第3話 -魔王のお家に家庭訪問-
<第3話 -魔王のお家に家庭訪問->
「待っておったのじゃー!!」
転移魔法によって【獣魔の迷宮】に移動した村正を待っていたのは、九尾の魔王カヨウによる熱烈な歓迎の抱擁であった。
ぴょんと飛びつき、村正の首にかじりついて頬ずりするカヨウの姿を見て、深夜が小さく舌打ちしていた。
「おうおう、カヨちゃん。熱烈な歓迎じゃなあ」
「ようやく連絡してくれたのじゃ。我らは、と、友達なのじゃ!?」
相変わらず友達を噛むのは魔王として孤独に生まれたが故か。
「大丈夫じゃ。心配せんでも儂らは友達じゃよ」
「そうなのじゃ!」
にぱっと愛らしい笑みを浮かべるカヨウ。
配下の超級魔族達がほっこりした表情でそんなカヨウを見つめていた。
「そ、そんな。こんな魔力……」
一人震えているのはヴィヴィアンである。
グラスですら圧倒的強者であったのに、それを越える超級魔族四天王。
そしてそれを越えた絶望的なまでの差を感じさせる【九尾の魔王】の力。
ヴィヴィアンには村正と深夜が正気を保っていることが信じられなかったが、その二人がいるからこそ絶望せずにこの場にいられたのだった。
「なんだ、この人間は」
「見たことないねえ……」
「タケマル、人間じゃないニャ。エルフなんだニャ!」
「んんー、食ってもいいのか?」
「アステリオスは黙ってるニャ!」
相変わらず漫才ノリの四天王である。
唯一のツッコミ担当であるバステトが不憫で仕方ない村正であった。
「食ってもらっては困るのう。彼女はヴィヴィアン。東の大森林のアールヴじゃ。アールファの町のハンターギルドの長をやっておる」
何とかその言葉に頷くのが精一杯のヴィヴィアン。
「そうなのか! お主もムラマサのように我と、と、友達になってくれるのじゃ?」
カヨウがぴょこぴょこと尻尾を振りながらヴィヴィアンに近づく。
思わず後ずさり仕掛けたヴィヴィアンだったが、村正の視線に込められた「そこで退いたらお終いじゃぞ」というメッセージに気づいて何とか踏みとどまる。
「きっ、きょ、協力者にはなれないわ」
「協力者はムラマサがおるからいいのじゃー。と、友達になって欲しいのじゃ」
可愛らしい微笑みを浮かべるカヨウ。
隠しきれない強大な魔力さえなければ、ヴィヴィアンだって喜んでお友達になりたかった。
それほど可愛らしい魔王なのである。
「カヨちゃん、そんな風に魔力をダダ漏れにしとったら友達は増えんぞい?」
「のじゃ!?」
ものすごく驚いた顔をするカヨウ。
四天王も「?」という顔をしている。
「なんじゃ、お主ら。揃いも揃って気付いとらんのか?」
「気付いとらんのじゃ!」
えっへんと真っ平らな胸を張るカヨウ。
今日は真っ赤な着物が可愛らしい。
「そうか……。お主らにはそういった技術を身につけてもらわねばならんなあ」
ため息をつく村正。
「よく分からんが、何とかするのじゃー。だから友達になってなのじゃ」
「お、お友達から始めさせて下さい……」
緊張のあまり顔面蒼白になりながら答えたヴィヴィアンの手をカヨウががっしと握ってぶんぶんと上下に振る。
「うれしいのじゃー。友達が増えたのじゃー」
「良かったのう、カヨちゃん」
「のじゃー」
尻尾をばたばたと振って喜びを表現するカヨウだった。
その後、村正を中心として現状のすり合わせが行われた。
「我には街を襲おうとか、今代の魔王になって勇者をぶっ殺すとか、そんな考えは特にないのじゃー。我はみんなで仲良くしたいのじゃ」
「そ、そうなんですね……」
だいぶ硬さはとれてきたヴィヴィアンではあるが、カヨウやグラスはともかく四天王が恐ろしいのか、周りは常に気にしているようだ。
「魔王様の言う通りでして。ですから、私たちのことはそっとしておいて欲しいのです。もちろん街や周辺の人間に迷惑はかけませんから」
「は、はあ……」
にこりと微笑むグラスに困惑するヴィヴィアン。
人間と魔人の天敵である魔族にこんなことを言われてはいそうですかとすぐに信用する気にはなれないのだろう。
何せ魔族である。
「おお、そうじゃ。カヨちゃん、上層部で魔物を倒して魔石や素材を狩るくらいは許してくれるんじゃろ?」
「好きにするのじゃー。いくらでも増えるのじゃー」
