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エターナル  作者: 夕菜
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第3話 (8)





 そして美森は洞窟からでた。

「?」

美森の視界の端に何かが見えた。――それは地面に倒れている人間だった。

「!!初音さん・・・?」

美森は自分の目を疑った。地面に倒れてる人間――それは初音だったのだ。

「初音さんっ!!」

美森は慌てて初音のもとへ駆け寄った。そして地面に膝をつくと、初音の体を軽く揺する。

「初音さん!」

すると初音は、ゆっくりとそのまぶたを開いた。

「だっ・・・大丈夫ですか?」

「・・・ええ」

しかし初音の表情は大丈夫には見えない。

初音は痛めたらしい首の後ろを、手で押さえながら体を起こした。

「・・・そうだ!!美森こそ無事!?・・・あの民には会わなかった?」

初音は美森の両肩に手を置いて、美森を見る。片方の淡い朱色の瞳が美森を捉えた。

「・・・・はい」

美森は初音の見透かすような瞳を見るのが辛かったが、できるだけ彼女の目を見てそう言った。

初音に嘘をつくことはとても罪悪感があったが、勇との約束を守るため、そして地球に帰るために本当のことは言わなかった。

(ごめんなさい・・・初音さん)

初音は瞳を細めて美森を見たが、小さなため息を吐いただけでそれ以上は何も言ってくることはなかった。

(・・・あの薬のお陰だ・・・心は見られてない。・・本当にごめんなさい・・・)

出会ってから今まで、たくさんお世話になったのに、それを裏切る感じがしてとても嫌だった。

(私は・・・自分の事しか考えてない・・)

美森は唇を強くかみ締めた。



「ごめんね。美森」

 初音はその日の夜、突然美森にそう言ってきた。

「え・・・?」

 美森は眉を寄せる。

 ・・・初音に謝ってもらうことなんて何もないのに。

 風呂から上がったばかりの初音は首にタオルをかけ、ソファに腰を下ろすと美森を見る。

「“この世界で一番大切なもの”なんて、洞窟になかったでしょ?」

「・・・・」

初音が言う、この世界で一番大切なものはおそらくあの不思議な岩のことだ。

そう、あの岩はとても変わった力を持っていた。間違いなくあの岩は、美森に初音の過去を見せたのだ。

「でも、私にとっては“この世界で一番大切なもの”かな」

「・・・・」

「あの岩には“記憶を預けておける力”があるらしいの。昔からあの不思議な岩の存在を知っていた私は、その力があることに気付くのもそう時間はかからなかった」

 美森の頭には初音の過去の映像がよみがえる。

 楽しそうに笑う初音、妹の結。そして・・・

「結と思い出は、私にとって一番大切なものなんだ!だから忘れないように、あの岩に預けておいの。それにさ・・・──あんな暗い洞窟を一人で進めたんだから、美森も少しは度胸がついたんじゃない?」

