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エターナル  作者: 夕菜
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第6話 (6)

勇は、全身が灰色の建物の前に来ていた。

レスの街は、レンガ造りの建物が普通なので灰色=コンクリートで造られている建物はここしかない。

留維と吏緒が美森を連れていきそうな場所は、ここぐらいだと勇は思った。

ここは組織がいつも集まっている場所だ。そして、パーツを捕まえておく場所でもある。

(あいつらが何と言おうと俺はっ・・・)

勇は唇を固く閉じると、その建物の重い扉を開けた。

「!」

扉を開いたとたん、中に誰かがいた。

星夜だった。どうやら星夜は、今まさに外へ出ようとしているところだったようだ。

星夜は中に入ってきた勇を、心配そうに見ると言った。

「どうしたんだ?怖い顔して」

「星夜!美森はここへ来たか!?」

星夜は短い沈黙の後、すまなそうに目を伏せた。

「アカリ、が少し前、留維たちに連れられて、冬の民のパーツを閉じ込めている部屋に行ったのを見たよ」

「!!」

勇は、星夜の言葉が終わるか終らないかのうちに駆けだしたが、星夜がいきなり勇の左腕を掴んできたので、それ以上前には進めなかった。

「勇・・・アカリに何の用があるんだ?」

勇は、琥珀色の星夜の瞳をしっかりと見据えた。

「後で話すから。俺、今急いでんだよ!」

「・・・それじゃ、俺も行く」

星夜はぼそりと言った。

「あぁ!勝手にしろ」

なかなか手を放してくれない星夜に対して苛立ちが募って、勇は叫ぶようにそう言った。

星夜が手を離した瞬間、勇は駆けだした。

星夜も後に従う。

二人は長い廊下を駆け抜けて、突き当りにある、コンクリートがむき出しで何の塗装もされていない階段を駆け上がった。

やけに静かだ。二人の足音がやけに大きく聞こえる。

目的の階についたら、右から二番目の扉に目を走らせた。

(あの扉だ!)

あの部屋は、勇が冬の民のパーツをおいてきた部屋だ。

勇はドアノブに手をかけると、勢いよくその扉を開いた。

「!!!・・・」

その部屋には少女が二人、倒れていた。

一人は長い白髪を持つ幼い少女・・・パーツだ。そのパーツの上に覆いかぶさるように倒れているのは・・・・美森だった。

「美森!」

勇は美森に駆け寄った。その瞬間、ドキリとした。

血だ。

どちらの血だ。

・・・パーツだ。

その真っ赤な血は、パーツの白い肌を赤く染め、そして床に広がっていた。

そして、美森の手には銃がおさめられていた。

(そういうわけかっ・・・)

美森に人殺しをさせたんだ。あいつらは。

普通の女の子が、それも美森のような性格の女の子が人殺しをするなんてありえない。

絶対にあり得ないことを、あいつらは"アカリ"にやらせた。"美森"に戻せなくするために。

勇はめがしらが熱くなるのを感じた。視界が潤んで見えなくなってくる。

「なんで美森がこんなことをしなくちゃいけないんだよ!!」

勇は今までにない大声で叫んだ。

のどがひりひりした。

「パーツは・・・死んでない」

「!!」

星夜は勇の背後から低い声でそう言うと、勇の前に回り込んだ。そして、倒れている美森を抱きかかえるようにして持ち上げると、そっと美森のことを壁に寄りかからせた。

「ほら・・・これ」

「!」

星夜が指さした先には、床にめり込んだ銃弾があった。

丁度、美森の影になって見えなかった場所だ。

「でもっ・・・血が・・」

勇は大きく目を見開き、星夜にむかってそう叫んだ。

「かすっただけで済んだんだ・・・」

「!・・・」

「でも、危険な感じがする。早く手当しないと・・・」

「何でパーツを殺させようとしたんだ!?あいつらは!!

