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エターナル  作者: 夕菜
9/40

第3話 「鮮やか過ぎるあの色は、"もうすぐ枯れてしまう"っていう合図なんだ」(1)





一体どのくらい歩いただろう。

すでに美森の両足は悲鳴をあげていた。

どうして自分がこんなめに・・・という考えが時々頭をよぎるが、できるだけ考えないよう努めた。そのことについて深く考えてしまえば、あっという間に深い闇の底に落ちてしまうだろう。

(―――自分はとても弱いから・・・)

ざわざわざわ・・・・

木の葉が風に揺れて音を奏でる。

美森はそんな森の中、急ぐことなく自分のペースで歩く。

すると、どこからか誰かの歌声が微かに聞こえてきた。

「♪夢を失うよりも悲しいことは・・・・」

ざわざわざわ・・・・

木の葉がざわめく音で、誰かの歌がかき消されてしまった。

「―――誰かいる!」

美森は歩調を速めた。

(誰でもいいから会いたい・・・)









「雫さあ、本当にこいつのこと捕まえる気あったのかよ~」

「・・・・うん」

勇は、まだ眠っている楓を肩にかつぎながらずかずかと歩く。

雫はそんな勇の斜め後ろをスタスタと歩く。

「それならいいけどよ・・・」

「・・・」

ここはレストの民が住むレスの街。

エターナルのどこかにある。道路には車が走っており、道路沿いにはレンガ造りの建物が並ぶ。都会でも田舎でもない街だ。

そんな街のマンションに似た灰色の建物に、勇と雫は入って行った。

暗い廊下を過ぎ、コンクリートがむき出しの階段をのぼる。そして、二階ある[001]のプレートがかかっているドアの前で二人は足を止めた。

勇はそのドアを乱暴に片手で開けると、中に入って行った。

その後に雫も続く。

その部屋には何もない。ある物と言えば部屋の隅に置いてあるシンプルなベッドと、向かいの壁にあるカーテンの付いていない窓だ。

勇はそのベッドに楓を寝かせるとふうーと一息吐いた。

「これでOKだな!?」

勇は元気よく雫の肩をバシッと叩く。

「・・・・」

しかし、雫はそんな勇とは対照的に無表情のまま前を見据えていた。

「やっぱりか・・・・・」

勇はぼそりと呟いた。

「・・・え?」

雫は微かに顔をしかめて勇を見る。

「さーて。俺はパーツを捕まえて来たことを星夜せいやに言ってくるからな!雫はこいつのこと見張っておけよー」

勇はその言葉を口にすると、雫の返事を聞く前に彼女に背を向けて部屋から出て行った。





(――いた)

美森は遠くの木々の間にある人影を確かに目にした。

その人影は動くことなく、その場に止まっている。

美森は迷くことなく、その人影に向かって走り出した。

(ちょっと待って。まだそこに居て・・・)

しかし、走っても走ってもその人影が大きくなる気配はない。まるで美森がその場から動いていないようだ。

すると、またあの歌が微かに美森の耳に届いた。

「♪夢を失うよりも悲しいことは・・・・」

しかし不思議なことに、その後の歌詞は言葉にもやがかかったかのように聞き取りづらい。

森のざわめきのせいだろうか。

(何て言ってるんだろう・・・)

そう思った瞬間、突然その歌が止んだ。

美森はそれと同時に、自然と歩調を緩めていた。そして、歩みを止めた。

「その続き知りたくない?」

「!!」

美森は、耳元で聞こえた声に驚いて後ろに振り返った。

そこに一人の美しい女性が立っていた。

彼女は、ウェブのかかった長い金髪の髪を風になびかせている。

彼女は微笑んだ。

「―そのことを知りたいと思っちゃ駄目・・・そこには真実の答えはない。答えは自分自身の中にある・・・」

その女性は黄金に輝く瞳で美森のことを見据えた。

「・・・」

美森は言葉が見つからず、その場で固まった。

彼女の黄金の瞳は、まだ美森のことを捕らえたままだ。

美森は彼女の強い視線に耐え切れず、思わず目を伏せた。

その時、弱い風が美森の頬に当たった。

「!・・・」

気が付くと、その女性の姿は跡形もなく消えていた。

「・・・消えた?」

周囲を見渡しても彼女の姿はどこにも見当たらない。

(何だったんだろう・・・)

それにあの女性が言っていた言葉が気になった。

答えは自分自身の中に・・・?いまいち意味が理解できない。

(・・・あ!)