「・・・・」

 初音は苦笑しながら立ち上がると、キッチンへ向かう。そして、冷蔵庫の中を覗き込んだ。

「美森は、麦茶とオレンジジュースどっちがいいー?・・・私は・・・」

「初音さんは大丈夫なんですか・・・?結ちゃんがいなくても・・・」

 もし、自分が初音の立場だったら今、こうして笑っていることもできない。初音は当たり前のように笑っているのに。

 美森がその言葉を口にした瞬間、初音の表情が曇る。そして、冷蔵庫の扉をゆっくりと閉めると言った。

「大丈夫なはずないでしょ!?」

 美森は初音の力のこもった声にびくりとする。

「あの民は私の大切なものを奪った。絶対に・・・許さない」

「・・・・っ」

 美森は初音の言葉を聞いて、心が痛まずにはいられなかった。

 今、自分はレストの民の勇と雫と関わりを持ってしまっている。・・・・間違いなくそのことは、初音への裏切りになってしまう気がした。

「そういえば、美森。帽子とランプはどうしたの?洞窟に入る前にはあったよね?」

初音はキッチンから居間の方へ戻りながら、美森にそう質問する。

「!」

 美森はどきりとした。

 そうだ。それらは雫の部屋に置いてきてしまったのだ。雫の部屋から洞窟へ戻ったときも、あの不思議な岩のことに気持ちが行ってしまいそのことには気付けなかった。

「・・・忘れてきちゃって」

 美森は呟くような声でそう言うしか出来なかった。

 初音が美森の隣に腰をおろしたが、初音の方は見ることができない。

「あんな洞窟で忘れ物なんてするなんて・・・・美森って意外とドジなところあるんだ」

 初音は苦笑する。

「・・・・」

 美森はせめて笑いは返そうと思い、初音を見た。

 すると初音は、笑うことをやめ美森の目を食い入るように見つめる。

「!・・・」

 美森は初音の目から逃れるため、瞬間的に初音から顔を背けた。

 ・・・初音は、美森が隠しごとをしていることをしていることに気付いている、美森はそう思った。

「・・・何か調子悪いなー」 

 初音はそう呟くとソファから立ち上げる。そして、美森に「今日は早く寝るね」と言い残して、初音はベッドの方へ向かった。

「─・・・」

 美森はベッドに向かった初音を見て、心の中で安心感を味あわずにはいられなかった。そして、そんな自分に苛立った。

(ごめんなさい・・・)

 今の美森には心の中でそう思うことしか出来なかった。



美森も初音がベッドに入ときに合わせて、ソファに横になった。そして、美森は暗い天井を見ながら考えた。

本当に自分はこのまま地球に帰ってしまってよいのかと。初音はレストの民に凄く酷いことをされたのに、自分は今、レストの民と大切な約束までしてしまっているのだ。そのことを知られてしまったら、初音はどう思うのだろう。

考えただけでも心がズキズキと痛んだ。

それにもしかしたら、結のことに関して聞こうと思えば聞けるかもしれない。結は死んだと決まったわけではないのだから。

(私・・・どうすればいいんだろう・・・)





朝が来た。

朝になっても不安な気持ちは消えなかった。

勇とはあの事があって少し顔を合わせづらかったが、今はその事よりも別の意味の不安が大きかった。

(ほんとに・・・どうすればいいんだろ・・?)

 地球に帰れるということは、もちろん美森の一番望んだことだ。

 それなのに・・・美森の心は罪悪感で一杯だった。

美森は、初音のベッドに目を向けた。

初音はまだ寝ているようだ。

「・・・」

美森は初音が起きてしまわないよう、物音をたてずに着替える。そして、そっと玄関の扉を開け、外へ出た。










初音は、美森が玄関の扉を閉めた音を確認すると、ゆっくりと、ベッドから体を起こした。そして顔を歪めた。

(美森・・こんな朝早くから何処にいくの?・・・最近、美森の心も見えないし・・・きっと何かある)

初音はパジャマの上から薄いブラウスを羽織ると、美森の後をつけるため、急いで家を後にした。







美森は、初音に後をつけられていることも知らずに街中を歩いていた。

道沿いに植えられている木々は、赤や黄色と鮮やかだが、美森の心はそうもいかない。考えていることはただ一つ、勇にあったら何を言うか、だ。

(・・・着いちゃった)

