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デートの誘いは突然に!

「ん?」


 重く鈍い静寂。


 耳鳴りすら聞こえてきそうな沈黙は十秒ほど続く。

 渚と藤咲は互いに目を瞬かせている。


「あれ。だから、ダブルデートを」


「えっ、私いまなにを相談されてるの?惚気?性癖暴露?なに、なんなのこれ」

「一旦落ち着いてくれ二人とも」


 俺はパンと手のひらを叩くと、渚はガバっとこちらを向く。想像しない状況に、軽くパニックになっている。

 ダブルデートの件は蓮から遊助、そして遊助から渚へ伝言してもらうつもりだったので、どこまで言うべきだろうか。それに、そもそも渚に了承してもらえるのかという当たり前の疑問が頭をよぎる。


「えーと、その。実は近々さ、藤咲さんと俺でどこか出かけようって話になってるんだよね。ほら、藤咲さんってこっちに来たばっかりだから周辺の案内も兼ねてね?その時に二人だとつまらないかなーみたいな。そこで誰か一緒に来てほしいと思っててさ」

「なんで私といるのがつまらないのよ!」

 うるさい外野は無視しておくとして。

「この話を蓮にしたら、遊助と渚をすすめられたんだよね。だからそれだとまるでダブルデートみたいになるなーってのを、藤咲さんは言いたいんだと思う」


「わ、わかるような、わからないような」

 渚は終始混乱したように、ひよこが頭の周りを飛んでいる。


「……あっ、そ、そうねー。私も光と二人きりは反吐が出てその場で栄養失調になっちゃうなー。で、どう、私達と行ってくれる?渚!?」

 俺の必死さを見て、状況を了解したらしい藤咲も援護射撃をする。

「それに渚と私って仲良くなれそうだしね。こっちにまだ友達いないから、渚さえ良ければ来てくれると楽しいなぁって」


 上出来だ。渚の良心をつつく性悪な技に俺は感嘆する。


 渚は俺のことが好きであり、好きな人の前では良いカッコをしたくなるのが人間というもの。

 であれば、これはほとんど王手と言っていいだろう。


「でも、遊助はいなくてもいいんじゃない?」

 あっはー、どこまで脈なしなのさ。ちょっと可愛そうになってくる。


「私の目標、渚は覚えてる?」

「えーと、メインヒロインになる、だっけ?」

「そうよ。メインヒロインがでてくるのって、物語のジャンルだとなにかしら」

「恋愛ものだね。」


「えっ、ごめん、何の話?」

「そう、ラブコメよ!」

 藤咲は両手を広げて天を仰ぐ。視線の先は灰色の低い天井だけど、その目には見えない青空が広がっているかのように、純粋さがきらめいている。


「つまり私はラブコメっぽいことがしたいのよ。青春の味を知って、今だけのこの瞬間を全力で楽しみたい。そのためにはダブルデートが必要なの!」

「でもさ、主人公の男のキャラとヒロイン二人で遊ぶ、みたいな展開もよくあるよね?」


「だって私と光ってそういう関係じゃないし。イチャイチャとか正ヒロイン争奪戦みたいなの、起こりよう無いし」

「そこは淡白なんだ」

 渚は意外に頑固で、客観的な指摘が続く。

 けれども残念、渚。お前が対面しているのは青春と聞けば東奔西走な青春ジャンキーなんだ。客観性なんてこいつには物語のモブキャラくらい無意味だ。


「あぁ、もう!デートって単語を使うから面倒なのよ。要は、私は男女複数人で集まってお出かけしたいの!でも光の友人は部活で忙しいとか言うし、私には友達がいないから、渚たちがきてくれないと無理なのー!」

 最後はほとんど赤ちゃんの癇癪みたいになってたが、優しい渚にはそれが一番刺さったようで今日一番の悩み顔を見せる。

「うーん、まぁわかったよ。遊助にも聞いてみる。ちなみに、遊助じゃないとだめな理由とかってあるの?」


「「・・・」」


「えっ、遊助にこだわりはないの?」

 ごめん遊助。

 俺と藤咲は顔を同じ方に伏せながら伏せながら思いがひとつになる。


 恋愛相談をされているから、とは渚には言い出せない以上、俺と藤咲が微妙な表情で固まるしか無い。

 けれど、おそらく渚は何かを察してくれたのかため息にも近い息を吐きながら、弱々しく頷いた。


「……とりあえず、遊助にも連絡してみる。日程とかはまた後で決めようね」

 これ以上遅れたら怒られちゃう、そう言い残して渚は去っていった。


 その様子を見ながら藤咲は満足げに呟いた。


「ホントに、あんたは私がいないとダメなんだから」

 デートだとか、ラブコメだとか、叫びまくった俺等を不審げに見つめる周囲の視線を感じながら、俺は周りにバレないように藤咲を肩パンした。

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