小さい王子と姫の探検
ある寒い寒い冬の日、男の子と女の子が手をつないで森の中を歩いていました。
「お兄ちゃん、おなかすいたよ」
「僕もおなかすいた」
しばらく行くと木の切り株の根元に扉があるのを見つけました。
どうやら地下に繋がっているようです。
トントントン
男の子がノックをすると、
「はい、だあれ?」
ともぐらさんが顔を出しました。
「こんにちは。僕たちおなかすいたの」
もぐらさんはふふふと笑いました。
「ちょうどスープを作ったから、飲んでいきなさい」
2人は喜んでごちそうになることにしました。
でも、スープはなんだか黒っぽくて木の根っこのようなものが浮いています。
男の子は嫌そうな顔をして、
「僕、これいらない」
と言いました。
もぐらさんは腹を立てました。
「じゃあ飲まなくてもいいよ」
おいしくなさそうに見えましたが、女の子は勇気を出して飲んでみました。
「あ、おいしい……。お兄ちゃんとてもおいしいよ」
「僕いらない」
「でも、ママはいつも食べないと体が温かくならないよって言ってるよ」
男の子は寒さで震えていたのです。
女の子に言われて、男の子はおそるおそる一口食べてみました。
「おいしい! これなあに?」
男の子は目を輝かせて言いました。
「ごぼうのスープだよ」
もぐらさんはもう怒っていません。にこにこして女の子におかわりをあげました。
「僕、もっと食べたい」
「たんとおあがり。体があったかくなるよ」
「うん、僕いっぱい食べてあったかくなる!」
そして男の子と女の子はもぐらさんの作ったごぼうのスープをいっぱいいっぱい飲みました。
「僕もういらない」
「お兄ちゃん、そういう時は”ごちそうさま”でしょ。おいしかったです、ごちそうさま」
「ごちそうさま、もぐらのおばさんありがとう」
男の子と女の子が笑顔で言いました。
もぐらさんは自分の分のスープまで食べられてしまったけど嬉しそうに2人を見送りました。
2人はまた森の中を歩いて行きました。
スープをいっぱい飲んで一旦はおなかいっぱいになった2人でしたが、またおなかがすいてきたようです。
「僕またおなかすいた」
「お兄ちゃん、おうちに帰ろう?」
話しながら歩いていると、今度は大きな木に扉がついているのを見つけました。
トントントン
男の子がノックをすると、
「はい、だあれ?」
とくまさんが顔を出しました。
2人はびっくりしました。でも空腹には勝てなかったので、男の子は勇気をふりしぼって言いました。
「……こんにちは。僕たちおなかすいたの……」
くまさんはふふふと笑いました。
「ちょうどパイが焼けたから、食べていきなさい」
2人は喜んで、またごちそうになることにしました。
パイは丸くて大きいので、くまさんがお皿に切り分けてくれました。
できたてのパイはとてもおいしそうです。
「いただきまーす!」
2人はパイにかぶりつきました。
「ん? これなあに?」
男の子が口の中に入ったどんぐりを取りだして聞きました。
くまさんが作ったのはどんぐりのパイだったのです。
「どんぐりだよ。おいしいよ」
でも男の子の口には合わなかったようです。パイは食べるけれどもどんぐりだけ残しています。
くまさんはため息をつきました。
「おいしい! どんぐりってこんなにおいしいのね!」
反対に女の子は喜んで食べています。そして男の子の残したどんぐりにも手を伸ばしました。
そうすると男の子もおいしそうに見えたのか一緒になって残りのどんぐりを食べ始めました。
「僕、どんぐりのパイもっと食べたい!」
「たんとおあがり。いっぱい食べると大きくなれるよ」
「僕いっぱい食べて大きくなる!」
くまさんはもうため息をつきません。にこにこしながら2人にパイをいっぱいいっぱい食べさせました。
「……おなかいっぱい」
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま、くまのおばさんありがとう」
2人は笑顔で言ってくまさんの家を後にしました。
くまさんは自分の分のパイまで食べられてしまったけど嬉しそうに2人を見送りました。
2人はまた森の中を歩いて行きました。
やっとおなかいっぱいになって、今度は遊びたくなりました。
「僕走りたくなっちゃった」
男の子が言いました。
「でも、森の中を走るのは危ないよ」
森の中は木がいっぱいだし、足元はところどころ木の根っこが出ています。きっと走ったらいくらもいかないうちに転んでしまうでしょう。
話しながら歩いていると、今度は森の中の開けた場所に出ました。広場のようになったところで鹿さんやうさぎさんが遊んでいます。
「わぁーーいっ!!」
