第5話 -魔王様、街へ行く-
<第5話 -魔王様、街へ行く->
「とりあえず四天王は全員留守番じゃ」
「なぜだっ!?」
こうして始まった「カヨちゃんの初めてサポート会議」であるが、いきなり紛糾している。冒頭の四天王はお留守番発言によって。
「仕方あるまいよ、アステリオス。お主らは魔力を隠せない」
「うぐぐ」
「……確かにそうだけど、バステトくらいは」
「ウチは多分大丈夫ニャよ?」
「もともと暗器使いで隠密機動性も高い。まあ、グラスとバステトは大丈夫か。猫人もこの世界にはおるしのう」
獣人は結構種族が多いので、そのあたりはごまかしやすい。
グラスも犬人種族でいけるし、カヨウ自体も狐人として振る舞えばいけるだろう。
「……仕方ないねえ、こればっかりは」
「そうじゃな。まあ、お主らも修行にかける情熱の20パーセントで良いから、魔力隠蔽の訓練に費やすんじゃな」
「自らの強さを隠せというのか?」
タケマルが若干苛ついた感じを表に出す。
超級魔族であり、スピードとパワーがウリの鬼だ。
自らの強さを隠すなどプライドが許さないのだろう。
「そうじゃ。その方がこれから都合が良いでのう」
「何故だ?」
「お主ら、初めて深夜と試合うた時、どう思った? 深夜を強者と看破できたか?」
「それは……」
昔を思い出したのだろう、表情が曇る四天王。
「常に強さをアピールして歩くなぞ、愚か者のすることよ。獣のようなものじゃ」
「……そうかもねえ」
ヴィネがぽつりと呟く。
本当に実力のあるものは、決してそうと周囲に悟らせない。
相手に僅かでも情報を与えず、全力を出し切ること無く自らの思惑の通りに戦いをコントロールする。
それこそ強者だと村正は言う。
「深夜のような、神にも比肩するような力の持ち主ならそれでも良かろう。だが、お主らはそうではあるまい。深夜とて全ての力を見せたわけではないし、普段は完璧に力をコントロールしておろう」
何時も通りに無表情を貫く深夜を四天王が見つめる。
「よいか。自らの力を完全にコントロールできぬ強者など紛い物じゃ」
「……分かった。魔力隠蔽の訓練もしよう」
ぽつりとタケマルが呟く。
アステリオスも激しく首を上下に振っている。
「分かってくれて嬉しいぞい」
うむうむと力強く頷く村正であった。
「それでじゃ。カヨちゃんがアールファの街を満喫するためにはいくつか条件がある」
「何なのじゃ! 我はがんばるのじゃ!」
目をキラキラさせるカヨウ。
尻尾がバタバタと揺れ動いている。
「まずは魔力を外に漏らさぬ事じゃ。すぐにバレる。尻尾は幻術で隠せるからよいじゃろう。そして街ではカヨちゃんは狐人族、グラスは犬人族、バステトは猫人族じゃ。獣人の真似事など本意では無かろうが我慢せい」
「大丈夫なのじゃ。我はそんな我が儘いわんのじゃ!」
若干嫌そうな顔をしたのはバステト。
だが、カヨウがこの調子なので文句など言えない。
「儂が他の街で知り合った獣人で、たまたま用事で東へ来る用事があったということにする。ハンター登録せずとも儂がいれば大丈夫じゃしな」
「そうなのかー。ムラマサはすごいのじゃ!」
「ありがとうよ。仮に何か問題が起きたり、揉め事になりそうな時は必ず儂か深夜に知らせよ。どうにかしてやる。ぷちんと切れて騒ぎにせぬようにな」
常に一緒に行動する予定なのでそんなことは起こらないと思いたいが、一応保険として釘を刺しておく。
町中でぷっつんきて爆発されたら街が滅びるかもしれない。
少なくとも、普通の獣人ではないことがバレるし、魔族だとバレた場合は国を挙げての大騒ぎになること請け合いだ。