我関せずのカヨウ。
深夜が持ってきたお茶とお菓子に夢中である。
「魔物と魔族は根本的に違うものですからね。魔物は我々にとってもただの餌のようなものです。お好きにどうぞ」
「そ、そうなのですね……」
魔族にとっての魔物は、人間にとっての家畜のようなものだ。
その程度の損耗で平穏が買えるなら安いものだとグラスは考えていた。
どうせスポーンが魔王の魔力で生み出せれば無限に増えるのである。
「よいよい、それならば共存は可能じゃのう」
「それがいいのじゃ!」
口の周りにケーキの屑を付けながらカヨウがにぱっと笑う。
「ほ、他の迷宮の魔王とは敵対関係にあるのですか?」
「そういって差し支えないかと。ですから皆さんが他の迷宮を制圧して下さるならむしろ嬉しいのですが」
「我は他の魔王とも仲良くしたいのじゃー」
正直「ないわー」と思うヴィヴィアンであった。
ハンターの総力を挙げて迷宮を攻略したところでせいぜい上級魔族の出てくるフロアまでが限界だ。
ミスリル級のハンターをそろえても特級がギリギリだろう。
超級、そして魔王本人の力を目の当たりにした今となっては夢物語である。
勇者は偉大だ。
改めてそう思ったヴィヴィアンであった。
「意義のある会談であったなあ」
「のじゃ!」
これからも仲良くしていきましょう、そう締めくくられた会談であった。
「これでヴィヴィアンも一蓮托生じゃな」
「そうね……。今さら言い訳できないわ。この状況を上手く使って、アールファの街の地位を盤石のものにするために色々策を練らないと……」
「グラスと話が合いそうじゃな、ヴィヴィアンは」
「策士タイプですか。ぜひよろしくしたいですね」
「こ、こちらこそ……」
犬耳イケメンがにこりと微笑めば、ヴィヴィアンも満更では無いようだった。
「さて、ヴィヴィアンよ。ワシは、此奴等に少々稽古を付けてから帰る。お主は如何するかの?」
「私は……。五日はスケジュールを空けてきたから」
「まあ、急いで帰らんでも良いか。ならば少しカヨちゃんと遊んでおれ」
「本当か! 嬉しいのじゃ!」
ぴょんとヴィヴィアンの背中に飛び乗るカヨウ。
背中に魔王が張り付いているという常識外の出来事にヴィヴィアンの頭はフリーズするのだった。
「ほれほれ、そんな馬鹿の一つ覚えの突撃しかできんのか」
「ぐぬぬー!!」
アステリオスの突撃を合気柔術で投げ飛ばしながら村正が笑う。
見事なまでに地面を転がる牛頭の魔族は怒りで顔を真っ赤にする。
「なんでだ!? 今のお前よりはオレの方が強いはずだ!!」
「そうじゃな。腕力、魔力による身体強化。その巨大なハンマーによる攻撃力。全てお前さんが上じゃろうなあ」
呵々と笑う村正。
アステリオスは混乱していた。明らかに強者であるはずの自分が、如何に規格外であるとはいえ、たかが人にこれほどいいようにあしらわれるはずが無いと。
「致命的に技術が足らんよ。自らの強大な魔力と肉体の上に胡座をかいて、技術を磨くことを一切せねばそうなるわい」
村正は余裕の笑みである。
それを敷物を敷いて傘を立て、お茶をしながら観戦している深夜とカヨウ、ヴィヴィアン。カヨウはすっかりヴィヴィアンの背中が気に入ったようで、おぶさってヴィヴィアンの金髪の上にあごをのせてだらけている。
「村正はすごいのじゃー。弱いのに強いのじゃー」
「村正様の研鑽の成果でございますね」
「信じられない……」
馬鹿の一つ覚えの突撃を繰り返すアステリオスでは村正にいいようにあしらわれて終わりである。
そのうち、投げ飛ばされ続けてアステリオスのスタミナとプライドが尽きたようで、大の字にひっくり返ってしまった。
「なんなのじゃー。もう終わりなのじゃ?」
「ううう、カヨウ様。申し訳ございません!!」
男泣きに泣くアステリオス。
自らの主の前で人間如きに完敗を喫した自らが情けないのだろう。
「それでよい。その悔しさを覚えておけい。命を失うことなく、お主は自らの弱さに気がついたのじゃ。これほどめでたいことはあるまい」
「しかし……」
「よいのだ。お主はまだまだ強くなる。なぜならワシと深夜で、みっちり稽古を付けてやるからじゃ」
きらりとアステリオスのつぶらな瞳が光を放つ。
だって牛だから。
「オレも、お前みたいになれるのか?」
