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第一幕 第六話:「古渡神社-荒ぶる神の社」(後編)

第六話・後編は、古渡神社に満ちる邪気との対峙、そして須佐之男命の顕現――そして、祓い清められた後で歴史教師の牧野が語る『神話の真実』。

祓いと祝詞、そして神話の幻影が交錯する場面を、ぜひお楽しみください。

<古渡神社の荒ぶる影>


 夜明けの空がまだ藍色を残すころ、古渡神社の境内には澄んだ冷気が満ちていた。

 義輝、ひまり、大琥、牧野が第二の鳥居の前に集まり、静かに立っている。そこへ、白い布袋を手にした朱音が現れた。


「これを使います」


 朱音は小袋を取り出し、全員に一つずつ手渡していった。袋の中には、細かい粉を混ぜた白い塩が収められている。


「普通の塩じゃないわ。浄化能力の強い鉱石の粉をブレンドしてあるの。――私特製よ」


 小袋を握った瞬間、指先にひんやりとした重みが伝わり、心なしか意識が澄み渡るように感じられる。


「これから境内を一周します。反時計回りにね。そうすることで、邪気を外に逃がさず結界を張る

 ことができるわ。撒くときは、意図を忘れないこと。『ここを清める』――という想いを込めて」


挿絵(By みてみん)


 全員が頷き合い、朱音の合図で第二の鳥居をくぐる。砂利を踏む足音と、撒かれる塩が地面に落ちる細かな音だけが、静かな境内に響く。


 義輝は歩きながら、拝殿の方に漂う気配を敏感に感じ取っていた。


 ――邪気が……強くなってる。さっきよりも、濃く、重く……。


 胸の奥にひりつくような違和感が広がり、背筋を冷たいものが伝う。それでも歩みを止めることなく、塩を撒き続けた。


 その時、大琥がふと足を止め、振り返る。


「……あれ?」


 彼の眉が動いた。


「さっきまで嫌な感じがしてた場所……もう無くなってる。塩を撒いたとこだけ、空気が軽い」


 思わず口にした言葉に、ひまりが目を見張る。朱音もまた、興味深そうに大琥を見つめた。


「……やっぱり。感じ取れるのね、大琥くん」


 大琥は照れ隠しのように鼻を鳴らす。


「別に大したことじゃねえ。ただ、何となく感じるだけだ」


 四人は再び歩みを進める。反時計回りに進みながら、足音と塩の音が一定のリズムを刻む。朝の光が鳥居を照らし始め、結界を描くように塩が撒かれた部分だけ境内の闇が薄れ、淡く白く浮かび上がっているように見える。


