第2話 -ヘイ、タクシー?-
少々短めです。
<第2話 -ヘイ、タクシー?->
ギルドを後にした二人は、何とはなしに街をぶらぶらとそぞろ歩く。
何せヴィヴィアンの連絡待ちだ。あまり遠くへ行くようなクエストを消化するわけにも行かない。
アールファの街で出来ることをするしかないのだ。
「たまに市場でも巡ってみるかのう」
「御意。食材について詳しく調査する必要を認めます」
「米があるといいんじゃがのう」
かなり地球と似たところもあるこの世界だが、食事に関しては非常にレベルが低い。
現代と比べるのは間違っているのだが、食事というのは生きていく上で非常に重要なことだ。それを軽視しては生きる楽しみを半分以上放棄していると村正は考えていた。
さすがに深夜の収納空間にも無限に食材や調味料が入っているわけではない。
あと何十年この世界で生きていくことになるのか分からないが、それだけに衣食住の問題は重要なのだ。
「この世界で食に革命をなどとまでは思わんが、さすがにショボい食事は辟易じゃ」
「であれば、やはり自力で作るしかありませぬ」
「そうじゃな」
市場を歩き回ること小一時間。
「探してみればあるものじゃのう」
二人の前には、様々な食材が並んでいた。
麦はともかく、各種豆類が手に入ったのは有り難い。
豆があれば、収納空間に入っているものを流用すれば色々なものが自力で作り出せる。
「とりあえず、マヨネーズじゃな」
酢と油と卵があればマヨネーズは自作できる。塩コショウがあればさらにいいのだが、コショウに類するものはこの辺りでは採れないようだった。
「やはりスパイスは名産品で高額なんじゃろうなあ」
どこぞの大航海な時代のゲームを思い浮かべる村正だった。
マヨネーズは手で攪拌するとなるととても大変なのだが、そこは深夜がいる。
程なくして見事なマヨネーズが完成した。
「さて、何を作るかのう」
村正が鼻歌を歌いながら作ったのはジャガイモとソーセージのマヨネーズ炒め。
ついでに小麦粉があったので野菜を刻んでお好み焼きを作る。
ソースはとりあえず収納空間から出した。
「調味料は早めに自作できるようにするべきじゃなあ」
「そうですね。製法は記憶していますので、後は材料さえあれば大丈夫ですが」
久しぶりに自作の現代風料理に満足した村正。
いずれこの素晴らしいマヨネーズ文化を世界中に広めるしかない、そう決意を新たにした村正だった。
「スケジュールを調整したわ」
村正と深夜は、ヴィヴィアンの執務室に呼ばれていた。
例の魔王のお宅訪問の日程が決まったのだ。
「そうか。で、いつからならいいんじゃ?」
「明日からよ。明日からの5日間だけ空けられたの。その期間でどうにかなるかしら?」
「5日か……」
高速な移動手段を使えばおそらくどうにかなるだろうと瞬時に計算する村正。
だが、滞在時間はそれなりに短くなる。
「ちょっと待て。深夜、結界じゃ」
「御意」
深夜に内蔵された『結界器官』が稼働し、執務室全体を強力な結界が包み込む。
「こ、これは? 魔法とは違う。でも、こんな強力な結界を……」
ヴィヴィアンは驚愕に目を見開き深夜を見つめる。
ただの従者かと思っていた深夜の実力の一端を見て認識を改めているのだ。
見た目ただの美幼女である深夜がこれほどの力を持っているとは誰も思うまい。
そうしている間に、村正が例の檜扇を取り出す。
鑑定すると【九尾の魔王の檜扇】と出る、間違いなく最上級のアイテムだった。
その檜扇をしゃらりと開くと、そこから漏れ出る強烈な魔力。
「こ、これは!?」
「こりゃあ開いたらバレるわけじゃ。魔王の魔力が漏れておるわい」
呆れた顔の村正。
「おーい、カヨちゃん。聞こえるかのう?」
「聞こえるのじゃ! ようやく開いてくれたのじゃ!」
檜扇の向こうからはしゃいだ九尾の魔王カヨウの声が響いてくる。
「こんな物騒な魔力を垂れ流すアイテムだったんじゃなあ」
「ぶ、物騒とは心外なのじゃ。我の押さえ切れない魔力の奔流なのじゃ!」
「魔力を押さえる訓練が必要じゃな。グラスと相談しておくとするか」
「のじゃ!?」
グラスに変わってもらうと、転移魔法で迎えにこれないかと相談し始める村正。
グラスが言うには、可能は可能だがそんなことをして大丈夫かということだ。
「なに、今ならこの部屋は深夜の結界で完全に護られておる。誰にも気付かれはせんじゃろう」
こくりと頷く深夜。
深夜の結界をどうこうできるのは、深夜を作った【大いなるもの】か敵対していた【古き神】くらいなものだ。
「では、直ちにお迎えに上がります。その檜扇があれば場所も特定できますし」
「そうか。深夜、そのへんだけ融通してくれい」
「御意」
深夜の操作によって、結界の中にグラスが転移してくることだけは可能になった。
実にフレキシブルな結界である。
「お迎えに上がりましたムラマサ様」
すぐにグラスが転移魔法で執務室に現れた。
グラスから感じられる強大な魔力だけで、ヴィヴィアンは完全にビビっていた。
「こ、こんな……」
「これが超級魔族じゃぞ。しかもグラスは戦闘力なら超級でも最弱じゃ」
「その通りです。四天王が脳筋なだけですけどね」
苦笑するグラス。
その笑いすらもヴィヴィアンには恐ろしいものとしか感じられなかった。
ヴィヴィアンとてミスリル級ハンターであり、ギルドマスターだ。それなりの修羅場は経験してきている。
だが、超級魔族の内包する魔力を感じては、恐怖しか感じられなかった。
「では、参りましょう。カヨウ様も首を長くしております」
「首が伸びては可愛くないのう」
転移魔法が発動し、執務室から四人の姿が消え去った。
いつの間にか姿が見えなくなったヴィヴィアンを心配するものもいたが、「しばらく留守にする」とは伝わっていたため、大した騒ぎにはならなかった。
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