第7話 -討伐完了-
ひとまず第一章はこれでお終い。
村正さんの為人が少しは伝わっていると良いのですが。
あまり派手なことが無くて申し訳ないです。
第二章はアールファの街に舞台を移しての説明回&初遺跡調査になる予定。
早めに投稿できると良いのですが。
<第7話 -討伐完了->
「では、村へ戻るとするかのう」
「そうだな。目的は達成できたわけだしな」
村への帰り道も、行きがけの駄賃とばかりに目につく魔物は全て狩り尽くしていく村正たち。
見敵必殺だ。
だいぶ暗くなった頃、三人は村へと戻った。
「おお、帰って来たぞ」
「手ぶらなところを見ると空振りか?」
村人たちが三人を見てひそひそと呟いている。
「いや、赤熊は無事に倒した。今から村長のところに報告しに行く」
「何だって!?」
「素材はどうした!?」
「詳しいことは後で話す。今は大人しくしていてくれ」
ビーンに言われて一先ず引き下がる村人たち。
「魔石ぐらい見せてやるか?」
「いや、今はいい。まずは村長に報告だ」
村長宅。
赤熊を無事討伐したことを伝えるとエーンはたいそう喜んだ。
「おお、本当か。ありがたい、これで安心して森に入れるというものだ」
「じゃが、アレが最後の一頭とは限らんじゃろう?」
「いや、ヤツに限らず中級ともなると群れることはないんじゃ。新しい個体がやってくるまでは安全じゃろうて」
「そういうものか。まあ、油断せぬことじゃなあ」
「して、赤熊の素材は?」
中級の素材ともなればかなりの値段で取引される。それだけに持ち帰れるだけの素材は持って帰ってくるのが当たり前だ。
だが、三人は大量の素材を持って帰ってきた様子でもない。
エーンが不安に思うのも仕方の無いことであろう。
「それなんだがな、村長」
ビーンがエーンに耳打ちする。
「なんじゃと・・・。本当か?」
「ああ。この目で見たからな」
「とりあえず魔石だけは、ほれ、此処に」
懐から握り拳二つ分はあろうかという巨大な魔石を取り出して見せる村正。
「何と巨大な・・・」
「それでだ、村長よ。報酬について話があるんじゃがな」
「そうじゃのう。ワシもそのことについては話し合う必要があると思っとったよ」
実際問題として、中級の魔物を狩るということはこの世界のほとんどの人間にしてみれば「命を賭けろ」と言われたも同然の仕事だ。
仮に【魔物狩り】にギルドを通して依頼したとすれば、この世界の貨幣にして金貨500枚は下らない。現代の貨幣価値に直せばおよそ500万円というところだ。
人一人の命が500万円を安いと見るか高いと見るかは世界によって違うのだろうが、この世界では相当な額である。
金貨1枚で一家6人が一ヶ月暮らせ、金貨30枚も出せば最下級の奴隷が買えるといえば、この世界の金貨500枚がいかに法外な額であることが分かるだろうか。
だが、そのことを村正たちはまだ知らない。
「いくら出せる?」
「この村では、金貨30枚がギリギリじゃ・・・」
「話にならんな」
突っぱねる村正。
もちろん貨幣価値など分かってはいないが、まずはすげなく断るのが基本だと村正は思っている。
現代で骨董品を扱っている時から、「初めから適正価格を提示してくる客はいない」というのが経験則として分かっているからだ。
ましてやこのような人の命の軽そうな世界である。可能な限り安く値切ろうとするのが当然だろうとも考えていた。
にしても値切りすぎであるが。
「残りは倒した赤熊の素材と言うことでどうじゃろうか。魔道具で全て持ち帰ってきたのなら足は出ないと思うんじゃが・・・」
「それはそうじゃろうなあ。じゃが、儂が言っておるのはそういうことではないぞ。儂が言っておるのはお主等の誠意の問題じゃよ」
依頼を受ける際に額の確認もしないでおいて何を言うかと思わないでもないが、しれっとした顔で村正は言ってのける。そこには遠慮のかけらもない。
「じゃが・・・」
「村長」
ビーンが何か村長に耳打ちする。
ここでゴネるのは得策ではないとでも話しているのだろうか。
「金で払えないなら別な物で払ってくれても構わんぞ?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて言う村正。
「な、何が目的なんじゃ。この村にはそんな価値のあるものは・・・」
「あるだろう。【山の神】の情報が」
「なんじゃと!?」
愕然とするエーンとビーン。
村正はしてやったりという表情だ。
「何、別にそれを聞いて今すぐ山に入ろうなどと思っておるわけではないから安心せい。言ったと思うが、儂は遺跡やら何やらを渡り歩いて遺物を探しておる。お主ら風に言うならば【魔道具】じゃな」
村正はそこで一旦言葉を切り、エーンをじっと見る。
得体の知れない怖気にぶるりと身を震わせるエーン。