 その静謐な時間は、これから起こる「本当の祓い」の前触れのようでもあった。




 境内を反時計回りに一周し、塩の結界が完成した瞬間、拝殿奥から感じられるひりつく気配がより強く変わった。

 拝殿の奥に集まっていた邪気が、逃げ場を失ったかのように一か所へと凝縮し始めたのだ。


「……来るわね」


 朱音が目を細め、全員に声をかける。


「大琥くん」


 突然、名を呼ばれ、大琥が目を瞬かせる。


「え、俺?」


 朱音は真剣な眼差しで頷いた。


「さっきも感じ取れていたでしょう。祓いではそれが大事なの。……無理に力む必要はないわ。ただ、

 『嫌な気配が散り散りにちぎれて昇天するイメージ』を意識するだけでいい」

「……なるほどな」


 大琥は竹刀を握るときのように手に力を込め、拝殿の方へ視線を向けた。


 その時、境内に重苦しい波が広がった。

 イライラとした苛立ち、どうでもいい不満、胸をざわつかせるような焦燥感――。

 頭の奥に直接流し込まれるような、精神を揺さぶる邪気の圧力が襲いかかってきた。


「……っ」


 ひまりが眉をひそめ、義輝も歯を食いしばる。牧野も眉間に皺を寄せながら耐えていた。


「負けないで!」


 朱音の鋭い声が飛ぶ。


「邪気は心を乱して入り込もうとする。でも、意識を揺らがせなければ跳ね返せる!」


 義輝は朝の稽古で学んだ“揺らがぬ心”を思い出し、息を深く整えた。


 ――惑わされるな。俺は俺だ。


「意識を合わせるわよ」


 朱音は全員を見渡し、柏手をパンッ!と鳴らして合図を送った。


 境内の空気がさらに重くなり、拝殿の奥から黒い影のような邪気が渦を巻いて立ち上がった。

 その中心に、不気味な人影の幻のようなものがちらついた。

 四人は邪気の圧力を跳ね除けるかのように、祓いの念を送り続ける。


「もう一押し!」


 朱音の声と同時に、義輝、ひまり、大琥、牧野がさらに強い祓いの念を送った。


 突然、浄化の突風が鳥居から吹き込むように境内を駆け抜け、渦巻く邪気を散り散りにしながら天へ巻き上げていく。

 不協和音のような呻きが空気を震わせ、黒いもやは裂かれるようにして消えていった。


 最後に、朱音が手にした浄化能力の強い鉱石を拝殿の床下へと投げ込んだ。

 拝殿に残っていた邪気を、鉱石が放つ浄化の波動が直撃し、影は音もなく霧散していく。


 ――静けさが境内を包み込んだ。


 やがて、夜明けの光が鳥居を朱に染め、淡い靄を金色に透かしていく。

 冷たい空気の中に、清らかな風がそよぎ、梢がさやさやと鳴った。

 朝日を受けて輝く社の屋根は、まるで長き夜を払い除けた守護の証のように凛として立っている。


 鳥のさえずりが一斉に響き、澄んだ音色が空へ溶けていった。

 それは、古渡神社が再び光に抱かれたことを告げる祝福の調べのようだった。




<海を渡る虎>


 邪気が祓われ、境内を覆っていた重苦しい気配が霧散した。

 夜明けの光が鳥居を照らし、澄みきった空気の中で鳥の声が冴え渡る。

 静寂の中、ただ自らの鼓動だけが確かに響いていた。


「……俺は、夢でも見てるのか?」


 大琥がぽつりと呟いた。瞳は拝殿を見据えたまま、まだ信じ切れない色を宿している。

 牧野が静かに首を振り、彼の肩に手を置いた。


「これは夢じゃない。現実に起こったことだ。……よくやったな」


 その言葉に、大琥の胸に熱いものが込み上げる。


「拝殿へ向かいましょう」


 朱音の促しに従い、一同は整列し、拝殿の前へと進んだ。

 全員で二礼二拍手一礼を終えると、ひまりは深く息を整え、拝殿前へと進み出る。両手を胸の前に合わせ、声を澄ませた。


「――たかまのはらに かむつまります すめらがむつ かむろぎかむろみのみこともちて……」


 ひまりの口から大祓祝詞が流れ出す。

 その声は凛として清らかに境内を包み、聴く者の胸の奥深くに染み渡っていった。

 義輝はその響きに導かれるように瞼を閉じる。体の奥から黒い澱が抜けていくような感覚が広がり、牧野も大琥も同じように安堵の息をついた。

 やがて祝詞が終わり、全員で深く一礼を行うと、境内は神々しい静けさに満ちた。


 祝詞の余韻が静かに溶けていったその時、ひまりの目の前に光が揺らめき、人の姿を結んだ。

 それは厳しく雄々しい面持ち、髪は荒波のようにたなびき、肩には雷鳴を宿す威容。須佐之男命(すさのおのみこと)が、ひまりにだけ姿を現した。


挿絵(By みてみん)


