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探索者は異世界でも宝を求む  作者: 葉月風都
第2章 はじめてのいせきちょうさ
18/42

第7話 -空飛ぶ巨大魚は全てを喰らう-

第二章 終了です。


村正さんもどんどん強化されて行く予定ですw


<第7話 -空飛ぶ巨大魚は全てを喰らう->




 明朝。

 日が昇る頃に起き出すと、軽く腹ごしらえをして湖へ向かう二人。


「村正様、これを」


 深夜が取り出したのはウェットスーツと酸素ボンベであった。

 海中遺跡を探索することもままあったため、こうした装備も全て準備されているのである。

 一式装備したところで、深夜がさらに差し出したものがある。


「如何な無明とはいえ水中では難しいかと。いつもの銃でございます」

「そうじゃな。此奴を握るのも久しぶりよ」


 それは、深夜が作り出された時代に下級の戦闘兵が装備していたエネルギー兵器だ。

 指向性を持たせた特殊なエネルギーを弾として打ち出す銃で、汎用性が高い。昨日釣り上げたシーラカンスもどきなら一撃で吹き飛ばせるくらいの威力はある。


「では、参りましょう。先導いたします」

「任せた」


 とぷんと二人は静かに水中へと消えていった。


 水の中はそれほど濁ってはいなかったが、やはり視界は良くない。

 深夜がサーチライトで照らしながら、ソナーを頼りにどんどん進んでいくのを後から着いていく村正。

 遺跡がある丘の側から探索を開始するとすぐにシーラカンスもどきの襲撃を受けたが、銃の一撃であっさりとその命を散らす魔物。


「無駄に命を散らすこともあるまいにのう」


 そんなことを考えながら、機械的に引き金を引いて魔物を処理していく村正。

 その時だった。


「でかい」


 さすがの村正も驚きを隠さなかった。

 3~4mクラスは沸いて出てきていたが、たった今現れたのはその倍はある個体だ。

 それが大きく口を開けて、凶悪な歯をぎらりと光らせながら二人へ向かってくる。


 普通ならビビってしまうところだが、勿論二人にそんな感情は生まれない。

 深夜が巨大シーラカンスもどきと村正の間にすいっと立ちはだかると、あろうことかその大きく開かれた顎をがっしと両手でつかみ取ったのだ。

 シーラカンスもどきもまさかそんな手段で自らの突進を止める者がいようとは夢にも思うまい。

 怒りのままに不届き者を噛み砕こうと全力で口を閉じようとするが、びくともしない。

 恐るべきパワーである。


「死ね」


 村正が深夜の後ろから銃を三連射する。

 狙い過たず大きく広げられた口から体内へ飛び込むエネルギー弾が、巨大シーラカンスもどきを絶命させる。


「ふん。これだけ巨大なヤツじゃ。そのへんに何かあるんじゃろうよ」


 深夜がくいくいと手で湖底を示す。

 そこには、大きな岩で巧妙に隠された穴があった。


「参ります」


 深夜が先陣を切って穴の中に身を躍らせる。

 村正がその後を追って穴の中へ。


 その瞬間、深夜がパルスレーザーを一斉掃射モードでばらまく。

 穴の中にも魔物が身を潜めていたのだ。

