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エターナル  作者: 夕菜
30/40

第6話 (3)



アカリは家に帰ってからも落ち着かなかった。

テレビをつけても、お気に入りの本を開いても全くその内容が頭に入らない。

アカリはしおりを挟むと、本をぱたりと閉じた。

(勇に会いに行こう・・・)

勇は、表面上は平気なふりをしているが、きっと本当は寂しい思いをしているだろう。長い間一緒にいて、突然、離れ離れになってしまったのだから。

雫の記憶は消されてない。きっかけがあれば、勇と雫は元どおりの関係に戻れる。

アカリは、そのきっかけを作ってあげようと決意した。






アカリは、勇の家の前に来ていた。

勇の家は、アカリの家の近いところにある。大通りにでて、道沿いを歩けば、十分もかからない。

アカリは一息つくと、玄関のチャイムを押した。

家の中から、誰かが近づいてくる足音が聞こえる。止まったかと思うと、玄関の扉が開いた。

「あら。アカリちゃん」

「おはようございます」

アカリは、勇の母親に向かって軽く頭を下げた。

勇の母親とは、家が近いこともあり顔をあわす機会が多かった。

「どうしたの?朝から」

勇の母親は、とても親しみやすい笑顔でアカリに問いかけた。

「あの・・・勇君に用事があって」

勇の母親はあら。という顔をすると、玄関のすぐ近くにある階段から、二階に向かって「勇ー!アカリちゃんが来てるわよー」と呼び掛けた。

しかし、返事はない。

勇の母親は、その場で玄関に立っているアカリに向きなおると言った。

「アカリちゃん。勇、自分の部屋にいると思うから行ってもらえる?ごめんね」

「あ・・分りました」

勇の母親は、困ったような笑みを浮かべると、アカリに背を向け家の奥へ歩いて行った。






勇は、自室のソファ代わりになっているベッドに座っていた。

机の上に置いてあるデジタル時計は、AM9:20。

起きたはいいもの、何もやる気がおきない。

(だりぃ・・・)

勇は、そのまま仰向けに倒れる。

カーテンは閉まっており、部屋は薄暗い。

勇は、灰色に染まった天井を見た。

・・・自分はなんのために組織にいるのだろう。

勇は、この世界に特別な不満は感じていなかった。

この世界を平等にするためにパーツを集める?勝手にやってくれ。どうだっていいそんなこと。

しかし、どうだっていいことを、組織に入っているからにはやらなければならなかった。

自分は、組織に入って少しは強くなれただろうか。・・・否。全くなれていない。逆に自分の弱さを、思い知らされた。

雫がいなくなってから、余計にそうだ。

大切な人から離れると、誰でもそうなるのだろうか?

それとも、自分が弱すぎるだけなのだろうか・・・?





アカリは、ゆっくりと階段をのぼって二階へと上がった。

勇の部屋へ行こうと思ったが、その前に雫の部屋を覘いてみようと思った。

雫の部屋には、前に一回だけ行ったことがある。

自分のことをあまり話さない雫が、部屋に入れてくれたことは珍しいことだった。

(・・・あれ?でも、何しに行ったんだっけ・・?)

アカリは、あけっぱなしになっている雫の部屋を覗きこむ。

「!・・・」

しかし、そこは部屋というより物置に近い状態だった。

ダンボールが何個も積み重ねてあり、埃をかぶった本や漫画が、ところ狭しと並べてある。

「そうか・・・」

雫は、いないことになっているのだ。もちろん、雫に関係する全てのものもなくなっている。

アカリは、それは当たり前のことだと分っていながらも、どこか胸が締め付けられる思いがした。

雫がこの部屋を使っていたことは、間違いなく事実なのに。

「・・・」

アカリは、勇の部屋の前まで戻ると、そこで足を止めた。

扉は閉まっている。中からは何の物音も聞こえない。

(・・・ほんとにいるのかな?)





勇は、そのまま目を閉じた。

「・・・・」

自分がやったことは、本当に正しかったのだろうか。

"美森"の記憶を閉じ込めてしまったこと。そして、"アカリ"としての記憶を植え付けたこと。

おそらく、今の美森は幸せだろう。しかしそれは、偽りの幸せだ。否、偽りの幸せでも、"幸せ"だということには、かわりないのだろうか。

少なくとも自分から見て、美森は幸せではない。"可哀そうなやつ"だ。

自分が弱いばっかりに、美森を可哀そうな奴にしてしまったのだ。

自分の弱さは美森を・・・・そして雫を犠牲にした。

自分が弱いばっかりに!!