パーツは組織が求めてるものじゃなかったのかよ!?」

勇は星夜の言葉を遮って叫んだ。

・・・あいつらは、アカリを美森に戻せなくするためなら、パーツであろうとなかろうと関係なかったらしい。

・・・自分の欲を満たすためなら何でもする。

「・・・今はそのことより、パーツを死なせないようにすることが先だ。

・・・勇だって美森を"人殺し"にさせたくないだろ?」

「・・・」

勇は星夜の言葉に口をつぐんだ。

「手当てする道具、持ってくるから」

星夜はその言葉を残して、部屋から早足で出て行った。



星夜は、傷の手当てが終わったパーツをその部屋のベッドの上に寝かせた。

美森は壁に寄りかかったままで、気がつきそうにない。

「・・・アカリも気がつくまで、隣の部屋のベッドに寝かせておいてやる・・・?」

星夜は、勇のほうに振り向くとそう言った。

「あぁ」

勇は星夜の"アカリ"という呼びかけにイラッときたが、そのことは口にしないようにした。

今、ここでそのことに触れても、何の解決にもならない。

勇は美森の隣にしゃがみ込むと、両腕で抱き上げた。

そして、星夜に続いて部屋を出ると、隣の部屋に移動した。

この部屋はさっきまでいた部屋と、ほとんど造りが変わらない。

勇は、さっき星夜がパーツをベッドの上に寝かせたように、美森をベッドの上に寝かせた。

「どうすればいいんだ・・・」

勇は搾り出した声でそう呟いた。

俯いた勇のことを、隣に立っている星夜が見ているのが分かる。

「・・・諦めるしかない」

星夜がぼそりと言った。

「――!!何だよ!?諦めるって!!」

勇は自分の耳を疑わずにはいられなかった。

星夜の表情は、勇とは対照的に落ち着き払っている。

「・・・アカリは"美森"に戻れない。美森に戻れる手段がなくなったんだよっ」

星夜は吐き捨てるように言った。

「まだ分からないだろ!!」

「・・・分からなくない。もう、美森に会うことは諦めるしかないんだ」

「――!!」

勇は星夜の言葉に大きく目を見開いた。

「・・・―――星夜。俺は知ってるんだぞ」

「!」

「お前が、美森と同じ"地球"って惑星から来たってことをな」

星夜の表情が動いた。

勇は低い声で言葉を続ける。

「何で組織に協力してるかは知んねーげど。

星夜の手首にある痣。それがただの痣じゃないことも俺には分かる。そして、その痣が消えた時、星夜がどうなるかってことも」

「・・・」

「それなのに、星夜は美森のことを見捨てるのか!?美森は、星夜の本当の仲間だろ!?」

「・・・・」

星夜は勇の言葉に俯いた。

「俺だって、美森のことを見捨てたくないよ。・・・・一緒に地球に帰りたいって思ってた。

でも・・・こうなったからには、諦めるしかないんだよ」

「っ・・・・」

勇は次の言葉を口にすることが出来なかった。

星夜の歪んだ表情と、今にも消えてしまいそうな声は、勇に“諦めるしかない”という答えを示しているように見えた。

「俺は・・・絶対に嫌だからな!!!」

勇はその言葉を吐き捨てて、部屋から飛び出した。



部屋に残されたのは、星夜と、気を失ったままの美森だった。

星夜は歪んだ表情のまま、美森の顔を見おろす。

(ごめんな・・・美森。俺は最後の賭けにでる)

星夜は、呪いの印のある右手首をギュッとつかんだ。

最後の賭け・・・レストの民がつくる世界が“この世界で一番大切なもの”。

そうじゃなかったら、自分はエターナルで、レストの民として生きていくことに決めた。

(・・・その時は・・勇に地球の時の記憶を、消してもらえばいいんだ・・・)