「――よくぞ祓い清めたり。

 わが御社、曇りを払い、清明の光満ちたり。

 まこと、汝らの心ひとつにせし力の賜物ぞ」


 低く響く声が、ひまりの心に直接届く。

 須佐之男命は懐かしむように語った。


「昔、わがもとに仕えし勇壮なる虎の兵ら、海原を越えて蛇神の眷属に立ち向かいしことあり。

 彼らを運びしは逞しき船大工の手による船、波を裂き、異国の地へ至りて奮闘せり」


 その言葉とともに、ひまりの目には幻想が映った。


 ――灼熱の陽が照りつける異国の地。砂塵舞う荒野で、虎のごとき兵らが蛇神の影に挑んでいる。

 大いなる船は白波を裂き、遠き海を渡っていく。

 逞しい船大工たちが棹を操り、声を張り上げ、船は勇ましく進んでいた。


「――汝らの心ひとつにせし時、蛇神の眷属の脅威なぞ恐るるに足らぬ事、忘れるでないぞ」


 やがてその光景は薄れていき、ひまりは現実へと意識を引き戻された。


「……朱音さん。今……須佐之男命さまが……」


 ひまりは震える声で、告げられた言葉と見た幻の情景を伝えた。


 朱音は深く頷き、神妙な面持ちでひまりの言葉を噛みしめた。

 そのやり取りを黙って聞いていた牧野が、やがて静かに口を開いた。


「……そうか。では放課後に、お前たちに歴史の裏話の講義をしてやろう。朱音の施術院に集まると

 いい」


 そして、ふっと表情を緩めて言葉を継ぐ。


「……ただし――英雄であろうと学生であろうと、朝のチャイムには逆らえん。そろそろ帰らんと、

 遅刻だぞ」


 義輝、ひまり、大琥は一瞬ぽかんとした後、顔を見合わせて大慌てで駆け出した。

 靴音が境内を抜け、鳥居を越えて遠ざかっていく。


「くそーーーっ、朝練よりハードだ!」


 大琥が額の汗を拭いながら叫ぶ。


「ふふっ……でも、すごく清々しいね。体も心も軽くなった気がする」


 ひまりが笑みを浮かべ、息を弾ませる。

 義輝も肩で息をしながら苦笑した。


「……こういうのも、鍛錬のうちってことか」


 ――須佐之男命の幻影は既に消え、神社には浄められた静けさが戻っていた。

 その背を追うように、朝の光が境内を黄金に染め上げ、英雄達の活躍は幕を閉じ、そのまま日常の一日を始めさせていた。




 義輝、ひまり、大琥は大急ぎで学校へ向かったが、なんとか始業のチャイムには間に合った。教室の椅子に腰を下ろすと、三人同時に胸を撫で下ろし、思わず小さく笑い合った。

 ――非日常の祓いを果たしてなお、彼らには「学生」という日常が待っていたのだった。




 昼休み。中庭のベンチに腰を下ろした義輝、ひまり、大琥に、充瑠がそっと加わった。

 四人はお弁当を広げながら、昨日の出来事について語り合う。

 充瑠はその場にいなかったため、三人が口にする「神社を浄化した」という話をすぐにはイメージできず、一人胸の内でモヤモヤを抱えていた。


「……それで、浄化ってどんな感じなの?」


 勇気を振り絞って小声で問いかけると、大琥が待ってましたとばかりに胸を張った。


「おう! 塩を撒いたらな、本当に空気が変わったんだ。重苦しかった境内が一気に軽くなって

 ……鳥居をくぐる風まで違う感じがしたんだよ。あれはすげえ、忘れらんねえ」


 興奮気味に身振りを交えながら語る大琥の横顔に、充瑠は無意識に目を見開いて聞き入っていた。

 眼鏡の奥の瞳が、憧れと胸のざわめきでわずかに潤む。


 ――普段は元気なムードメーカーなのに。

 今は真剣で、胸の底から熱を込めて語っている……。


 (……大琥くん、やっぱり……)


 手にしていたお箸が少し震えたのに気づき、充瑠は慌てて視線を外した。

 それでも耳の奥まで熱く染まってしまうのは止められなかった。


「でも、やっぱり怖かったよね……。あの時、みんながいてくれて本当に助かった」


 ひまりの言葉に、充瑠は静かに頷いた。


「そういえば、牧野先生が言ってたよ」


 ひまりは少し表情を和らげて、充瑠に向き直った。


「今日の放課後、先生が歴史の裏話を話してくれるんだって。私たちも行くんだけど……充瑠ちゃんも

 一緒にどう?」

「えっ……わ、私も?」


 思いがけない誘いに、充瑠は胸の奥が高鳴るのを感じた。

 恐怖だけで終わらなかった昨日の出来事に、確かな意味があるように思えたから。




 夕暮れ時。朱音の施術院の和室に集まった義輝、ひまり、大琥、充瑠。

 静かな畳の上に腰を下ろすと、牧野が分厚い古文書のファイルを開き、一枚の絵をそっと取り出した。


 それは――ドラゴンが大きなフラスコに吐きかけている不思議な図。

 フラスコの中には黄金の球と、小さな炎のようなものが浮かんでいる。


挿絵(By みてみん)


