真珠のかがやき
「 本日より第1学年の一員となりました。レンゲ・ラントです。よろしくお願いします。」
アコウ国陸部学院の本拠地についてすぐ、先輩隊員たちの前へ案内された。案内役の女性に場所を尋ねるとかなり驚いた顔をしていたが、どこか変なのだろうか。
「、、、だ。、、、なだ。」
「え?」
「「「女がいる!」」」
教官までもが驚いている。一応陸部学院は男女どちらも規制は無いはずだ。今までもいただろうに。
「なんでだ!?男が来るんじゃなかったのか!?」
「馬鹿っ、こんなに綺麗な人がこんなとこ来るわけないだろう!間違いだよ」
「陸部学院に行けと父に言われて参った次第ですが、、、。」
「「えぇ!」」
「い、いや。私は上にラント家の長男が来るだろうと聞いていたんだが、、、」
「、、、あぁ、そうでしたか。でも、規則的には問題はありませんよね?」
「ああ、、、。そ、それでは、今後について説明を、、、!」
***
昼休み、隊員たちはざわついていた。
「綺麗な人だったなぁ、、、!」
「なんかいい匂いした!」
「髪も目も透き通ってた!」
隊員たちの声でザワついていたが、そんな中千尋は密かに喜んでいた。
昨日の連絡先を聞き忘れるという大失態をひとり嘆いていた時急に現れたレンゲに、完全に浮かれていた。
(まさかこんなに早く会えるなんて。)
もしかしたら天は自分に味方しているのかも、なんて期待に胸をふくらませていた。
「すっげえ綺麗だったな、やっぱハレイルの真珠はオーラが違う」
「え?」
「なんだ千尋、お前知らないのか?」
「ラント家のご令嬢といえば、社交界には滅多に顔を出さないにもかかわらず婚約の申し出をする者は後を絶たない美少女!その人気は大陸をこえて伝わる、まさに地上の女神よ!」
「割と社交界で有名な噂だけど、初耳?」
「ほー、すごい人だったんだ、、、。知らなかったよ、僕社交界とか出る家じゃないから、、、。」
「でもお前、あんまり気安く話しかけると、先輩方から目つけられんぞ。」
「まぁ、同学年だし、俺らもどっかで関わるだろうけど」
「、、、!」
***
訓練初日の朝、レンゲは先輩隊員たちのマネをして、訓練に参加していた。
「どうして、、、!」
「?」
何やら注目を浴びている。
(やっぱり、期待はずれだったのかな)
***
「おい千尋聞いたか!?」
「ごふっ!へ?なにを?」
昼食中、カレーライスをほおばっていると、同期の剛田が勢いよく向かいの席に座ってきた。
「ラント家のご令嬢、第2学年に飛び級だって!」
「え?」
「なんでも、どんな所業も真似しただけでできるらしい!」
「えぇ!」
陸部学院の訓練は、アコウ国陸部隊直属の学院だけあってレベルも高い。
おまけに災害があって手が足りない時は出動しなければならないので命懸けで臨まなければいけない。
千尋だけでなく体格のいい剛田だって、入学当初は訓練について行くだけで精一杯だった。
それを1日でこなせるとなると、誰もが強さを認めるしかあるまい。
(そうか、レンゲさんは僕には程遠い存在なんだ、、、)
「じゃあ、全く話せないんだね、、、」
「そうだな〜」
ガタンッ
隣に誰かが座る。誰かを確かめずとも千尋にはそれがわかった。
「おい、落ちこぼれが何優雅にご飯食ってるんだ?」
「ここは僕らがいつも使ってるの知ってるよなぁ?」
「!」
「そうだよ落合くん、、、。ダメじゃないか、先輩を敬わなくては。ただでさえ、、、」
「落ちこぼれ、なのにねぇ」
周りからくすくすと聞こえてくる。
先輩隊員だった。
いつも集団で動いていてて、トップの泉隊員は父親が部隊の高官らしく誰も抗えない。
しかも先輩や教師には愛想がよく好かれていて、尚更タチが悪い。
「すみません、すぐどきますんで。行こうぜ、千尋!」
剛田が席を立とうとするが、仲間のひとりが剛田の肩を抑えている。
「君はいいんだよ。僕が言っているのはこいつだ。僕はこの席がお気に入りなだけさ。」
(ほんとは身分が低いのがいるのが嫌なくせに。)
泉は時折こうして絡んでくる。
殴ったり蹴ったりなど、決定的な打撃は与えず、確実に、集中的にじわじわと追い込み孤立させる。
そういうやり方の男だった。
千尋は色々あって微妙な立場であったが、貴族ということもあり、入学許可が降りた。しかしやはり風当たりは冷たい。
やはり、一番最初に絡まれた時、言い返してしまったのが原因だろう。
***
「やぁ、君は落合くんだね?」
「?はい。そうですが、、、」
(この人、なぜ僕のことを名指しで、、、?)
入学してしばらく経った頃、泉は千尋に声をかけられ、集団で囲まれた。
「大変だったねぇ?ご両親も亡くなり、幼い弟を連れてふたり。うーむ、泣けるねぇ」
「、、、」
「もし君が必要ならば、助けてあげよう」
「え、」
「我が家は敷地が広くてねぇ、管理が大変なのさ。だから使用人として雇ってやっても良い。」
「、、、」
「さすが泉、やさしー!」
「おい、何とか言ったらどうなんだよ」
「お言葉ですが、」
「!」
「僕は確かに大変なこともありますが、弟も僕もこうして生きていますし、困っておりませんので結構です。では。」
***
それからも泉は千尋に絡み続けた。なんとか耐えてきたが、もう疲れてしまった。
「なんとか言ったらどうなんだい?」
「、、、すみません。」
泉の靴が千尋の履き古した靴に刺さる。思わずぎゅっと目をつぶった。てのひらに爪が刺さって痛い。
(惨めだなぁ)
聞こえるのは、知らないふりをするための少し声が大きくなった世間話と、抗議する剛田の声。
これ以上泉に抗議すれば剛田や剛田の家族に迷惑をかけかねない。早く立ち去らなければ。
そっと目を開けた時、自分をふむ泉の足と踏まれたままの自分の足が目に入った。
(こんなとんがった靴、1キロも歩けないだろうなぁ)
如実に現れている差が辛くて、情けない。
別にいいんだと、思わなければいけない。
(僕は織を食わせていくんだ。
出世していくためにはこういう人とも出会わなければ。
大丈夫。
いいこともある。昨日みたいな出会いだって、、、。
あぁ、でもあの人は、僕にはとうてい届かない人で、、、)
「うわぁ!」
部屋中に情けない声が響き渡る。ほかでもない泉の声だった。
「足をどけろ無礼者!人の靴をふむやつがあるか!」
(この声、、、!)
目の前に絹のような金色が目に入る。
その髪はやけに輝いて見えた。
(あぁ、やっぱり、かっこいいな。)