星夜は、しばらく美森の顔を眺めた後、浅くため息を吐き、この場 から離れようとした。

「初めまして。凛君」

「!」

振り向くと、銀色の青年・・・否、銀の時の民トワの姿がそこにあった。

「・・・おまえ・・・時の民のトワ・・」

星夜は、しっかりと目を見開きトワの姿を瞳に写す。

「そうだよー」

トワはにっこりと笑った。

「どう?この世界で一番大切なものは見つかった?」

「・・・」

星夜はただ沈黙を守って、トワを見た。

トワはクスリと笑うと言葉を続ける。

「早く見つけてくれないと困るんだよー。あと少しで、僕たちは消えちゃうから。

やっぱり、ゲームのエンディングはちゃんと見届けないとね」

トワは少しの間のあと、いきなり星夜の手首を掴んできた。

そして、星夜のことを勢いよく自分のほうに引き寄せた。

「なっ・・・」

星夜が抵抗する前に、トワは星夜の洋服の袖をたくし上げる。

「この呪の印。僕が消してあげようか?凛君は分ってるよね?“例外”でこの印が消えた時、どうなってしまうか」

「!!」

トワは、星夜の太陽の形をした呪いの印を指でそっとなでた。

「っ・・!放せ!!」

星夜はトワの手を振りほどこうとしたが、あまりにもトワが力強く握っているのでそれができない。

「凛君の呪いの印が消えれば、僕たちの力を使って時の裂け目は作れない。だから、僕たちは消えなくてすむってわけ。

でも、凛君は一生地球に帰れなくなっちゃうけどねー」

「っ・・・」

(このままじゃ・・・)

トワが呪いの印を消してしまったら、最後の賭けができず、エターナルに残ることになってしまう。

これでは、今まで組織に協力してきた意味がない。

「はははっ!」

トワが突然、大声をだして笑った。

「・・・?」

そしてトワは、星夜から手を離す。

星夜は今の状況が理解できず、ただ茫然と、まだ大笑いしているトワを眺めていることしかできなかった。

「冗談だよー。凛君、いつも真剣だから、たまにはこういうのもいいと思ってさ」

「・・・」

星夜は何も言うことが出来なかった。

ただ、安心感を味わうことで精一杯だった。

「まっ。ノワならそうするかもしれないけどね」

トワは、さっきの言葉に付け足すようにそう言った。

「・・・・」

「凛君がエターナルでどうしようと、僕はかまわないよ。それが、凛君のエターナルでの物語になるんだからね」

「・・・・・トワは、ここに何しに来たんだ?」

星夜は、少しの間を置いてから、そう疑問をぶつける。

「・・・・美森さんを助けに来たんだよ。残された力を使うには、そうすることが一番いいと思うからさ」

「!」

トワは、美森にゆっくりと目線を移した。そして、微笑んだ。

「こんなことされちゃ、“ゲーム”は一生終わらない」

トワはゆっくりと、ベッドの上の美森に近づいた。

そして、人差し指を立てると、それを美森の額の上にそっと乗せた。

つぎの瞬間、そのから淡い光が漏れる。

「これで大丈夫だよ」

トワは呟くようにそう言うと、人差し指を美森の額から外した。

「・・・・・・」

星夜は、トワに何と言えばいいか困った。やっぱりここは、ありがとうと言うべきなのか・・。

「ありが・・・」

「凛君、駄目だよ。そんなこと言っちゃさ」

「!・・・」

「そんなこと言っちゃ、僕のことを認めたことになっちゃうよ?」

 トワはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「・・・・別に・・認めたわけじゃ・・ない」

星夜は、トワの予想外の言葉に内心焦りながらも、何とかそう言うことができた。

トワは穏やかに微笑んだ。

「さっきの言葉、できるだけ多くの人に言ってあげて。もちろん・・・地球に帰るとき、美森さんにもね」

「!・・・」

トワは星夜に背を向けた。そして、肩越しに振り返ると、星夜の顔を見た。

「それじゃーさよならだね。凛君!」

トワがその言葉を口にした途端、星夜の足元がふらつく。

「!!」

星夜は周りの景色と一緒に、物凄いスピードで後ろへ流されていた。

「やっぱり“ゲーム”は楽しくなくちゃね!“巻き戻し”しておくからね」


・・・・トワのその言葉が、凛の耳元で響いた。


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