「ワシのようにはなれん。それぞれ違って当たり前だからじゃ。お主にはお主に合った強さの形があろう。それを修行で作っていくのじゃよ。さすれば、迷宮戦争が始まる頃には無類の強さを誇っておるじゃろうさ」
「本当か?」
「請け負おう」
「分かった。オレは強くなりたいんだ。お前の言う通りにする」
男たちは分かり合ったのだ。
魔族の突出した能力に村正が過去修めてきた技術が上乗せされる。それを考えただけでも、村正は高揚感を押さえられなかった。
もちろん、自らも強くならねばならんと決意を新たにして。
「さて次はお主じゃ、タケマル」
「舐めるなよ、ムラマサ。そこの脳筋とは違うぞ!」
タケマルが吠える。
「ワシもお主と初めて相まみえた時よりは強くなっておるはずじゃが、さすがに届かぬ。というわけで、純粋に技量の勝負といこうではないか」
「なんだと?」
「お主は一切魔力を使うでない。ワシは身体強化ありじゃ。それでもまだお主の方が遙かに強かろう?」
「いいだろう。その程度ハンデにもならんわ」
鼻息荒いタケマル。
それをみてニヤリと笑う村正。
深夜の「始め」の声に合わせて、タケマルが剣を振りかぶって村正に襲いかかる。
村正は無明を構え、その攻撃を受け流す。
「馬鹿め! そんな細い剣で俺の一撃が受けられるものか!!」
「受け止める気なぞないわい」
刀を絶妙な角度で滑らせるようにしてタケマルの剛剣を受け流す。
流されたタケマルの剣は地面にざくりと突き刺さる。その隙に、無明がタケマルの首筋に添えられた。
「村正様の勝ちでございます」
「もう一度だ!」
「何度でも来るがいいわい」
何度も何度も同じような光景が繰り返される。
打ち込んでは流され、かわされ、急所に刀を突きつけられ敗北し続けるタケマル。
三十近く撃ち合った後、しびれを切らしたようにタケマルの魔力が高まる。
「殺しますよ?」
「それはダメなのじゃー」
いつの間に移動したのか、深夜とカヨウがタケマルを押さえ込んでいた。
二人に押さえ込まれたままタケマルは村正を睨み付ける。
「何故だ」
「先刻アステリオスにも言ったじゃろう。お主らには技術が足りんとな」
「その技術とやらがあれば、俺は貴様に勝てるのか」
「勝てるかもしれんし、勝てぬかもしれん。それはお主次第よ」
「そうか……。俺は驕っていたのだな」
まるで憑き物が落ちたように晴れ晴れとした表情のタケマル。
それを見て、深夜とカヨウがタケマルを解放する。
「お主は世界を知らぬ。迷宮で生まれ、迷宮で生きる、それが魔族の定めと言ってしまえばそれまでよ。だが、それでは強くはなれん」
「そうだな。頼む。俺を鍛えてくれ。その『技術』とやらを教えてくれ」
「もちろんじゃ。儂らは一蓮托生。まだ二年ある。その間、みっちり修行を積めば良い」
そうして、村正はヴィネとバステトにも技術の大切さを体感させる。
こうして四天王は、村正と深夜を師として武の道へ足を踏み入れたのであった。
さて、その時カヨウはと言うと。
「難しいのじゃー」
がっくりとうなだれていた。
それを、だいぶカヨウに免疫の出来たヴィヴィアンが優しく慰めている。
「頑張りましょう、カヨウちゃん。魔力を隠蔽するのは必須技能だから……」
「うう。我にはそんなスキルはないのじゃー」
ただでさえ膨大な魔力を持つ魔王である。
その魔力を隠蔽するには相当のスキルが必要であろう。
「いつか人の街に遊びに行きたいんでしょう?」
「のじゃ!」
「だったらやっぱり頑張らないと。完全に魔力を隠せるようになったらきっと街に遊びに行けるわ」
「本当なのじゃ?」
「ええ」
そんな日が来たらどうなるのか、ヴィヴィアンは極力考えないようにしていた。
頭痛がしてしまうから。
「分かったのじゃ。頑張るのじゃ!」
「その意気です、カヨウ様」
グラスもこっそりと魔力隠蔽の訓練を積むのだった。
「人の街には美味いものがたくさんあるぞい、カヨちゃん」
「本当なのじゃ!?」
「おうさ。今日食った菓子のほかにもたくさんのう」
「ますます頑張るのじゃ!」
今日も獣魔の迷宮は平和であった。
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