辛抱強さのかけら
「次がカフェテリアになります。毎日日替わりメニューが、、、あれ、今日は騒がしいな、、、」
連れられて来たら、何やらざわついていた。揉め事のようだった。
「、、、!」
真ん中に見覚えのある茶髪が目に入った。
昨日はあんなにたくましく見えた背中が、今は丸まっている。
「す、すみませんねぇ、でもあれですよ、いじめとかじゃなくて、後輩可愛がってるだけなんですよぉ、、、ってあれ、聞いてます?」
案内人が何か言っていたが、気づけば足が動いていた。
近づけば近づくほど、状況は理解出来た。
あまりにも容易く、逆になぜ周囲が普通でいられるのか分からないくらいだった。
(そうか、ここはこういう事もあるのか。)
同調圧力に権力乱用。呆れてしまう。
踏まれた足元は汚れ、手からは血が垂れそうだった。
(あぁ、あんなに噛み締めたら、痛いだろうに)
レンゲの足が速まる。
「足をどけろ無礼者!人の靴をふむやつがあるか!」
「な、なんだ!?」
「レンゲ・ラントだ!」
「あれを止めたぞ!」
周囲のざわつきが気に食わない。
(さっきまで見ないふりをしていたくせに。)
「行きましょう千尋さん」
思わず勢いで千尋を両腕で抱きかかえ、走り出した。
一刻も早くここでは無いどこかへ連れ去りたかった。
「ちょっちょっ、待っ、待って!」
「え?」
しばらくしたところで声をかけられ、ふと我に返る。
「ごっごめんなさい。大丈夫、、、じゃないですよね、、、。」
「いっいえ、大丈夫、、、ゴホッゴホッ、大丈夫です。」
(やらかした!)
「失礼します。」
レンゲは座れる場所を探し、小さな丘の上にあった木の下で降ろした。
「すみませんでした!」
「えぇ!いや、謝られることは何も!むしろ、ありがとうございました!」
「いえ、勝手に連れ出してしまいましたし、、、。」
「、、、確かに、お姫様抱っこをされた時は、びっくりしましたけど、、、。」
「!」
(そうか!あれは完全なるお姫様抱っこか!)
あとから気づき恥ずかしさが募る。
(人前でお姫様抱っこなど、1歩間違えたらトラウマもんじゃないか!)
少なくともレンゲなら2日は寝込むだろう。
これは本格的にやらかしたぞと血の気が引いているのを実感する。
(もし明日から千尋さんが馬鹿にされたりしたら、、、)
「幻滅しましたか?」
「え?」
「昨日は大きな顔をして貴方を守ったふうにしてしまったけど、ほんとの僕は自分すらも守れない弱いやつなんです。意気地無しなんです。」
「いっつも首まで言い返してやるって言葉がくるんですけど、結局謝っちゃうんです。逆らったら生きていけない、謝れば上手くいくって自分に言い訳して。」
そう言いながら頑張って笑うのを見て、胸が苦しくなった。
(絶対にそんなことない。そんなことない。)
そう言葉をかければいいのに。言葉が出ない。
喉が締まり、目が熱くなる。
「僕のために、泣いてくれるんですか?」
彼はちょっと驚いた顔をして、少し微笑んでハンカチをくれた。
***
(なんで、なんでこんなことに)
コン、コン、コン、コン
「入れ」
軽くノックをして重厚な扉をあける。
扉を開ければ、ふかふかそうな椅子に座った父親がいた。ここでは上官と呼ぶべきか。
「なぜ呼ばれたかわかるな」
「、、、はい。」
「なぜあんなことをした。」
「だって、」
「だってじゃない!」
机をバンと叩き、空気が凍る。
(本気で、本気で怒ってる)
「お前が敵に回したお嬢さんは、私が彼女の父に頼んで来てもらったお嬢さんだ!」
「それなのにお前ときたら、後輩をいじめて挙句肝心の彼女と敵対しただと!?私の顔をどう立てるつもりだ!」
「もっ申し訳ございませんでした!」
血管がはち切れそうな父親に震えが止まらない。
「、、、次はないと思え。」
父親はそう言い残し肩を当てて去っていった。
思わず腰が抜ける。
(息が、息が、、、)
コン、コン、コン、コン
ノックが聞こえた。
「ご歓談中失礼します。紅茶の御用意が整いましたがいかがいたしますか?」
「たす、たすけて」
何とかしようと手を伸ばし、扉を叩く。
異変に気づいた執事が入ってきた。
「!?」
「坊ちゃん!?坊ちゃん!」
だんだんと意識が遠のき、わからなくなった。




