第3話 -歓迎?-
<第3話 -歓迎?->
一方その頃。
村正と深夜は球体に守られながら、迷宮を奥へ奥へと潜っていく。
「おうおう、メガロも餌がたくさんでええのう」
「食べ放題ですね」
球体の外を悠々と泳ぐメガロを眺める二人。
体長が10mを超えてより巨大になったメガロは、襲いかかる魔物を片っ端からその巨大な口で丸呑みにしては魔素を吸収し、さらに成長を続けている。
「大きくなれよ、メガロ」
「原潜丸呑みに出来るくらいになってくれるといいですね」
さすがに200m級のメガロドンはホラーを通り越してSFとしか言いようが無い。
宇宙空間でも泳げそうなレベルである。
いや、実際メガロは宇宙くらいなら泳ぐかも知れないが。
メガロの活躍もあって、あっという間に地下20階を踏破してしまった二人。
「こりゃあどういうことじゃ」
村正が不思議がるのも無理はない。
地下21階への階段を降りた先は、ここまでのようなただの海中ではなく、海底神殿のような古代遺跡だったのだから。
「ふうむ。遺跡を見るとわくわくしてくるのう」
トレジャーハンターの血が騒ぐ村正であった。
遺跡の中に入ると、そこまでのような完全な水中ではなく、水に没していない空間も存在していた。
空気もあるようで、毒性のチェックだけを深夜が欠かさず行っている。
「完全な水中では無いのが助かるのう」
「左様ですね。この辺りでキャンプを張るのがちょうど良いかと」
「それもそうじゃな。そうするか」
海底神殿の玄室の一角にまたしてもプレハブを設置する村正。
食事もここまでの簡易的なものではなく手の込んだ料理である。
「うむ。やはり食事は人生において重要じゃなあ」
「喜んでいただければ嬉しいのですが」
深夜は食事は本来必要ないが、食事からでもエネルギーの補給は可能だ。
村正と長く過ごす間に深夜もより人間「らしく」なってきているのだろう。
いつものように、深夜が夜番をし、村正が眠りにつく。
村正が寝入ってしまい、深夜が先日の如く魔石を精錬している時。
「このような夜更けに客人とは」
深夜が作業の手を止めること無く小声で闇に語りかける。
「無粋極まりなし。今すぐ立ち去れば見逃すが?」
「小娘が大言壮語を」
闇から染み出すようにして現れたのは、巨大な蟹であった。
青と赤の甲羅を持ち、両手の鋏が自らの身体ほどもある蟹である。
「我が主は『歓迎の準備を』と仰った。即ち、この【海魔の迷宮】の総力を挙げて迎撃せよということに違いない!」
この蟹の台詞を聞けば、海魔の魔王は顔面蒼白になって首を横に振っただろう。
言葉通りに受け取れないのは下っ端のやられ役のお約束ではあるが……。
「ここで私が真っ先に貴様らを倒せば魔王様よりお褒めの言葉を頂けるに違いない!」
一人興奮して泡を吐きながら勝手なことを宣う蟹。
「五月蠅い。村正様が起きる」
「だからどうし……」
その台詞の先を蟹が言うことは永遠に出来なかった。
なぜなら、深夜が一太刀で両断したからだ。
内臓をぶちまけながら蟹は左右に転がった。
「しまった。ミソが無くなってしまいました。身だけで我慢していただかなくては」
深夜は一つため息をつくと、蟹をぶつ切りにして巨大な鍋に放り込んでいく。
特級魔族を素材にした鉄砲汁だ。
実に贅沢である。
「おお、これは美味いな。蟹なんぞ久しぶりじゃて」
朝、朝食に供された鉄砲汁を食べて村正は大いに喜んだ。
「それはようございました。夕べ、予定外に蟹を手に入れたもので作ってみました」
「うむうむ。さすが深夜じゃのう」
日本人の平均に漏れず、村正も海老、蟹は好物であった。
「となると、次は海老が食いたくなるのう」
「機会があれば必ずや」
海老型の魔族が出てくるといい、そう深夜は祈っていた。
「死ねええええっ!!」
