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エターナル  作者: 夕菜
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第2話 (6)



「さっさと歩くぞ!!」

楓が町の出たところで、こちらに振り返り大声で言った。

「あっ・・・うん」

 美森は歩調を速めて、楓の隣を歩く。

 美森は、こちらに振り向きもしない楓の瞳を横目で見た。

 楓の瞳の色は町の人々のより、ずっと濃くて鮮やかな青色をしていた。

 まるで、サトが見せてくれたネックレスの色みたいだ。

(楓君はパーツだから、やっぱり瞳の色も特別なのかな・・)

 瞳の色は、パーツであることの証だと美森は何となく思った。

すると、楓が突然こちらに振り向いた。

「なんだよ?」

「!」

 いつの間にか美森は、楓の瞳を凝視していたらしい。

美森は慌てて言った。

「あっ・・・何か綺麗な目の色だなぁって思って」

 楓は美森の言葉を聞くと、その口元に自慢げな笑みを浮かべる。

「まっ、お前の真っ黒な目よりは百倍綺麗だよな~」

「あっ・・・そう・・・」

(別にいいけど・・・)

 瞳が黒いことは美森にとって普通のことなので、楓の言葉を軽く聞き流した。

 もちろん、楓たちのような瞳の色に憧れていないと言えば嘘になるが。

 二人は、いつの間にか森に入り、木々の間をすたすたと進む。そして、暫く歩いたところで楓と美森はその歩みを止めた。

「俺はもう少し歩いたら、町に戻るからな~」

「え・・・」

(もう一人になっちゃうんだ・・・)

 ずっと二人でいたいが、それは叶わぬ夢だ。

自分で決めたことだということは分かっている。しかし、いざその時になると一人になることはやっぱり不安でたまらなかった。

「ほら行くぞ!」

 楓は歩調が遅くなった美森をおいて、ぐんぐん先へと行ってしまう。

 美森は、黙って楓の後に従った。



「よし。この辺でいいだろ!」

 楓は立ち止まると、後ろに振り返った。

「・・・うん」

 しかし、美森の声はとても弱弱しい。

 楓は、美森の声とは対照的に相変わらずの明るい声で言った。

「歩いてると、この森は抜けられるから。抜けた所に別の町があったはずだから。頑張れ!オネーチャン!」

「・・・・・・・やだ」

 美森は俯いた。

 こんなことを言うのは、いけない事だと分かっていながらも、言ってしまった。

 思った以上に一人になることは、怖くて不安で胸が押しつぶされそうだった。

「は!?」

 楓は、美森が言ったことが信じられないような表情だ。

 美森は構わず言葉を続ける。

「・・だって私、一人じゃ何もできない!!こんな知らない世界で!今までは楓君やサトさんがいたからいいけど。私・・・・・ここで生きてく自信ないよ!!」

「!・・・」

 美森は、心の奥で溜まっていた言葉をすべて吐き出していた。

 感情が抑えきれない・・・また泣いてしまおうか。

 楓は、顔を引きつらせて美森のことを見ている。

「私・・・どうしよう、ほんとにっ。まだ死にたくないよ!もとの世界に帰りたい・・」

「・・・何でそういう風に死ぬとか言うんだよ!まだ、オネーチャン、何もやってないじゃん!」

 楓は、泣きそうな美森を見てもお構いなしに怒鳴った。

「だって・・・私・・・」

「何んでそんなに怒鳴ってるの?」

「――――!?」

 いつの間にか楓の背後に、一人の女の子が立っていた。

 美森は、突然の女の子の登場に彼女のことを凝視する。

 彼女は楓と同じぐらいの年齢に見えた。

 楓も弾かれたように女の子の方に振り返った。

「・・・お前レストの民!!」

「そう・・・私はレストの民のしずく

 女の子─雫は、感情の無い淡々とした顔と声で言った。

「!!!」

 美森と楓は、雫の言葉に息を呑む。

(・・この子が本当のレストの民?見ためは普通の女の子だけど・・。もっと恐い人かと思った・・)

 美森が見る限り、雫は武器らしきものの持っていないし、恐ろしい表情さえも浮かべていなかった。

「俺を連れ去りにきたのか!?」

 楓はそんな雫の姿を見ても、安心はしていないようだ。

「・・・」

 雫はその言葉を聞くと、真っ黒な瞳をぱちくりさせる。しかし、その表情は固まったかのように動かない。

「―――!!」

 楓は唐突に、雫の細い首を両手でつかんだ。

 雫は微かに困惑した表情を浮かべた。が、驚いたことに全く抵抗をしようとしない。

 一方、楓の体温は益々上昇しているようだ。

(暑い・・・)

 美森は楓の近くにいるだけで、その熱すぎる体温を感じることができた。

それでも雫は、全く表情を崩そうとしない。

「喉を焼いちまえばお前は死ぬんだぞ!?」

 楓は雫の落ち着き払った表情を見て、動揺している。

 美森もそんな二人の様子を見て、落ち着いてはいられなかった。

(暑いっ・・・。こんなに暑くちゃ・・・)

