第1話 -金級-
さて新章です。
まだ日常パートですね。
日常パートが続くと良くないという話も聞きますが、それはそれ。
<第1話 -金級->
「おめでとうございます、ムラマサさん。もうゴールドランクですねえ!」
ギルドのカウンターでブリジットに祝福される村正だった。
迷宮から帰って来て、ヴィヴィアンとぶっちゃけ話をしたあと、村正は精力的にゴールドランクへ上がるためのクエストをこなしまくった。
普通のハンターでは考えられない速度で依頼を消化した二人。
ランクが上がれば上がるほど討伐系の依頼が増えるため、村正と深夜のような圧倒的な強さを持つハンターならばクエスト消化数もハイペースで稼ぐことが出来るのだ。
「ありがとうよ。あとはプラチナ、ミスリルと二つ上げれば良いんじゃなあ」
「ムラマサさんならすぐにそこまで上がっちゃいそうですよねえ!」
「あんまりおだてるでないわ、ブリジット。ところで、支部長に会いたいんじゃが、どうにかなるかのう?」
ブリジットの隣で書類に目を通していたアリスに問いかける村正。
「ヴィヴィアン様は執務室にいるはずだけど、どうかしら」
「すまんが、確認してもらえぬか?」
「珍しいわね、自分からそんなこと言い出すなんて」
「野暮用でなあ」
ウィンクする村正。
見た目はハンサムなのでそれなりに似合っている。
「仕方ないわねえ。ちょっと待ってなさいよ」
「おうよ。頼んだ」
アリスがカウンターの奥へ消えていく。
「こんなスピードでランクを上げていった人は見たこと無いですう。多分新記録ですよ、ムラマサさんは」
「まあ、そういう巡り合わせだったということじゃろうさ」
目をキラキラさせるブリジットに苦笑する村正。
そのうちにアリスが戻ってきて、ヴィヴィアンが会うといっていることを伝えてきた。
「そうか。深夜、行くぞい」
「御意」
アリスと入れ替わりで奥へ消えていく村正と深夜。
「一体何のようなんでしょうねえ?」
「さあ。すごく重要なことかもしれないし、ムラマサのことだから下らない用事かもしれないし」
「あり得ますねー」
ブリジットと軽口を叩きながら仕事へ戻るアリスであった。
「邪魔するぞい」
執務室へ入ると、勝手にソファに腰掛ける村正。
「一体どうしたのかしら。ムラマサから私に会いたいなんて。デートのお誘い?」
「当たらずとも遠からずじゃなあ」
「……どういうこと?」
警戒する表情になるヴィヴィアン。
村正の顔が何かを企んでいるように見えたからだ。
「そう身構えんでもよいじゃろう。悪い話ではないぞ?」
「それは話の中身を聞いてから私が判断するわ。それで、どういうことなの?」
「おうさ。儂と一緒に、【獣魔の迷宮】へ行こうではないか」
「迷宮へ?」
なるほど、当たらずとも遠からずだ。
一緒に出かけるのには違いない。
ただし、【獣魔の迷宮】へとなると話は違ってくる。
「そうじゃ。そろそろカヨちゃんに会いに行ってやらねば拗ねてしまうからのう。ついでにヴィヴィアンもカヨちゃんと仲良くなってもらおうという寸法じゃよ」
「本気で言ってるの?」
「勿論じゃが?」
大きくため息をつくヴィヴィアン。
「私はギルドマスターよ。魔王に直接あうだけでも信じられないのに、仲良くなれですって?」
「良いではないか。儂が力を貸す以上は、少なくともこの辺り一帯の魔王はカヨちゃんに平伏すことになるんじゃ。カヨちゃんと仲良くしておいたほうが、街のためにもなるんじゃないのかの?」
「それは……」
確かにそうと言えないことも無い。
迷宮戦争では直接街がターゲットにされることは少ないが、協力者が何か良からぬ事を企む可能性もある。
その中で、渦中の魔王とある意味協力体制を敷くことが出来るのは利益があるかもしれない。頭の中でそう結論づけるヴィヴィアン。
「なに、安全は儂と深夜が保証する。とりあえず会うだけでも会ってみぬか?」
「……分かったわ。さすがに今からすぐに行きましょうとは言えないから、少し時間をくれるかしら?」
