第2話 -水中への侵入-
<第2話 -水中への侵入->
「よく寝たわい」
村正がのそりと起き出す。
いくら深夜が夜番をしてくれるとはいえ、こんな環境で熟睡できる村正も肝が太いと言わざるを得まい。
「おはようございます、村正様。朝食の準備は出来ております」
「うむ。いつもすまんの」
深夜の用意してくれた朝食をかきこむ村正。
「やはり米じゃな。お茶漬けが恋しいわい」
「この迷宮の後は、西部で米を手に入れる算段ですか」
「そうじゃな、そうするか。しかし、儂らの前にもこの世界に来たもんがおったんじゃろうなあ」
その人物が持ち込んだのか、似たような作物を改良に改良を重ねて日本米の形にまで持っていったのかは分からないが、その人物にはいくら感謝の念を捧げてもかまわないと思う村正であった。
やはり日本人にとって米とは切っても切れないものなのだった。
「よし、では行こうかのう」
片付けを済ませると、地下11階への階段を降りていく二人。
まだ完全に水没したりはしていないが、膝下くらいまではひたひたと水に覆われてしまっている。
「動くのには邪魔じゃな」
「魔法なり飛び道具なりが有効でしょう。これを」
何時もの村正用のエネルギー兵器を手渡す深夜。
「初級魔法の訓練でもしながら行くとするか……」
くるくると銃を手で回しながら村正が呪文を唱える。
すると、村正の掌に光が現れたかと思うと、周囲を明るく照らし始める。
初級魔法【光明】である。
「なかなか便利じゃな。この世界の魔法の訓練は必須じゃなあ」
「村正様の魔素内包量は人族としては異常なレベルです。魔法の訓練は村正様にとって間違いなくプラスとなりましょうや」
内包量だけではなく、周囲から魔素を取り込むことも可能なため、理論上は無限に魔法を使い続けることが村正には可能である。
「その辺りはおいおい……じゃな」
村正が銃を抜き打つ。
エネルギー弾が続けざまに発射されると、水面から今まさに飛び出そうとしていた魚型の魔物が弾け飛ぶ。
同時に深夜の右腕が水平に何かをなぎ払うように振るわれると、盛大に水しぶきを上げながら前方に集まってきていた魔物が全て粉々の肉片となって吹き飛んだ。
「やれやれ。数ばかり多くてもつまらんわい」
「掃討はお任せ下さい」
「任せた」
村正にそう言われた深夜は、喜々として雑魚魔物を倒していく。
まさに見敵必殺である。
というか、見えてもいないのに敵は倒されていくのだが。
気がつけばすでに二人は15階に到達していた。
上級の魔物が出てくるようになったが、超級魔族すら苦にしない深夜がいるので困ることなど一切無い。所詮魔物である。
「さて、この次くらいから完全に水没する感じかのう?」
「行ってみないことには分かりかねますが、そろそろでは無いかと」
すでに水位としては泳がなければ先には進めないレベルである。
人族のハンターがこの環境で無数に襲い来る魔物を倒しながら進むのはおそらく不可能であろう。
上級の魔法にはこうした水中環境に適応できるような魔法もあるらしいが、現状村正には使用することは出来ない。
頼みの綱は深夜のオーバーテクノロジーだ。
「仕方ない。よろしく頼むぞ、深夜」
「万事お任せ下さいませ」
階段を下っていく途中ですでに水没していたため、深夜の空間支配によって球体状のスペースを作り出しその中に入る二人。
「海底遺跡を探索した時を思い出すのう」
「左様ですね」
太平洋に沈む海底遺跡を探索しに行ったことを思い出している村正。
あの時も凶悪な水棲生物相手に大変じゃった……などと少し遠い目になってしまう。
16階に降りてすぐに、巨大な鮫のような魔物が群れをなして球体に向かって突撃してくるが、二人ともまるで慌てるそぶりを見せない。
それもそのはず、球体に向かって突撃してきた魔物はまるで壁に衝突したかのように東部をひしゃげさせて自滅してしまったのだ。
「この程度の突撃では無駄じゃな」
「生物のサイズであれば問題ないかと。さすがにオハイオ級やタイフーン級に全速力で体当たりされると困ります」
世界最大の原潜を引き合いに出されても困る。
ちなみに困るのは、スペースが破損するからではなく、吹き飛ばされるからだ。
さすがに核ミサイルの直撃にはさすがに耐えられないだろうが。
鮫型の魔物も仲間が体当たりして自滅する様を見て警戒しているらしく、球体を取り巻くようにしてぐるぐると回遊している。
「放置しますか?」
「いんや。この迷宮の魔王には伝わっておろう。儂らの力は見せつけておく必要があるじゃろうなあ」
悪そうな笑みを浮かべる村正。
「畏まりました」
深夜は恭しく頭を下げると、球体に両手を触れる。
一瞬、辺りが白く光ったかと思うと鮫型の魔物が全滅していた。
強力な電撃が球体を介して全周囲に発せられたのだ。
「見事」
「恐悦至極に存じまする」
一礼する深夜。
「……ねえ、爺」
「……なんでございましょうか?」
その頃、最下層の魔王の座では。
煌びやかに装飾された椅子に座り、美しく磨かれた鏡に映る映像を眺めながら海魔の迷宮の魔王が側近とおぼしき白髪の老人に話しかけていた。
海魔の迷宮の魔王は、非常に美しい、青い髪の女だった。
サファイアブルーの髪と瞳。
磨き抜かれた美しいパールホワイトの肌。
宝石で飾られたティアラや耳飾りがより美しさを引き立てる。
そして、巨大な二つの膨らみを隠す申し訳程度のチューブトップ。
美の化身と見紛うばかりの美貌である。
上半身だけは。
その下半身には、無数のぬるりとした蛸の足のような触手が生えてウネウネと蠢いているのだ。
いわゆるスキュラと呼ばれるタイプのモンスターであった。
ちなみに爺と呼ばれたのは海賊のような服を着た白髪頭の骸骨であった。
骸骨なのに白髪とかどうよと思わないでもないが、モンスターに常識を求める方が間違っているのだろう。
「アレ、本当に人なのかしら……」
「爺には分かりかねます」
「現実逃避しないで、爺。ここまで来ちゃう……よね?」
「来るでしょうね」
「逃げてもいいかな……?」
「魔王としてそれは許されません、姫」
平坦な口調で言う爺。
ビビり気味のスキュラの魔王に比べると落ち着いているように見えるが、カタカタと体中から骨が鳴る音が聞こえるところをみると、爺も同じくらいビビっているのだろう。
「久しぶりに水中まで侵入者が現れたっていうから見てみれば……」
「まさかこんな規格外の侵入者だったとは驚きですな」
「迷宮戦争が始まる前に陥とされちゃうんじゃ」
「いえ。むしろ好機ととらえて、協力者になっていただくのはどうでしょう」
「それ、いいわね。ナイスアイデアよ、爺!」
「お褒めにあずかり恐縮です」
恭しく一礼する爺。
「そうと決まれば準備ね。歓迎してあげなくちゃ」
うきうきと歓迎の準備を始める魔王であった。
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