 雫は楓の言葉を聞いても、一向に表情を崩す気配はない。

 楓も手を離そうとはしなかった。

「やめて!!」

 美森は思わず叫んだ。

 これ以上、こんな光景なんて見ていられない。

 楓が、瞬時に美森の顔を見た。

「殺さないで・・・。殺したらかわいそう・・」

 楓は眉間にしわを寄せる。

「何あまい事言ってんだよ!!こいつはレストの民だぞ!!」

「・・・知ってる」

すると誰かが、楓の手から雫を強い力で引き離した。

「!!!」

 楓と美森は、瞬時にその人の顔を見た。

その人は、美森と同じぐらいの年齢の青年で、金色の髪、そして・・・その髪色とは対象的な真っ黒な瞳をしていた。

「よ!!俺はレストの民のゆう!よろしくな!!」

 彼─勇はにこやかに、美森と楓に挨拶をしてきた。

 二人は、突然の勇の登場に彼のことを凝視しし、その場で固まる。

(また・・・レストの民の人!?)

 すると勇は、後ろに立っている雫を自分の前に引き出した。

「ちなみに、こいつは俺の妹で雫っていうんだ。かわいいだろ?!」

 勇はそう言いながら、雫の頭のてっぺんでおだんごに結わえている髪をぽんぽんと叩く。

 雫は迷惑そうな目を勇に向けると「もう言ったし・・・」と呟いた。

「・・・何しに来たんだ!!」

 楓は勇のことを睨みつけ、怒鳴った。

「もちろん、夏の民のパーツのお前さんをさらいに来たんだよ~!」

「―――!!」

 楓は勇の言葉に息を飲んだ。

 勇は、楓の表情を見て得意そうな笑みを浮かべる。

「・・・本当は雫に頼んだんだけど雫は・・優しいからなー」

 勇は今度は雫の肩に手を乗せ、言う。

「さって・・・」

 勇はそう呟やくと雫の隣から離れ、楓に歩み寄った。そして、楓の顎をグッと親指で押し上げると、勇は楓の青色の瞳をのぞきこむ。

「おっ!やっぱ綺麗な色だな。パーツの瞳は」

「―っ!触るな!!レストの民!!!」

 楓は勇の手を振り払おうとする。

が、勇はそれよりも強い力で、楓の腕をつかんだ。

「大人しくしてろよー?」

 すると楓の体の動きが、ピタリと止まった。

どうやら、勇に体の動きを封じられてしまったようだ。

(・・・どうしよ!?)

 美森はあせった。

 こんな状況になってしまうなんて思いもしなかったからだ。

 このままではいけないと思いながらも、美森はその場から動くことができずにいた。既に、美森の頭の中は恐怖と絶望でいっぱいだ。

それ以外の思考は停止していた。

「そこの彼女!」

「!」

 美森が声の方に振り向くとそこに勇の姿があった。そして、美森よりも闇色に染まった彼の瞳と目があった。

(体が・・・!)

 美森の体は金縛りにあったかのように動かなくなっていた。

 手に力を込めても、指一本動かせない。

 美森は楓と同様、動きを封じられた。

「女の子には邪魔をされないよう、念のためにね!」

「―っ・・・」

 美森は、これ以上勇と目があわないよう、目線だけを下に落とした。

 勇は美森から視線を外し、楓に振り向くと言った。

「ごめんね。夏の民のパーツ君?パーツを全員集めないと、時の民を消すことができないんだよ」

「!!」

「時の民を消さなくちゃあ・・・この世界を“平等”にできない!」

「時の民を消すなんて、そんなことできるはずないだろ!それに何だよっ・・平等って!!」

 楓は動きを封じられても、その瞳だけは鋭く勇のことを見ている。

「それが、できるんだな~。パーツの力はそれほど強いってわけ。お前らは気づいていないと思うけど、レストの民にとってこの世界はすごく住みにくいんだよ。そうだな・・・平等っていうのはエターナルの春、夏、秋、冬の能力をすべて無くすこと!これでみんな平等になるだろ!エターナルの時を支配する民、時の民を消しちまえばこの世界は俺たちの思いどうりになるわけだし」

 楓が勇の言葉に小さく舌打ちした。

「うるさい!そしたら俺たちみんなが不幸になる!!」

 勇は楓に歩み寄ると、楓の瞳を覗き込むようにして見た。

「おこちゃまは分かってないな~。それを実行できなかったら、俺たちはず~っと不幸のままなんだよ!」

「!・・・」

 勇は楓の青い瞳を見据えたまま、「しばらく眠っててね」と言った。

 すると楓は、ゆっくりと瞳を閉じ、ドサリと地面に倒れる。

 勇は倒れた楓を見下ろして呟いた。

「・・・駄目だな、この子は。パーツなのに全然その力を使いこなせていない!」

美森の金縛りもいつの間にか解けていた。楓が倒れたときに解けたのだろう。

 美森はへなへなと地面に膝を付いてしまった。

 もう立っていられる気力がない。

(何でこんな時にレストの民が・・・私・・どうしよう・・・)

