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エターナル  作者: 夕菜
29/40

第6話 (2)








私は夢をみた。

どこか知らない場所、でも知っているかもしれない。

そもそも、部屋が暗くて「私が寝ている」ということしか分らない。そんな場所に私は寝ている。

・・・誰かの声が聞こえた。

いったい誰だろう・・・。

声の主は二人いて、どちらとも私が知らない声だ。

「ほ・・・か・・おも・・・つ・・る・・・だめだ・・・か・・お・・・たち・・ろ・・」

「が・・ね・・・」

何と言ってるんだろう?

よく聞き取れない。

・・・もうちょっと大きな声で話して。

しかし、その声はだんだんと小さくなり、そして消えてしまった。











「!」

アカリはベッドの上で目を覚ました。

・・・変な夢をみた。・・誰かが話してる夢。

もう外は朝のようだ。まだ寝ていたい・・。

しかし、アカリは起きなくてはいけない。

その理由は・・・兄さんたちに迷惑をかけてしまうこと(兄さんたちは、今日も仕事だ。私は休みだけど・・)と、アカリには毎朝の日課があるということだ。

アカリはベッドからおりると、机の上に置いてある写真に目をやった。

そこにはアカリを含め、五人の人が笑顔で写っている。アカリのお父さんとお母さん、そして留維兄さんと吏緒兄さんだ。

ここに写っている五人は、全く似ていない。

・・・もちろんだ。

だってここに写っている五人には、血の繋がりはない。本当の親子でも、兄弟でもなんだから・・。

施設にいた私たちを、優しいお母さんとお父さんが、引き取ってくれたんだ。

それだけのことで、私たちは家族になることができた。とても幸せだった。これ以上の幸せは、ないってくらいに。

でも・・・一年前、両親は突然の事故で亡くなってしまった。

そして今の私は、留維兄さんと、吏緒兄さんとの三人暮らしだ。

もちろん、今も幸せだと思う。寂しくないって言えば嘘になるけど・・。だって、寂しいって言っても、兄さんたちが困るだけで他には何も変わらない。

きっとこの気持ちを胸に抱いているのは、私だけじゃない。留維兄さんも、吏緒兄さんもきっとそうだ。

だから私は・・・・。

アカリは写真を見て少しだけ微笑むと、自分の部屋を後にした。




「おはよー」

アカリが茶の間に入ると、留維と吏緒はテーブルにつき、朝食をとっていた。

「おっせーぞ!アカリ!!」

吏緒がご飯を口に運びながら、言う。

「いいんですよ。今日は私たちが速く出勤する日なんですから。アカリのほうが遅くても、仕方ないですよ」

留維はにっこりと笑って、アカリの方を見た。

「ありがとう。・・・留維兄さんは優しいね」

アカリは嫌みたらしくそう言うと、洗面所に向かうためその場を後にした。

「どうせ俺は、優しくねーよぉ!」

吏緒の声が聞こえたが・・・聞こえないふりをした。




アカリが茶の間に戻ると、二人はもう出かけるところだった。

留維はアカリの顔を見ると言った。

「アカリのぶんも作っておきましたら、ちゃんと食べてくださいね」

「・・はーい」

留維はアカリの横を通り過ぎるとき、アカリの頭を軽く叩いて茶の間から出て行った。

「行ってきます!!」

吏緒も、アカリの髪をわざとぐしゃぐしゃにして、茶の間を後にした。

アカリは半分呆れながら、手ぐしで髪をなおす。

「・・・いってらっしゃい」









アカリは朝食を済ませ、一通りの用事を終えると、家を出た。

毎日の日課をするためにだ。

・・・それは散歩だ。年寄りくさいと言われるかもしれないが、アカリは、朝の散歩が大好きだ。

朝の新鮮な空気。爽やかな風。そして、鳥のさえずり。

それらは皆、アカリに"平和"というものを教えてくれる。そして、元気も与えてくれる。

アカリは、家の鍵をかけると、大道りへと出た。そしてすぐに、裏に続く小道に曲がった。

裏道は大道りと違い、よけいな雑音が少ない。

この小道を少し行ったところに、小さな公園がある。誰にも遊びに来ないらしい、古い公園だ。

アカリは、いつもその公園まで歩くと、Uターンして家に帰る。

アカリは、朝のさわやか風を全身に受けた。

(・・・気持ちいい)