「勿論じゃよ。都合がつく時を教えてくれればよい」
「都合がつき次第、こちらから連絡するわ」
「よろしく頼む」
用事は済んだとばかりに執務室を出て行く村正。
またしても大きなため息をつきながら、ヴィヴィアンはその背中を見送るのだった。
「一つ教えてくれんか」
執務室から戻ってきた村正はアリスを捕まえて質問をする。
「私に答えられることなら」
「なに、ギルドなら把握しておるじゃろう。この東大陸に存在する【迷宮】の場所をしりたいんじゃよ」
「迷宮の?」
「そうじゃ」
村正としては、【迷宮戦争】の始まるまでの2年間を無駄に使うつもりは無かった。
少なくとも場所とそこに出現する魔物や魔族の傾向はつかんでおくべきだと考えていたし、可能ならば事前にある程度の攻略を済ませてしまえば良いとも考えていた。
何せ村正はすでに魔王カヨウの協力者となってしまった身である。
他の魔王に目をつけられても、「すでに別な魔王の協力者だから」と言い逃れることも出来る。
先手を打ってカヨウの下につくことを承知させておけば無駄な戦いをしなくて済む。
「他の街にも行きたいってこと?」
「必要ならな。やらねばならんことはたくさんあるでのう」
「そうなの……。でも、まずはアールファの周辺を平和にしてからにしてね」
「そりゃそうじゃ。まずは近場からじゃろう」
ちょっと待っててねと言い残して、アリスは別室へ向かった。
ややあって、手に資料の束を持って戻ってくる。
「現在東大陸にある迷宮は13よ。無理矢理分布するなら東3西3南3北4ということになるかしらね」
バサリと簡易な地図を広げながらアリスが言う。
いくつかの迷宮は、どちらの街の管轄とは言えないような場所にもある。
「迷宮も上手く間引いてる分には資源の宝庫だから、それなりに縄張り争いみたいなものもあるのよね……」
「まあ、それもわからんではないがな」
ギルドでも三柱戦について押さえているのは本当の上層部のみなのだろう。
国のお偉いさんがどれくらい把握しているのか確認してみたいところじゃなあと村正は地図を見ながら考えていた。
カヨウやヴィヴィアンにはああ言ったものの、選択肢を自ら狭めるような愚は犯さないよう、各都市の実情を把握したり、王都の警備体制なども全て把握しておきたいと村正は考えていた。
必要ならば、本当の意味での「魔王の協力者」となることを躊躇うつもりはないのだ。
「建前としてはギルドは一枚岩だから、別な都市の支部で依頼を受けて迷宮探索をしても特に問題はないと思うけどね」
「なに、依頼なぞ無くても必要なら勝手に潜るわい」
「禁止はされてないけど、結構面倒事だから気をつけてね」
ゴールドランクでいるうちは間引き依頼には関われるが、その分行動の自由は失われてしまう。今回の獣魔の迷宮のように単独行動できる機会は、依頼を受ければ激減してしまう。
「早いところランクを上げて、行動の自由を確保する必要があるのう」
「ミスリルランクまで上がれば、相当ワガママ言えるんじゃないかしら。頑張って」
公式にはハンターの最高ランクはミスリルランクということになっているが、それすらも越えた力のあるハンターには非公式ながらオリハルコンランクが与えられるという。
具体的には、「超級の魔族と対等に戦えること」が200年前は条件だったとグラスが教えてくれた。
要は勇者ご一行用のランクなのだ。
「積極的に高ランクの依頼をクリアしていくしかないんじゃろうなあ。宝探しもせねばならんというのに、頭が痛いわい」
「村正様」
深夜が合図を送ってくる。
地図の情報は全て記憶したという合図だ。
「ご苦労、深夜。さて、少し街に出てくるわい」
「あら、もういいの?」
「うむ。迷宮の位置もひとまず覚えたでのう」
「すごい記憶力ね」
「深夜が、な」
そういって笑いながら深夜の頭を撫でる村正であった。
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