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エターナル  作者: 夕菜
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第2話 「あの日差しは、すべての真実を映し出した」(1)

 気がつくと美森は、どこか知らない場所に横たわっていた。かすかに遠くから、鳥のさえずりが聞こえる。

「え?!・・・ここどこ?」

 美森はゆっくりと体を起こした。周りを見渡すと、たくさんの青々した木が生えていた。森の中のようだ。木の葉の間からは、日光の光がさしこんで、森の中は明るい。

「---っ」

 美森は思わず、自分の首元に手を当てた。まだズキズキと痛む。そして、あることに美森は気がついた。首元に、今までにはなかった、変わった形のあざのようなものが出来ている。

(なんだろう・・・このあざ・・・)

「そのあざは、呪いの印だよ!」

「!!」

 目線を上げたその先には、銀色の青年が、ニコニコしながら立っていた。

「呪い?!」

 美森は思わず、立ち上がった。急に立ち上がったからだろうか、なんだかとてもふらふらする。

「呪いって・・・それじゃ私は、いったいどうすればいい・・・」

「ん~。大丈夫だよ!!そのままにしておいても。実際に、僕が美森さんに付けた呪いの印だしね。命には別状ないから、安心しなよ」

「・・・」

 美森は、ひとまずは安心した。この呪いで、命をとられるということはなくなったからだ。

すると青年は、ニヤッとして言った。

「でもこの世界で一番大切な“あるもの”を手に入れて呪いの印を消さないと、美森さんは“もといた世界”には帰れないよ」

「---え?! それじゃここは・・・・」

「そ!!」

 その青年は、びしっと美森に人差し指を向けて、美森の言葉をさえぎるようにして言った。

「ここは美森さんが、今までいた世界とは、全く違う世界!!今までとは、すべてなにもかもが違う世界なんだよ!!」

 なぜかその青年は、とても喜んでいるように見える。

 美森は返す言葉が見つからず、ただ沈黙を返した。

 美森は一瞬、自分の心臓が止まったような気がした。

「ははは!!」

 青年は、わざとらしく笑うと、ひらひらと美森に手を振りながらにっこりと笑う。

「それじゃ、僕はこれで~!呪いの印が消えるように、どうにかしてがんばってね」

 その言葉を言い終えるとすぐ、その青年はすぅーっと煙のように、その場から姿を消した。

少しの沈黙のあと、美森はガクンと地面に膝を着いて、「これは、夢!?」と震えた声で呟いた。顔からは、冷や汗がにじみ出ている。

「夢なら覚めて!!早く目覚めて!!」

 美森は、自分でも信じられないくらいの大声を出して叫んだ。ばしばしと自分の頭を叩く。

「早く!!早く!早く!早く・・・」

 美森声は、だんだんと弱々しくなる。そしてその声は消えた。

「ひっく・・・・ひっひっく・・・ズズ・・」

 今の美森には、泣く事しか出来なかった。

涙と一緒に今、起こっているすべての事が、流れてしまえばいいのに、そう思った。





 美森は、泣きつかれていつのまにか眠ってしまったようだ。目が覚めたら、今までの事はすべて夢だった。そんな事はない。その証拠に、美森はまだ同じ森にいた。違う所といえば、太陽が沈みかけていて、森の中全体が、淡いオレンジ色に染まっていることだ。

(なんで私がこんな目に・・・・このなんだか分からない世界に、一人だけなんて・・・もうだめだ・・)

 また、美森の目に涙がにじんでくる。

 また泣いてしまおうか、そう思ったが、美森は歯をくいしばって、目からこぼれ出しそうな涙を抑えた。

 ここで泣いても、今の状況は変わらない。自分の哀れな鳴き声が、この静かな森に響くだけだ。

「どうしたの?お姉ちゃん。」

「!」

 急に誰かに声を掛けられた。

 美森が起き上がる前に、その声の主が、美森の顔を覗きこんできた。

「私はっ・・・」

 ゴンっ!

「痛っー」

「いたい~」

 どうやら美森が、頭を上げたと同時に、女の子の頭とぶつかってしまったようだ。

「・・・ごめんねっ」

 美森は、あわてて女の子のそばへ駆けよる。

 女の子は今にも泣き出しそうな、ぐにゃぐにゃな顔をしていたが、美森が声を掛けたら、ぱっと笑顔になった。

「大丈夫!かえで強いからなかないもん!」

「名前・・・かえでって言うんだ」

 美森は、そっけなく言った。

「うん!」

 かえでは、美森と違って元気いっぱいの声で答える。

「お姉ちゃんの目、とっても変わった色しているね!」

 かえでが興味心身に、美森の目を覗き込んできた。

「え!?」

 美森は驚いた。今まで、変わった目の色をしているとは言われたことがなかったからだ。美森は純日本人。変わった目の色なんてしているはずがない。

「私、変わった目の色なんてしていな・・・」

「あっ!お姉ちゃんの首元についている印、かわいいね!お月様みたい」

 かえでが、美森の言葉ををさえぎって、テンションの上がった声で言った。

「・・・」

 嫌な事を思い出してしまった。美森は、この呪いの印というやつが、消えない限り元の世界には帰れない。“この世界で一番大切なもの“を手に入れることが出来ると、帰れるらしいが、美森にそんな事が出来るはずがない。