 深夜の攻撃によって死体と化したその間を縫うようにして奥へ奥へと泳いでいく二人。


「これは……」


 二人の前に現れたのは、巨大な金属製の扉であった。

 この辺りは非常に魔素が濃く、それが魔物を異常に巨大化させているのでは無いかと深夜は推測していた。


「それよりも、この扉をどうやって開けるかじゃな」

「破壊しますか?」

「いや、せっかくの遺跡じゃ。破壊するのも勿体ないのう」

「調べてみます」


 扉とその周辺を丁寧に調べていく二人。


 結論としては、「押し開ける」というものだった。

 深夜が一晩かけて解析した遺跡の古代文字サンプルを当てはめていくと、この扉は「試しの門」と言うらしい。

 要するに、この扉の奥には危険極まりないものが封じられているので、この扉を力尽くで開けられないような者には手に負えないから頑張ってこじ開けて見ろというのである。


「ほ、何ともまあ、傾いたもんじゃのう」

「そこまで危険なら、破壊するなり決して手の出せないところに捨てるなりするべきかと思うのですが?」

「深夜よ。そうはならんのが作り手や収集家の業なんじゃよ」


 したり顔で頷く村正。

 いくら危険と分かっていても手元に置いておきたい、破壊するには忍びないと考えてしまうのが村正のような人種であるからよく分かるのであろう。


「では、こじ開けますか?」

「うむ。押し通る!」


 二人が同時に扉に両手を押し当て、ぐっと力を込める。

 最初は全くびくともしなかった扉が、わずかに動く。

 その時だった。深夜が異変に気がついたのは。


「(村正様に魔素が?)」


 一帯に満ちている濃い魔素が、村正に流れ込んでいるのが分かるのだ。

 そして魔素が流れ込んでいくのに従って、村正の力が飛躍的に増大していくのが。


「(魔素が村正様に力を? これは【魔法】の徴でございます)」


 先日、北の山の麓で屠った赤熊。

 かの魔物が死の間際に魔法を行使しようとしたときの反応とそっくりなのだ。

 だが、村正にそんな魔法が使えるとは思えない。


「ぬうん!!」


 村正は気づいていないようだが、これは好都合とばかりに深夜はひとまず知らぬふりをしてさらに扉に力を込める。

 ずずずとわずかずつ押し開けられていく扉。


 なんと奇妙なことか。

 扉が開いていくにもかかわらず、その向こう側にはまるで水が流れ込んでいかない。

 明らかに物理法則を無視した光景ではあるが、それもまたファンタジーゆえと気にもとめない二人。


 ついに扉が押し開けられる。

 そこは広いドーム状の空間だった。

 直径が100mはあるだろう半球形の中心に、祭壇としか形容できないような造形。おそらく魔法的な何かなのだろうが、明かりが祭壇の周囲に揺らめいている。


「何じゃアレは。卵?」

「私にもそう見えますが」

「深夜にもそう見えるんじゃ。きっとそうなんじゃろうなあ」


 祭壇には、赤黒いような、半透明の卵が鎮座していた。

 ぱっと見のイメージは、色を黒っぽくしたイクラである。


 こうも厳重に隠されていた卵である。

 果たしてこの卵から孵化するのは一体何なのか?


