第5話 -特級を倒そう-
村正さんもどんどん人間辞めていきますよ?w
<第5話 -特級を倒そう->
地下十六~二十階:
十五階を踏破したところで、村正達はキャンプを張った。
十六階へ続く階段を見ながら夜を明かし、翌日からさらに下層への道を進む。
「もう上級しか出てこんようになったのう」
「左様でございますねえ」
鷲のような空飛ぶ魔物が地面に落ちている。
深夜の射撃兵器によって空から叩き落とされ、村正によって斬殺された魔物。
「ようやく動きながらでも練気できるようになってきたわい」
呼吸法を意識すればするほど、ややもすると動きが止まってしまう村正だったが、ひたすら魔物と戦いながら修行を繰り返す。
まだ村正が若かった頃に学んだ技術であったためにだいぶ錆び付いていたところを、魔物との戦闘で再度使えるように研ぎ直す作業。
「現世ではそれほど役にも立たなかったが、ここに来て重要になるとはのう」
漫画的な活躍が出来るほど現世はエネルギーに満ちていないのだ。
銃弾を見てからよけたり素手でつかみ取ったりするようなことは難しい。
得物があれば銃弾をはじくくらいのことは出来たのだが。
「私から見ても、魔素の巡りは非常に安定しております。おそらく十全に機能するかと」
「まだまだじゃな。全力で動くと乱れよるわ。それこそ寝ていても自然と出来るようにならねば達人とは言えん、と儂が教わった武術家も言っておったわ」
村正に練気法を教えた中国武術の達人は、カンフー映画に出てくる「達人」のイメージそのものの男であったそうな。
「今にして思えば、儂が教えを受けた達人、超人はこのような失われた技術の体得者だったんじゃなあ」
鉄をも切り裂く名も無き古流抜刀術を納めた武芸者。
気を操り宙を駆ける中国武術の達人。
触れただけで岩を砕く古流空手の継承者。
あらゆる攻撃を予知するかのようにかわし続ける修験者。
もはや現世ではオカルトよ魔法よと言われるほどに廃れてしまった過去から連綿と受けつがれる技術を修めた、人を越えた超越者たち。
「世界こそ渡ってしまったが、儂が全て受け継ごうかのう」
振り向き様に抜き撃った刀は、地中から飛びかかろうとしていたネズミのような魔物を真っ二つにしていた。
「魔素の動きで魔物や魔法は察知できるが、逆に言えば深夜のような兵器だとか狙撃銃のような超長距離射撃は察知することが出来ぬのう。目視できていればいいが」
「認識できる範囲に入れば防御も回避も可能ではございませんか?」
「試してみんことにはなあ……」
「そのあたりは私がフォローすれば済むことです。お任せ下さいませんか」
「そうじゃな。儂の背中を護るはお主の仕事よな、深夜よ」
深夜の中を歓喜が満たす。
自らの主に信頼されると言うこと。
それこそが深夜の喜びであり存在意義ですらあるのだから。
そのあとも、二人は順調に迷宮を攻略していく。
マッピングも深夜の機能を使えば実に簡単である。むしろ迷宮であることが災いして空撮出来ないのがネックなくらいだ。
「おお、深夜よ。獣人がおるぞ?」
「本当ですね。人型形態の魔物は初めてですね」
地下二十階。
これまでの流れでいけば上級と、さらにその上のランクの魔物が出てきても可笑しくない階層である。
その中での狼頭の「獣人」出現だ。
直感的に「コイツが上級の上だ」と感じるのは当然のこと。
余談ではあるが、この世界「オルヴィス」にも獣人は存在する。
ただし、魔物ではない種族としての獣人は「顔が人間」という区別が出来る。
要するに、「人間に動物的特徴が表出した人型種族」と言うことが出来るのだ。
ぶっちゃけると「猫耳美少女」が可能なのが獣人で、獣の頭部に人型の体を持つミノタウロス的なものが魔物だと思っておけばいい。
「ここまで来たのは褒めてやる。だが、この先へはオレを倒さないと……」
「ご託はよいわ。かかってこい」
獣人型魔族が述べようとした口上をばっさりとぶった切る村正。
人の心が無いのか、お前は。
「第一、獣の顔をしておきながら流暢に人の言葉を喋るな。理屈が分からんわ」
「貴様……!」
「村正様、怒らせてしまったようですが?」
「構わん。本気でやってもらわねば儂の修行にならぬ」
「修行だと? そんな余裕は貴様には無い。オレを本気で怒らせたからな!」
狼頭の魔物の周囲に魔素が渦巻く。
おそらく気功法と同じように、魔素を外部から取り込んで自分の魔素を強化することで身体強化や魔法を発動させるのだろう。
「言うてみれば、『集魔法』と言ったところかのう」
「ふはは! 強化されたオレの力は通常の三倍! 貴様など一瞬で殺してくれる!」
界王拳並か。
ドンっと音を立てて、狼頭の魔物が地面を蹴る。
地面を抉り、土砂をまき散らしてロケット弾のように村正に襲いかかる魔物を紙一重でかわす村正。
「良くかわしたな。褒めてやろう」
「いらぬわ。というか、いつも思っとったんじゃがな。かわされると言うことは、攻める側よりもが守った側が強いという事じゃろうに。そこで余裕ぶれる神経が分からん」
やれやれと呆れた顔で肩をすくめる村正。
ますます怒気を膨らませる狼頭の魔物。
「貴様……。何処までもオレを愚弄するか!」
「事実を述べただけじゃ。図星をつかれた時こそ逆上するものよな」