 美森は真っ青になって、ガタガタ震えていた。

 楓も眠ってしまったし、一体自分はどうすればいいのだろう。

 美森の目の前に静かに佇んでいる雫は、そんな美森のことを淡々とした表情で見下ろす。そして、何かに気づいたように美森の目の前にしゃがみ込むと、美森の首元あたりをその真黒な瞳でじっと見つめた。

「この痣・・・」

 雫は呟くような声でそう言い、美森の首元にある呪いの印にそっと掌をあてる。

「!・・・」

「雫―!帰るぞ」

「!」

 雫は勇に呼ばれると、すっとその場から立ち上がる。

「・・・わかった」

 美森は雫の行動に驚き、立ち上がった彼女のことを見上げる。

 雫は、既に美森に背を向けていた。

 一方、勇は眠ったままの楓を、自分の肩に担ぐと美森には目もくれないで、雫の隣に歩みよる。

 そして勇が掌を前に突き出すと、その空間に別の空間に続いているらしい穴のようなものが突如現れた。

「!・・・」

 美森は初めて見る光景に息を呑む。

 勇は楓を肩に担いだまま、その穴の中にたちまち姿を消した。

「!」

 と、勇の後ろにいた雫が、肩越しに振り返り美森を一瞥する。しかし、彼女は何事もなかったように前に向き直ると、勇と同様、その穴の中に姿を消した。

 ただその瞳は美森を哀れんでるように見えた。

「っ―・・・」

 美森はその光景を黙って見ているしかできなかった。

 その後、その穴のようなものは音もなくその場から消え去った。



(どうしよう・・・私のせいで楓君が・・私何も出来なかった・・・)

美森は自分の無力さがとても悔しかった。自分は人のために何もすることができない。いつも自分のことだけで、逃げてばかりいる。そのせいで楓は連れて行かれた。

駄目だ。―――自分。


美森はその場にうずくまり、声を殺して泣いた。

エターナルに来てからいい事なんてありはしない。友達になれそうだった楓も今ではここにいない。

涙が止まらない。

こんな自分なんて大嫌いだ・・・・

「――また泣いてるの?美森さん」

「!・・・」

美森は涙で濡れている頬を上げた。

そこにはトワが立っていた。

いつものように微笑みながら。

「―いつも私が泣いてる時に、トワは来るっ・・・」

トワは表情を崩すことなく、ニコッと笑うと美森に近づいた。そして、トワは美森を励ますように、美森の頭をポンポンと優しく叩いた。

「いつも泣いてるばかりじゃ体に悪いよ?」

「・・・」

美森はその言葉に顔をしかめた。

美森はいつも泣いているわけではない。泣いてる時にたまたまトワがくるだけだ。

(・・・――たまたま?)

「そーだ!美森さんにいいお知らせを持ってきたんだ」

「楓君がっ・・・どうしよう・・」

美森とトワの会話がかみ合わない。

美森は短い沈黙の後、控えめな声で言った。

「・・・いいお知らせって?」

「ノワが地球から別の人間を連れてきたって言ってたよ」

トワはニィと笑った。

「・・・・はっ?」

美森は予想のしないトワの言葉に目を見開いた。

「それじゃ、僕はこれで!

あ!ちなみにそのこと約一年前の話だから。

それじゃーGood Luck!!美森さん!」

トワは手を振りながら、最後にウインクを一回してその場から姿をかき消した。

美森はトワが消えてから、しばらくその場から動けなかった。頭の中でいろいろな考えが渦を巻いていたからだ。

(ノワって確か・・・もう一人の時の民の方の・・別な人間をつれて来たって・・それも私と同じ地球から?でも一年前って・・・かなり微妙・・・その人今でもエターナルにいるの・・・?)

美森はトワの話を聞いて、少なくとも安心した。自分と同じ立場の人が他にもいた。自分だけではなかった。

「・・・・・楓君・・・」

美森は連れさらわれてしまった楓のことを思い出した。楓がそうなってしまったのもすべて自分のせいだ。自分が一人で町を出ていればそんなことにはならなかった。

「楓君を捜さないと・・・」

どこにいるか全く見当もつかなかったが、捜してみる勇気が少しだけ出てきた。トワがほんのちょっとのことだが、いい知らせを持ってきてくれたからだ。しかしそれでも、不安の中にいる美森にとっては天からの助けだった。

(・・・ありがとう。トワ・・)

美森は、エターナルに来て初めてトワに少し感謝することができた。

そして森は膝にこびり付いた土を払い落として、重い足取りで歩きだした。

一人でとても不安だが、前に進むしか道はない。

(楓君が言ってた・・・森を抜ければ町はある)

美森はその言葉を信じて、夏の匂いが漂う森の中を歩き出した。




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