「何で俺らが、あいつの面倒みなくちゃいけないんだよ!?それも何で、親しいふりまでしなくちゃいけないんだ!?ほんと、やってらんねー!」

吏緒が、隣で車の運転をしている留維にそう怒鳴った。

留維は吏緒を一瞥すると、ため息を吐く。

「・・・仕方ないですよ。それが、彼女の記憶を安定させるために、一番適切な方法なんです。

今を、幸せだと思いこませておけば、閉じられた彼女の記憶は、戻ることはありません」

吏緒は留維の言葉を聞くと、わざとらしい深いため息をついた。

「あー。めんどくせー。っていうか、何でそんなこと俺達がやんなくちゃいけないんだ!?」

「・・・そうですね。あの人が言うには、彼女と一緒にいる人は、私たちが一番適しているらしいんですよ。・・・前の彼女と、なるべくかかわらなかった人が都合がいいらしいです」

留維は車のハンドルを握りながら、前を見据えて淡々とした口調で言った。

「えー。俺らこいつと関わったじゃん?あの時!」

吏緒は、その時のことを思い出したのかその声にはイラだちが混じっている。

「・・・組織の中では、少ないほうだと思いますけどね」

「・・・」

留維は目的地の前にある、小さな駐車場に車を止めた。

そして、黙っている吏緒を気にする様子なく、車のエンジンを止めると車の扉を開く。

留維が車内から出ようとしたとき・・・吏緒が口を開いた。

「・・留維!!見つけたぞ!めんどくさくなく、あいつの記憶を安定させる方法がな」





アカリは、例の公園まで行くと足をとめた。

いつもは誰もいないはずの公園に、人がいたのだ。

(誰だろう・・・?)

アカリは、雑草の生い茂った公園に足を踏み入れた。

公園には、古びたブランコと、さびついた鉄棒と、今にも壊れそうなベンチぐらいしかない。

その人はブランコに乗っていた。

アカリが近づくと、その人はブランコをこぐのをやめ、こちらを見た。

(雫・・・)

その人は、間違いなく雫だった。

しかし、雫がこのレスの街にいることはおかしなことだ。

雫は、勇に記憶を消されたということを、兄さんたちから聞いたから。

雫は、アカリの姿を見て、少し驚いたように見えたが、すぐにいつもの無表情に戻った。

「雫・・・なの?」

アカリは、ほとんど無意識に言葉を発していた。

しかし雫は、アカリの問いには答えず、ただアカリのことを見据えている。

そして、一回だけ小さく頷いた。

「・・・雫っ!」

アカリは雫のもとに駆け寄る。

雫は、大きな丸い瞳でアカリのことを見上げると、呟くように言った。

「久しぶり・・・アカリ」

「雫っ、勇のことを思い出したの?」

雫は、少しの間の後口を開いた。

「私は、思い出すことなんて何もない・・。私・・・忘れてないよ。兄さんのこと」

「・・・え?・・でも・・」

アカリは、雫の予想外の答えに言葉を詰まらせた。

雫は、消えてしまいそうな声で言葉を続ける。

「・・あの時は、忘れてしまったふりをしたの。私は・・・もと"パーツ"だから、兄さんの力に対抗できるだけの力はあった。

・・・それに、兄さんが思っている「雫の幸せ」に私がならないと、兄さんは納得しなかったと思う。

私は・・・兄さんのために忘れたふりをした。兄さんのために・・・兄さんから離れたの」

アカリは雫の言葉に、何も言うことができなかった。

そんな事実があったなんて、思いもしなかった。

しかし、しばらくの沈黙の後、アカリは口を開いた。

「勇に・・会わないの・・?」

雫は、アカリから目線を外し前を見据える。

「・・・会わない。兄さんは私の記憶を消したはずだった。きっと今の兄さんは・・・雫に会うことを望んでない」

「・・・それじゃ何で・・・」

雫はアカリのことを見た。

「雫はこの街にいるの・・?」

「・・・」

雫は一瞬、目を見開く。そして俯いた。

「・・・・"雫"になりたかった」

「え・・・?」

(でも・・雫の記憶は・・――)

雫は、アカリの心を読み取ったように言った。

「私の記憶は作られたもの。だけど今は・・・私だけの記憶」

「――・・・」

アカリには、雫がどんな気持ちを抱いているのか、全く分からなかった。雫の声には、何の感情も、こもっていないように聞こえた。

雫は言葉を続ける。

「この公園だって・・・昔、よく兄さんと遊んだ場所」

すると雫は、立ち上がった。

雫はアカリの顔を見ると、言った。

「私、もう帰るから」

アカリは、いつもより力強い雫の言葉に、ドキリとした。

「あっ・・。うん。分かった。私も・・・帰るね」

アカリはそう言うと、控えめに手を振り、雫に背を向けると歩き出した。

雫は、手を振り返すこともなく、ただアカリのことを見据えている。

「・・・美森・・」

雫が、そう呟いたのはアカリには聞こえなかった。




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