 美森の心の中の不安が、より大きくなる。

 美森が黙っていると、かえでが心配そうに声を掛けてきた。

「どうしたのー?お姉ちゃん?もう暗くなっちゃったよ。早くお家に帰ろーよぉ」

「私・・・行く場所ない」

 美森は、今にも泣き出しそうな声で答えた。

 するとかえでは、目をパチクリさせてにっこりと笑う。

「それじゃ、かえでのお家に来ていいよー!」

 その言葉は美森にとって、天の助けだった。

 美森を精一杯の笑顔を作って、「ありがとう」とだけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 もう周りは夜の闇につつまれている。そんな森の中を美森は、かえでに手を引っ張られて歩いている。

「こっちこっち」

 かえでは美森をせかすように、手をぐいぐいと引っ張って木々の間を進む。

「もうちょっとゆっくり歩いて~」

 そんな美森の言葉とはうらはらに、かえでは歩みを緩めようとはしない。

 すると木々の間から、町の光のような物が見えてきた。

「あっ!光が見えた」

 かえではそう言って、より一層歩調を速める。

 少し進むと既に森は終わっていて、少し行った所に小さな町が見えた。

「あれがかえで達の町だよ!」

 かえでは、指をさしながら嬉しそうに言った。

 

 

 

 町の前までくると、そこには大きめの看板が立っていた。その看板には、「サマの町」としっかりとした文字で書かれている。

(サマっていう町なんだ・・・変な名前・・・)

 看板越しに広がる町は、自然が多い町のようだ。町を囲むようにして、青々とした木々が生えており、そして家々の間にも緑が見え隠れしている。

「・・・」

 そう言えば、まだ手を握ってくれているかえでの手が、やけに熱い。熱でもあるのだろうか。

「・・・かえでちゃん?手がやけに熱いけど・・・」

「・・・」

 かえでは、黙っていて何も答えない。その顔には、今までにない険しい表情を浮かべている。

 そしてかえでは、美森の質問には答えようとせず、美森の手を掴んだままずんずんと町中へ進んで行く。

「え・・・どうしたの・・」

 美森はかえでの行動の意味が、全く理解できず混乱する中で、ただ彼女に促されるまま進む他なかった。

 と、かえでが、突然ぴたりと動きを止めた。そして、大声で叫んだ。

「レストの民が来たーーーーー!!」

「・・・は!?」

 美森は、今の状況が分からず途方に暮れていると、周りに建つ家々の中から、険しい顔つきの人々が次々ととびだしてきた。しかも、今まで普通に町中を歩いていた人々は、逃げるように家の中へ入って行く。

 その光景に美森が、ただただ見とれていると、美森の手を掴んでいるかえでの手が、熱した鉄のように急に熱くなった。

「熱っ!」

 美森は反射的にかえでの手を振りほどこうとしたが、かえでは痛いほどの力で美森の手を掴み、それを許さない。

・・・・このままでは大火傷だ。

「離し・・・」

 と、かえでは美森の手をあっけなく離し、次に美森のことを体当たりで突き飛ばした。

「っ・・・」

 美森は、成すすべなく地面に倒れる。

 美森が、はっとしてかえでのことを見上げると、彼女には似合わない不気味な笑みがそこにあった。

(今までのかえでちゃんとは、違う・・・)

 そう思ったとき、既に美森は、町の人々に周囲をぐるりと囲まれていた。しかも、人々は恐ろしい顔つきで美森のことを見ており、そしてその手には銃のようなものや、短剣のようなものが握られている。