「儂はな、【魔道具】に限らず武器防具、装飾品、美術品、何でもええ。とにかく価値あるモノが好きなんじゃよ。手に入るモノは全て自分の手元に置いて愛でていたいんじゃ。そして遺跡や迷宮があるならそれを踏破して全てを解明したい。分かるか?」
陶然とした顔で熱っぽく語る村正を唖然とした表情で見つめるエーン。その目は、何か異質なものを見るような目だ。
「分からんでもええわ。儂はそういう人種だということじゃ。じゃから、この山に何か秘密があるならそれはいずれ解明したいんじゃ。じゃから、お主らの知っておる情報を全て儂によこせ」
「そ、それは・・・。じゃが・・・」
言いよどむエーン。
「さっきも言ったが、今すぐにどうこうしようとは思っとらんよ。然るべき準備を整えて、然るべき時にじゃ。お主らに迷惑はかけんよ」
多分じゃがな・・・と心の内で台詞を付け加える村正。
村正にとっては他人の迷惑などそこらの石ころと同じで気にとめるべき事ではない。
「無理なら無理と言ってくれい。別なモノで購ってもらうだけじゃよ」
にたりと笑う村正から発せられる得体の知れない威圧感に、エーンもビーンも完全に呑まれてしまっていた。
ここで無理だと言えるほどの度胸は二人には無かった。
「分かった・・・。じゃが、ワシも詳しいことを知っておるわけじゃないんじゃ」
「村長!?」
「いいんじゃ、ビーン。仕方あるまいよ」
「知っとる事だけで十分じゃ。じゃが、隠し事はするなよ。そんなことをすればすぐにバレるぞ。儂にも深夜にもな」
にこりと笑う深夜。
深夜のことを【術士】と誤解している二人にはそれはただの笑顔には見えなかった。
「この山には【山の神】が住んでいると言われておるのよ」
そう言ってエーンは静かに語り始めた。
話はこうだ。
この山には、山の神が住むという。
それは、何処か山の奥深く、自らの領域にて静かに眠りについている。
もしも目覚めさせてしまったならば、それは怒りの炎で全てを焼き尽くし、山と大地を焦土と変えてしまうだろう。
決して山を荒らし、禁を犯し、大いなる怒りに触れてはならない。
ゆめゆめ忘れる事勿れ。
「ほう。怒りの炎とな」
「言い伝えじゃ。じゃが、過去この村の血気盛んな若者が山奥へ踏入り、二度と戻ることは無かったという事件が何度もあったことは確かじゃ」
「それは良いことを聞いた」
「何がじゃ?」
「山奥へ踏み込むこと自体は禁忌では無いということよ。それ自体が禁忌ならば、この辺りは焦土と化していなくてはなるまい?」
確かにその通りである。
二度と戻らなかったことは、言い伝え通りならば大したことではない。ただ奥地に住むもっと凶暴な魔物に殺されただけかもしれないのだから。
「よいよい。この山には儂を楽しませてくれそうな秘密があると分かったからのう」
領域。すなわち神域。
山の神とやらに繋がる遺跡なり迷宮なりが山のどこかに存在している、そう思っただけで村正は胸の高鳴りを抑えられなかった。
「(この世界でも宝探しが出来る。ここに飛ばされて正解じゃったわい!)」
現代では目にすることの出来ないような宝がこの世界には眠っている。
ここへ飛ばしてくれた【古き神】とやらに感謝した村正であった。
その日は、赤熊の肉を村人たちに料理して振る舞った村正。
何も事情を知らぬ村人たちは、恐怖の対象であった魔物を屠った村正に感謝と賞賛の言葉を惜しみなく贈った。
まあ、今のところ誰にも害になるようなことは無いのだからそれでいいのであろう。
いずれ村正がこの山に挑むときになって、感謝が罵倒に変わるかもしれないが。
そして翌朝。
「世話になったな」
「こちらこそじゃ。赤熊を倒してくれたことは素直に感謝しておるよ」
「気にするな。この山に住むという神に挑むのも今すぐという話では無いから安心せえ」
「ワシが死ぬまでは延期して欲しいもんじゃなあ」
「村長・・・」
「かかか。それは約束できんが、考えておくとするわ」
村正と深夜は、村人に見送られながら山の麓の村をあとにした。
村からしばらく早足で歩き、完全に見えなくなったところでペースを上げる二人。
またしても人を完全に超えた速度で走り続ける。
「村正様、よろしいので?」
深夜が村正に、すぐに山に入らなくて良いのかと尋ねる。
「楽しみは後にとっておいてもよかろうよ。まずはアールファの街とやらでもう少しこの世界の情報を仕入れてから考えるとするかのう」
「なるほど」
「この世界は、現世よりも不思議と戦いに満ちあふれておるようじゃし、退屈せんですみそうじゃなあ!」
走りながらそう言った村正の顔は、心底楽しそうな、稚気に溢れた顔であった。
村正にとってのこの世界で初めての冒険は、これにて終幕。
お読みいただきありがとうございます。
良ければ評価などお願いできれば……。( ´▽`)テヘ