勇は、唇を強く噛みしめた。

(強くなりたい・・・)



アカリは、勇の部屋の扉を軽くノックした。

「勇。いる?」

しかし、返事はない。

その代り、人のいる気配がした。

カーテンを勢いよく開ける音・・・忙しそうに歩きまわる足音。

そして扉が開いた。

「アカリ。おはようさん!」

「おはよう」

勇の眠そうな顔がのぞく。

アカリは、勇の顔を見て軽く微笑んだ。

勇はまだパジャマ姿のようだ。

「ごめんね。朝から。・・・話したいことがあって」

勇は、頭をポリポリかくと言った。

「お~。分った。でも、顔だけ洗ってきていいか?」

「大丈夫だよ」

アカリは笑顔で言った。

勇は、アカリの言葉を聞くと、横を通り過ぎて階段を下りて行った。

(もっと遅い時間に来ればよかった・・・)

アカリは勇に迷惑をかけてしまったと思い、少し悲しくなった。




アカリは、勇が戻って来るのを待って、勇の部屋に入った。

「でっ、話って何?」

勇は、ベッドに腰を下しながら言う。

「あの・・・」

アカリは、勇がベッドに座るように促したので、そこにゆっくりと腰をおろした。

目の前にある大きな窓からは、朝の陽ざしが燦々と降り注いでいて、部屋を明るく照らしている。

勇の部屋は、思ったより片付いているようだった。

「話って何~?」

「・・・」

勇は、自分の太ももに肘をついてアカリのことを見ている。

「・・・雫が・・・この街に来てたよ」

「!!・・・」

勇の瞳が、大きく開かれたのが分かった。

「雫が!?」

アカリは一回だけ頷いた。

「何で雫が・・・」

勇の表情は驚きの表情から、困惑の表情へと変わっていた。

「・・雫はちゃんと覚えてたよ。・・勇のことも」

「そんなわけねーだろ。雫の記憶は、俺がちゃんと消したはずだ!!」

「雫は・・・記憶を消されたふりをしていたんだって・・・」

沈黙・・・。

アカリは、その沈黙に耐えきれず太ももに目線をおとした。

「・・・何でそんなこと・・・アカリに分るんだ?」

勇の声は、先ほどとは違い、とても落ち着いている。

アカリは、目を伏せたままそれに答えた

「私・・・雫と話したの。近くの公園で・・・。

雫が言ってた。勇のために雫は全てを忘れたふりをして、勇から離れたって」

「・・・・」

アカリは、顔を上げないで下ばかり見つめていた。

今の勇の表情は・・・見たくなかった。

「・・・何でそんなこと・・・俺のためって。・・・俺だって雫のために!!」

「・・・きっと雫は、勇の気持ちに答えるために"勇が思っている雫の幸せ"になるために、そう・・・したんだと思う・・」

「何でっ・・・それじゃ今、雫は不幸なのか!?

そうすれば・・・絶対に雫は幸せになれると思った。本当の家族といたほうが、絶対に幸せになれると思った!」

「違う!」

アカリは叫んだ。

勇の表情が、微かに動いたのが分かった。

「雫は・・・幸せだと思う。家族と一緒にいれて不幸だと思う人はいないから・・」

「・・・それならっ」

「でも!」

アカリは、勇の言葉を遮るように力強く言った。

「勇と一緒にいることも雫にとって、幸せなことなんだよ・・・。私たちがもっている"幸せ"は、一つだけじゃないでしょ・・・?」

「・・・・・それじゃ・・・何で・・・雫は、俺に会いに来てくれなかったんだ?雫は、俺に会いたくないってことじゃないのか?」

「・・・」

アカリは唇を強く噛みしめた。

「そんなわけない。雫も勇に会いたくてたまらないはずだよ。

でも・・・"勇にとっての幸せ"になれてない雫と、勇が会ってしまったら、勇はこれじゃダメだって・・・また苦しい思いをするでしょ・・・。

・・・雫は、勇が雫のことを大切に思っているように、雫も勇のことを大切に思っているんだよ・・・」

「・・・・」

アカリは、ゆっくりと顔をあげた。

・・・勇は、ただ前を見据えていた。

表情は、とても穏やかだった。

「・・・よかった」

勇の声は、呟くようだった。

「本当によかった」

勇は、その顔をアカリにむける。そして、にっこりと笑った。

「また励まされたな」

アカリは、勇に微笑みを返した。

「ありがとな。・・・・・ 美森」

勇は、最後の美森という言葉は、アカリには聞こえないように・・・呟いた。

勇は、美森と話しているように感じた。表面上はアカリだが、たしかにその中に美森の心があった。

きっとアカリは、美森に戻ることができる。

否・・・絶対に戻してみせると勇は思った。



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