「どうして!?かえでちゃん!」

 美森は、必死になって叫んだ。

 かえでは、「ははは!」と大声で笑った。

「お前、こんな状況になってもまだ気づかないのかよ!?」

 すると急にかえでが、強い熱風に包まれた。

 治まったかと思うと、そこには、かえでではない男の子の姿があった。そして、その男の子は、ニィーと笑った。

「これが本当の姿の“楓”だよ!お姉ちゃん!」

 その男の子=楓は憎しみの混じった声でそう言った。

 楓は、オレンジ色の髪と、とても綺麗な深い青色の瞳を持ち合わせている。

「-!!」

 美森は、言い返すことも出来ずに、ただその楓の姿に見入っていた。

「なんか言ったらどうなの?レストの民のお姉ちゃん?」

 楓は、更に強い口調で言ってきた。

「・・・レストの民って・・・」

 美森はなんとか、思っていた事を口に出した。

すると楓はその瞳を大きく見開くと、眉間にしわを寄せて怒鳴る。

「だまそーとしたって無駄なんだよ!お前のその真っ黒な瞳、間違いなくレストの民の者だ!」

「・・・っ!私、そんなんじゃない!」

 美森も、そう大声で言い返しよろよろと立ちあがる。

 すると、楓は鼻で笑った。

「どうせ、そんなこと言って俺のことを騙そうとしてるんだな!夏の民の“パーツ”の俺のことをさらおうとしてるんだ!」

 美森は、楓の言っている意味が全く理解できなかった。ただ、今の状況で分かっているのは、自分の命の危機ということだけだ。

「私・・・そんなんじゃない」

 美森は、呟くように、しかし強い口調でそう言った。

「よし!!レストの民を捕まえるぞ!撃てぇぇ!」

 その声を合図に、銃口が一斉にこちらを向く。

「!!!」

 美森は、思わず地面に蹲った。鼓膜が破れるような音が、次々と美森の耳に届く。

「・・・!?」

 突然、美森の顔のすぐ横に生えている雑草が、一瞬のうちに色あせて枯れた。

 そして・・・何の前触れもなく、美森の右足に激痛が走る。

「痛っ・・・」

 美森は、思わず自分の足を抱え込んだ。

(何これ・・・)

 美森の右足には、真っ赤な血ではなく真っ黒い痣のようなものができていた。

 その部分が、焼けるように熱い。

 すると、町の人の一人が言った。

「これは、普通の拳銃じゃない。俺たち、夏の民しか使えない、特別な拳銃さ。弾の代わりに発射されるのは、夏の力。それに当たった人は大やけど、今の君のようにね」

 美森は、話をしているうちに立ち上がろうとしたが、撃たれた足がひどく痛んで、思うように動けない。

 その様子を見て、楓は叫んだ。

「逃げようとしたって、ムダムダ!」

 すると、楓は両手を広げて美森に突き出してきた。

 ドンッ!!

 そこから、ものすごい熱風が発射された。

「くっ・・・!!」

 熱いと思った瞬間、美森は後ろへ吹っ飛ばされていた。

 美森は、息が詰まるほどの衝撃と共に、ドサッと地面に落ちる。

 こんな経験初めてだ。こんな訳の分らない世界でまさか自分がこんなめに遭うなんて。

(・・・こんなところで死にたくない。・・だれか助けて・・・)

 美森はもう、立ち上がって逃げる気力も無くしていた。こんなに痛む足で逃げようとしたってどうせ無理だ、そう思った。

「!!」

 と、美森の隣に立っていた町人が、美森の首に短剣を突きつけた。

 周りにいる人々は、銃口をこちらに向け今にも撃ってきそうだ。

 美森は、覚悟をきめて、ギュッと目を閉じた。

「やめんかぁぁぁ!おめぇらぁぁぁ!!」

「!!」

 突如、誰かの怒鳴り声が響いた。

 美森は何事かと思い、目を開く。

 ここにいるすべての人々の目線の先には、短い白髪を持った男性が、両手を腰に当て立っている姿があった。

「じーちゃん・・・」

 楓が、呟くのが聞こえた。

「おめぇら、女一人をこんな大勢でいじめて楽しいのか!?」

「何言ってんだ、じーちゃん!ついにボケちまったのか?

・・・こいつ、レストの民だよ!こいつの真黒な瞳が見えないのか!?」

 楓は、大声で言った。

 それに比べ男性は、口を閉ざし、眉間にしわを寄せて、美森にずんずんと近づいてくる。

 美森は、恐怖で息をするのも忘れていた。

(もう駄目だ・・・)

 きっとこの怖そうな男性も、美森のことを目にした途端、楓と同じように美森のことを始末しようとするだろう。

 男性のことを避けるようにして、町の人々は美森からゆっくりと離れていく。

 しかし、楓だけはその場から動こうとせず、じっと男性の顔を見据えていた。

 そして男性は歩みを止め、美森のことを見下ろした。

 美森は・・・生きてる心地がしなかった。

「・・・おぉ。首元にあるその印は!」

 男性は、驚いたようにそう言った。

 美森はドキリとした。

 首元には、あの銀色の青年につけられた呪いの印がある。

「その印が何だって言うんだ!?どっかでみたことあるような気もするけど・・・」

 楓の困惑した声が、背後から聞こえる。

「そんなことより、じーちゃん!こいつレストの・・・」

「あの印は、時の民の印じゃ」

「!!」

 町の人々が一斉にざわついた。

 美森は予想外のことを言われ、やっぱり意味を理解することはできなかった。

「ひとまず、わしの家へ来てもらおうか」

 男性は落ち着いた口調でそう言った。


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