二足歩行のザリガニが大量に村正と深夜に襲いかかる。
深夜の祈りが通じたのか、遺跡に侵入してすぐにわき出てきたのだ。
「儂の思い描いている海老と何か違うんじゃよ」
「ザリガニも確か海老の仲間ですが」
「ハサミがでかいのがザリガニじゃったか?」
「海老の仲間は分類が多すぎて困ります」
襲い来るザリガニ怪人をばっさばっさとなぎ倒しながら、二人は空気を読まない会話を繰り広げている。
「食べたら美味いんじゃろうというのは分かるぞい」
「では、大量に食材を確保と参りましょう」
結局、ものすごい数のザリガニが手に入ったのだった。
「オマール海老やロブスターだと思えば美味そうに見えるから不思議じゃな」
「何事も気の持ちようでございますね」
深夜の料理した海老料理は確かに美味であったそうな。
腹ごしらえを済ませると、本格的に遺跡の探索を始める二人。
ただし、遺跡とはいってもゲームのようにランダム配置の宝箱があるようなことはない。
「この遺跡はいつ頃のものなんじゃろうなあ?」
「さすがに分かりかねます。炭素で測定できるか試してみますか?」
「そこまではいいじゃろ。例の古代魔法文明期の遺跡であれば、メガロのような魔法兵器が残っているかもと思っただけじゃ」
実はこの遺跡は、それよりもさらに古い古代精霊文明の遺跡なのだが、さすがにそんなことまで二人に分かるはずはない。
魔法ではなく、人が精霊と共にあったある意味原始的な超文明の遺跡なのだ。
「今はただの遺跡じゃろうから、細かいことはこの迷宮の魔王に聞いてみるとするか」
別に侵入者を排除するための建物では無いわけだから、罠や仕掛けがあるということも特になく、ひたすら道なりに進んでいく二人。
深層に潜れば潜るほど、雑魚でしかない魔物の数は減っていく。
そういう意味では、道中は快適であった。
「魔族が出てこんのう」
「そうですね。どこかで待ち構えているのでしょうか」
「階段の前で『ここを通りたくばオレを倒してから行け!』的な展開かのう?」
よくある話だ。
「歓迎してくれるということですね」
「まあ、そうじゃなあ」
言葉とは難しいものだとつくづく思うわけで。
魔王の配下である四天王は、自らの主の「歓迎」という言葉を裏読みしたわけだ。
ちなみに、どの魔王にも直属の四天王が存在する。
言ってみれば魔王を大将として、先鋒、次鋒、中堅、副将がいるわけだ。グラスのような参謀格の五人目がいることは実は少ないのであった。
「村正様」
深夜が道の先を指さしながら村正に呼びかける。
そこには無数のとげが生えた黒い球体が浮かんでいた。
「……ウニ?」
村正がぽつりと呟く。
その姿は異様ではあったが、間違いなくウニであった。
「ウニですね」
「美味そうじゃな」
村正の脳内ではすでに食料にしか見えていない。
「下へ行きたければオレ様を倒してから行くがいい!」
無駄に渋いボイスが聞こえてきた。
「ウニは黙っておれ」
「ウニ?」
「貴様のような美味な食べ物のことじゃよ」
「このオレ様を食い物だと!」
何やら怒っているようだ。
まあ、魔王直属の四天王である超級魔族を食料扱いするのはどうかと思うが。
「無礼な人間め。報いを受けるがいい!!」
ウニが空中で勢いよく回転を始める。
体当たりしてくる気なのだろうか。だとしたらお約束過ぎる。
「死ねえっ!」
「お約束にもほどがあります」
深夜がすっと村正の前に進み出ると、猛スピードで突進してくるウニのとげをがっしと両手で一本ずつつかまえると、いとも簡単に受け止めてしまう。
「ばかなっ!」
ウニが叫ぶ。
と同時に、魔王の座でも迷宮の魔王が「馬鹿なっ!」と叫んでいた。
ウニの突進があっさりと深夜のような幼女に受け止められてしまったからだろうか。
