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エターナル  作者: 夕菜
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第2話 (4)






「そう言えば、何で森の中で寝てたんだよ?」

 美森が、過去の自分の姿に釘付けになっていると、隣の楓がそう問いかけてきた。

「・・・」

 美森は口を閉ざした。

 だって、自分にも分らない。あの時の自分は、恐怖と絶望で一杯だったんだから。・・・もちろん、今もだが。

 楓は、暫く美森のことをじっと見ていたが、やがてその顔を過去の美森の方へ向けた。

「まぁー・・・オネーチャンのことだから、大体見当はつくきがするけど」

「・・・・」

「─よし。いたずらしてやる~」

 突然、楓はそう言うと、過去の美森へ向かって駆け出した。

 美森は、楓の軽快な足取りについていけるかということよりも心配なことがあった。

 ──それは、“未来が変わってしまうこと”だ。

「っ・・・」

 美森は、最悪な考えが頭を過ぎる中、必死に楓の後に続く。

 美森が、楓のもとにたどり着く頃には、彼は過去の美森の顔を覗き込んでいた。

「それにしても、良く寝てるなっ」

 美森は楓に続き、“美森”の顔を覗き込む。

「─・・・」

 そこには、自分の寝顔があった。

 ・・・自分の寝顔を見るなんて、まるで幽体離脱をしてしまったようだ。

「よし、起してみるか!」

「!」

 美森は、どきりとして楓の顔を見る。

 彼はにやにやしながら、こちらを見つめていた。

「なーんて!冗談だよ。・・・オネーチャンさ、嫌なら嫌って言えよ?そうしないと・・本当に未来が変わっちまうぞ?」

 楓の声は、半ば呆れ気味だ。

「・・・分かったよ」

 美森はまだ心臓の鼓動が治まらないなか、何とかそう呟くことができた。

 ・・・そう。もし、未来が変わってしまったら、自分は楓と出会えなかったかもしれない。そして、永遠とこの森をさ迷うことになっていたかもしれない。

 と、背後から誰かが近付いてくる気配がした。

「来たみたいだ!」

 楓と美森は、後ろに振り向く。

 ・・・少し離れたところに、暗くてよくは見えないが、人影があことに気付いた。

 美森と楓は、一番近い木の影に身を潜める。

(大丈夫かな・・・見つかったらどうしよう)

 早鐘のようになった心臓の鼓動は、美森の額に次々と嫌な汗を流させた。

 と、女の子の楓がこちらまで来た。そして彼は立ち止まり、キョロキョロと辺りを見渡す。

「そっかー・・・。この時見た人影は、俺たちだったんだな」

 楓の感心した声が、隣から聞こえた。

 そして、女の子の楓は地面の上に眠っている美森に気付いたらしく、彼女のほうに駆け寄る。

 美森は、どぎまぎしながら二人の様子を見守った。

「どうしたの?お姉ちゃん」

 女の子の楓は、妙に優しい声でそう言った。

「私は・・・」

 美森は、自分の声が耳に入り、思わずドキリとする。

「よし!先回りして町に戻るぞ!」

「えっ・・・」

 楓は、美森の意見なんて聞こうとせず、踵を返し町の方へ走って行った。

「・・・」

 美森の頭を過るのは、次に自分が陥るであろう状況。

 その時の自分は、絶対に想像すらしてなかったことだ・・・。



 美森と楓はサマの町に戻ってきていた。

 既に辺りは夜の闇に包まれており、道端にある背の低い街灯が、町中を柔らかい色に染め上げている。

 家々が集まっている大きな広場に、美森と楓はいた。

 そして、赤色の屋根の家の隣に生えている大きな木の影に、美森と楓は身を潜めていた。

「確か・・・このへんだったはずだ」

「・・・」

 時々遠くを横切る人影にも、美森はどきりとする。

(一体、いつになったら来るんだろ)

「レストの民が来たぁぁぁぁ!」

「!!」

 突然、その大声が響き渡った。

 声の方を見ると、丁度、一軒先の家の前に、二人の人影があることに美森は気づいた。

「あっ!!間違えた。あっちの方だった!」

 楓はそう声を上げると、美森の目の前を横切り声の方へ向かう。

 そして、彼の姿は一瞬のうちに遠ざかってしまった。

「・・・」

 一方、美森はその場に固まっていた。

 自分が恐怖と絶望の中にいる姿なんて、わざわざ見に行けない。

 美森はその場に蹲り、俯いた。そして、ギュッと目をつぶる。

(早く助けにきて・・・)

 美森の心臓の鼓動は、いつの間にか早鐘のようになっていた。

 “美森”が恐怖の中にいるなんて、考えたくない。

「・・・っ」

 今すぐにでも“過去の楓”のところへ行き、彼をとめたい・・・ということが美森の本だった。

(でも・・・そんなこと・・・できない!)

