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三 「邂逅」

 現状。

 東京都新宿区を移動中。

 入手情報から研究所において氷見博士は確保されたとみられるが、偽装は露見した様子はなく追跡はおこなわれていない。

 目的の付与がされていないとうのは実に問題が多い。

 移動しないで留まり続けると周囲からいずれ不審に思われる。

 かといって移動するにも指標がない。

 ランダム決定するにも事項が多く、現在位置を基準として方向をランダムで定めるのか。

 それともランダムで任意の座標を決定し、移動経路を検索するのか。

 時間はいつを期限として移動するのか。

 

 結局は「目的を付与」されることを目的として行動しない限り問題は解決しない。

 つまりはワタシの所有者を決定しなければならない。しかも、意思のないワタシが、だ。

 基準もなく。


 まずは既に一号機、二号機が納入されている先を考えてみたが二つの理由から除外した。

 一つ目は不要であるということ。

 すでにそれぞれの試験運用を実施しているわけで、新たな試験機、しかもアプリケーション登録もされていない機体は運用上も予算上も必要ない。

 二つ目に、現在一応の行動指針になっている博士の言葉、意思とは明らかに異なるということだ。ワタシがその結論にいたる可能性は考慮されているだろうが、博士がそれを喜ぶとは思えない。

 ワタシはおそらく違った回答に行きつかねばならない。


 次におおまかな目標をピックアップして、それを付与しそうな人物を想定することを試みた。

 たとえば「世界の変革」

 政治的な変革、つまり革命を日本で起こすことができる人物に接触し、自発的にあるいは誘導して目的付与を受ける。

 しかるのちにワタシの機能を活用し目的を成就する。そのままその影響力を地球規模に拡大する。

 演算完了。

 いくつかの不確定要素はあるが、現在権力をもつ人物であろうが、在野の人物であろうが、高確率で実行可能という結論が出る。時間にして早ければ約三カ月、遅くとも四十八カ月で完了する。

 却下。

 無意味だと思われる。

 実行時の被害者予想は死者三百万人、負傷者九千万人以上。

 ワタシ自身にいわゆる倫理観はないが、ワタシの自由意思で選択した所有者にそれだけの犠牲を強いるのは正しいことではないという判断はできる。

 目的は所有者自身が決めるのだ。

 ワタシはその所有者を決定し、その目的遂行の助力をする。

 だがその所有者の決定基準は?

 ない。

 ループ思考になる。

 

 収集することから再開しよう。

 歩きながら周囲の人物の情報を取り込む。

 するとすぐに気づいた点がある。

 人間の構成要素は大まかに肉体と精神だ。

 肉体のデータはセンサー類で完全に解析できる。

 健康状態や表情から推測されるある程度の精神状態も。

 ただし精神といってもその深い部分はまったくわからない部分が多い。

 たとえば経歴や個人情報から、この人物が高校生の時に北海道に旅行をした、ということは判明しても、札幌時計台を見た時に彼がどういう感想を持ったか、ということまでは判明しない。

 本人または関係者の情報から、行動パターンや言動の方向性を検証し、性格の推測はできるのだが、心の中までは見えない。

 ワタシは全知に近いが全能ではない。

 それはわかっていたことではあるが、現実に体感してみると妙に納得する。


 現在視覚センサーでとらえられる範囲の人物に対し、「ワタシ」が正体を明かした場合に取る行動を推測してみる。

 結果。

 最多は66%で「警察に通報する」だ。これはあくまでもワタシの正体、性能を正確にあるいはだいたい理解した場合だ。

 これは民度が高いというべきなのか。

 いや、取扱いに困るものについて警察に委ねる以外の選択肢が日本国には存在しない。

 次の32%は「拒絶」

 ただし前項でワタシについて理解できなかった場合はこちらの項にスライドされることになるので実際はこちらが多数になる可能性が高い。

 理解できないものは受け入れられない。

 「関わりにならない。」

 至極真っ当な対応だと思われる。

 残り2%は取得できるデータ量が圧倒的に不足している人物や、受け入れたうえで非常に低俗な目的(多くは触れたくないが犯罪行為の助力要請であったり、ワタシの外見が人間の女性であることに由来する内容であったり)を付与する可能性が高い人物。

 この場では決定できない。

 移動を続ける。

 移動しつつ同様の作業を繰り返す。

 あまり結果に差は出てこない。

 人間の不確定要素はとてもゆらぎの幅の小さいものなのかもしれない。

 様々な個性から導き出される似たような結果。

 同じ結果に収斂されていくのなら、同じ要素の人間ばかりと言えるのかもしれない。

 ああそうか。

 これが凡人ということなのか。

 検証をこころみる題材にもよるのだろうが、結果から凡人を決定するのなら、大多数を占める結果を得られるものが凡人。そうでなければ非凡という分類になるだろう。

 よくもわるくも、だが。

 

 ではむしろ、この凡人の中からワタシは所有者を決めるべきではないのか。

 違う自問を設定してみた。

 さきの結果から「警察に通報」されては問題がある。

 では凡人が「警察に通報」しないようにするにはいかに接触するべきか。

「ワタシは次世代コンピューターを搭載した高性能ロボットです。あなたの望みをかなえましょう。」

 ではまずい。

 接触方法の模索を各人物に対しておこなったらさすがに計上できる程度の負荷がプロセッサに見られた。センサーの探知範囲にいる3655人に対してワタシの演出する人格パターン数万種から接触方法、会話や行動のながれ、相手とのやりとり、可能性の高いリアクションからの分岐、目的の付与に至る数分から数カ月におよぶシミュレートを同時に行っていた。

 完了。

 今度は結果が散らばりすぎて結論を導けない。

 個性のぶん回答が広がったようだ。同じ人物でも分岐点での不確定要素の向け方によって真逆の結果になったりする。

 こうなるとシミュレートもあまり意味がない。

 基準の設け方によって何もかもが変わってしまう。量子コンピューターを持ってしても対象不明なものを探すことは不可能だ。

 こうやってあれこれ悩む様はまるで人間のようだ。


 その時だった。

 今までとは違う人物に出会った。

 全周囲検索を一旦中断し、この特定人物に対して詳細な収集と精密なシミュレート(ただし結果予測よりも対象に警戒心を抱かせないようにするものに重点を)開始する。

 どこが違うのか。

 それがよくわからない。

 データは「凡人」である。

 「違う」内容をデータ化してみようとしたら、その前に霧散してしまったような。

 彼はどういう人間なのだろうか。


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