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エターナル  作者: 夕菜
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第3話 (2)



「・・・」

美森は、自分の顔が赤くなるのを感じた。そんなこと他人から言われたことなんてない。

「・・・――あのっ、初音さんは秋の民のパーツなんですか?」

美森はやっとの思いで気になっていたことを、初音に質問することができた。

「・・・私は・・・パーツではない」

「!・・・・」

 初音は美森のことを見透かすような目つきでみた後、手に持っていたマグカップを口へと運ぶ。

「・・・・それじゃ、この世界で一番大切なもののことや、地球から来た人のことや、あと・・レストの民にさらわれた楓君は・・・どうなっちゃうんですか?私のせいで楓君は・・・」

美森は落ち着き払っている初音とは対照的に、気になって仕方ないことを一気に口にする。

初音なら、何かを知っているかもしれない。もしかしたら、この不安が少しでもなくなるかもしれない。

しかし初音は美森の発した言葉に、目の色を変えた。

「その民の名を私の前で口にしないで!!!!」

美森は初音の大声に驚いて、目を見開いて固まった。

初音のかんにさわる事を言ってしまったらしい。

初音は手に持っていたマグカップを静かに前のテーブルに置くと、ゆっくりと口を開いた。

「・・・・私はそれらの事について知らないわけじゃない。完全に知ってるってわけでもないけどね。

でもそのことを簡単に美森に教えるわけにはいかないなー」

「・・・──」

「でも・・・私が言う条件を満たしてくれれば教えてあげる」

「!!」

(条件って・・・一体・・)

 美森の心にまた不安が渦を巻き始める。

 初音は黙りこくった美森を見て苦笑した。

「その条件とはっ・・・私の買い物に付き合うこと!」

「え・・・」

 美森は思いもよらぬ初音の言葉に、目をパチクリさせる。

 ・・・自分が思っていたこととあまりにもギャップがありすぎた。

「明日から週末にはいるから、買い物行こうと思ってたんだ。一人より、二人で行ったほうが楽しいに決まってるでしょ!」

「は・・・い」

 初音はその片方の朱色の瞳を歪ませて笑った。

「よし!決まり!・・・あっ!美森、それ飲んでね。その紅茶、疲れをとってくれる効果があるんだ」

「あ・・・ありがとうございます」

 初音は自分が飲み終えたマグカップを手に、立ち上げる。そして、美森から離れていった。

 美森は初音の瞳に何故か恐ろしさを感じていた。

 左目が眼帯で覆われているからだろうか・・・いや、違う。初音のあの片方の瞳は美森の心の奥底を覗いているように思えたからだ。



朝が来た。

その証拠に、もう部屋全体が明るくなっている。

昨日の夜、初音は美森に、「いくらでもこの家にいていいよ」と言ってくれた。それも初音は、「私のベッド使っていいよ!」とも言ってくれた。家に居させてくれるだけでもありがたいのに、さすがにそれはできないと思ったので、美森はこのソファで寝ることにしたのだ。

美森は開いた目をまた閉じた。

夢の中にいるときは不安は襲ってこない。しかし、夢から覚めると、それは待ってましたとばかりに美森に襲いかかる。

(今までのことが全部夢だったら良かったのに・・・)

しかし、そう思うこと自体が“夢をみる”ということなのだろうと美森は思った。

現実は現実として受け止めなくてはいけない。

唯一の救いは、今美森の目から涙が流れていないということだ。

すると、遠くで誰かの足音が聞こえた。

(初音さん・・・起きたんだ)

美森はまたゆっくりと目をあける。

初音が台所に立っている姿が見えた。初音は肩まで届く髪をポニーテールにしているようだ。

美森はゆっくりと体を起こした。

「あ!美森おはよー!!」

初音は肩越しに振り返って言った。

「・・・おはようございます」

美森は呟くような返事を返した

・・・自分の声はちゃんと初音まで届いているだろうか。

「はやく顔洗ってきてね。今朝ごはん作ってるから。タオルとかはそこら辺にあるの勝手に使っていいよー」

「あっはい。・・・ありがとうございます」

美森は念のため、大きめに返事をした。そして立ち上がると、重い足取りで洗面所へと向かった。


洗面台の前に立つと鏡には、ひどいとしか言えない自分の顔が映っていた。口はへの字で、目には生気が宿っていないように見える。

(こんな顔、初音さんには見せられない。朝からこんな顔してたら、よけい迷惑かけちゃう・・・)

美森は思い切って笑ってみようとした。が、鏡に映っている自分は笑顔とは程遠い表情をしている。

「・・・はー」

美森は浅くため息をついた。

そして冷たい水で顔を洗うと、後ろの棚に積んであるタオルを一枚取り、顔を拭いた。

(迷惑だけはかけないようにしないと・・・)

美森が洗面所を出ると、初音が朝食をテーブルの上に並べて待っていた。

「美森ー、速くぅー」

初音は笑顔で手招きをした。

「・・・」

美森は頑張って初音に笑顔を返すと、小走りで初音のところへ向かった。





初音の朝食は美味しかった。(焼いた食パンの上に目玉焼きがのっているだけだったが)そして暖かかった。すっかり冷めてしまった美森の心が、内側から段々とあったまる感じがする。

