第6話 -次は塩と秘宝を手に入れに行くそうです-
とりあえず次の目的地が決まったようです。
<第6話 -次は塩と秘宝を手に入れに行くそうです->
「まだまだ美味い物があるのじゃ?」
「あるともよ、カヨちゃん。どれ、食い倒れと洒落込もうかのう」
そうして一行は屋台をハシゴして、ひたすら食いまくった。
主にカヨウが。
「ふわー。もう食べられないのじゃー」
芝生の上にごろんと寝転がって、カヨウが幸せそうなため息をつく。
グラスとバステトも似たようなものだ。
「どうじゃ。食い物の力は素晴らしいじゃろう?」
「まったくなのじゃー」
「こういった侵略の仕方もあると学びましたよ」
「グラスは聡いのう。そこで、こんな計画じゃ」
村正は、グラスに先ほどの「砂糖を迷宮で生産しよう計画」を打ち明ける。
同様に、「発酵調味料大作戦」と名付けた味噌と醤油の生産もだ。
「できれば塩もどこかで発見できるといいんじゃが、そんな迷宮に心当たりはないか?」
迷宮は独立した一個の異世界のようなものだ。
もしかしたら、迷宮内に海があったり岩塩が採れたりする迷宮もあるかも知れない、そう村正は考えたのだ。
「海の迷宮なら存在します。【海魔の迷宮】がそうですね。迷宮中層より下層が全て海中に没していて、水中に適応できないと攻略できませんが」
「そりゃあ反則級じゃな。まあ、何とかなるじゃろ。攻略対象迷宮の第一候補にしておくとするか……」
村正としては調味料は秘宝のカテゴリに入るのであるからして。
食に賭ける情熱は人類の進歩のエネルギーである。
米に関しても、おそらく昔この世界に異世界転移した者が広めたのだろう、西方で細々と栽培されているのを確認済みだ。
いずれ砂糖同様、迷宮内で大々的に育てようともくろんでいる村正だった。
「村正様の計画通りにいけば、【獣魔の迷宮】は【農業の迷宮】とでも呼ばれるようになるのかも知れませんね」
そういって苦笑するグラス。
「それでよいではないか。魔族と人が和解するには、そんなところから始めるのが良いのかも知れぬぞ?」
「のじゃ! 美味いものはみんなを幸せにするのじゃ。我は今日、そのことを確信したのじゃ!」
カヨウが両拳を空に向かって突き上げる。
小さな第一歩が踏み出された瞬間でもあった。
「さて、ちょいとギルドへ顔を出しにいこうかのう」
「大丈夫なのですか?」
若干不安げなグラス。
「まあ、大丈夫じゃろう。魔力さえ隠しておけばのう」
「分かったのじゃ。信用しておるのじゃ!」
カヨウに一点の曇りも無い笑顔を向けられては、その信用を裏切らないようにと内心決意を新たにする村正であった。
「おおー、ここがギルドなのじゃ」
一瞬ギルド内にいた者たちが「?」を頭の上に浮かべるが、後ろから入ってきた村正と深夜を見て関係者だと察したらしく、精神的に受け入れ体制を整えたようだった。
「ムラマサさん、そちらの皆さんは?」
「ああ、儂の連れじゃよ。他の都市を巡っておる時に知り合ってのう。アールファへ来るというから街を案内しておったのよ」
ブリジットに対してあらかじめ打ち合わせてあった通りの作り話をする村正。
「それでの。ヴィヴィアンはおるか?」
「執務室にいらっしゃいますう」
「済まぬが、例の件で話があると伝えてもらえるか。そういえば分かるはずじゃ」
意味ありげに言ってウィンクする村正。
ブリジットは「少し待って下さい~」と微かに顔を赤らめながら走って奥へと消えていった。
「胸の大きな女の人なのじゃ!」
「素直なのも考え物じゃな……」
苦笑する村正。
ギルドの誰もが思っていてもなかなか口に出せないことをさらっと言われたからだ。
