第3話 (11)
美森は、楓の帆風が姿を消した方向に向かって、ひたすら走った。
早朝なためか、町中に人の姿は見当たらない。
(一体・・・どこにいるの・・・)
辺りを見渡しながら、美森は必死に足を動かす。
早く楓に伝えなくては。・・・実明が楓のことを“本当の楓”と分かってくれたことを。そうしたら楓は、絶対に実明のところへ戻ってきてくれる。
ところが美森は、その足の動きを緩めた。・・・いや、緩めなくてはならなかった。
・・・こんな全力で走ってしまっては、自分の体力がもたなかった。
美森は内心で自分の体力のなさを呪いながら、今度はゆっくり歩きながら辺りを見渡す。
「うるさい!!黙れ!!」
「!!」
と、楓の怒鳴り声が美森の耳に届いた。
美森は残りの体力を振り絞って、声が聞こえた方へ走りだす。・・・そして、ピタリとその足を止めた。
丁度、町並みが途絶えている場所・・・そこにある木々の近くに楓と帆風がいた。
(よかった・・・)
美森は楓がまだ、町にいたことに一安心する。が、今の状況に安心しているわけにはいかない。
楓と帆風は、美森がいることに気がついていない様子だ。
美森は自分がいることに、まだ気付かれたくなかったので、一歩一歩ゆっくりと二人に近づく。
「何~?あたしの弟になってくれるから、一緒に来てくれたわけじゃなかったの?でも、ここまで来たんだし、もういいじゃん!!早く行こうよ~!」
帆風は、楓の手を取ると彼を強く引っ張った。
「・・・俺に触んな!!レストの民!!これ以上、俺に近づくな!!」
楓は乱暴に帆風の手を払いのける。
帆風は楓の行動に、むっとした表情をつくった。
「何言ってんのー?楓もレストの民じゃん!」
「違う・・・俺は違う!!」
「それじゃ何ー?夏の民だって言うの?あたしには全然そういうふうには見えないケド・・・楓の母親っぽい人も、楓のこと夏の民だ!とは言わなかったよぉ?」
「・・・実明さんはっ・・・」
美森は言いかけた言葉を、思わず飲み込んだ。
・・・・こちらに気づいた帆風が、美森のことを刺すような眼で見たからだ。
楓も美森の声が聞こえたのか、こちらに振りむこうとする。しかし、その前に帆風が楓の腕を強く引っ張り、それを遮った。
「ね!?だからあたしと一緒に行こう?今の楓のことを必要とする人はこの町にいないし!逆にきえてもらった方がいいと思ってるし!
でもあたしは楓のことを必要としている!!理由はそれでいいでしょ!?」
「──・・・・」
帆風の言葉に楓は、何も言い返さない。
帆風はそんな楓の様子を見て、口元に笑みを作る。そして、楓の腕を掴んでいた手を離し、両方の掌で楓の手を包み込んだ。
美森はその時、必死の思いで口を開いた。
「私は楓君のことっ・・・」
「楓!!あたしの弟になって!ね!?」
帆風はその大声で、美森の言葉を意図も簡単に遮る。
帆風はその視線を楓からずらし、一瞬、美森のことを睨みつけた。
「!──」
美森は帆風の視線におびえて、思わず目を伏せた。
「あたし、楓のことが必要なの・・・楓がいないと駄目なの」
帆風の声はとても優しく聞こえる。
そして帆風はその腕を楓の背中にまわし、彼のことをぎゅっと抱きしめた。
楓はそんな帆風にされるがまま、抵抗をしようとしない。
「っ・・・」
(このままじゃ!)