 美森はゆっくりと立ち上がった。

 美森は、こんなところでじっとしていられるほど、強くはない。自分のために何かをしなくては、居てもたってもいられなかった。

(誰かに助けてもらおう・・・。サトさんが助けてくれたんだし・・・少しぐらい早く助けられても未来は変わらないよね・・・)

 そして美森は走り出した。

 もちろん、楓とは逆の方向に。

 美森は周りを見渡しながら、町中を歩きまわる。しかし、町中には人っ子一人見当たらなかった。

(どうしよう・・)

 今気づいたが、楓が「レストの民がきた」と大声を出してしまった時点で、町人が家の中へ逃げ込んだのを美森は見たのだ。

「!」

 と、一人の人影が美森の目にとまった。

 今からでも走り出せば、あの人影に追いつくことはできるだろうか。

「・・・」

 美森は祈るような気持ちで、その人影に向かい駈け出した。



 意外にも美森は、その人影のところまで辿り着くことができていた。

「!」

(あの人・・・)

 美森は、彼の後姿に見覚えがあった。彼は美森の知っている人物─サトだった。

 サトは、後方に立っている美森には気付く様子はなく、大きな洗面器を腕に抱えご機嫌な様子で歩いている。

「やっぱり、風呂の後の散歩は最高だのー」

 サトはそう呟き、鼻歌を歌い始めた。

(・・・どうしよ)

 もし、ここでサトに助けを求めたら、明らかに先のことが想像つく。

 “同じ人物が二人いる”とサトは混乱するだろう。

 美森は不安と焦りの中、サトの鼻歌を耳に入れながら、彼の後に続いて歩いた。

 周りを見渡しても、サト以外の人は見当たらない。

「!」

 そうこうしている間に、美森とサトはサトの家に到着していた。

 美森の焦りは、最高点に達する。

(サトさんが家に入っちゃったら・・・)

 美森はサトが家に入る寸前で、必死の思いで口を開いた。

「助けてください!」

 そして、美森はその場から逃げだした。

 サトの目の届かないところに行くべく、全力疾走で来た道を引き返す。

「どうした?」

 サトの声が美森の耳に届いた。

 走りながら後ろに振り返ると、夜の闇に紛れたサトが、こちらに向かって走り出そうとしている姿が美森の目に入った。

「待つんじゃ!」

 サトは確かにそう言って、美森のことを追いかけてきている。

 美森はこれ以上、後ろに振り返ることはせず、ただ速く走ることに神経を集中させた。

 と、走っているうちにもといた場所に戻ってきたようだ。

 その証拠に、美森の目に入ったのは人だかりだ。・・・その中心には“美森”がいる。

「!・・・」

 美森は一か八か近くにあった茂みに、急いで潜り込んだ。

「!」

 そして次の瞬間、美森は誰かの背中に思いきりぶつかった。

「なっ・・・なんだ。オネーチャンかよ・・・」

 楓は、顔を引きつらせて、美森を見る。

 楓の背中だったことに安心したが、今の美森にとっては、完全には安心できる状況ではなかった。

「やめんかぁぁぁ!おめぇらぁぁ!!」

 突然、サトの怒鳴り声が響き渡る。

 美森がはっとしてサトの方を見ると、彼はもう人だかりのすぐ近くにいた。

 その人々の目線は、すべてサトへと注がれている。

 その人だかりの中心には、“楓”がいた。そして、地面に座り込んでいる・・・“美森”も。

「!!」

 その時、周りの景色がゆっくりと後ろに流れ始めていることに美森は気づいた。

「っ・・」

 そして、瞬く間にその流れは目にも留まらぬ速さになっていく。

 美森はその流れに引っ張られるようにして、勢いよく地面に倒れた。

「いった・・・」

 美森は周りの景色が目に映った途端、度肝をつかれる。

 周りは外ではなく、楓のアパートの中だった。

 美森はゆっくりと体を起こし、辺りをぐるりと見渡した。

 部屋全体を照らしだす、明るい照明。そして、テーブルの上に置かれた夕食。何の変哲もない、楓のアパートだ。

「びっくりした!もとの時間に戻ったのか!?」

「そう・・・みたい」

 楓は立ち上がり、部屋の中をぐるぐると歩きまわる。そして、立ち止まると大声で言った。

「すげー!!こんな体験、初めてだ!オネーチャン、また過去に連れてってくれよ!」

 美森はただ茫然と、楓の顔を見上げた。

 楓の表情は太陽のように輝いており、その瞳は期待に満ちている。

「私がやったわけじゃ・・・」

 美森は控えめな声でそう言った。

 しかし楓は、そんな美森のことは気にする様子なく、テーブルの椅子を引きそこに腰を下ろす。

「・・・・」

(ひとまずよかった・・・。戻ってこれて)

 美森は、体の力が抜けていくのを感じていた。

「あの時・・・悪かったな。酷いことしちまって」

「!」

 美森がその言葉に楓の方を見ると、彼は曖昧な笑みを浮かべ美森を見ていた。

「大丈夫だよ・・・」

 楓は美森の言葉を聞くと、安心したようにその表情を緩める。

 美森は楓が美森に怪我をさせたことなんて、今はあまり気にならなかった。むしろ、今こうして楓と一緒にいられることに有難さを感じているぐらいだ。

 それに今、美森が何より気になっていることは、自分のこれからのことだ。




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