「何の卵じゃろうか」

「首長竜でも入っているのでは?」

「そりゃあピー助と名付けるしかないのう」


 分かる人にしか通じないネタはよせと言いたい。


「しかし、この卵、生きとるのか?」

「分かりかねますが、魔素は感じられまする」

「ということは魔物か?」

「おそらくは」


 警戒しながらも祭壇へ近づいていく二人。

 近づいていくにつれ、卵のサイズが1m以上あることが分かった。卵の段階で1mとなると、成体のサイズはどれだけのものか。


「孵るんじゃろうなあ」

「開門が鍵になっていると考えるのが妥当でございます」


 そんなことを言っている間に、卵の中の何かがもぞりと蠢いた。

 殻にあたる部分を、突き破ろうとしているようにもがいているのだ。


「戦闘準備じゃな」

「御意」


 二人は武器を構えて、油断無く卵を見据える。

 ついに卵膜を突き破って「それ」は現れた。


 ゆらりと空中に浮かぶそれは、奇怪な魚であった。

 まず目を引くのは、その巨大な口だ。身体のパーツの中で口が一番大きい。開かれた口の中には、ずらりと鋭く尖った牙が並んでいる。

 目はどこにも見当たらない。

 身体の左右に広がるヒレはゆらゆらと揺れて、一見エイのようにも見える。

 尾びれは上下にブーメランのように着いていて、上に長く伸びる形。


「サメとエイのあいのこのようじゃなあ」

「同感でございます。あの口のサイズですとメガマウス。ヒレでいえばイトマキエイあたりでしょうか」


 醜悪なキメラであった。

 卵から孵ったばかりでありながら、間違いなく凶悪な魔物であると誰もが認める見た目と気配。

 その魔物が、ぐあとひときわ大きく口を広げると、二人めがけて加速した。


 空中を。


「飛ぶのかよ!?」

「速い!」


 空中で停止していたのに、あっという間にトップスピードなのだろう、時速で言えば100kmを超える速度で飛んできたのだ。

 どう考えても異常である。


「喰らいなさい」


 深夜の手からパルスレーザーが魔物めがけて発射。

 全弾命中したかに見えたそれは、


「喰われた?」


 大きく広げた口に、全て飲み込まれた。

 エネルギー弾を「喰らう」という馬鹿げた現象を目の当たりにして、一瞬動きを止める深夜。

 そこに、また魔物が砲弾の如く突進する。

 さすがにそんな攻撃を食らうような深夜では無いが。


「出鱈目なヤツのようじゃなあ」

「まさか喰われるとは思いませんでしたが」


 深夜が今度は物理的に爆発を引き起こすような弾を撃ち出す。

 だが、またしても魔物によって喰われてしまう。

 その隙を突いて村正が銃による射撃。ヒレに当たったエネルギー弾によるその攻撃はあっさりと弾き散らされた。


「なるほどのう。深夜、次はヤツの下の地面に打ち込め」

「御意」


 魔物の腹の下、地面を狙った砲撃は消えることなく爆発。

 爆発が収まって、無傷の魔物を見て深夜が得心がいったというように頷く。


「あの口が、喰らうのですね」

「そうじゃ。アレは『喰らう』という機能なんじゃろう。概念と言ってもよい」

「概念兵器……」


 深夜が現役で稼働していた時代、それに類する兵器は確かに存在した。

 【古き神】によって生み出された生物兵器。


「であれば、問題ないですね」

「今のを見る限りじゃと、喰らえるのはあの口に限定されているようじゃ。本体も勿論堅いじゃろうがな!」


 突進してきた魔物をかわしつつ側面に銃撃を叩き込む村正だったが、全く傷を負わせた様子は無い。


「堅い堅い!」


 村正と深夜は、魔物を挟み込むようにお互いの位置をずらしていく。

 隙だらけの魔物に攻撃することは容易かったが、全くダメージが通った様子が無い。


「エネルギー系の攻撃はほぼ効かないと考えた方が良いのでしょうか」

「今のところその線が濃厚じゃのう」


 村正は、銃をしまうと無明を取り出して構える。

 深夜も収納空間から超振動剣バイブレーションソードを取り出す。


「扉からして力尽くじゃったからのう。此奴も力尽くがいいんじゃろうさ!」


 すれ違いざまに無明が魔物のヒレを浅く斬る。

 傷口からじわりと体液らしきものが滲む。


「物理で殴れということじゃな」

「了解でございます」


 二人の攻撃は、魔物の体表を切り刻んでいく。

 血飛沫のように舞うそれは、空中に飛び散ると同時に黒い靄のようになってはまた魔物の中に吸い込まれていく。

 この魔物は、身体からして魔素で形作られているらしいのだ。


「村正様、魔法、来ます!」

「なんと、魔法も使いよるか!」


 魔力を感知した深夜が警告を発する。

 突進ばかりで芸が無いと思っていたところにこの魔法だ。


 巨大な口が目一杯広げられると、その奥に黒い球体が生み出され、打ち出される。

 音も無く、高速で飛来するそれをいつものように紙一重でかわそうとしたところで、得体の知れない悪寒が村正を走った。

 大きくバックジャンプすることでかわした黒い球体が祭壇に直撃し。


 消滅させた。


「なんじゃと!?」

「あの球体が『喰らった』のでしょう、祭壇を」

「概念を魔法に込めて打ち出すわけか。厄介じゃが……」

「当たらなければどうということはない、ですね?」

「その通りじゃ!」


 恐れること無く攻撃を繰り返す二人。

 球体のみならず、扇形に吐き出したり、自らを中心にして球形に放射したりと危険極まりない攻撃を繰り返す魔物だったが、魔素の動きで発動を察知する深夜が警告を発して確実な回避を可能とした。