「我もいずれあんな風になるのじゃ?」
「期待はしておこうかの」
「ウチもああなる予定なのニャ。ぱっつんぱっつんのワガママボディになるニャ」
ポーズを決めるバステトだったが、いまいち決まり切っていないのは理想のボディにはほど遠いからか。
「まあ、夢を見るのは自由じゃからな」
「扱いが違いすぎるのニャ!?」
「ヴィネのようになれるといいのじゃ!」
「あー、ヴィネはのう……。首から下だけじゃったらのう……」
遠い目をする村正であった。
そんなアホな会話をしていると、ブリジットが胸をゆっさゆっさと揺らしながら戻ってきた。
「すぐに執務しに来るようにとおっしゃってましたあ」
「そうか。すまんの」
「どういたしましてえー」
にっこりと微笑むブリジットに礼を言うと、村正たちはヴィヴィアンの執務室へ。
部屋へ入るなり、カヨウがヴィヴィアンに飛びついた。
「久しぶりなのじゃ! 元気なのじゃ?」
「もちろんよ。カヨウちゃんも元気みたいね」
「我はいつでも元気なのじゃ!」
ヴィヴィアンにぎゅっと抱きついて抱き返されて喜ぶカヨウ。
まるで親子のようではないかと村正は思った。
「今のところ騒ぎは起こっとらんから安心せえ」
「みたいね。その調子で頼むわ」
まあ、騒ぎと言えば、カヨウの愛らしさにハートを打ち抜かれる住人が多かったことくらいか。
さすがは魔王、魔力を隠していても基礎ステータスの高さはハンパ無いのである。
魅力も。
「街は楽しいのじゃー。美味しいものが一杯で幸せなのじゃー」
「良かったわねえ」
そう言って微笑みながらカヨウの頭を優しくなでるヴィヴィアン。
「こんな美味しいものを作れる人間を滅ぼすとか、いくら闇神様でもダメなのじゃー」
「食べ物の魅力で魔族の考え方が変わるとか……」
「いやいや、ヴィヴィアンよ。馬鹿にしたもんではないぞ。美味いものは万国共通、食は世界を救うのじゃ」
呆れた顔をするヴィヴィアンを村正がたしなめる。
こんな平和的な手段で民族の和解が成立するなら素晴らしいことではないか。
戦争は、突き詰めれば資源の奪い合いか狂信なのだから。
衣食住を満たすことは重要である。
「それくらい分かってるわよ。ただ、ちょっともやっとしただけよ」
気持ちは分からないでもない。
「それはそれとして、話がある」
「真剣な話かしら?」
「勿論じゃ。この街の今後にも関わってくる重要な話ぞ」
「聞きましょう」
村正は、先ほども考えていた【獣魔の迷宮】の自然環境を利用して、サトウキビや稲作を推し進めて、この東部地方の特産品にしたい考えを明らかにする。
そして、【海魔の迷宮】を制圧して、塩も自給自足する案もだ。
「正気か?」
「勿論じゃよ。砂糖と塩はこの国の情勢を変えかねない特殊な産物じゃ。個人的には稲と豆、そして芋もじゃな。その作物が【獣魔の迷宮】で魔王の協力の下に生み出されていることは、きっと人と魔族の関係にプラスになるじゃろうて」
そう上手くいくかしらとヴィヴィアンは首をかしげる。
塩と同じく、【獣魔の迷宮】を制圧して人族の物にしてしまえばいいと言い出す輩が必ず現れると踏んでいる。
だが、そんな簡単なことを村正が見落とすだろうか。
「まあ、愚か者共には魔王の本気を見せてやらねばならんじゃろうがなあ」
悪そうな笑みを浮かべる村正。
必要とあれば力を振るうことを躊躇わないのがこの男である。
「ギルドが窓口になることで、お主の発言力も強まろうさ」
「それはそうかもしれないけど……」
確かに儲け話にはなるし、そうなればこの東部地方の重要性は恐ろしく高まるだろう。
だが、急激に東部地方の重要性が高まることによって軋轢も生まれる。