「歓迎の準備をしろって言ったでしょ!?」
「はい」
「なんで戦闘してるの!?」
「はい?」
白髪骸骨の爺が首をかしげる。
話が通じていない。
「だから、『歓迎の準備を』って言ったわよね?」
「はい。ですからこうして四天王が『歓迎』を……」
「……?」
きょとんとした顔の魔王。
その美しい瞳が、くわっと見開かれる。
「そうじゃなくて~!!」
頭を抱える魔王。
爺もぽんと手を打つ。
骨だからぽんっとは鳴らないのだが。
「なるほど。文字通りの『歓迎』でございましたか。爺も四天王もてっきり」
「ちゃんと言わなかった私も悪いけど!」
「はっはっは。魔王様が『歓迎』なんて言ったら普通は裏の意味でとりますがね」
カタカタとあごの骨を鳴らしながら笑う爺。
「そうだけど……」
「困りましたね。四天王はそれぞれの階でおそらく待ち構えているかと。魔王様に良いとこ見せようとして、きっと張り切っておりますよ?」
「うう。今からでも遅くないわ。文字通りの歓迎の準備を!」
「畏まりました。ですが、現在の戦闘はいかがいたしますか?」
映像の映し出される石版を見ながら魔王を見る爺。
石版の中では、とげをつかまれ、完全に動きを封じられたウニが騒いでいる。
「ヤツが食料にされてしまう前にどうにかしないと……」
「不肖私めが行ってお詫びして参りましょうか?」
カクンと頭部を傾けながら言う爺。
「……いえ。やはり筋は通さないと。私が直接行くわ」
「危険すぎます!」
意を決した魔王を諫めようとする爺だったが、魔王の決意は固いようだ。
見かけによらずしっかりした考えの魔王であるようだ。
「こういうことはトップが出て行かないと納得しないものよ」
「さすがでございます、魔王様。爺、感服致しました」
感激のあまり泣き出してしまいそうな爺。
もちろん骸骨なので泣かないが。
「さて、このウニは美味いかのう?」
「割ってみないことには分かりませんね。新鮮ではあると思いますが」
「じゃあ、さっくり割ってみるか」
承知しましたとばかりに深夜がウニを大きく振りかぶる。
そのまま地面に叩きつけようというのである。
割れるどころか中身も大惨事になってしまうのではないかと思うのだが、そこは多分上手くやるのだろう。
「お、お待ち下さいっ!!」
今まさに振りかぶられた両手が振り下ろされんとしたその瞬間、艶っぽい美声が辺りに響き渡る。
もちろん海魔の魔王である。
その容姿に似合う美声である。
下半身蛸だけど。
「待て」
「はい」
ぴたりと深夜の両腕が止められる。
空中で逆さまになって固定された巨大なウニが何か言っているが当然無視。
「何者じゃ?」
「ご想像の通りでございます。私、この【海魔の迷宮】の魔王をしておりますスキュラと申します。我が配下のご無礼、平にご容赦を」
殊勝に頭を下げるスキュラ。
普段と違って上品な喋り方だ。
「スキュラか。なるほど、確かに神話でもメガラ王の娘がそんな名前じゃったな。個体名が種族名になるというヤツじゃな」
一人納得する村正。
「私の言った『歓迎』という言葉をあえて深読みしてしまったようで、早まった真似を致したようなのです。この通りです。食べないであげて下さい」
「この爺も謝罪致しますので。少々頭の足りんウニのしたことですので水に流していただけると嬉しいのですが」
なにげに酷いことを言う爺であった。
「如何なさいますか?」
深夜が村正に確認を取るように視線を投げかける。
「ふうむ……」
腕組みをして思案する村正。
ややしばらくして口を開く。
「このウニより美味いものを食わせてくれたらよいぞ?」
ニカッと笑う村正。
どれだけ海の幸を楽しみにしていたのかと問いたい。
「お任せを。この爺めが責任を持って」
お読みいただきありがとうございます。