 そうして一撃食らえば即死の戦いを30分以上も繰り広げ、二人はついに魔物を倒しきった。黒い靄となって虚空に溶ける魔物。


「ふう……。集中力を使う戦いじゃったのう」

「左様でございますね。お見事でございます、村正様」

「この身体のお陰じゃな。現世ではこうはいかんかったじゃろうて」


 呵々と笑う村正であった。

 その時。


「なんと」


 消えたはずの黒い靄が一点に集まり、倒したはずの魔物を形作っていく。

 5cmくらいのミニチュアサイズで。


「……なんじゃこれは」

「小さくなってしまいましたが」


 警戒は怠らない二人だったが、ミニチュアサイズになった魔物はぴくりとも動かない。


「動かんのう?」

「油断を誘う手かもしれませぬ」


 そのうち、空中で静止したままの魔物の周りに黒い靄が集まって球形を形作る。

 その球体は、表面に何かが描かれ、左右にスクロールしているようだ。


「これは、遺跡の物と同じ旧魔法文明の言語ですね」

「解読できるか?」

「はい。今朝までに解析は終了していますので」


 深夜が球体表面の文字を解読したところによると、これは魔物の「取扱説明書」であるそうだ。

 まさかのトリセツである。


「親切じゃな、魔法文明!?」

「要約します」


 深夜の言うことには、「この魔法の効かない兵器相手に物理で勝つとは見上げた奴。よって、この兵器の所有権はお主のものだ。呼称を決定して起動させれば、お主の命令に従う。使いこなして見せろ」ということだそうだ。

 魔法文明というからには、【術士】が幅をきかせていた時代だったのだろう。

 そんな時代に魔法が効かないこの怪物は恐ろしい兵器だったに違いない。


「さあ村正様。名前を決めてあげて下さいませ」

「儂がか」

「勿論でございますよ」

「ううむ……。メガロでよかろう。口お化けの鮫じゃしな」


 メガロドンから取ってメガロ。実に安直であった。


「だそうです。起きなさい、メガロ」

「了解シマシタ。以降、コノ個体ノ名称ヲ『メガロ』ト呼称シマス」

「喋りおったぞ、此奴」


 機械音声のような抑揚の無い台詞が辺りに響く。


「メガロ、貴方の概念は『喰らう』で合っていますね?」

「ハイ。間違イアリマセン。ゴ命令ヲ、マスター」


 そのままふよふよと村正の目の前まで空中を泳いでくるメガロ。

 さすがに金魚サイズに縮んでしまうと、バランスの悪い巨大な口が逆に愛嬌のある風に見えてしまうのが不思議だ。


「儂は村正じゃ。よろしくな」

「ハイ。ヨロシクオ願イイタシマス」

「何じゃな、とりあえず深夜の収納空間にでも入っとれ」

「ハイ」


 そう言うと、深夜の収納空間にしまい込まれてしまったメガロ。


「ううむ、使い勝手悪そうじゃなあ」

「ちなみに餌は魔素だそうです」

「魔物を食わせればいいってこったな?」

「左様でございます」

「どこまで育つんじゃろうか?」

「トリセツによりますと、7~8mだと」

「そんなにか!?」


 成長するに従って巨大にはなるが、大きさは先ほどの5cmを最小値として自由に孵ることが出来るそうなので一安心である。


「とりあえず帰るか」

「報告できなさそうな発見でしたね」

「する気もないわい。儂の発見は儂だけのものじゃ。誰が教えるか」

「さすが村正様です」


 ブレない男であった。


 ちなみに帰りは楽だった。

 これ幸いとメガロを呼び出して、思う存分シーラカンスもどきを捕食させたからだ。

 喰う度にどんどん大きく成長していくメガロを見ていたら面白くなってしまって、シーラカンスもどきを乱獲していたのはここだけの秘密だ。




 さて、あまりに早く街に帰り着いてしまうと変に思われるだろうと言うことで、一泊して遺跡周辺で魔物をメガロに乱獲させ、促成栽培していた村正。


「むうん、育ったもんじゃのう」

「左様でございますね」


 空中を泳ぐメガロは、すでに最大で8mを越えている。

 基本的に魔法を受け付けず、物理攻撃にも強い耐性を示し、あらゆるものをその巨大な口で『喰らう』という旧魔法文明時代の魔物。

 生物兵器といっても良いだろう。


「この世界では規格外じゃのう」

「全くです。私が稼働していた時代にも似たような機能を持つ兵器はありましたが」

「神代の時代と比べてはのう……」


 その巨体をゆらゆらと空中に漂わせ、魔物を喰らっていくメガロ。

 魔物以外にも、木でも石でも魔素をある程度含むものであれば全て餌として食べることが出来ることが分かった。


「まあ、燃費も悪くないようじゃし、ペットを一匹手に入れたと思えば良いか」

「左様でございますね。金魚サイズなら可愛いものですよ」

「そうじゃのう」


 金魚サイズに縮めてから深夜が収納空間に放り込む。


「さて、のんびり帰るとするかのう」


 のんびりと歩いて魔物を狩りながらアールファの街へ帰る二人であった。


お読みいただきありがとうございます。


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