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エターナル  作者: 夕菜
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第2話 (2)


 男性の家は、とても古風な雰囲気の漂う家だ。(足は、その場で男性が治療してくれた)レンガらしきもので出来ていて、きれいとは言えない窓からは、中の明かりが漏れている。

 男性と楓と美森は、ギギーと音の鳴るドアを開いて、中へと入った。

 家の中は、ランプで程よい明るさになっていた。

 部屋の左端の壁には、背の高い本棚。その本棚には、本や図鑑のようなものが所せましと詰め込まれてある。

 そして部屋の中央には、木製の丸い形のテーブルがあり、その周りにも木製の椅子が三個並べてある。

 男性は、その椅子のひとつにゆっくりと腰を下ろした。そして、彼は美森に手招きをして、向かい側の椅子に座るように促した。

 美森は、その通りにした。

 楓は、部屋の隅にある古びたベッドにドカッと腰を下ろす。

 そして、男性が不審な目つきで美森を見て口を開いた。

「まず、おまえさんに言いたいんじゃが・・・その格好では、暑くないか?」

「・・・え?」

 言われて気づいた。そういえば、この町に来てからやけに暑い気がする。いろいろなことがありすぎて、暑さを感じる暇さえなかった。

 美森は、制服の上に着ていたコートを脱ぐと、椅子の背もたれに掛けておいた。

 後ろの方から「おまえ鈍感すぎ!」という声が聞こえたが、気にしないことにした。

すると、老人が言った。

「まず、自己紹介といこうか。わしは、サトという。で、あっちの生意気な子供は、わしの孫の楓じゃ」

「・・・生意気ってなんだよ!っていうかそのオネーチャンには、おれの名前、一応言ってあるしー・・・」

 サトは、呆れたような表情で楓を見ると、美森に視線を戻した。

「・・・それで、お前さんの名は?」

「私はっ・・・美森といいます」

 サトは、美森の名前を聞くと納得したように、一回だけ頷いた。

 美森は、自分の名前を言うだけ、でこんなにどぎまぎしたのは初めてだった。

「早速聞くが、お前さんは、時の民と何かしらの関係があるのか?」

「・・・」

 美森は、何と答えてよいか分らなかった。

 時の民という言葉自体、知らないし、関係があるのか?と聞かれても、もちろん知るはずがない。

 沈黙が長くなるにつれ、サトと楓の視線がだんだんと痛くなってくる。

 美森は、恐る恐る口を開いた。

「私は・・・何とかの民とか、そういうことは全然分からないんです。私は・・・銀色の青年に、無理やり呪いの印をつけられてここの世界に来ただけです・・・」

 サトは、小さな目を大きく見開いた。

「銀色の青年じゃと・・・」

 サトは、小さく震えた声でそう呟いた。

 美森は、自分が違う世界から来たということに驚かれると思っていたので、少し拍子抜けした。

「・・・はい」

 美森は、小さく頷いた。

「その人って銀の時の民、トワじゃん!」

 楓が興奮気味の声で言う。

 サトが、楓を見てこくっと頷いた。

 美森は、今の状況がいまいちの見込めなった。

「その・・・トワっていう人って、そんなに有名なんですか?」

 すると楓が、美森の後ろからイライラした声で言った。

「有名も何も、トワとノワは、この世界で神によって一番初めに生み出された人間だよ!!」

「は!?・・・」

 美森は、楓の言っていることが信じられなかった。

(はじめて生み出された人間って・・・私、少し前に本人のこと、見たんだけど・・・)

 するとサトが「ごほん」と咳ばらいをした。

 美森は、はっとしてサトの顔を見る。

 サトは、半分呆れたような声で言った。

「どうやらお前さんは、そのことについてまったく分かっておらんようだから、わしが説明しようか。・・・まずここは“エターナル”という惑星じゃ・・・」

 美森は、サトの言葉に耳を傾けた。

 と、サトは楓に目線を移す。

「楓!」

「んー?」

「本棚に“エターナルの真実を知ろう”という本があるはずじゃ。それをここに持ってきてくれ」

「は?自分で説明するって、さっき言ったばっかじゃん!」

「本のほうが理解しやすいじゃろ」

 サトはそう言って、美森に視線を送ってくる。

 美森は正直、どちらでもよかったので、一応頷いて見せた。

 楓は「はいはい」と呟きながら、美森とサトの横を通り過ぎ、本棚へ向かう。そして彼は、本を探す仕草をした後、下から二番目の列にある本を一冊引き抜き、こちらに持ってきた。

