第6話 -赤熊という魔物-
熊さんとバトルです。
村正さんは強いのです。技術はピカイチです。
そうですね、るろ剣の登場人物的な感じ?w
<第6話 -赤熊という魔物->
翌朝。
早起きして準備を整えたビーンと村正、深夜は森へと分け入っていった。
「しばらく奥へ行ってから、まずは赤熊の好物の鹿を狩る。その肉を餌にして熊をおびき寄せるんだ」
「承知。まだまだ奥へ行くということで良いか?」
「ああ。村の近くでは事は起こせねえ。半日は奥へ進みてえ」
ビーンの言った通り、道中薬草などを採取しながら奥へ奥へと進んでいく三人。
村正は、昨日も狩った蛇型の魔物から毒を手に入れながら歩く。
「下級とはいえ見事な手並みだな。恐れ入るぜ。その毒を使うのか?」
「ただの麻痺毒じゃからなあ。そうそう効かぬかもしれんが策は多い方がよかろう?」
「ちげえねえ。しかし、そんな無造作に素手で扱う様な毒じゃねえと思うんだがなあ」
「この程度の毒、儂には効きはせんよ」
言外に自分の強さをアピールする村正。
実は、この毒に対抗する抗体を昨日のうちに深夜が作成してくれているだけだったが。
「そうか。ランクの高い【魔物狩り】は毒も無効化するというが、あんたもその口か」
「どうじゃろうな」
村正は曖昧に笑った。
誤解してくれるのは全く構わないのだから。
村正は、地球で生きていた頃から人の善意などかけらも信じてはいなかった。
村人が自分のことを警戒しているのはすぐに分かった。仮に自分が村人だったとしたら、もちろん警戒せずにはいられないだろうが。
同じように、村人が何かを知っていることも分かった。
恐らくそれは山の魔物に関する事だろうとも思っていた。
あまり深く首を突っ込んでは、村人が自分を排除しようとするかもしれないくらいは予想の範疇だ。
だから、深夜に口にする物の分析はさせていた。
幸い、毒などは盛られていなかった様だが。
「(どっちにとって幸いかは分からんがのう)」
心の中だけで呟く村正。
もしも毒など盛られていたならば、村正は村人を全滅させることを躊躇しなかっただろう。
村正と深夜がいればその程度のことは軽く出来てしまうのだ。
現に、村正はヒマラヤ山脈の奥地で一つの先住民族の村を滅ぼしているのだから。
このビーンという男が村一番の戦闘力を持っているのだとしたら、村一つ全滅させるまでに半時とかかるまい。そう村正は見積もっていた。
「そろそろいいか。鹿を探そう」
約半日ほど森の奥へ分け入ったところで、ビーンの言う通り獲物を探すことにした。
「深夜、頼めるか?」
「お任せ下さい、村正様」
「どうしたんだ?」
「まあ、見ておれ」
深夜が索敵に集中し始める。
深夜の脳内では、森の中が3Dマップの様に展開されている。
「右手前方、140m程のところに一頭発見でございます」
「承知」
村正が【無明】を持って立ち上がる。
「何をした? 何でそんなことが分かる」
「深夜には分かるのよ」
不思議そうな顔で小声で言い募るビーンに不敵に笑う村正。
「まさか、その娘、【術士】なのか?」
「さて、どうじゃろうなあ。仮にそうだとして何か問題があるか?」
「い、いや。問題はねえ。ねえんだが、【術士】が奴隷に甘んじているなんて」
「ふん、【術士】だと決まったわけではないぞ」
とても驚いている様子のビーンを見て鼻を鳴らす村正。
「(魔術、妖術の類いが実在することは分かっておったが、どうやら【術士】なる奴らは珍しい存在か。しかも重用されているようじゃな)」
ライト・ファンタジーのように、鍛えれば誰もが魔法使いになれるわけではない世界であればそれも当然であろう。
地球でも超常の力を持つ者は間違いなく重用されていたわけであるし。
「どれ、早速狩ってしまうとしようかのう」
自らの気配を断つと下生えを踏む音すら立てずに歩を進める村正。
数mのところまで近づいても、鹿は村正に気付くそぶりすら見せない。
村正は懐から麻痺毒を塗り込んだ棒手裏剣を三本取りだし、目にもとまらぬ早業でそれを鹿に向かって投げつける。
狙い違わず突き刺さった手裏剣から毒が回りふらふらとよろめく鹿に、一瞬で間合いを詰めると抜き打ち一閃。綺麗に鹿の首がずるりと落ちる。
「・・・・・・」
あまりの早業に言葉を失うビーン。