いつの間にか美森は森を抜けていた。走っているうちにここまで来ることが出来たのだろう。

美森の視界には広々とした景色が広がっていた。

心地よい風が美森の頬をなでる。

そしてそこには美しい街並みが広がっていた。そしてその街には、赤や黄の木々が見え隠れしているのが見えた。

(綺麗な街だな・・・)

楓のことや、一年前にエターナルにきた人のことなど気になることはあったが、この風景を見たらどうにかなると思える気がした。

美森は、少しの期待と大きな不安を胸に抱いてその街へと向かう第一歩を踏み出した。



街の入り口まで来た。

この街では楓のことを連れ去ったレストの民のことや、一年前エターナルにきた人のことを知ることができるだろうか。

その街のかわいいデザインの看板にはこう書いてある。

「ファル」

(・・・変な名前の街・・)

美森はその看板をジッと見つめる。そして、おそるおそるファルの街へと足を踏みいれた。

ファルの街は一言で言えば、普通だった。美森の住んでいる街と同じように、デパートもあればコンビ二もある。そして、道路には車も走っている。サマの町と比べれば都会風の街だ。

しかし、一つだけ変わったところがあった。それは木々の葉の色だ。道沿いに並ぶ木々の葉は、すべてが黄色や赤やオレンジ。とても鮮やかな色だ。

美森は初めて見る景色に興味を引かれ、周りを見渡しながら歩いた。

(こんな街もあるんだな・・・)

「!・・・」

(何か・・見られてる?)

どうもさっきから、すれ違う人々に見られている気がする。

やっぱりこの瞳の色が原因なのか。それとも自分の格好が変なのか。

美森はどちらにしても恥ずかしくて、俯きながら歩いた。

とその時、後ろから誰かの怒鳴り声が聞こえた。

「そいつを捕まえろーーーー!!」

「!!」

美森は心臓が飛び出る思いがした。

瞬時に最悪な考えが、頭を過ぎる。

(レストの民と勘違いされた・・・?また!?)

美森がひとまず逃げ出すために走り出そうとすると、誰かに制服の襟を力強く引っ張られた。

「――っ!」

美森は勢いよく地べたに尻餅をつく。

すると次の瞬間、こめかみ辺りに何かを強く押し当てられた。

「―――!!」

「俺を捕まえようとすれば、こいつの頭をぶち抜くぞ!!」

美森の頭上で低い男の声がする。

美森はその時初めて、それが拳銃だということに気付いた。

その男はマスクに黒いサングラスを掛けていて、下は黒いジャンパー。いかにも自分は犯人です、という格好をしている。

美森は本当に運が悪いと思った。エターナルで生まれて初めて人質というものになってしまった。

(・・・それもまた、拳銃だし・・)

周りには街の人々と混じって、警察官らしき人が数人引きつった表情で立っていた。

「その人質を今すぐ解放しろ・・・」

警察官の一人が低い声でそう唸って、銃口を犯人に向ける。

「おっと。俺のことをそれで撃てば、それと同時にこの女の命も終わるぞ!?」

犯人は挑発するように、銃口を美森のこめかみにより一掃、強く押し当てた。

最早、美森の心臓は早鐘のようだ。

「――・・・」

その後、どちら側とも口を開かず、長い沈黙が続いた。

美森はとっさに逃げることもできなかった。こめかみに押し当てられた銃口がそれを妨げている。今の美森に出来ることと言ったら、自分の命の安全を祈ることぐらいだった。

その時、警察官の一人が口走った。

「おい!人質の瞳の色、見てみろよ!」

「――――真っ黒だ」

「!!」

美森は思わず俯いた。しかし、気付かれてしまったからにはもう遅い。

この瞳の色のせいで、レストの民と勘違いされたのだ。

(またひどいめに合わされる・・・)

周りからは、困惑したざわめきが聞こえた。

美森の額には冷や汗が滲む。

(でも・・・これ以上ひどい目って・・・何?)

「・・・それじゃ俺はこの犯人を遠慮なく撃てるということだ」

その警察官は、勝利の笑みを口元に浮かべて銃口をこちらに向けた。

「―――!」

予想外の展開に犯人は焦っているようだった。美森もその犯人と同じぐらいに、いや、それ以上に美森は焦った。

(このままじゃ・・・!!)