「この絵は、錬金術における『賢者の石』の生成過程を示すものだとされている。

 だが――愛智神話の語り部は、まったく別の解釈をしていた」


 牧野の声に、充瑠が目を丸くする。


「フラスコにある黄金の球は『地球』を表している。

 そして炎のように見えるものは『生命のエネルギー塊』だ。

 龍が吐き出す息――それこそが命の源、つまり『ゲロ』だと語り部は言った」


 一同が息を呑む。牧野は絵を指でなぞりながら続けた。


「愛知を創ったウサギ形の龍神も、この『ゲロ』を吐いて日本に生命を生み出した。

 やがて日本から飛び立ち、うなばら――つまり海外の地へ赴き、同じように命を産み落としたのだ」


 充瑠は思わず身を乗り出し、眼鏡の奥の瞳を輝かせて問いかける。


「それって、日本が生命の始まりの地ってことですか!?」


 牧野は頷いた。


「その通りだ。そして龍神の役目が終わった後、須佐之男に仕える『虎』たちが異国へ渡り、国造りを行った。

 中国、ロシア、西イスラエル……世界の各地に、人が住める国を築いたんだ」


 その説明を受け、ひまりがふと口にする。


「それって、以前に教えていただいた龍神の血を守るために『海原を渡った“白虎”の一団』ですか?」

「そうだ。白虎の他に朱雀の一団、玄武の一団がいる。

 ただ、以前に話をした弥生時代よりも更に遡り、約一万五千年前に渡り、一万二千五百年間は現地で暮らしていたと聞いている。」


 途方もない年数の話に、ひまりは圧倒されてため息をつく。


「最初は全員が龍神の血を継ぐ者達ばかりだったが、蛇神の眷属が必ず造った国へ侵入してくる。

 だから戦えるようになるために蛇と交わり、間のあいのこになって混血していった」


 話のスケールについていけず、大琥は頭を抱える。


「……龍神、蛇神っていったい何者なんだ?」


「我々日本人の遙か遠い先祖が龍神で、その弟が蛇神……と語り部からは聞いている」

「龍って……あの龍か?」

「ああ。その龍だ」


 大琥の頭の中では「???」が乱舞しているようだった。


「……大琥にはまた別日に、義輝たちに話したことをまとめて伝えよう」

「そうね。自覚を持ってもらった方が、自分の能力も開花しやすいでしょうから」


 朱音は思案しつつ同意した。


「わ、私も知りたいです!」


 充瑠は目をランランと輝かせていた。

 歴史裏話サークルの一員として、知らずにいられるはずがない。

 牧野と朱音は顔を見合わせたが、これも運命だろうと判断し、大琥と一緒に話を聞かせることにした。


「……話がそれてしまったが、龍神は争うという概念がないため、戦うことができない。

 だから日本以外の地――アジア諸国などは蛇神の眷属に飲み込まれて植民地化されてしまう」

「龍神の血に蛇神の血が混じると、争いを覚える。そうして『虎』という存在が生まれた」


 牧野は話題を変えるように、一呼吸置いて言った。


「ところで、ひまりは因幡の白兎の話を知っているか?」

「はい。古事記の中に出てくる話で、確か……白兎がワニザメを騙して淤岐之島から渡ろうとして失敗

 し、毛をむしり取られた、というお話だったと思います」


 牧野は目を細め、うなずく。


「因幡の白兎の物語も、このことを伝えている。

 渡ろうとした白兎――つまりウサギ形の龍神が海を渡り、生命エネルギーを吐き出して生命を産み

 出す。

 そしてワニに皮を剥がれるというのは、『ニワ』という船大工の一族のこと。彼らの国造りを暗示

 している。

 船は帆掛船で、日本から海原に出ていく海人族だから、あちこちに旅をした。

 国造りの苦難を越えて初めて、国は人が住める地となる。――古事記の物語は、一見おとぎ話のよう

 でいて、国造りの記憶を隠しているんだ」


 充瑠は眼鏡の奥の瞳を輝かせ、食い入るように聞いていた。


「……ただのおとぎ話だと思ってたのに……こんなに深い意味があったなんて」


 牧野は静かに頷き、全員を見渡す。


「神話はただの昔話ではない。過去の出来事を語り継ぐ知恵であり、今を生きる私たちに繋がる真実

 でもあるんだ」


 その時、夕暮れの光が障子を橙色に染め、部屋に温かな影を落とした。

 和室の空気が重くも柔らかく満ち、四人はそれぞれの胸に、新たな意味を深く刻み込んでいた。




 牧野は古文書のファイルを閉じると、少し声を落として言った。


「……さて。ここからは“神話が現代に甦る証拠”について話そう」


 義輝もひまりも思わず姿勢を正す。大琥は腕を組んだまま眉をひそめ、充瑠はノートを取り出して待ち構えていた。


挿絵(By みてみん)