「どうした、解体ぐらいは頼んでもよかろう?」
「あ、ああ、すまない。すさまじい腕だな」
「動きの鈍った獣など幾ら切ったところで自慢にもならぬよ」
ふんと鼻を鳴らす村正。
心底つまらなそうな顔をする村正を見ながら、ビーンは黙々と鹿を処理していく。別に食肉にするわけではない。おびき寄せるために使うので、わざと傷を広げて血の臭いが辺りに広がるようにしているのだ。
村正は、せっかくだからと穴を掘って即席の罠を作っているが、そんなものが巨大な熊に通じるかどうかは定かではない。
「まあ、何もしないよりはマシじゃと思おうかのう。腐っても【魔物】じゃ。こんな簡易な罠に引っかかるほど阿呆でもあるまい」
引っかける分には役に立つかもしれんのうなどと村正あたりは考えているようだが。
「よし、あとは待とう」
やや離れた大木の根元に見つけたくぼみに身を隠す三人。
こう森が深くては風など無いに等しい。風下に陣取るようなことは出来ないのだ。
「さて、来るかのう」
「分からんが、恐らく来るはずだ。まだ食料も少ない時期、ごちそうの臭いがすれば寄ってくるんじゃないか」
「寄ってきたら殺せば良いんじゃな?」
「ああ。さすがに俺には赤熊なんぞは殺せねえ」
待つこと約半刻。
「・・・来ました、村正様」
深夜の索敵に引っかかったようだ。
ギリギリまで気配を消して、様子をうかがう村正。
木々を縫うようにして現れたのは、赤褐色の巨大な熊であった。
羆をさらに巨大にし、凶悪な見た目にしたようなそれは凄まじいまでの存在感を放っていた。
「(でかいな。3mどころではないわい)」
目の前で鹿を喰らおうとしている赤熊は、少なく見積もっても5mはある。
人が戦いを挑むなど、無謀以外の何物でも無い。少なくとも一人では。
だが、そんな相手を目の前にして、村正はかつてないほどに自らが熱く滾るのを感じていた。
「(自分の身一つ、刀一振で戦うことに興奮しておるのか。年甲斐もなく!)」
現世では戦いといえば飛び道具、即ち銃を撃ち合うことであった。
自分だけが有利であるように戦いを進める。それが戦いであった現代と違って、この世界での戦いは文字通り「命のやり取り」である。
それが、村正の心の奥深く、野生の部分を刺激する。
飛び道具と言えば、せいぜいが原始的な弓。
当然ながら火気など存在せず、極少数の【術士】が魔法という埒外の手段を持っているのみ。
「(思う存分腕を振るえるというわけじゃ。しかもこの常識外れの肉体を持って!)」
熱い。
村正は、自らを灼くような熱を感じていた。
そう思ったときには、身体が勝手に動いていた。
村正は、身を潜めていたくぼみから猿の如く飛び出すと、神速の歩法にて赤熊との間合いを一息に詰める。
だが赤熊もこの森の主。森の暴君とまで呼ばれる魔物だ。
僅かな物音だけで村正の存在に気付き、瞬時に体制を整えようとする。
だが、先ほどまでは感じられなかったのに、今は何故か目の前に殺意を迸らせた人間がいるということに驚愕する赤熊。
それは致命的な隙を生んだ。
『ギャオオオオオオオオオッ!』
赤熊の叫びが森に轟く。
飛び上がった村正の振り抜いた刀は、寸分の狂い無く、赤熊の両目を水平に切り裂いていた。
恐らく生まれて初めて感じる痛みと盲目の恐怖、そして怒りに赤熊は吠え、滅茶苦茶にその両腕を振り回す。
「かかっ! 当たるものかよ、そんな大振りがっ!」
戦いの空気と立ち込める血の臭いに歯をむき出しにして笑う村正。
振り回される両腕をひらりひらりと避けながら間合いを詰め、赤熊を切り裂く村正。
狙うは両足の関節付近。
現代には存在しなかった【魔物】なる生物の血を吸い、【無明】の刀身がまるで喜ぶかのように怪しく光る。
二度目の斬撃が筋を切り裂いたか、赤熊は自らの身体を支えることが出来なくなり、無様に地面に倒れ伏す。
「戦意喪失とはいかぬか。流石は【魔物】よのう」
倒れながらも大きな唸り声を上げ、見えぬ敵を威嚇する赤熊。
無論、そんなことに臆する村正ではない。
「どれ、中級の魔物とやらの耐久力でも試してみるとしようかのう」
赤熊の身体の至る所を切り裂きながら、この魔物の持つ力を確かめていく村正。
それを記録しながら深夜も分析を始めている。