「これが上手くいけば、街の住人とも知り合いになれるじゃろうしな。街に溶け込んでおけば、最終目標の『みんななかよく』に一歩近づくわけじゃ」
「のじゃ!」
「というわけで、上手くやってくれ」
「分かったのじゃ。何かあったらすぐムラマサにいうのじゃー」
念願叶って迷宮を出て人間の街へ遊びに行けるとあって、すでにカヨウのテンションはアゲアゲMAXである。
そんなカヨウを眺めているだけで表情が緩んでしまうその他の面々であった。
可愛いのは得である。
「これが街なのじゃ!?」
アールファの街を囲む防壁を見上げてカヨウが驚きの声を上げる。
迷宮の外にあるものは全て珍しいらしく、見るもの全てに反応するカヨウ。
「そうじゃ。ここが街道の東の果ての街アールファじゃよ」
「予想以上に大きいですね。この間は転移で建物の中に直接飛び込みましたから」
「予想外なのニャ! 人が一杯いるニャ!」
グラスとバステトもキョロキョロと辺りを見回している。
すっかりおのぼりさんである。
「この後街に入るのに警備兵に確認を取らねばならん。何と言うんじゃったかな?」
「我らはガーンマの街のそばの集落出身の獣人なのじゃ!」
「そうじゃ。あまり大きな街には慣れていない田舎者を装うんじゃぞ。後は儂に任せておけい」
こくこくと頷くカヨウ。
こうして見れば、三人ともただの獣人にしか見えない。
だが、一人は魔王。残る二人は超級魔族である。
誰か一人でこの街を滅ぼすことだって出来てしまうのだ。
順番待ちの列に並んでしばらくして、村正たちの順番がきた。
「あれ、ムラマサじゃねえか。なんで並んでるんだ?」
見知った顔の警備兵が不思議そうな顔で話しかけてきた。
「いやな、儂はいいんじゃが、知り合いが用のついでにアールファの街によるというんで付き合っとるんじゃよ」
くいと顔を動かして三人を見る。
「ムラマサの知り合いなのか?」
「そうじゃ。ガーンマの街で知り合ったんじゃ。こっちが犬人族のグラスで猫人族のバステト。狐人族のカヨウじゃ」
「よろしくなのじゃ!」
愛想良く笑って手を振るカヨウ。
あまりの可愛らしさに警備兵の顔も緩んでいる。
「よろしくな。ムラマサの知り合いなら問題ないだろうが、一応保証金だけはもらう決まりだ。いいか?」
「ええ、構いませんとも」
「もちろんだニャ」
保証金を払うと、問題なく街へ入ることが出来た。
アールファの街はいつものように賑やかだ。
「おおお、これがアールファの街なのじゃ!」
「人の数が多いですね。個体の戦闘力は低いようですが、この数は侮れません」
「なに、お主らならこのへんの一般人が千人束になっても問題ないわい」
呆れ顔の村正。
グラスは参謀気質のため、質より量も念頭に置いているのだろう。
「とりあえず、街へは乗り込んだわけじゃが、まずどうする?」
「賑やかなところに行きたいのじゃ! 村正が前に言っておった市場とやらに行ってみたいのじゃ?」
「分かった。ではそうしよう」
一行は、村正を先頭にして街の市場へと向かった。
「すごいのじゃー。たくさん物があるのじゃー」
市場は大勢の人で賑わっていた。
この街に住んでいる者はもちろん、商売をするために街道を行き来する商人たちも店を広げているのだ。
「美味そうな匂いがするのじゃ!?」
カヨウがくんくんと鼻をひくつかせてふらふらと市場を横切っていく。
慌ててそのあとを着いていくグラスとバステト。
カヨウが辿り着いた先は食べ物屋の屋台であった。
「なんじゃ、クレープか」
「あら、ムラマサさんじゃありませんか。お一つどうぞ」
屋台でクレープを焼いていた女が村正の顔を見て顔をほころばせる。
何を隠そう、小麦粉を使ってクレープを売るのは村正の発案であった。彼女の依頼を受けて、「何か新しい名物になりそうな食べ物」を考えた結果である。