 牧野は机の上に置かれたテレビの写真を指し示した。そこには、土砂崩れの中から巨大な人骨のようなものが露出しているニュース映像の一場面が映っていた。


「これは十数年前、岩手で大地震が起きた時の中継映像だ。土砂崩れの現場から偶然“巨人の骨”が現れた。だがすぐにブルーシートで覆われ、それ以降は『都市伝説』として封じられてしまった」


「……え、それ……ほんとにニュースで流れたやつじゃん!」


 大琥が椅子から身を乗り出す。


「マジで巨人の骨だったのかよ!? ただのネタかと思ってたのに……!」


 牧野は静かに頷いた。


「神話の語り部によれば、これは“竜人”――ウサギ形の龍神の次世代の姿だ。龍神や竜人は天寿を全うすれば大地と化す。だが無念の死を遂げた場合は、大地に還らず、このように骨として残るのだ」




 牧野は次に、一枚の地図を広げた。そこには愛知県を中心に、花弁のように広がる円が描かれている。


「竜人ですらあの規模だ。では、その祖たるウサギ形の龍神はどうか――」


 地図の中心を指し示しながら、牧野は続ける。


「見ての通り、この形は愛知県だ。そして龍神の姿は、この県ひとつ分の大きさで描かれている。つまり――愛知そのものが、龍神の身体の痕跡だということだ」

「……け、県ひとつ分って……」


 大琥は口を半開きにしたまま呟く。


「竜人ですら巨人なのに、それを超えるって……もう怪獣どころの話じゃねえ……」

「だが事実、龍神は“天”と“うなばら”を繋ぎ、地球に命を産み落とした。人智を超える存在でなければ、あの業は成し得なかっただろう」


 牧野の声は落ち着いていたが、その言葉の重みは室内にじわりと浸透していった。

 ひまりは感嘆の息をもらした。


「神話が、ただの物語じゃなくて……本当にあった歴史だったんですね」


 充瑠は眼鏡の奥の瞳を輝かせ、夢中でノートに書き込んでいる。


「巨人の骨も……龍神のスケールも……全部つながってる……! これは本当に……ロマンです!」


 牧野は全員を見渡し、ゆっくりと告げる。


「そうだ。神話は空想ではない。過去の真実を寓話として残したものだ。我々が今こうして生きていることも――その物語の続きに他ならない」


 和室の空気は、誰も言葉を挟めないほどの静けさに包まれた。

 外では夕日が傾き、施術院の障子を赤く染めていた。

 話の区切りがついたので、本日の歴史裏話講座は終了した。




 四人は靴を履き、外へ出る。夕焼けの光が街並みを金色に照らしていた。


「……すごかったな」


 義輝がぽつりとつぶやいた。


「神話が本当に“歴史”だったなんて……頭が追いつかない。オレはもう、完全にキャパオーバーだ」


 大琥は頭をかきむしり、ため息をついた。


「巨人の骨に、愛知県サイズの龍だぞ? マジで漫画超えてんだろ……」


 ひまりは小さく笑いながらも、真剣な眼差しを崩さなかった。


「でも……不思議と怖くはないの。むしろ、自分たちが何か大きな流れの中にいるんだって感じる」

「うん……!」


 充瑠が眼鏡の奥で目を輝かせ、胸の前で拳を握った。


「私……もっと知りたい! 今日聞いたこと、全部ちゃんと記録に残して……そして、自分の目で確かめたい!」


 その熱に押されるように、三人も少し顔をほころばせた。


「……ま、今日はもう頭パンパンだな」


 義輝が苦笑混じりに肩をすくめる。


「続きはまた今度聞かせてもらえるだろうし……とりあえず宿題やらなきゃ」

「ほんとそれ!」


 大琥が大げさに嘆き、四人の間に笑いが広がった。


 夕暮れの道を並んで歩き出す彼らの背中に、静かに夜の気配が迫っていた。

 だがその胸の奥には、それぞれに“新しい光”が芽吹きつつあった。

 ――神話の続きを生きる者としての、確かな予感が…。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


今回で古渡神社の祓いの場面が一区切りとなり、登場人物たちもそれぞれの決意を深めていきます。

神話と日常が交わる瞬間、少しずつ明かされる歴史の真実の衝撃が少しでも感じ取っていただけたら嬉しいです。


ぜひ続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです!

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