とその時、どこからともなく誰かの叫び声が聞こえた。

「撃つなーーーーー!!」

「!?」

警察官たちの表情が歪む。街の人々も静まりかえった。

すると街の人々を大変そうに掻き分けて、美森の前に姿を現した一人の女性がいた。

彼女は20歳前後の年齢に見えた。そして、彼女の肩まで届く黒髪は、沈みかけた太陽の光によって、微かに赤く染められていた。

「美森、立って!」

「・・・!?」

美森は言われるがままに立ち上がった。すると彼女が突然、美森の手首を勢い良く掴んできた。

「!!?」

「・・・走って!」

彼女は小声でしかし、しっかりした口調でそう言った。そして彼女は美森の手首を掴んだまま、すばやく人々の間をすり抜けそして、全力疾走で駆け出した。

彼女に導かれるまま美森は、街の中を走った。

目の前で彼女の赤みががった髪がバサバサと左右に揺れる。(夕日によって赤く染まってると思ったが、本当に赤い髪だった)後ろに振り向く暇もないぐらいに、速いスピードだ。

美森は今の状況に混乱するなか、彼女の軽快な足取りについていくだけで精一杯だった。

「!」

とその時、彼女の足取りが止まった。

美森は彼女の背中にぶつかる前に、何とかギリギリでその動きを止める。

彼女はそんな美森を気にもせず、目の前にある白い壁のこじんまりとした家に入って行った。

(・・・・私は・・・どうすればいいんだろ?)

 周りを見渡せば、先ほどまでいた場所からずんぶんと離れたことが分かった。

 周りに店や大きな建物はなく、個人の家らしきものが道沿いに並んでいる。

一人で残されてしまった美森は、その場に立っていることしかできなかった。

すると、彼女が家の中から出てきて、美森を手招きした。

「なにしてるのー?速く入って!」

彼女は、立っている美森にそう言うと家の中へ戻って行った。

「・・・・」

(入っていいんだ・・・)

美森は緊張気味に、開いたままの玄関から、家の中に足を踏み入れる。

「お邪魔します・・・」

家の中は一室しかなく、広々としていた。ソファ、そして小さなテーブルを挟んで、テレビが置いてある。そして、向かって左にある出窓は夕焼けの色に染められていた。

「てきとーに座ってていいよ」

台所に立っている彼女は、何かを作業しながらそう言う。

「・・・はい」

美森は、玄関で靴を脱ぐと部屋の奥へとゆっくり進んだ。そして三人がけのソファの端っこにゆっくりと腰を下ろした。

緊張気味に彼女のことを待っていると、彼女は飲み物が入ったマグカップを美森に持って来てくれた。

「はいっ」と言いながら彼女はそれを美森の前のテーブルに置く。

「あっ・・・ありがとうございます」

美森が慌ててそう言うと、彼女は微笑みながら美森の隣に腰を下ろした。

「さっきは大変だったねェ。最近、そういう事件が多くて大変なのよ。警察も警察で乱暴すぎ。あれじゃ、あの犯人と大して変わらないじゃない」

「・・・」

美森は何と言い返せばよいか分からず、曖昧な笑みを返す。

「・・・私は、美森があの民じゃないってことは、ちゃんと分かってるから・・」

「・・・え?]

美森はドキリとして彼女の方を見た。

彼女の左目は眼帯で覆われているが、片方の見透かすような朱色がかった瞳が美森のことをじっと見据えていた。

美森はまたドキリとして、彼女から目線を外し前を向く。

「・・・あなたのことは何でも分かるのよ。名前は日菜野 美森。トワという人に呪いの印をつけられて、ここ―エターナルにつれてこられた。今心配でたまらないことは、楓という人がどこにいるのか、一年前、地球から来た人は、今どこにいるのか。そして最も気がかりなことは、地球に無事帰ることができるのかってことね」

彼女は読み上げるようにスラスラと言う。

美森の心臓がドクンと大きな音をたてた。

(どうして分かるの・・・?)

彼女は美森が驚きで固まった姿を見て、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

「びっくりした?」

「!・・・何で・・・」

 彼女はくすりと笑うと口を開く。

「・・・そんなに驚かないでよ。“心を見据える能力”はエターナルじゃ珍しいってわけじゃないし。まぁ珍しいほうなんだけど。でも安心して。いつも見ているわけじゃないから」

「――・・・」

「ちなみに私の名前は木下きのした 初音はつね。そして、秋の民」

美森は反応に困り、また曖昧な笑みを返す。

もっと、ましな反応を返したかったが、いろんな考えが頭の中で渦を巻いていたせいでそれができなかった。

「ほんとに反応が薄いねぇ。でも美森はかわいいから許してあげる」

初音はそう言うとニコッと笑った。


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