な胸に顔を埋める結果に。
「うらやまけしからん!?」
思わず叫んでしまった村正。
体のサイズもかなり違う二人である。
カヨウの小さな頭は完全にスキュラの胸に埋まってしまっている。かろうじて狐耳がぴょこんと飛び出ているくらいだ。
「ぷはあっ! すごいのじゃ! 大きくて柔らかいのじゃ!」
「あっ、ちょっ、やめっ!?」
カヨウが調子に乗ってむにむにもみもみするものだから、スキュラもたまらず少々艶っぽい声を出してしまう。
もちろんそれを見せつけられている村正もたまらない。
「すごいのじゃー。我もいつかこんな風になりたいのじゃー」
無邪気に将来の夢を語るカヨウ。
「が、頑張ればなれるかも知れませんよ……」
やや赤みを帯びた顔でそういうスキュラ。
あまりにもただのお子ちゃま過ぎるカヨウの振る舞いにすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。
「カヨちゃん……。恐ろしい子……」
そう呟く村正に呆れた視線を投げかける深夜であった。
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