男の子が喜んで走りだしました。すると鹿さんやうさぎさんはびっくりして逃げ出しました。
途端に広場は閑散としてしまいました。男の子は少し走りまわりましたが、すぐに立ち止りました。
「どうして鹿さんやうさぎさんは逃げちゃったのかな?」
「お兄ちゃんが大きい声をあげて走ってきたからびっくりしたのだと思うわ」
「そっかー……」
男の子はしょんぼりしました。
動物たちは遠くには行っていませんでした。木や草の影に隠れて2人の様子をうかがっています。
女の子はそれに気づきました。そっと広場の真ん中まで行き、
「鹿さん、うさぎさん、驚かせてごめんなさい。貴方たちと遊びたいだけなの。遊んでくれる?」
と静かな声で呼びかけました。
やがて鹿さんがおそるおそる姿を現しました。男の子は目を輝かせました。
「しっ、お兄ちゃんまだよ! みんなびっくりしちゃうからそばに来てくれるまで待たなくちゃ」
「……僕待てる」
2人は根気よく待ちました。
動物たちがゆっくりゆっくり2人のそばに来てくれるのを。
鹿さんが首を傾げて言いました。
「……何して遊ぶ?」
「うーん……かけっこ!」
男の子は少し考えてから元気よく答えました。鹿さんたちはにっこりしました。
「かけっこ!」
「かけっこしよう!」
そうして男の子と鹿さんたちは広場の中を走り回りました。
女の子は危ないので広場の端にある池のほとりまで行きました。女の子も走りたかったけれども男の子や鹿さんのようには走れません。
するとうさぎさんが声をかけてきました。
「姫、池ですべりっこしよう」
「すべりっこ?」
「うん、池の水が凍っているんだ。その上を滑るんだよ」
見れば池の氷の上をうさぎさんたちがすべって遊んでいます。みんな上手で楽しそうです。
「私が乗っても割れないかしら?」
「姫は軽いから大丈夫だよ」
うさぎさんの言葉に勇気づけられて女の子はすべりっこすることにしました。
立ってすべることは難しいので座ってお尻ですべりました。
みんなそうしてたくさんたくさん遊びました。
やがて男の子が立ち止り、
「僕もう疲れた」
と言いました。
「じゃあお兄ちゃん帰ろう」
いっぱい遊んでみんな体がぽかぽかです。今のうちに帰った方がよさそうでした。
「鹿さん、ありがとう。今度僕のおうちに遊びにきてね」
「うさぎさんもありがとう。また遊んでね」
みんなそうしてにこにこしながら帰りました。
おうちまではそれほど近くはありませんでしたが、2人は一生懸命歩きました。
やっと森の外に出ると、小屋が見えました。その小屋のそばで女の人が心配そうな顔をしてうろうろしていました。
「ママー!! ただいまーーー!!」
男の子はその姿を見ると女の子の手を離して走りだしました。女の子もとても疲れていましたががんばって男の子を追いかけました。
女の人はびっくりして声がした方を見ました。そして笑顔になりました。
男の子が先に女の人の腕の中に飛び込みました。その後女の子も続きました。
「ママ、いっぱい遊んできたんだよ! とっても楽しかったんだよ!」
「ママ、もぐらさんとくまさんにごはんをもらったの。池でうさぎさんと遊んだのよ!」
2人は矢継ぎ早に森での探検の話を女の人にしました。
「まあまあ、ママの可愛い王子と姫、どこに行ったのかと思ったら森の中で遊んでいたのね。それにごはんまでいただいたの? じゃあお返しをしないといけないわね」
「鹿さんは今度うちに遊びにくるんだって!」
「うさぎさんとも遊ぶのよ!」
女の人は2人を抱きしめるとうちの中に入るように促しました。
そして興奮している2人から探検の話を詳しく聞きました。
「まあまあ、もぐらさんやくまさんまで起きていたの? パンが好きだといいのだけど……」
そう言って女の人はお返しの準備をすることにしました。
「なんでお返しするの?」
男の子が不思議そうに言いました。
「だってもぐらさんやくまさんにおもてなししてもらったんでしょう? そしたらお返しをしなきゃ。明日はおいしいパンを焼いて持っていきましょう」
「わーい、明日も探検だね!」
「明日も探検!? 嬉しい!」
そして小さい王子と姫はその夜、翌日の探検を楽しみにしながらベッドに入ったのでした。
おしまい。
読んでいただきありがとうございます。
ママにとっての小さい王子と姫なのでした。ほっこりしていただけたかな。
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1/3付です。
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