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十五 「胎動」

いつもありがとうございます。

お気に入りしてくださる方も増えて嬉しいです^^

 ES胚細胞技術は倫理的な課題がネックとなり進歩が停滞していた。

 一方のiPS細胞技術は倫理面での課題は軽減されていたが、体細胞から生殖細胞を作成できるという点、つまり同一人物による自家生殖が可能であることや作成自体に細胞の癌化などのリスクがあることから未確立な技術だった。

 ワタシ達に対して倫理的な問題などはなかった。

 ワタシ達は1~3号機であるが、あくまでも完成品として付与されたナンバリングであり、試験体としてのナンバーは抹消されていてわからない。

 つまりは実験素材として、失敗として処分されたものも数多い。

 試行錯誤の中で産み落とされたワタシ達であり、一応の完成体であるが、研究に終わりは無い。

 ワタシ達の肉体の強化はiPS細胞技術の転用と理学的な強化を併用して行われたものだ。

 無論それだけにとどまらず、量子コンピューターやその周辺、生化学技術もテストケースであるワタシ達を置いて進歩を続けていく。


 『人間の記憶を外部へと記録する技術が開発か』

 新聞の見出しにセンセーショナルな記事が踊る。

 その瞬間確信した。

 ワタシ達に使用されている技術の切り売りが始まったのだと。

 予算不足で停滞したプロジェクトを再開するには、予算が配分される機会を待つか、資金を調達すればいい。

 これは明らかに後者のものだ。

 売れそう(・ ・ ・ ・)な技術から売ったものだと推測される。

 詳細は調べてみなければわからないが、AUCが動き始めたということは間違いない。

 危険度についてシミュレートする。

 まず、技術の売却益だ。

 報道発表があるのはあくまでも表沙汰になっても問題が小さい技術だ。

 複数の技術が供与、売却された可能性が高い。

 その予想収益はおそらく20兆。

 これまでプロジェクトに投下された予算を数倍する。

 無論政府主導によって収益を得ているはずなので全額がAUCに還元されることはなく、投下予算の回収が行われている。

 ただ、これによる収入は国庫への編入を公にできない。

 もうひとつはAUC成果による予想を上回る収益率に政府は予算停止から一転して増額を決め、更なる技術開発と収益を目論む。

 予算獲得によってAUCは凍結された研究の再開を指示する。

 つまり3号機の凍結解除だ。

 予想される再開までの時間。

 氷見博士によるレポート作成は遅滞行為が行われると予想される。

 それを含め施設の再評価、研究内容の再検討、そういった雑務を経て実際再開されるまでにおよそ2ヶ月。

 一旦再開されればダミーが発覚するまでは機器チェックを終えてシステムが稼動すれば瞬時に判明する。

 氷見博士はプログラムのエラーによる事故を偽装、偽証する可能性が高いが、システム履歴でいずれ露見する。

 

