第6話 -鬼退治をしよう-
インフレしていきますが、深夜が最強です。
<第6話 -鬼退治をしよう->
地下二十一階:
「なんじゃ、急におどろおどろしくなったのう?」
二十一階からは急に雰囲気が変わった。
簡単に言えば「暗くなった」のである。
夜の森だ。
深夜には暗闇は何のハンデにもならないが、さすがに村正はそうはいかない。
また深夜の飛ばした発光装置のお世話になる。
「暗闇でも見えるようにならねばならんなあ」
「暗視装置が必要ですか?」
「そうじゃな。出してくれい」
深夜が暗視装置を取り出す。
スキーゴーグルのようなグラスタイプの物で、完全な暗闇でも見通すことができる優れものだ。
もちろん古代の超技術を駆使して作られているために、強烈な光を浴びたとしても目が眩むようなことはない。
恐るべし超古代技術である。
「うむ、久しぶりにかけたが馴染むのう」
「村正様用に調節されたものですからね。当然でございます」
深夜が保持していた神代の装備、超古代テクノロジーはこの世界でも村正に多大なる恩恵を与えていた。
現代の地球ですらオーバーテクノロジーだったのだ。
この世界ではそれを上回る効能を与える。
進みすぎた科学は魔法と見分けがつかない、とは誰の言葉だっただろうか。
村正と深夜によって振るわれた刀によって双頭の蛇が無残にも切り裂かれる。
血飛沫が舞い、巨体が地面に倒れ伏す。
「良い。魔素も体に馴染んできたということかのう」
「そうである、と分析します。地球に存在する気と呼ばれるエネルギー濃度よりもこの世界の魔素の方がより高濃度ですので体に与える影響も大であるかと」
呼吸と練気功によって迷宮内の濃い魔素を体内に取り込み身体強化魔法を常時発動させている村正は、すでに魔物と言っても差し支えないほどの魔素親和性を獲得していた。だからこそ、先刻の狼頭の特級魔族をも倒すことが出来たのだ。
「ふむ。取り込みすぎによる副作用はあるのかのう」
「無いとは言い切れませぬ。最大の懸念は、村正様が人ではなく魔族に近しい存在になってしまうだろうことですが」
「今更何を言う。何度も言っておろう。儂は人であることに未練など無いわ」
「はい。承知しております」
「まあ、人の世で生き辛くなることはあるじゃろうな。それも黙らせれば良いだけよ」
そんなことを話しながら、二人は夜の森をずんずんと進んでいく。
その時だった。
突如暗がりに生まれる強大な魔素の気配。
「村正様、お下がり下さい」
「おうさ。これは今の儂には手に余りそうじゃわい」
深夜に言われるまでもなく、その場を譲る村正。
闇の中から現れたのは、一人の痩せぎすな男であった。
「お初にお目にかかる」
一礼する男。
見た目は完全に人間である。
違うのは、目が深紅に染まっていること。瞳も虹彩もなく、眼窩にルビーが嵌め込まれているようなただの紅。
そして、額から生えた一本の角。
一角の鬼であった。
「魔物か。さっきの奴と違って獣頭ではないのう?」
「いえいえ、彼奴はまだ特級でございますから。この獣魔の迷宮では特級までは獣らしさを残しておるのですよ」
「ほう。ということは、お主は特級を越える位階にあるということじゃな?」
「左様ですな。私めの位階は超級にございます」
なるほど。特級の上は超級であるらしい。
そして、獣魔の迷宮とは言っても全てが獣型であるとは限らないようだ。
実際、高位の魔物ほど人型形態を取ることが多いのだ。
「じゃからか。強烈な圧を感じるわい。さすがに今の儂ではキツいのう」
「今の、でございますか。まあ、そのために私めが来たのですけどね」
意味ありげな顔で微笑む魔族。
「なんじゃ、儂を鍛えに来てくれたのか?」
「そういうわけではないのですが。我が主があなたと対話したいと言うのでお願いしに上がりました」
「主じゃと?」
「はい」
「魔物の主ということは、魔王という奴かの?」
「有り体に言えば。ただ、色々と混み合った事情がありましてね。その辺りもぜひ話し合いたいとおっしゃっておりまして」
「ふうむ……」
考え込む村正。
魔王という存在には興味がある。
このような強大な存在を生み出す魔王とやらはどれほどの存在で、どれだけの力を持っているのか。
この迷宮という場所も魔王が生み出したのか。
他にある迷宮も魔王によって生み出されたのか。
疑問は後から後からわいて出てくるのである。
「ですがね」
じわりと魔素によるプレッシャーをにじませながら鬼が笑う。
見る者を威圧する笑みだ。
「我が主が、いくら協定とは言え人間如きに対話を求めるなど納得できませぬ。我ら超級魔族で戦力は足りるはず。何故人などを協力者に定めなくてはならないのか」
何やら怒っているようでもある鬼型魔族。
村正と言えば、「協力者」という言葉に引っかかりを覚えていた。それと協定という部分にもだ。