美森はいてもたってもいられず、その場から楓の方へ走り出す。
・・・帆風がこちらを不審な目つきで見る。
と、その時・・・
「俺にさわんなって言ってるだろ!!」
楓が勢いよく帆風のことを突き飛ばした。
「いったー・・・」
帆風は地面に尻もちをつき、その表情を歪める。そして、その表情はみるみるうちに怒りの色へと変化していった。
「やっぱり俺はお前の弟なんかにならない!!瞳の色が違くても、俺はれっきとした夏の民のパーツだ!じーちゃんや母さんが信じてくれなくても、俺はみんなの事を信じる!俺はみんなと離れるなんて、絶対に嫌だ!!」
楓がそう叫んだ直後、美森の横を誰かが走りぬけた。
「!!」
彼女─実明はそのままの勢いで、楓のことを後ろから抱きしめる。
「・・・母さんも楓のことを信じるわ」
「!!・・・母さん!」
楓は肩越しに振り返り、驚きの表情で実明のことを確認した。
「ごめんね。楓。母さん、信じてあげられなくて・・・でも、分かったの。この子は本当の楓だって。楓じゃなかったら、きっとこの女に負けていたと思う」
実明の言葉に、楓の表情がすっと穏やかになる。
実明はより一層、楓を強く抱きしめた。
「改めて・・・お帰り。無事で本当によかった」
(よかった・・・)
美森もそんな二人の様子を見て、安心感に浸っていた。今まであった焦りと不安な気持ちはいつの間にか消えていた。
「うざい!!マジでうざい!!」
「!!」
立ち上がった帆風が、唐突に、怒りのこもった声で叫んだ。そして帆風は楓と実明のことを避けるように、一歩後ろへ下がる。
「マジでやめて!こういうの!!」
帆風は片方の手を自分の前まで持ってきた。
すると、その五本の爪がシュンと長く伸びる。
そして帆風はその刃のような爪を、楓と実明に向かって振り上げた。
「危ない!!」
美森の声に反応した楓と実明は、横に転がり込んでそれを間一髪で避ける。
その刃の爪先は、今まで実明と楓のいた地面に勢いよく突き刺さった。えぐられた地面は思った以上に深い。
美森、そして楓と実明もその光景に息をのんだ。
「・・・もういい!!あたし、この子を連れていくから!!」
帆風は爪を地面から引き抜くと、爪先に付いた土を、手をブンッと振って払い落す。そして、爪をもとの長さに縮めながら、美森の隣まで駆け寄ってきた。
「・・・!!」
美森は予想外の展開に、ただ茫然と立ち尽くしていた。
帆風はそんな美森の手首を強い力で掴む。
「オネーチャン!!」
楓は地面に座りこんだまま、顔だけをこちらに向けて叫ぶ。
しかし、返事をする暇もなく、帆風が美森の腕をより一層、強く引っ張った。
「早く行こうよ!美森!」
「・・・!」
帆風は、不機嫌な顔で美森を見た。
美森はただ、今の状況に不安と焦りを感じていた。
(・・・どうしよう。もし、この人の腕をふりほどいたらこの人はどんな反応をするんだろう。もしかしたら・・・もっとやばい状況になるかもしれない・・・)
とその時、帆風の後ろの空間に、別の空間に繋がるような大きな穴が音もなく現れた。
帆風は美森のことを、その穴の前までぐいぐいと強引に引っ張って行く。
「―――・・・・」
美森は少し躊躇ったが、帆風に強く腕を引っ張られると、されるがまま穴の中へ足を進めた。
穴に入る寸前、楓に自分の名前を呼ばれた気がした・・・。
穴の中は薄暗かった。そして、トンネルのように一直線の何もない道が続いている。
帆風は掴んでいた美森の手首を放すと、美森のほうに向き直った。
「やったー!あたしの妹になってくれるんだ!ちょー嬉しい!!」
「・・・」
「それじゃー、あたしの後についてきてね!この穴を抜ければ、すぐにあたしたちの住んでいる街だから」
帆風は嬉しそうにそう言うと、歩き出した。
「・・・」
美森は、帆風と少し距離をおいてゆっくりと歩き出す。
(本当に・・・これでいいのかな)
きっと帆風の住んでいる街には、勇と雫もいるだろう。
今は、勇と会うことだけは避けたかった。会ったところで、何をされるか分からない。もしかしたら、一生、地球に帰れなくなってしまうかもしれない。
しかし、そうだとしても帆風に自分の記憶を操作してもらえば、きっと苦しまなくてすむだろう。記憶を変えてもらえば、何も苦しまなくてすむ。
そう、地球に帰りたいと思うこの感情ともおさらばできる。
今の状況よりもこっちのほうが、きっと楽だろう。