考え事をしている間に、美森はいつの間にかファルの街の入り口に到着していた。

少し離れたところに見えるのは、美森が出てきた森だ。

あの頃は予想もしてなかった出来事が、今おきている。

「・・・おはよう」

「!」

ドキリとして、横に振り向くと、そこには落ち着いた表情の雫の姿があった。

今日の雫はなぜだか、いつもはおだんごに結わえている髪を下ろしている。そのせいで、少し大人っぽく見えた。

「楓君っ!!」

雫におんぶされているのは、間違いなく楓だった。

楓は、小さな寝息を立てて眠っているようだ。

「・・・印を消したら解放する約束だったから」

雫は、ぼそりと聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

「・・・・」

美森は思わず、楓に手を伸ばす。

「!!・・・」

しかし、楓に触れる寸前でその手は止まった。

いや、動かそうと思っても動かせない。

「・・・・―――」

雫は鋭い目つきで美森のことを睨んでいた。

美森はその目を見て、ぞくりとした。反射的に手を引っ込めようとしたが、動かない。

「・・・解放するまでは触れてはいけない」

雫は美森のことを睨んだまま、冷たい声の響きで言った。

美森は頷くことで精一杯だった。

「・・・・」

雫は、何事もなかったかのように美森に背を向けると、近くにあった木に楓を丁寧に寄りかからせた。

雫が背を向けたのと同時に、美森の体も自由になる。

とその時、突然、勇が美森の前に姿を現した。

「おはーよ!!美森!」

「!!」

勇はニカッと笑うと、美森の頭をパシコーンと叩く。

(痛い・・・)

美森は顔をしかめた。

どうやら勇は、朝から上機嫌らしい。美森は、勇の姿を見てドギマギしていたのに、この差は何だろうか・・・。

すると、勇の隣に来た雫が、そんな勇の姿を見て飽きれた声で言った。

「寝坊してきたのに・・・そのテンションなに?」

「・・・別にいいだろー!それに雫だって寝坊したじゃんか!」

勇は、おろしてある雫の髪を摘むと、それを雫の目の前でチラつかせる。

雫は迷惑そうな顔をして、勇を睨んだ。

どうやら、雫がいつもはお団子に結わえている髪をおろしているのは、朝そういう時間がなかったかららしい。

「・・・・」

美森は、この二人の姿を見て思った。

(こんなに深刻に考えてるのは自分だけ・・・?)

「あのっ・・・勇君」

美森は勇気を振りぼって勇に声をかけた。

勇は雫をからかうことを止め、美森のことを見た。そして、ニヤーと不気味な笑みを浮かべると言った。

「おっ!そうだな。さっさと印を消して夏の民のパーツを解放してやんないとな!」

勇は親指だけで、後ろで眠っている楓を指差した。

「・・・!」

美森は焦った。

まだそのことを、完全に決めたわけではなかったからだ。

そう思っている間にも勇が、美森の洋服の襟もとをガッと掴んできた。

「ちょっと・・・や・・」

「結!!」

「!!」

勇の後ろから、聞き覚えのある声で誰かが叫んだ。

その声の主は間違いなく初音だった。

初音は必死の形相で、こちらに向かって走ってくる。

(!!どうしよう・・・?)

しかし美森はおかしな点に気が付いた。

初音が発した言葉は“美森”ではなかった。・・・“結”だった。

初音はそのままの勢いで、雫に抱きついた。

「―――!!」

雫は信じられないような顔をして、初音を見た。

「結っ!!結が生きてた!・・・私、ずっと寂しかったんだよ」

雫は初音の言葉に、黙って顔をしかめる。

(えっ・・・!?)

 一方、美森は混乱していた。

 初音は間違いなく、雫のことを、初音の妹の名前・・・“結”と呼んだのだ。

(・・・でも)

 改めて二人のことを見ると、雫は初音に似ていた。そして・・・結にも。

 それに初音は今までになく、とても嬉しそうだ。

 だとしたら・・・雫は結と同一人物なのだろうか。結は雫として生きていたというのだろうか。

「結、今まで何してたの?・・・こんなに大きくなっちゃって・・・」

初音は雫に抱きついたまま、優しい声で言った。

「兄さん・・・誰、この人・・・?」

 雫は顔だけを勇の方へ向け、そう言う。

「・・・!!」

初音は言葉を失った。

この子は間違いなく・・・結なのに。大きくなってはいたが、その声も、顔も結のものだった。

初音はゆっくりと雫から離れると、その顔を見た。

そこには、無表情の結の顔が確かにあった。

初音は、その顔を見て泣きたくなったが、必死にそれを堪える。

「――!・・・結・・・その目・・」

昔と異なる唯一の場所は、そこだけだった。

昔の結の瞳は、とても美しい朱色の瞳だった。しかし今の結の瞳は、暗い闇の色で染められている。

雫は軽蔑した目で初音を見ると、一歩後ずさった。

「私は結じゃない・・・雫」

雫は淡々とした口調で言う。


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