さっきよりも荒々しく、スピードを増して飛びかかる魔物。
キンっと音がして、柔らかいものが地面にぐちゃりと落ちる。
「ぐあああああっ!?」
落ちたのは狼頭の魔物の左腕だ。
かわしざまに無明で切り落としたのだ。
「馬鹿な! オレの身体に傷が!」
「当たり前じゃろうに」
「許さん……。許さんぞ、人間め!!」
落ちた腕を拾い上げると、魔物に向かって放り投げる村正。
「片腕が落ちたくらいでなんじゃ、魔物ともあろう者が。腕ぐらいくっつくか生えるかするんじゃろう。早く続きといこうではないか」
「もうキレたぜ。貴様の実力を測るなんて面倒なことは止めだ。死ねよ、人間」
腕を切断面にくっつけると、組織がグジュグジュと絡み合って繋がる。
恐るべし、魔物の再生能力。
「死ぬのは貴様じゃがな。ところで、お主の位階は上級の上であっとるか?」
「貴様らの定めた位階で言うならば、オレは特級。上級などと一緒にするなよ」
「ならば良い。来い、魔物」
抜刀術の構えを取り、地面を踏みしめる村正。
練気功により魔素は村正の中で気、即ちこの世界では魔力に変換されて村正の肉体と五感を強化していく。
狼頭の魔物も気付いてはいた。
「(人間が魔素を使って身体強化だと? それじゃあまるで【魔物】みたいじゃねえか)」
魔法によって、視力や聴力を強化することは出来る。
大気を操って一瞬だけ速度を上げたり、武器に魔力を纏わせて破壊力を上げたりすることも出来る。
だが、魔素を体中に行き渡らせることで肉体そのものを強化するようなことは、人の使う【魔法】では不可能なはずだった。
「てめえ、実は魔物か?」
「儂は人間よ。今のところはな」
ニヤリと笑う村正。
「今は、か。先が楽しみだなっ!!」
二度目までの突進速度を大幅に上回るだけでなく、足捌きによるフェイントや魔法による牽制も織り交ぜながら魔物が迫る。
だが、村正はゆらりと不思議な足運びで牽制の魔法をすり抜けるようにして回避し、練り上げた気を無明に纏わせて抜き打つ。
「信じられねえ……」
首と腹部、二カ所が上下に真っ二つになりながら、狼頭の魔物は崩れるようにして地面に倒れ伏した。
「ふむ。現世では成功したことは無かったが、やれるものじゃなあ。『双竜閃』とでも名付けるか」
一度の抜刀で二度切りつける。言葉にしてしまえばそういうことだが、そんなことが出来るわけはない。
ではどうするか。
魔力を使うのである。
二度の斬撃のうち、一度は刀身で。もう一度は魔力で出来た刀身で斬るのだ。
「なかなか堅い身体じゃったが、無明の切れ味には敵わんかったようじゃな」
「……」
物言わぬ骸と成り果て、魔素へ帰って行く狼頭の魔物。
残されたのは、握り拳二つ分ほどの大きさの魔石と鋭く光る牙が一本。
「何じゃ、意外と小さいのう」
「いえ、村正様。込められた魔素が段違いです。色が違うのが分かりますか?」
深夜の言う通り、これまでは黒っぽいざらついた石炭のような魔石だったものが、つるりと滑らかな光沢を持つ黒曜石のようなものに変わっていた。
「なるほど。特級とやらは質が変わる訳か」
素材を深夜が収納してしまうと、村正は一度とて振り返ることも無く、下層へ至る階段を降りていった。
一方その頃。
上層部を間引きしていたハンターたちは、村正と深夜が帰ってこないことを心配していた。
「あいつら、たった二人で何処まで行ったんだよ」
「まさか魔物にやられてたりは……」
「無いとは言えねえ。そうだとしてもオレたちにはどうしようもねえさ」
「戻ってくるのを祈るしかねえか……」
ベースキャンプでそんな風に話ながら、二人の身を案じるハンターたち。
「オレたちは自分の仕事をするだけだ」
「そうだな」
今日もハンターたちは上層部の魔物を刈り続ける。
そしてまた別なところでは。
「ちょ、ちょっと!」
「何でしょうか、魔王様」
「特級ってあんな簡単に倒されて良いの!?」
若い女の子の声と冷静を装った若い男の声。
どちらの声も微妙に震えている。
というか、魔王とは何だ。物騒な。
「……普通はプラチナランクでもせいぜいが引き分けなのですがね?」
「じゃあ何でやられちゃってるのよ!?」
「魔王様の腕が悪いのでは?」
「あたしのせいだっていうの!?」
「失言でした。つまり、彼の強さがオリハルコンランクに達しているという証左では無いでしょうか?」
「あたしの【同盟者】としては申し分ないわね!!」
ちょっと女の子の声が明るくなる。
「話を聞いてもらう前にバッサリいかれる可能性も捨てきれませんよ。今の様子だと」
「そういうこと言わないでよ! 怖くなるじゃない!」
冷静な男のツッコミに逆ギレする女の子。
「だってそうでしょう! 口上も述べさせずにいきなり戦闘ですよ!」
「そ、それは、あのオオカミ頭が喧嘩売るから!」
「それになんですか、アレ! スポナー喰うとかあり得ませんよ!?」
「知らないわよ!」
ぎゃんぎゃんと騒ぎ続ける女の子と若い男。
しばらくそうして騒いでいたのだが。
「と、とにかく、話し合いましょう……」
「そうですね。誠意を持って話せば……」
息を整えながら、二人は今後のことについて相談を始めたのだった。
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