それなら帆風の妹になったほうが・・・
「・・・」
美森は目を硬く閉じて、首を左右に振った。
(だめだ・・・また自分は楽な方へ進もうとしている・・)
美森は自分に言い聞かせた。
そのようなことになってしまったら、たくさんの人を裏切ることになる。もう、初音のときのように、みんなに思われるのは嫌だ。
そうだ。記憶を失くしてしまったら、初音に謝ることもできない。
そして、地球に帰ってゆっくりとした日々を過ごすこともできない。
・・・今はどうにかしてここから逃げるべきだ。
逃げる事のできる可能性は、ゼロに等しい。しかし、何もしないで、帆風についていくよりはましだと思った。
「―――・・・・」
美森は意を決っして、帆風に背を向けると走り出した。
美森は走った。どこまでも走った。道の続く限り。
しかし、出口は一向に見えてこない。
・・・ついに美森は、歩調を緩めてその場に座り込んだ。
(苦しい・・・もう走れないっ)
美森は仰向けに寝転んだ。そうすれば少しは楽になる。
妙に静かなこの空間の中、自分の荒い息遣いと、早いテンポの心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる気がする。
幸い、まだ帆風は、追いついてくる様子はないようだ。
もしかしたら、帆風は美森が逃げたといういことにも気づいてないかもしれない。
美森はそうあるように心の中で強く願った。
するとその時、美森の首のすぐ横の地べたに、何かが勢いよく突き刺さった。
「!!!・・・」
瞬次に、美森の視界に入ってきたものは怒りの色で染められている帆風の顔だった。
「美森もあたしから逃げるの!?」
美森はあまりの恐ろしさに、帆風の顔を見たまま固まってしまった。
「!」
そして、その突き刺さったものが、帆風の長く伸びた爪だったことに気づいた。
と、帆風は空いているほうの手を目の前まで持ってきた。
そして、人差し指の爪が、早送りをしたかのように音もなく伸びる。
帆風は、さっきとは反対の美森の首の横の空間に、その爪を勢いよく突き刺した。
「・・・もうこれで逃げられないでしょ」
「―――・・・っ」
帆風は美森の顔を覗き込んで、不気味に笑った。
(やばいっ・・・)
美森の首は、帆風の刃のような爪に挟まれて動かすこともできない。
「あ~ぁ。失敗した!この空間に入った時点で、美森の記憶を操作しとくんだった。そしたら、こんなめんどいことにならなかったのにー」
帆風はそう言うと、その髪の先端が美森の頬に触れぐらいまで顔を近づけた。
「・・・美森。あたしの目を見て。記憶を変えてあげるから・・・そっちの方が楽でしょ」
「!!」
美森はほとんど反射的に帆風の目を見た。
この状況では見ざるを得なかった。
「・・・!」
帆風の黒い瞳の奥に何かが見えた。何か小さな光のようなものが。
美森はそれから目を離すことが出来なくなった。
なぜだか、その光が気になって一瞬たりとも目を離すことが出来ない。
その小さな光は、だんだん大きくなっていく。
「っ・・・!」
とその時、頭に激痛が走った。
美森は、はっと我に帰って目を硬く閉じた。
目を閉じた瞬間、その痛みは嘘だったかのように無くなる。
「あと少しだったのに!目閉じないでよ!!ほら、早く目開けて」
目の前に広がる暗闇の中、帆風のいらつきが混じった声が聞こえてきた。
それでも美森は、目を固く閉じたままでいた。
きっとここで目を開けてしまったら、すべてが終わる。今までの自分もなくなる。
「――・・・」
美森は目を閉じたまま、勇気をだして、自分のことを捕らえている帆風の爪を力強く握った。そして、より一層力を込め、その爪を地面から少しだけ浮き上がらせた。
「ちょっと・・!?」
美森は、帆風の漏らした言葉は気にしなかった。
今、考えていることはただ一つ、帆風から逃げることだ。
美森は目を閉じたまま、勢いをつけて、自分の首ごとその爪に突っ込んだ。
「!!・・・」
美森は意外とあっけなく、その爪の檻から逃れることができた。
そして、それとほぼ同時に、美森の首から頬にかけて肌を焼かれるような痛みが走る。
「っ―――!!」
美森は目を開いた。ゆっくりと体を起こす。
美森の目の前には、恐ろしい目つきで美森を睨んでいる帆風の姿があった。そしてその鋭い爪先には血痕らしきものがついていた。
美森はその光景にぞっとした。
(いったい誰の血・・・?)