そうしたリスクと自分、ひいては東部地区の優位を天秤に掛けて正確に測る必要があることをヴィヴィアンは正確に理解していた。
「とりあえずは儂が個人的にどこからか運んできていることにすれば良い。その間にカヨちゃんをアールファに馴染ませ、各種産物が東部に無くてはならないものだと認知させるんじゃ。分の悪い賭ではあるまいよ」
「賭けであることは認識しているのね」
「当たり前じゃ。仮にも魔王と人族を結びつけようとしておるんじゃ。これが賭けでなくて何じゃ?」
悪い笑みを浮かべる村正。
一種狂気を感じさせる笑みを見て、ヴィヴィアンもニヤリと笑う。
「ハイリスク、ハイリターンってやつね」
「そうじゃ。よく言うじゃろう。狂気の沙汰ほど面白いんじゃぞ?」
呵々と笑う村正。
「難しい話は止めるのじゃー。我にも分かる話をするのじゃ?」
二人の間に空気を読まないカヨウが割って入る。
ぷんぷんしているのもまた可愛いものだ。
「おお、すまんのう」
「ごめんね。ちょっと未来の話をしていたのよ」
「我に関係有る話なのじゃ?」
「なのじゃよ。まあ、小難しい話はここまでにしようか。して、カヨちゃんよ。【海魔の迷宮】を攻め落とす話は問題ないか?」
実際に【獣魔の迷宮】での栽培も始まっていないのに捕らぬ狸の皮算用をしていても仕方ないと思ったのか、村正が話題を変える。
「うー。グラスよ、どうなのじゃ?」
「可能であれば問題ないかと。ただし、我々魔族が同行することはルール違反です。村正様と深夜様が侵攻、陥落させる分には問題ないでしょう」
グラスが言うには、迷宮戦争開始以前に魔族同士が迷宮の取り合いをするのはルール違反であり、闇神様の介入が発生する恐れがあるのだという。
人が迷宮探索をして、万が一、億が一、魔王を倒して迷宮を支配下に置く分にはどんなルールにも抵触しないので闇神様も文句の付けようが無いだろうとのこと。
「ただし、勇者誕生以前にそんな事態が起こってしまえば、二柱の姉神たちが介入してくる恐れもあります。難しいところですね」
あごに手を当てて難しい顔をするグラス。
「ふむ。魔王を倒さねばいいのじゃろう?」
「確かにそうですが、村正様はすでにカヨウ様の協力者でありますから、別な魔王の協力者になるわけには……」
「違う違う。魔王を儂に協力させるんじゃよ。誰にもバレなければそんな関係だと気付かれることもあるまいさ」
「何と……」
村正のあっけらかんとした提案に絶句するグラス。
確かにそれならばどのルールにも引っかからない。
魔王が人に従属しているなど誰も考えつかないだろうから、関係者が口を噤んでいれば明るみに出ることは無いはずだ。
「さすがムラマサなのじゃー!」
「そ、そうだニャ……。普通の人間は魔王を自分の奴隷にしようとか思わないニャ」
「奴隷とは人聞きの悪い。ちょっと儂の配下になってもらおうというだけではないか。いや、それも違うな。深夜の配下に、じゃな」
そういって深夜を見る村正。
深夜は相変わらず無表情に澄ましたままだ。
「私は村正様の従者ですから、私の配下と言うことは村正様の配下です」
「まあ、形式的なもんじゃよ。気にするでない」
呵々っと笑ってヴィヴィアンを見る村正。
「というわけじゃ。儂と深夜はちょいと【海魔の迷宮】の攻略に行ってくるぞい」
「止めるだけ無駄なんでしょう?」
「そうじゃな。塩もじゃが、海魔の秘宝に興味が尽きぬわ。楽しみで仕方ない」
海魔の王が隠し持つという秘宝はどんなものかと思いをはせる村正。
危険なハンターが【海魔の迷宮】に挑む。
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