「あったかいでしょ?」

初音も、食パンを口に運びながら当たり前のようにそう言った。

「・・・はい」

「そりゃー美森のために愛をこめて作ったからね。」

初音は、美森の頭をぽんぽんと優しく叩くと、幸せそうに朱色の瞳を歪ませる。

初音の笑顔は、今の美森には勿体ないぐらいだ・・・。

「・・・あり・・がとう・・・・ございま・・・す・・」

美森はいつの間にか泣いてた。

そのせいでうまくお礼の言葉が言えない。

美森は今まで気付いていなかったんだ。いつも、家族や友達から当たり前のように愛をもらってきたから。

それが自分にとって当たり前で、そこに愛なんていう美しいものはないと思っていた。

でも、エターナルに来て初めて一人ぼっちになって、改めてそれの本当の暖かさに気付いた。

初音は自分のことを思ってくれている。

そのことだけで、とてもとても嬉しいことだった。

美森は涙を拭った。

「暖かい涙だね・・・」

初音が、隣でそう呟くのが聞こえた。




朝食を食べ終わると、初音が美森の前のテーブルに何かをドサッと置いた。それは―――洋服だった。

「これ着てみて。まさかパジャマのままで買い物に行くわけいかないでしょ?」

「あっ・・・はい」

美森はまさかこんなことまでしてもらえるとは思っていなかったので、正直驚いた。そして嬉しかった。

「有難うございますっ」

美森がとっさにそう言うと、初音は笑顔で手を左右に動かす。

「大丈夫、大丈夫。それより速くそれ着てみて。サイズは大丈夫かな~?」




美森は早速、着替えてみた。サイズは・・・驚くほどぴったりだった。

上は黒色が主のノースリーブの上に、ピンクと赤のチェックが入ったブラウスを着た。そして、下はスラッとした形のジーンズをはいた。

あまり美森の好みとは言えないが、前よりは動きやすくいい感じだった。

「似合う、似合う。それ美森にあげるから」

「あ・・・はい!」

初音はそんな美森の姿を見て、嬉しそうに頷いた。





美森と初音は家の外に出た。

ひんやりとした心地よい空気が、美森の頬をなでる。

街には、すでに多くの人が忙しそうに行き来していた。

「あ!そうだ」

 初音は何かに気づいたようにそう言うと、自分の被っていた帽子に手を伸ばす。そして、それを外すと美森の頭に被せた。

「一応、深めに被っておいて。その瞳の色・・・やっかいでしょ」

「はい・・」

 美森は、初音に言われたとおり、初音が被せてくれた帽子をぎゅっと深めに被る。

 ・・・そうだ。この目の色は“ここ”では普通ではない。

「それじゃー、行きますか!」

 初音は元気にそう言うと、先頭を切って歩きだす。

 美森もできるだけ自分の足元を見ながら、初音の後に続いた。




初音との買い物は楽しかった。

一緒に洋服を見たり、漫画を立ち読みしたり、映画を見たりした。

美森にとって、エターナルでのそういう経験は初めてだった。まるで地球に帰ったような、そんな感じがして余計に悲しくなったが、初音の優しさに支えられてその思いは少しずつ薄れていったように感じた。

そして楽しい時間はあっという間にすぎて、街は夕焼け色に染まった。



「疲れたねー」

 初音は家に帰るなり、ソファに深く腰掛ける。

 美森も、初音の隣にゆっくりと腰をおろした。

(疲れた・・・)

 久し振りにショッピングというものをして、美森はくたくただった。それに、人目を気にしすぎて精神的にもくたくただった。

(もう当分、人ごみには行きたくないかも・・・)

「美森、今日はありがとうね」

「いえっ。こちらこそありがとうございました・・・!」

 初音は微笑む。しかし、次の瞬間、何故かその瞳は寂しげな色に染まった。

「?・・・」

ゆいがいたら・・・」

 初音はその言葉を呟いた後、きゅっと唇を噛みしめる。そして、その目を伏せた。

 美森は初音の表情を見て固まった。

 ・・・こんな初音を見たのは初めてだ。一体どうしたんだろう・・・。

「初音さん・・・大丈夫ですか?」

 美森は意を決して、初音に問いかける。

 初音は、はっとして美森を見た。

「あっ・・・ごめん!ぼーっとしてた」

 初音は何事もなかったかのように、美森に笑いかけた。

「──・・・・」

(結って・・・誰だろう・・・)

 美森は初音の笑顔を見ても、安心できなかった。・・・初音には、美森に言えない何かを隠しているのだろうか。

「私のことなら心配しないで。美森が心配するのは、自分だけでいいの!」

 初音はそう言いながら立ちあがると、その片方の朱色の瞳で美森のことを見据えた。

 美森は思わず、初音のその瞳から視線を外す。

 初音のあの瞳には・・・どうしても敵わなかった。



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