「う・・・」
そういえば首から頬が、やけにズキズキ痛む。
美森はそこの部分に手を触れた。すると、ヌルッとしたものが手に触れた。
「!!」
美森はぎょっとしてそこから手を放した。
「―――!」
美森はその手を見て、目を見開いた。
そこには赤い血がべっとりとついていた。
美森は思いもよらぬできごとに、その場から動けない。
帆風はそんな美森を見て、口元に薄い笑みを作る。
「もう少しずれてたら死んでたね。危ない危ない!あたし、美森が死んじゃったら悲しいから!あ~ぁ・・・女の子なのに顔に傷できちゃった」
帆風は、血痕がついたままの鋭い爪先を、地べたに座り込んでいる美森までゆっくりと持ってきた。そしてにっこりと笑う。
「危ないことすると、ほんとに死んじゃうよ?」
「・・・・」
「・・・なーんてね。あたしが美森のこと殺すわけないじゃん」
帆風がそう言うと、その爪はたちまちもとの長さまで戻った。
「ほら、美森立って」
帆風は今までのことはなかったかのように、美森に手を差し伸べてくる。
帆風は怒っている様子はなかった。逆に妙に優しくなった気がする。
美森は戸惑いながらも、帆風の手をとって立ち上がった。
「・・・傷、痛いでしょ?」
帆風はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、そっと美森の傷口に当てた。
「・・・・」
美森はただ黙ってそんな帆風の様子を見ていた。
・・・今、逃げるには絶好のチャンスではないか。
しかし美森にはそれができなかった。・・・帆風は今、美森に優しくしてくれている。
とその時、帆風の両方の掌が美森の顔をつかんだ。
「!・・・」
案の定、美森の目の前には、帆風の勝ち誇った顔があった。またあの目と、目が合いそうになる。
「・・・―――っ!」
美森は反射的に、帆風の腕を払いのけた。
「きゃ!」
帆風がひるんだのを見て、美森はすばやく方向転換すると全力疾走で逃げ出した。
逃げたはいいもの、逃げる場所がなかった。
前と後ろを見ても、まっすぐに続く薄暗い道があるだけだ。
こんな道を走っていたら、走る事の遅い美森はすぐに追いつかれてしまうだろ。すでにもう、息が苦しい。
その時、後ろから帆風の声が聞こえた。
「美森!!疲れたでしょ?少し休んだら?」
「――!」
美森は後ろを振り返る事もできずに、必死に走った。
頬の傷がズキズキと痛たんだが、気にしていることさえできない。
「・・・しょうがないな。私が休ませてあげる!」
「!!」
その声が聞こえたのとほぼ同時に、美森は空中に浮いた。いや、持ち上げられた。
・・・帆風のその長い5本の爪で。
美森はもがく暇なく、勢いよく壁に叩きつけられた。
「―――っ!」
それと同時に、着ていたブラウスも無残に引き裂かれた。
あまりの衝撃で、一瞬息が出来なかった。
美森はそのまま壁にもたれかかる。
「・・・」
帆風がその爪を元に戻しながら、ゆっくりと近づいてくるのが分かった。
分かっていても、美森は体を動かすことができなかった。指の一本も動かせない。
何もかも諦めかけたその時・・・
「!?」
美森の寄りかかっていた壁がふにゃっと柔らかくなった。
美森は突然の出来事にどうすることも出来ず、その柔らかい壁に埋もれていった。
美森の視界がどんどん狭くなって行く。
パンッ!!!