現代知識万歳だ。
「儂はええわい。この娘にやってくれ」
屋台の縁に手を掛けて目をキラキラさせているカヨウを指さす。
よだれを垂らさんばかりだ。
「あら、この子は?」
「儂の知り合いの娘でな。カヨウというんじゃ」
「カヨウなのじゃ! よろしく頼むのじゃ!」
「元気で可愛い娘さんね。じゃあ、お一つどうぞ?」
差し出されたクレープを満面の笑顔で受け取ると、早速パクリと食いつくカヨウ。
その顔が驚きに彩られ、笑みへと変化する。
「甘いのじゃ! そして美味いのじゃ!」
生クリームの製法もバターの製法も村正が伝えた。
乳を取るための牛や山羊もこの辺りは豊富であるから、作り放題である。
砂糖に関してはこのあたりではなかなか産出されない貴重品であるため、大森林のエルフの協力を得て、木や蔦から採れる甘い樹液を煮詰めて甘味を作って代用している。
早くサトウキビや甜菜が見つかるといいと村正は考えていた。
そこで、サトウキビは南から密輸して、迷宮で育てればいいかと計画しているのであった。
そうすれば、手っ取り早く砂糖を手に入れることが出来る。
「美味しい? このお菓子は、ムラマサさんが考えてくれたのよ?」
「そうなのじゃ? ムラマサは天才じゃな!」
あまりのカヨウのはしゃぎっぷりに、バステトとグラスもそわそわし出す。
「この二人にも作ってやってくれ。初めて食うからな」
「それはそうですよ。この街でしか今は食べられませんからね」
手際よく水で溶いた小麦粉を薄く広げて焼いていく。
特製の搾り袋から生クリームを絞り出し、森で採れる果物をのせる。
「どうぞ召し上がれ」
「あ、ありがとうニャ!」
「いただきます」
驚いた顔が笑顔に変わる。
美味いものは人も魔族も幸せにするようだ。
「これは素晴らしいものです」
「美味しいニャ!!」
「ムラマサさんシリーズで、スパゲティも食べていくといいわ」
そう言って別な屋台を指さす女性。
ふらふらとそちらへと向かってしまうカヨウをグラスとバステトが追いかける。
「いやはや、食い意地の張っておることよ」
「いいじゃありませんか。可愛らしいものですよ」
「はは。頑張って稼いでくれよ」
「もちろんですよ」
またしても屋台の縁に手を掛けて目をキラキラさせているカヨウ。
「狐人のお嬢ちゃん、そんなに近づいたら危ねえぞ?」
「スパゲティとやらが食べたいのじゃ!」
「なんだ、お客さんかい。ちょっと待ってなよ」
そういって麺をゆで始める店主。
その間に片手鍋でミートソースを温め始める。
「おう、儲かっておるかの?」
「ムラマサさん。いやあ、ホントありがたいよ。儲かって仕方ないぜ」
「それは良かったわい。考えたかいがあるというものよ」
これも村正が伝えたものだ。
本当はラーメンが作りたいのだが、醤油や味噌がまだ安定して生産できていないために教えるのを避けたのだ。
ミートソースならトマトや挽肉など材料が揃っていたせいもある。
「こやつら三人分を頼む」
「あいよ!」
出されたスパゲティーを食べてまたしても幸せ一杯になる三人。
カヨウはすごい勢いで食べてしまったので、口の周りがソースで真っ赤だ。
「美味いのじゃー。この街は美味い物に溢れておるのじゃー」
「ははは。ムラマサさんがすげえのさ。良くこんなものを考えつくよ」
「おだてても何も出んぞ」
「感謝してるんだよ」
笑顔の店主を見ながら村正は、「やはり人を籠絡するには食い物が一番じゃのう」などと不届きなことを考えていたのだが。
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