「ほ、凄まじき生命力よな。傷がこのような速度で回復するなど獣ではあり得ぬ」
魔素を取り込んで生きる【魔物】は自己治癒力というよりは再生力が桁違いだ。
種によっては手足を切り落とされようがあっという間に再生してしまうような行為の魔物も存在するのだ。
「村正様、【魔素】の働きが活発になっております。おそらく【魔法】を使用するのでは」
「なんじゃと。面白い、見せてもらおうではないか、【魔法】とやらを」
ニヤリと笑う村正。
「お、おい。何悠長なこと言ってんだ。早くとどめを刺しちまえ!」
「その通りです、村正様。万が一自爆のような魔法であったら・・・」
「その時は深夜、儂を守れ。いいな?」
言外に「ビーンはどうでもよい」という意志を込め、深夜に言いつける村正。
深夜はただ黙って頭を下げるのみ。
「お、おい、あんた」
ビーンを無視し、村正はじっくりと赤熊を観察しながら、切りつけるのを止めない。
放っておいて再生されてしまっては困るからだ。
「さあ、どうした熊。お前の奥の手を見せて見ろ!」
村正の声に応えたわけではなかろうが、赤熊が大きく広げた口元に赤い光が生まれ、大きく輝きを増していく。
数秒の後に打ち出されたそれは、狙い違わず村正を直撃。
轟音と火炎が周囲を満たす。
「かかかっ! 中々の威力よ。ナパーム程度の威力はあるわい。じゃが、打ち出すまでにそれほど時間を掛けてしまっては役に立つまいが」
炎が治まったそこには、無傷の村正が立っていた。
「ば、馬鹿な・・・。【魔法】を喰らって無傷だと!?」
「儂の力ではない。済まんな、深夜」
「いえ。相変わらず無茶をなさいます」
深夜が張った対エネルギー障壁は、村正を完璧に守った。
ついでにビーンもだ。
「恩に着るが良いぞ。お主もついでに守ってやったのだからな」
「お、おう・・・」
それには自分でも気付いていたのか、ビーンは深夜に頭を下げる。
年端もいかぬ少女にも頭を下げる姿を見て、村正は意外に感じていた。
「(ふむ、もっと尊大な輩かと思っていたがそうでもないか)」
赤熊は、全ての力を使い果たしたかぐったりと地面に伏していた。
「どれ、そろそろかのう」
村正は無明を赤熊の脳天に無造作に突き立てる。
それがとどめの一撃となり、赤熊は絶命した。
「終いか。あっけないもんじゃなあ」
「あっけないって、中級の赤熊をこんな簡単に・・・」
「力ばかりの獣なぞ切ったところで自慢にもならん。さて、バラすとするか」
せっかく倒した魔物である。解体せねば勿体ない。
心臓のある部分にはやはり魔石があった。
「(心臓の働きをこの魔石が肩代わりしておるのか? そのあたりが違いか?)」
村正は内心でそうアタリをつける。
魔石のほかにも爪や牙、肝、毛皮に至るまでが売り物になるとビーンが言うので、ここでバラすのは大変だと結論づけた村正は深夜に全て収納するように言いつける。
「よろしいので?」
「構わん。お主、他言は無用ぞ?」
ビーンを視線で脅しつける村正。
「承知致しました」
「なっ!! 【魔道具】か!?」
赤熊の死体が瞬時に何処かへ消えてしまったのを見て、ビーンが驚きの声を上げる。
「だから言うたであろう、他言無用とな。珍しかろう?」
「あ、ああ。こんな巨大なもんを閉まっておける収納の魔道具は珍しい」
収納の魔道具自体はそこまで見ない物でもないが、この世界で通常出回っている物の容量はせいぜいが50cm×50cm×50cmである。
これだけの巨体を収納してしまえる魔道具ともなれば相当な額で取引がされるはずだとビーンは語った。
「そうじゃろうなあ。これを狙ってくる不届き者もおったもんじゃよ」
「そりゃあ分からねえでもねえが、もちろん・・・」
「当然じゃな。儂の物に手を出そうとするなど万死に値する」
ニヤリと笑う村正を見て、ビーンは肝を冷やした。
これは敵対するべきではないなと。
何せ赤熊をいとも容易く屠る剣士に、中級の魔物が使う【魔法】を防ぐことが出来る【術士】のコンビとやり合おうなどとは命が幾つあっても足りない。
決して変な気は起こさないようにと村長達にも良く言って聞かせねばと決心したビーンであった。
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