「これでいいんだろ」

 楓はその本を、美森の前のテーブルに置いた。

「そうじゃそうじゃ」

 サトは楓の持ってきた本の表紙を見て、そう呟く。

 美森は、その表紙をまじまじと見つめた。

 その本は、本というより絵本に近いかんじだった。

 宇宙をイメージした紺色の背景の真ん中に、地球に似た惑星が描かれている。その惑星は、地球より、鮮やかでカラフルなイメージがあった。

「これ・・・俺が小さいときに、よく読んだ絵本だ!なつかしー」

 楓は美森の後ろに立ち、その絵本を覗き込む。

「・・・」

「この本なら、エターナルについてよく分かるはずじゃ」

 美森はサトを見て、「ありがとうございます」と言うと、絵本の表紙を緊張気味に開いた。

・・・絵本の内容はこうだ。



昔々・・・

宇宙のどこかに、チキュウという惑星ホシがありました。

チキュウは、他の惑星が羨むほど、それは美しい惑星だったのです。

しかし、思いもよらぬ事態が起こりました。

チキュウは、どの惑星よりも早くその生涯を終えてしまったのです。

神様は言いました。

「ありえない。なぜ地球に住む人間は、自分たちの住む惑星を自分たちのてで殺したんだ?」

そう、チキュウに住む人間たちは、チキュウにある自分たち以外の全ての美しきものを殺していったのです。

その結果、チキュウはその色を失い、死んでいきました。

結局、チキュウに住む人間たちの行動の理由を、神様は理解することができませんでした。

そして、たくさんの時が流れた後・・・

神様は新しい惑星を作ろうと決めました。しかし、神様には心配事があったのです。

「新しい惑星に住む人間たちは、また自分たちの住む惑星を、自分たちのてで殺してしまうのではないか?」

それでは駄目だ。

神様は考えた結果、一番初めにうみだした男と女の人間に、それぞれ時を操る力を授けました。

そう、その力があれば自分たちも滅びることはなく、新しい惑星に住む人間たちが失敗をおかしても、いつでもやり直しがきくのです。



「この二人が、トワとノワだな!」

 絵本に描かれている男と女の黒のシルエットを指さして、楓が言った。

 男のほうのシルエットには、三日月の形をした大きすぎるほどのネックレスがかかっており、女のほうのシルエットには太陽の形をした大きすぎるほどのネックレスがかかっている。

「次のページいくぞ」

 美森は楓に促されて、急いでページを捲った。



「そうだ。チキュウには、春、夏、秋、冬というものがあったんだ」

そのことを思い出した神様は、美しかったチキュウに近づけるようにするため、また新しくつくった惑星にもそれらを授けようと決めました。

しかし、心配症の神様は思ったのです。

「どうせなら絶対に、春、夏、秋、冬がなくならないようにしておこう」

神様は、また新しく人間を四人、うみだしました。そしてそれぞれの人間に、春、夏、秋、冬の力を与えたのです。

新しい惑星は、時がたつにつれ、みるみると美しく変わっていきました。

そして、かつてのチキュウのように美しく、いやそれ以上にと言ってもよいほど、それはそれは美しい惑星になりました。

神様は言いました。

「この惑星を“エターナル”と名付けよう!」

・・・エターナルは、その美しさを保ったまま、ずーっと宇宙の何処かに今でもあり続けるのです。

            


(・・・地球が滅びるって・・・エターナル?そんな星知らない・・神が人間を作った?・・は?)

美森は、絵本を閉じた後、口を開くことができずにいた。

 この絵本の内容は、本当のことなのだろうか。そう思わずにはいられなかった。

 するとサトが、あきれた声で言った。

「おまえさんは、楓と違って無口じゃの。もっと発言したらどうだ?」

 それでも美森は、目を伏せて黙っている。

 すると楓が大声で言った。

「それで!どうしてお前は、銀色のトワにエターナルに連れてこられたんだ?」

「・・・分からない。ただ、この世界で一番大切なものを手に入れないと、この印が消えなくて一生もとの世界には帰れない」

 美森は、目に涙を浮かべながら震えた声で言った。

 逃げ出したくても、逃げだせない。いくら涙を流して願っても、もとの世界に帰ることはできないんだ。

 短い沈黙の後、サトが重々しく口を開いた。

「・・・ふむ。それじゃ、わしがこの町の一番大切な物を持ってきてやろうかの。もしかしたらがあるかもしれん」

 美森は、目に涙を浮かべながら頷いた。

「もう、お前さんは眠ったほうがよいぞ。・・・だいぶ疲れておるようだからの。ここでは汚くて居心地が悪いから、楓の家にでも泊めてもらうんだ」

「・・・っな!俺の家かよ!」

 サトはキッと楓を見ると「美森の足に怪我させたんだから、そんぐらいのことはしてやれ」と低い声で言った。

 楓は、少しの沈黙をおいてから、「まぁー・・そうだな」と呟く。

 美森は、ありがとうございますと言って、サトに頭を下げた。

 サトは、頷きながら微笑む。

「いくぞ!」

 美森は、はっとして楓のほうにめをやる。

 楓は、家の玄関に立って美森が来るのを待っていた。

 美森は、最後に、サトに軽く頭を下げてから早足で楓のもとへ向かった。

 

 

 

 二人が出て行った後、サトはお茶を啜りながら、椅子に深く腰をおろした。

 窓から見える外の景色は、もうすっかり闇色に染まっている。

 サトはぼんやりと考えた。

 自分が、美森のもとに駆けつけなければ、彼女は簡単には治らない大怪我をしていたかもしれない。

 あの時、何処からか聞えた声の主は誰だったのだろうか。

 サトはその声の主に感謝していた。その声お蔭で、罪のない少女を助けることができたのだから。

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