「じゃから、儂を品定めに来たというのか?」
「柔らかく言えばそういうことです」
「柔らかく言わなければ?」
「貴様を叩きのめしに来たのよ。さすれば主も考えを変えるだろう」
敵意を隠そうともせずに村正に叩きつける鬼。
口調も荒っぽくなっている。
さすがに敵意だけでビビる村正ではないが。
ちなみにその時……。
「ちょ、ちょっと、何言っておるのじゃ、あの馬鹿鬼!?」
「人選を誤りましたね、魔王様」
「お主も反対しなかったのじゃ!?」
「ええ。私は行きたくありませんでしたし、戦闘では役に立ちませんから。それに、殺されたくないですし」
「うっさいのじゃ、馬鹿メガネ!!」
迷宮の奥底では、魔王様と参謀役がそんなお馬鹿な会話をしていたのだった。
「まあ、殺しはしないでおいてやろうか。殺してしまっては、さすがに主に申し訳が立たんからな」
「さっきから控えておれば、よくも勝手なことをぺらぺらと。第一、貴様如きが村正様に触れられると思っていること自体が許せませぬ」
言葉に怒りをにじませて、深夜が鬼を睨んでいる。
普段から無表情ではあるが、ただの無表情ではなく、虫けらを見る顔とでも言おうか。
実験体を見るマッドサイエンティストとでも言おうか。
とにかく、見ているだけで冷たい殺意が染みこんでくるような気配なのだ。
「小娘が何をいきがるか」
「黙るがいい。我が主に成り代わり、この私が成敗いたす」
「幼女をいたぶる趣味はないが、刃向かうなら容赦はせん……」
その瞬間、どぎゃっというかめぎょっというか。
人体から聞こえてきてよい音ではない打撃音が鬼の腹部から聞こえてくる。
「ぐげうっ!?」
深夜が移動して放った右拳が、鬼の腹部に深々とめり込んでいた。
人ならば内臓破裂に脊椎粉砕骨折とでも言ったところか。
体をくの字に折り曲げる鬼の顎を右アッパーで跳ね上げると、くるりと横方向に一回転して左踵を顔面に叩きつける華麗な後ろ回し蹴り。
抵抗することも出来ず、顔を陥没させながら地面にめり込む鬼。
「あがぐあ……」
地面に半ばめり込むようにしながら呻く鬼。
「簡単には殺しませぬ」
深夜が踏みつけるようにして、顔面から喉、胸、腹部と足を叩き込む。
その度に、肉体を破壊する音が辺りに響く。
さらに、首をその細腕で掴んで鬼の体を持ち上げると、軽々と宙に放る深夜。
「ふっ!」
いつの間に取り出したのか、深夜の手には刀が握られており、白人が閃く。
鬼の両腕と両足が空中で切り落とされ、血飛沫と共にぼとぼとと地面に手足が落ちる音がした。
「あ、あぶう……。ぎ、ぎざま……」
首と胴体だけになって尚呻く鬼。
凄まじい生命力ではあるが、この際それは助けにはなっていないようだ。
「腕でも足でも生やすといいでしょう。何度でも切り落として、何度でも痛めつけて差し上げまする」
「ぎざまあああああっ!!」
魔素を取り込み、瞬時に肉体を再生する鬼。
その瞬間、深夜の姿がかき消えると、両腕両足が切り飛ばされる。
地面に倒れ伏す鬼の背中に、深夜の持つ刀が突き刺さる。
「ぐがあああああっ!?」
「そう簡単には死なないのでしょう?」
ぐりぐりと刀をねじる深夜。
傷口が広がって、どくどくと鬼の血が流れでる。
「深夜よ、殺さぬようにな。いかな無礼者とはいえ、使者を殺すは仁義にもとるでのう」
「心得ておりまする。仮にも超級と嘯く魔物。簡単には死にますまい」
そういう問題じゃないじゃろ……と思った村正だったが、とりあえず黙っていることにしたらしい。
村正としては、これくらいで魔物も諦めてくれると良いと思っているのだが、鬼の様子を見る限りではそうも行かない様子。
「(これは困ったのう。あの鬼めもとっとと諦めれば良いものを。深夜に、いくら魔物とはいえ生物が勝つことなど不可能よのう)」
忘れがちではあるが、深夜は「兵器」なのだ。
それも、神と呼ばれるような存在が手ずから生み出した究極の戦闘兵器。
ナンバーが割り振られているから「量産型」と考えてしまうがそうではない。
わずか四十九体で敵対する神々とその下僕と渡り合った「戦闘人形」は、神々には及ばぬにしてもそれに近しい存在。
亜神と呼ばれてもおかしくないほどの存在なのだ。
「ぎざま……。ごろずぅ……。ごろじでやるぅ……」
「黙りなさい。耳障りです」
深夜の履いたブーツが鬼の口にごりっとめり込む。
鬼は、不屈の精神で深夜の責め苦に耐えているようだ。
「そろそろ止めてやって欲しいのだが……」
「そ、そうニャー! そこの馬鹿の馬鹿さ加減は謝るから許して欲しいニャー!!」
「なぜそこで謝る。それでは魔王様配下四天王の意味が無かろう!」
そこに新たに現れたのは、三体の魔物であった。
お読みいただきありがとうございます。
良ければ評価など…(*´艸`)