「!!」
ついにその壁が、伸ばしすぎてしまったゴムのように壊れた。
それと同時に、美森は外へ投げ出された。
瞬く間に視界がはける。
一瞬、目に入ったものは、信じられないような顔つきをしている帆風の顔。
しかし、その光景もあっという間に視界から消えた。
美森はかなりのスピードで下に落下していた。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
美森は止まることなく、暗闇の空間を落ちていく。
終わりがあるかも分からない、そんな空間の中を落ちていく。
・・・・そして美森は、気を失った。
気を失っても、美森は止まることを知らずどんどん下へ落ちて行く。
とその時、美森は止まった。空中で。
そして、美森の隣に、姿を現した青年がいた。
「危機一髪だったね」
彼─トワはいつもの笑顔で、時の流れが止まっている美森に話しかけた。もちろん、返事はない。
しかし、そのトワの声に答える声があった。
その声はとても大人びた女性の声だった。
「危機一髪の状況になる前に、トワがどうにかするべきだったんじゃない?」
トワは何もない空間を見つめて、その声に答える。
「うん。確かにそうだね。・・・ノワ」
すると、そこの空間にスゥーと一人の女性が現れた。
彼女―ノワはウェブのかかった美しい金の髪を持っていて、その瞳はその髪と同様、美しい金色をしている。そして、首には、夜の色をした太陽の形のネックレスがかかっていた。
ノワはニコニコ笑っているトワの顔を見て、浅くため息をつくと口を開いた。
「この子が、トワがエターナルに連れてきた人間の子ども・・・日菜野 美森ね。・・・印、少しは薄くなってきたのね」
「うん。・・・僕もあと少しでノワに追いつくよ」
「・・・」
ノワはトワの言葉を聴くと、無言で美森の傷ついた頬に手をかざした。
すると、そこから淡い光が発せられて、ノワが手を離すと、その傷は跡形もなく消えていた。
とその時、美森が落下した。美森の時が流れ出したのだ。
「おっと」
トワはその美森を腕ですばやく受け止めた。そして、ニコッと笑うと元居た場所にフワリと戻った。
ノワはそんなトワのことを見て悲しげに目を伏せる。
「やっぱり・・・私たちの力弱まってきている」
「うん。そうだね。もう、パーツの力が2つも集まっちゃったしね」
トワはノワとは逆に、ニコニコしながら言った。
「私たちの力がなくなる前に、また最初からにしておくべきだと思う」
トワはノワの言葉を聞くと、顔から笑みを消した。
「・・・僕は嫌だ。これ以上同じことを繰り返すのは。僕はもう、飽きちゃったんだよ。ここの世界での暮らし。
・・・もういいよ。消えることになったとしても。飽きれるほど僕たちはこの世界で生きてきた。
それに、最初からにしたら美森さんをエターナルに連れてきた意味がなくなる」
ノワは顔をしかめた。
「またそんなこと言ってるの?私たちが消えれば、このエターナルは滅びるのよ?そうならないように、神は私たちに、時を操る力を与えてくださった。
・・・それに美森のことはいいじゃない。それは私たちの暇つぶしでしょ」
トワは、ノワから目線を外すと腕で抱えている美森を見下ろす。
「別にいいよ。滅びても。僕には関係ない。
今は美森さんのほうが気になる。それに「どっちの人間がはやく地球に帰れるか」っていうゲームをしようって言ったのはノワのほうじゃないか」
「・・・それはそうだけど。そのゲームを続けるために、神を裏切るなんて私には出来ない」
ノワは、まだ美森のことを見ているトワに向かって、力強い口調で言った。
トワはクスリと笑う。
「・・・ノワは真面目だね」
とその時、トワが抱えていた美森がもぞもぞと動いた。
「う、うわぁ!」
トワはそんな美森に驚いて、彼女のことを腕から離してしまう。
美森は一瞬のうちに見えなくなった。
「・・・美森行っちゃったよ?」
「・・・」
トワはノワの言葉に、いつもと変わらない笑みを返しただけだった。