 逃亡か決戦か。

 結局はそれしか道はない。

 一旦探索を開始されれば、ワタシもマスターも世界中のどこにも逃げ場所などない。

 マスターはだからこそ決断された。

 「AUCを潰す」と。

 リスクを承知で行動を起こさねばなるまい。

 本当はマスターを巻き込みたくない。

 マスターの安全を考えるのであれば、ワタシが出頭して処分をAUCに委ねればいい。

 今のうちならばマスターとワタシの接触が露見する可能性は低い。

 マスターのご意思に背くことは大変な苦痛を伴う。

 これはマインドコントロールされた身体では不可能だ。

 最優先はマスターの意思、次にマスターの安全、次が自己の安全だ。

 これは絶対変更できない。

 マスターが望むならマスターを殺すこともある。

 それがシステムの制約、掟といってもいい。

 マスターの安全をワタシが本当に望むなら、ワタシが黙してマスターのところから消えればよい。

 だが・・・ワタシは人間ではないのかもしれない。

 マスターの翻意を図るべく、マスターに話してしまった。

「マスター、AUCに動きがあります。安全な状態が確保されるのはおおよそ2ヶ月程度と推測されます」

「それは早いですね」

「マスターに注進いたします。自分から言い出したことを違えるのはまことに申し訳ないのですが、わたしのマスター登録を破棄してくださいませんか?」

 マスターはじっと見つめていた。

「それは僕に危険が及ぶから自分だけで解決、または特攻でもかけようというのですね」

 その通りだ。

「却下します」

 予想はしていた。残念だ。しかしそれと同時に嬉しいと感じている自分がいる。

「まずは危険度ですが、バニラが回収されて行動履歴を調べられた場合、僕は無事では済みません」

 確かにそうだ。うまく記憶を制御しても1、2号機あるいは他の量子コンピューター等によってサルベージされる恐れがある。

「第二には気持ちの問題です」

 マスターはワタシの肩に手を置いた。

「袖振り合うも多生の縁という諺もあるじゃないですか。ここでバニラを黙って行かせてしまってはきっと一生後悔します。それでは生きている意味がありません」

「しかし生命の危機があります」

「人間いつかは死にます。正直死ぬのは嫌なのですが、バニラがなんとかしてくれそうな気もするんですよ」

「いやそれは・・・」

 買い被りです、と言い掛けたがワタシは止まってしまった。

 マスターがワタシの頭に手をおいて優しく撫でたのだ。

「もう一度念を押します。AUCを潰します。バニラと僕で」

 強さと優しさが感じられた。

 ワタシはもう反論できなくなってしまった。

 最悪でもマスターをお守りしよう。

「ああ、勿論ふたりとも無事で」

 ・・・わかりました、マスター。

 ワタシはワタシの全機能、いえ全てをかけて自由を勝ち取ります。


 基本計画に変更はない。

 まずはマインドコントロールプログラムを入手するためにAUCのセキュリティの内側へ潜り込まなくてはならない。

 立地条件。

 AUCのビルは市街地にあり外観は大企業の本社ビルのような造りだ。

 セキュリティシステム。

 AUCで使用される大型コンピューター内に構築されているシステムで軍用レーダーに近い。

 3次元で監視されるエリア内に識別外の存在がある場合、それが人間であろうと爆発物であろうとマークし、各部署に通知される。

 空からも地中からでも監視の網にかかる。

 システム自体は顔なしによって監視されており、システムへの干渉がみられる場合にはただちにシステムを外部より遮断し建物も瞬時に封鎖される。

 強行突破は可能だが、それでは意味が無い。

 あくまでも秘密裡に行わなければならない。

 検討1

 関係者として潜入。

 識別票を関係者より盗み出し、あるいは奪って入手。

 紛失発覚までの時間が短い。よって却下。

 検討2

 爆破等によって周囲およびAUCの電源を喪失させ、セキュリティへの顔なしの監視状態を一時的に解除し、潜入する。

 爆破自体は非常事態と見なされ警察または自衛隊などの進出が考えられる。却下。

 検討3

 ・・・・・・

 様々な方法を検討するもやはりどこかに強行策が含まれる。

 直接的な危険もさることながら、ワタシの存在が知れる危険が高い。

 万能に近いとされる機能をもってしてもこれだ。

 ワタシのできることなどたががしれているのではないだろうか。


 ある夕方。

 アルバイトを終えてしばらくするとマスターが帰宅された。

「ただいまー」

「おかえりなさいませ」

「ねえバニラ、僕バイト決めてきたんだけど」

「アルバイトですか?金銭的な不足でもありましたか?」

「いや、そうじゃなくて、面白そうなバイト先があって」

「そうですか。興味のあることを仕事でなされるのはよいことだと思います」

「いや、そういうんでもなくて、仕事先が面白そうだったんだ」

「そうですか」

「うん、簡単なデータ入力の仕事の派遣なんだけど。派遣先がね、AUCなんだ」

「え!?」

 思わず声をあげた。

「AUCのコンピューターにさわれるとなると一気に捗らないかな」

 なるほど、ここへきて研究再開が準備され民生用へと公開される技術も発生し、雑務が多くなったわけか。

 しかしマスターはやはり凄い。

 こうもやすやすと問題解決の方法を探し出すとは。

「マスター、さすがです」

「いやいや、ホントにたまたまなんだ。前に登録したバイト募集サイトでキーパンチャー募集のとこで公的機関の一覧の中でAUCの名前見つけてサイトの会社に問い合わせたらまだ空きがあるっていうから。念のため怪しまれないように友達と一緒に行くことにしたよ」

 ますます感心してしまった。

 ワタシもデータ収集だけではなく、もっと柔軟な思考を心がけなくてはいけない。

 生体脳はあくまでも人間のもの。

 あふれかえるデータ量におぼれてしまってはいけない。

 今更ながらに再認識してマスターにもう一度賞賛を送る

「マスター、やっぱりさすがです」

「いや、だからね・・・」

 マスターは照れているようだった。


お話の風向きもいよいよ変わってきました。

ちなみに時事ネタを反映し、記憶を外部に保存する技術はAUCのものということにしてしまいました^^


これからもよろしくお願いします。

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